第48話 もはや俺の意志はこの場にない
「好きなところしりとり」のルール説明~♡
お互いが向き合ってしりとりのルールに乗っ取りながら、相手の好きなところを言っていくゲームだよ♡
お互い向かい合って言うのは恥ずかしいことだけど、普段言えないことを言えるチャンス♡
たっぷりイチャイチャして愛と絆を深めあってね♡
......と、俺が調べたサイトでは申されておりました。
おいおい、これ......どう考えてもカップルのためでしかないゲームじゃねぇか!?
玲子さん、なんちゅうゲームを提案してんの!?
これを!? 俺とゲンキングが!? やるの!?
俺がそっとスマホの画面を暗くさせれば、同じくヤバそうなゲームであるとしか認識してなく調べていたゲンキングがこっちを見た。
困惑と同時にもうすでに顔を真っ赤にさせている。そ、そりゃ恥ずかしいよな。
「れ、レイちゃん、本当にこのゲームやるの......?
ゲームだったらほら、もっと対戦系とか――」
「これもゲームよ。いつかやってみようと調べてたの」
や、やる気だったのか.......これをどこかの誰かさんに......。
それはそれはなんというか別の意味の生き地獄だな。
つーか、何を調べていたらそれに辿り着くのでしょうか?
ゲンキングも玲子さんの発言には口をアワアワさせている。
そして、チラチラと俺を見てくる。
いや、助けを求められたって、玲子さんからすれば俺も当事者なんですけど。
「もちろん、好きなところというのは相手の良い所よ。
これだったら友達同士でも問題ないでしょう。
私だって目の前で好きなところなんて言われたらムカつくわ」
それは一体どういう感情?
「試しに私と拓海君でやってみてもいいわよ。それじゃ、やるわよ」
「え?」
俺の承諾は? 無し? え、マジでやるの?
玲子さんが行動力あるのは知ってるけど、ここまで、
「しりとりの“り”から始めるわよ。律儀な姿勢がとても好感持てるわ」
「え......あ、ありがとうございます」
思わず感謝の言葉が出てしまった。
すっごく身構えてたから肩透かしを食らったというか......ま、そりゃそうか、友達同士なんだし。
恥ずかしいことには変わりないんだけどね。
「次は俺か。ってこの場合どこから?」
「そうね、『律儀な姿勢』の“い”からにでもしましょうか」
「い、“い”か......」
真っ先に思いついたのは“生きてるだけで素晴らしい”だ。
けど、これは完全に俺の玲子さんに対するファン目線のような言葉で、こういうのは相応しくないのではなかろうか。
もっとこう友達間が出るような......こんな感じでよろし?
「一番にすぐに駆け付けて助けの手を差し伸べてくれるところ」
これは俺がこの人生をやり直した時もそうだし、学級委員でノートを運んでる時もそうだし、林間学校の肝試しの時も感じたことだ。
玲子さんは俺という人間を親身になって助けてくれる。
これは俺が感じる彼女の一番の美徳だろう。
俺がそう言うと基本表情の変化が乏しい玲子さんが珍しく顔を赤らめてる。
そんな顔されると言った俺も恥ずかしくなってくるんですが!
どっちにしろ恥ずかしいじゃん!
ほんとメンタルに悪いよ、これ!
俺がチラッとゲンキングを見れば、彼女は普段お目にかかれない推しの姿を見て拝んでいた。
俺の視線に気づくと、「よくやった! 次もその調子で頼むぜ!」と言わんばかりのサムズアップを送ってくる。
こ、コイツ......自分もやる羽目になることを忘れてないか?
(そう、そっちがそう来るのなら......)
ん? 今、玲子さんが何か言った気がした。
ゲンキングの方に意識向けてて聞き取れなかったけど。
「ルビーの指輪みたいなおもちゃを小さい頃に私にくれたこと」
「っ!?」
そ、それは俺が玲子さんと関わりがあった小学生の頃、一人ぼっちで寂しそうだったから夏祭り連れて行った時にたまたま射的で手に入れた景品のやつ!
なんでそんなこと覚えてんだよ!?
俺ですら言われなきゃ思い出せないぞ!?
なんかそんな昔のこと掘り返されると思ってなくて完全に不意打ち食らったわ。
顔に熱を帯びていくのを感じる。
そりゃ、小学生の時の思い出を覚えてもらったら嬉しいでしょうよ!
同時に昔の自分の行動に身もだえする!
あの玲子さん相手にそんなことしてたなんて!
それも絶対に無意識で!
つーか、これって相手の良い所を褒めるんじゃなかったっけ?
玲子さんの言葉は俺の一体どういう良い面を伝えているの?
「次は拓海君の番よ」
「あ、あぁ......」
思ってる以上にダメージを負いながら玲子さんを見てみれば、彼女はどことなくニマニマしてるように見える。雰囲気がこう......ね。
ゲンキング、ちょ、なんかでこの空気壊して――って、なんか妙に睨まれてる気がするのは気のせい?
で、俺が言うのってなんだっけ......「くれた」までにすると“た”かな。
つーか、なんで俺ってばこんなに真面目にやってんだ?
もう普通にこの場から全力で逃げ出してもいいんじゃないか?
いや、さすがに家主の息子が友達を放って離れるわけにはいかないか......ハァ。
「た、た......そうだな。大切にしてくれていること、思い出を」
「っ!」
やったのならやり返す......という精神で言った気持ちも半分あるが、もう半分は先ほどの言葉の通りだ。
俺ですら言われて気付くような思い出を覚えてくれている。
それはそれだけ小学生の頃の繋がりを大事にしてくれていることだと思ったから。
しかし、それはそれとして面と向かって言うのはとんでもなく恥ずかしい!
今にも転げまわりたい気持ちを抑えつつ、玲子さんを見た。
彼女は手で口を覆いながらそっぽ向いてた。
え、笑ってたりする? 照れ隠し的なやつで。
ゲンキング、チャンスだぞ! と思ってゲンキングを見た。
すると、なぜか彼女は玲子さんの方を見ておらず、俺に対して先ほどよりも鋭い視線が送ってくる。
俺が一体あんさんに何したってんだ......。
「思い出を、ね。“を”だと言いづらいから、“で”の方でいいかしら? それなら――」
「ストーーーップ! ストップ! ストップ! ストップゥゥゥーーー!」
玲子さんの言葉を大声でもってかき消しながら、ゲンキングがゲームを止めに入った。
ナイスだ、ゲンキング! 出来ればもう少し早くとも思ったが、まだ致命傷で済んだ!
しかしその一方で、止められた玲子さんは不満そうだった。
「唯華、何の用かしら? これから面白くなるところだったのに。黙って見てなさい」
「玲子さん、それだと趣旨変わってます。
それとこれ以上俺の公開処刑を晒さないでください」
例え見ている人物がゲンキングだけだろうとも、俺の醜態が見られてるという点でアウトだ。
正しく悶えたブタの姿など見るに堪える。
俺自身も堪える。つーか、心臓が持たん。
玲子さんは俺の言葉に仕方なさそうに息を吐くと、ゲンキングに言った。
「それじゃ、次は唯華の番よ。こんな感じにやればいいと思うわ」
「いや、確かに趣旨変わってるとか言ったけど、それは単なるツッコみであって。
こんな言っても聞いてもダメージを負うような言葉の応酬なんて、続けても死人を生み出すだけ――」
「や、やってやりますよー!」
「ゲンキング!?」
何言っちゃってんのこの子!?
今の俺の姿見てたでしょ!?
醜かったでしょ!? 醜いって言って!
早まらないで! 命は大切にして!
「ゲンキング、一旦落ち着こう。君はきっと冷静じゃない。
だから、こんな血迷ったことを言うんだ」
つーか、俺がこのまま2ラウンド目行きたくない! もう、羞恥心で辛い!
そう言うとゲンキングはこっちを見て来た。
「拓ちゃんはやられっぱなしでいいの?」
「いや、ゼロ距離で爆弾投げ合ってるから、やってもこっちも被ダメージ負うだけなんだけど」
「負けっぱなしじゃダメだよね?」
「このゲームに勝敗があるのか?」
なんで妙に目が真剣なんだ。
「やるんだよ、拓ちゃん!」
「全力でお断りします!」
「では、唯華からね」
俺の言葉も虚しく2ラウンド目が勝手に開始された。
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