第47話 予想通りの展開であり、予想外の展開でもある

 前回のあらすじ☆

 俺の家にドラマと同じような修羅場展開の幕開けを告げるようなチャイムが鳴ったよ! おかしいね♪


「拓海君? どうかしたの?」


「あ、いや、なんでもない。もしかしたら、母さんが知らぬ間に注文していたかもしれないから、見に行ってくるよ」


 俺はそう言ってソファを立ち上がれば、そそくさとインターホンへと近づいていく。

 そこの画面を確認してみると、そこにはなぜかゲンキングの姿が。

 それもダウナーモード。まぁ、休日だしな。


 それよりも問題は、なぜここにゲンキングがやってきたのかということ。

 別に普段の休日だったら問題ないのだが、玲子さんがいるということで妙に気まずい。

 ドラマの夫の人はこんな胃がキリキリした気持ちだったのだろうか。

 つーか、俺がそう考えるのもおこがましいだろ!


 俺は玄関に向かうと、一つ深呼吸してドアを開けた。

 そして、見えてくるは当然ゲンキングだ。


 もう裏面を知っている俺に会うためか眼鏡をかけて髪を下ろした姿なのだが、服装がどことなくオシャレなように見える。

 少なくとも、そこから普段の家での格好のようなズボラさは感じられない。


「ど、どうしたの? 急にそっちから来るなんて」


 というか、玲子さんもそうだが俺の家の住所って教えてたっけ?

 そう聞いてみれば、ゲンキングは少し恥ずかしそうにしながら答えてくれた。


「そ、それはその......林間学校の時に迷惑かけちゃったからそのお詫びというか、何かお返しが出来ればと思って」


「あぁ~、別に気にしなくていいよ。

 アレは結局俺の暴走が不発に終わっただけのことだし」


「でも、さすがにアレはわたしが何かお返ししなきゃ気が済まないというか!

 もちろん、拓ちゃんが良ければなんだけど.......」


 気持ちは嬉しい。

 この行動はあっち側からも仲良くし続けたいという意志が感じられるようだから。


 とはいえ、状況が状況だ。

 別に玲子さんとゲンキングが鉢合わせて何かあるわけではないが、いくら玲子さん推しに本当の自分を明かしたとはいえ、こんなドッキリみたいな形で本来の姿ダウナーを見られたくないだろう。


「ごめん、今日はゆっくり休もうかなって」


「あ、うん......そっか」


 心を鬼にして断れば、ゲンキングの表情がすぐに曇っていった。

 断られることも想定してたけど、自分が思っている以上にダメージが来てしまった感じ。

 完全に陰キャの部分が漏れ出してしまってるほどには。


「せ、せめてこれ......」


 若干震えた声で渡してきたのは何かお菓子かケーキが入ってそうな箱だった。

 ゲンキングに申し訳なさそうに思いながらもそれを受取ろうとすれば、なぜか彼女の手が離れない。


 気になって正面を見てみれば、彼女は俺ではない俺の後ろにいる誰かを凝視してるようだった。

 しかし、その視線と反対に口は僅かに震えながら開きっぱなしで、さらに手も小刻みに震えている。ま、まさか!


 そのまさかだった。

 俺が咄嗟に振り返って見たら、リビングのドアからニョキッと顔を出す玲子さんがいた。

 それはさながら玄関で親が宅配の人とやり取りしているのを、知らない人だと警戒しながらも興味を持って覗く子供のように。


「くぁwせdrftgyふじこlp⁉⁉⁉」


 突然、ゲンキングがまともに発声出来てないのに絞り出したような声で叫んだ。

 その顔はさながら突然のネズミに驚いたドラ〇もんのように。

 彼女はサッと箱から手を放し、ポケットに手を突っ込むと何かを探し始めた。


「ど、どこにあるの!? わたしの地球破壊爆弾!?」


 その対応も完全にドラ〇もんのワンシーンのそれだった。

 ネズミを退治するために対惑星爆弾を使用するド〇えもんそのもの。

 玲子さんに自分の素を見られた焦りからパニックになってる様子。

 落ち着けゲンキング、お前は推しを殺す気か。


「ごまだれ~、地球破壊爆弾!」


「落ち着け、それはきっと家のカギだ。

 それと別のゲームのアイテムゲット効果音になってるぞ」


 完全にゲンキングの頭が狂っちまってる。

 まぁ、突然の推しとの対面はそうなる......のか? さすがに分からん。


 素早く踵を返し、ダッシュでその場から離れようとするゲンキングに神の声が届けられた。


「止まりなさい、唯華」


「!」


 ゲンキングは走るポーズのまま、一時停止画面のキャラのようにピタッと足を止めた。

 一方で、俺は声をかけら玲子さんの方を振り向いてみれば、彼女は勇ましい仁王立ちで腕を組みながら逃げる信徒を見ているではないか。


「唯華、どうして逃げるのかしら? 何か後ろめたいことがあるのかしら?」


「いいえ、何も!」


「そう、ならその素であろう姿を隠す必要も特に無いわよね?

 自分はそういう一面があるのだと、林間学校の時にハッキリと白状したのだから」


「......」


 ゲンキングは一時停止を止めてその場に立つと、振り返り俺の所に向かってきた。

 玄関までやってくれば、そっと両手のひらの底をくっつけて腕を前に出していく。

 まるでお縄につきますとでも言うかのように。


 そんな姿に玲子さんは「素直な子は好きよ」と言い、近づいていく。

 サッとどこからともなくド〇キーで売ってそうな手錠を取り出すと、ゲンキングの手首に手錠をかけていった。


「午前11時28分31秒――元気唯華容疑者の身柄を拘束」


「さては君ら仲が良いな?」


 そんなやり取りを見終わると、警察署もとい俺の家のリビングにてすぐさま取り調べが行われた。

 ソファに足と腕を組んで座る玲子さんと、小さな机を挟んで正座して座るゲンキング容疑者。

 それから、かつ丼の代わりに麦茶を二人に提供していく俺。


 本当にどうしてこうなったよ?

 なんで俺の家で、俺の目の前で今にもゲンキングが詰問されそうになってんだ?

 しかし、不思議と林間学校の時のように険悪な雰囲気ではない。


「さて唯華、あなたがどうしてここに連れてこられたかわかるわよね?」


「わたしがレイちゃんを前にして逃げ出そうとしたことです」


「一部は合ってるわ......でも、完全じゃない。

 私があなたを連れてきたのは逃げるという選択肢をさせたその弱い心に喝を入れるためよ」


「.......」


 ゲンキングはだんまりだ。

 それも当然か、林間学校の時の勇気がいつの日も出るわけじゃない。

 あれは彼女の玲子さんと仲直りしたいという強い気持ちがあったから成立した行動。

 もっと言えば、事前に心構えが出来ていたということだ。


 対して、今はどうだ?

 俺の家を訪問すること自体は事前に心構えしていたから出来たことだろう。

 しかし、そこに玲子さんまでいるとは当然想定してない。

 いることを想定して動こうと考えれば、絶対にいつまでも動けないしな。

 故に、今回のゲンキングの敗因はただ一つ――運が悪かった。


 玲子さんがため息を吐く。

 その様子にゲンキングはビクッと反応した。

 その二人を俺は目を左右に動かしながら様子を見る。


「......仕方ないわね。今日の私のプランは延期して友達のためにひと肌脱ぐとするわ。

 ということで、これより唯華のためのメンタル克服プロジェクト開始する!」


「「.......え?」」


 俺とゲンキングは声を揃えて玲子さんを見た。

 そんな俺達に構わず玲子さんは言葉を続ける。


「これは唯華が悪いのよ。どうせ私の相応しい友達となるのなら、私好みにならないと。

 だから、これよりあなたには拓海君と協力してことに当たってもらうわ」


「「え?」」


「それで、今から二人にやってもらうのは――好きなところしりとりよ」


「「えええええぇぇぇぇぇぇぇええええええぇぇ⁉⁉⁉」」

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