第44話 ふぅ~、これにて爆弾処理終了!
隼人の本音を聞き、しばらくどうでもいい雑談をしていた。
チラッと腕時計を確認してみれば、早くもキャンプファイヤーの終わりの時間。
そろそろ宿泊施設に戻ろなきゃいけないな。
「そろそろ帰るか」
俺は立ち上がると腰を伸ばす。
すると、膨らんだ腹で服が釣り上げられへそがチラリ。
相変わらずたったこれだけのことで腹が見えるのは止めて欲しい。
こんなへそチラは全然嬉しくない。
自分のだからという理由もあるけど。
俺は隼人の方へと体の向きを変えると、彼にそっと手を伸ばした。
盛大にニヤけた面を添えて。
「さ、立てるか? 泣き虫イケメン」
「テメェ......生意気度増しやがったな。だが、弱みを見せた俺の落ち度だな」
隼人は相変わらずの口調だ。
だが、一つ確かに変わったことは俺が差し伸べた手を取ったということだ。
半分冗談のような感じで出した手なのだが、まさか本当に手を取るとは......。
いつものコイツなら絶対やらないことだが......心境の変化でも起きたか?
俺は隼人を引っ張り起こす。
俺よりもデカい体がニョキっと立ち上がり、あっという間に俺を見下ろした。
そのデカさ羨ましい。俺もそんぐらいデカくならないかな?
最低でも170センチは欲しい。
そんな淡い期待をしつつ、俺達はキャンプファイヤーの会場に向かっていく。
ケガした体で無理に来た隼人の補助をしながら。
しかし、帰り道を無言で歩く何なので、いっそのこと気になってることを聞いてみた。
「そういや、ずっと聞きたかったんだけど、お前がずっと被ってるそのニット帽ってなんだ? お前もキャラ付け?」
「ちげぇわ。つーか、キャラ付けなんてそんなアホなことする奴いるか」
残念ながらいるんです。少なくとも二名ほどは。
知ってます? その二名俺達のグループの中にいるんだぜ?
隼人は少し迷った挙句、立ち止まるとそっと頭のニット帽を外した。
その時、ランプの明かりで僅かに見えたのは、額にある大き目な傷であった。
それって、まさか.......!?
「本格的に刻んでしまった
「だから、ちげぇって言ってんだろ! どんだけ俺をキャラ付けしたいんだよ!
だったら、俺は金持ちキャラとして立ってるじゃねぇか!」
「お前、それ自分で言うのは違うわ......」
「こんの、せっかくお前のレベルに合わせてやったのに......!」
隼人はめんどくさそうにため息を吐いた。
しかし、そのやり取りが存外悪くないのか口角は上がっていた。
「これは俺が小さい頃に転んでケガしたときに出来た傷だ。
丁度転んだ先に地面に埋まっていた尖った石があってな、それに額を打ち付けたんだ。
そこから傷跡が残るようになっちまった。ただの恥ずかしい話さ」
隼人はそっとニット帽を被る。
「だいぶ派手にやったな」
「全くだ。今でもあの時の自分の愚かさを呪いたくなる。
だが、皮肉にもこの傷は一瞬だけでも親の気を引いたんだ。
その頃にはとっくに興味も薄れていただろうにな。
それに確かに嬉しさを感じたというのが一番の恥だ」
「なら、なんで隠してんだよ?」
「そりゃ、見た目で威圧しないようにだ。
顔に傷がある男と無い男、どっちも同じ顔だとしても傷がない方が威圧感がないだろ?
傷があると暴力的かもしれないという印象が抱かれやすいからな」
俺は隼人を半目でじっと見た。
「......お前、そんな口調や態度してる割には体面気にしてんじゃねぇか」
「.......」
隼人は俺の言葉にそっと口を閉じ、俺の視線から逃れるように目を逸らした。
お前......なんだかんだ言って友達欲しがってたのかよ。
いっそここまで突っぱねると可愛くすら見えてるくぞ?
つーか、勝手な意見だけどコイツもしかして見た目より若干精神年齢低い?
俺達がキャンプファイヤーの会場に戻れば、メラメラとだいぶ燃えて変色した丸太の焚火の周辺にはまだそこそこの生徒達が残っていた。
しかし、その生徒達もゆっくりながら施設に向かっていた。
しゃべるのに夢中で歩くのが遅いって感じだ。
「拓海、手伝うぜ」
「お前の身長よりは俺達の方がいい」
その時、背後から声をかけてきた大地と空太がサッと隼人に肩を貸した。
その行動に俺は思わず驚く。特に、大地に関しては。
それから、俺達は自分達の部屋に戻るまで一言も会話せず、部屋に戻っても静かな時間がしばらく続いた。
すると突然、窓際の壁を背にして座る隼人の目の前に大地が正座した。
その突然の行動に俺が空太に訳を聞こうとすれば、彼は静かにとでも言うように口元に人差し指を立てる。
なので、俺は黙ってその光景を見つめた。
「隼人、突然突っかかってすまなかった」
大地は隼人に向かって奇麗な土下座をした。
その行動にはさすがの隼人も驚いてるようだ。
なるほど、そういうことか。
隼人も俺に目線で助けを求めるんじゃなくて、口で言え口で。
そんなジェスチャーも添えて伝えると、隼人は一つ深呼吸して返答した。
「頭を上げろ」
「おう」
「お、俺もその......殴りかかろうとして悪かった」
隼人は相変わらず面と向かっては言えないようで、顔を逸らしながらではありつつもしっかりと言葉にした。
そんな彼の謝罪に大地は最初こそ驚いた様子だったが、すぐに嬉しそうな顔に変えていく。
大地は姿勢を崩して胡坐をかくと、隼人に言った。
「んじゃさ、仲直りと行こうぜ。
お前は俺のことどう思ってるかは知らねぇけど、俺はとっくにお前のことを友達だと思ってるからな」
「......お前は俺を怖いと思わないのか?」
「俺だって最初はお前のこと怖かった。
だが、今はそうは思わない。印象ってそんなもんだろ?
確かに今後かかわりが薄そうな奴からすれば、最初の印象で決まるのかもしれない。
だが、俺はお前と今後も仲良くしたいと思って、その上で関わったからお前の印象も変わった。
存外そんなもんだ」
関わっていくことで変わっていく見方や価値観というのは確かに存在する。
俺が隼人に抱いていた初期の印象と今の印象の差だってそうだ。
表面上でしか知り得ない情報だけで本当にその人の全てを測ることは出来ない。
当たり前のことだ。だが、隼人はその当たり前を学ぶ機会が無かった。
だから、変わるんだ......今ここから。
「隼人、俺も大地と同じ気持ちだ」
「お、俺もだ」
俺と空太がそう言うと隼人は少し嬉しそうな顔で「そっか」と呟いた。
さてと、辛気臭い話もここで終わりだ。
俺はパンと一回手を叩くと、全員の注目を集める。
そして、ポケットから取り出すは――テレテッテテー! トランプ~!
「さてと、昨日の戦いは所詮前哨戦に過ぎない。
今宵こそ最初で最後の林間学校編チャンピオンを決めようじゃないか。
大地と空太は当然として......隼人、お前もやるだろ?」
そう聞けば隼人は大きくため息を吐いた。
「仕方ねぇな、付き合ってやるよ」
「よっしゃそう来なくちゃ!」
「おっしゃ! んじゃ、トータルでビリ取った奴は罰ゲームも追加で」
「待て、昨日の戦いを考慮するなら途中でゲームを放棄した大地はハンデをつけるべきだ」
大地の提案に空太がそんなことを言ってきた。
地味に機能のことを機にしてんだろうな。
その言葉に当然大地は言い返す。
「おい、空太! 自分がトランプゲーム不利だからってそれはズリィぞ!」
「いいだろう、認めよう」
「
残念ながら俺も根に持っている。
お前はハンデもついて罰ゲームもある。
なーに、お前が損するだけじゃないか。
「ハッ、負けるのが怖いから素直に『やめてください。許してください』って言えよ」
「くっ、隼人まで......いいだろう、やってやらぁおら!
言っておくが俺が一位になったらお前ら全員罰ゲームだからな!」
「大地、それ1対3という状況を作ってることに気付いてるか?」
それから、俺達は鮫山先生に「いい加減寝ろ、勇者パーティ」と言われるまでトランプで騒ぎ合っていた。
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