第42話 聞かせろよ、お前の本音

 夕食が終わり、キャンプファイヤーがやってきた。

 この時間は一度目の高校生活の時でも覚えてる。

 というのも、この時間は全体で集まって、有志の陽キャ達が文化祭のステージのように何かを披露していくのだ。


 その時間帯はどこもそこも周りの目があるし、周りには教師がいる。

 イジメグループから離れて座ったおかげで、その時間は何も被害に遭わず林間学校での唯一の癒しの時間だったと言えたわけだ。


 この学校では結構色々な方面で尖った人達が集まっていて、コンビで漫才を披露したり、大道芸の人のようにジャグリングををしたりと色々な見世物があった。

 中でも凄かったのは施設の人である森の案内による人体マジックショーだった。


 外でやることはねぇだろとは思ったが、キャンプファイヤーの火を背景にやるマジックはどこかいつもと違うような感じがして新鮮だった。

 それになんだかんだ、魅入ってしまうね。マジックというのは。


 そんな催しが終わると文化祭の後の後夜祭のようなフリータイムの時間が流れた。

 林間学校の実行委員会によって音楽が流され、一部のテンション高い陽キャ達が踊り始める。

 この学校はノリが良い人が多いのか、過半数は参加していただろう。


 そんな輪に俺も混ざりたがったが、あいにく俺にはやるべきことがある。

 まさか林間学校で爆弾処理を二つもやることになるとは思わなかったけど――一つは失敗したけど――今度こそは失敗しないように頑張る.....所存です、はい!


「どこだ? アイツは。さっき補助したから外に来てて木に寄りかかってるのは知ってるけど、なぜかそこにいないし」


 俺は早速隼人を探し始めた。

 つーか、ほんとどこ行きやがったよ? ケガ人のくせに。

 まぁ、ケガのせいで移動制限はそこまで広くなさそうだし、すぐに見つかるか。

 いや、誰かに補助してもらって部屋に戻った可能性はあるか。


 だとすれば、大地......はケンカ中だから無いか。

 となると、空太か? アイツはもう俺の中で小動物というイメージだから、隼人という肉食動物に頼まれたら断れないだろ。


 歩きながら周りを見渡していると、空太を発見。

 相変わらず、大地とだべってる。

 そこに向かって空太に隼人を見かけたか聞いてみれば、隼人には会ってないという。

 う~ん、もしかして自力で部屋に戻った?

 ワンチャンありそうなのがな~。


「拓海君、楽しんでる?」


 そう声をかけてきたのはもちろん玲子さんだ。

 俺に話しかける女子なんて玲子さんかゲンキングのどっちかだし、声での区別も出来てるからすぐにわかる。

 そうだ、玲子さんに聞いてみるか。


「玲子さん、隼人見なかった?」


「金城君?」


 そんな話題を出しただけで嫌そうな顔しないでよ。

 まるでデート中に他の女子の話題を出したみたいな反応じゃん。

 エアプの勝手な感想だけど。


「あいにく彼なら先ほど見かけてしまったわ。少し離れた大きな岩に座ってる」


「ありがとう。それじゃ、玲子さんも楽しんで」


 俺がそう一声かけて立ち去ろうとすると、玲子さんが後ろから言葉を投げてきた。

 

「また拓海君は人を助けるのね」


 その言葉に思わず立ち止まり、俺は返答する。


「また? 俺は誰かを助けれるほど立派な人間じゃないよ。

 玲子さんのことだって、もしかしたら玲子さんの中で思い出が美化されてるのかもしれないし。

 ゲンキングのやつは失敗したしね」


「それは違うわ。それに心配なのよ」


「......ありがとう。そう言ってくれるだけでも行動した甲斐があるってもんだよ。

 だけど、俺は人生をやり直すってチャンスをもらうっていう大きすぎる幸福を貰ってんだ。

 だから、俺の行動で少しでも誰かの役に立てるのなら俺は行動する。

 もう後悔したくないんだ、この人生にも、俺自身にも」


 それだけ言うと俺は隼人のもとへ向かった。


(......私はその頑張りで潰れてしまわないか心配なのよ)


 微かに玲子さんの呟き声が聞こえたが内容こそわからなかった。


―――数分後


 意外と辺りを見渡しても見つからないと思ったら想像以上に下にいた。

 もう少しキャンプファイヤーの周辺かと思ったら、それが見えなくなって明かりで場所を確認するような坂の下。


 そこは開拓されたように開けた場所になっており、ポツンと突き出た岩の上に隼人はいた。

 玲子さんはこの姿が見えたのか。

 視力良すぎだろ。普通わかんねぇって。


 それにしても、一人で過ごす気満々のようにランプなんて用意して。

 この星空の下でただボーっとしてるだけなのに絵になるってつくづくイケメンってずっちぃな~。


「よ、アンニュイイケメン、そんなとこで何してんだ?」


「......ハァ、お前は本当にめんどくさい奴だな」


 明らかに俺に聞こえるように吐いたであろうため息を無視しつつ、俺は隼人の横に座らず岩を背もたれにするように地面に座った。

 そして、上を見上げればスッキリとした空に散りばめられた星を眺める。


「奇麗だな。これを見にわざわざこんな場所まで?」


「あんな低俗な連中のピーキーとした声を聞くよか、こっちの方が百万倍マシだ。

 それに俺は星は好きだ。星を眺めていると自分も数ある一つになったような気がする」


 隼人の最後の言葉。

 前の俺なら“自分を学校の頂点思ってんのか?”とでも嫌味な曲解しそうなところだが、さすがにもうこいつのことは大体わかった。

 だから、正解はこうだ。


「お前も普通になりたかったんだな」


「っ!」


 そう言って隼人を見てみれば、ビクッとした様子でこちらを睨んできた。

 どうやら当たったみたいだ。


「どうい意味だ?」


「そのままの意味だよ。お前はずっと上流階級の人間として育ってきた。

 それがどういう教育だったのかは知る由もないが、お前がここまで屈折するぐらいだ。

 絶対に楽な道のりじゃなかったんだろ」


「......」


 睨む圧が強くなる。でも、俺は続ける。


「本当はお前は俺達に混ざりたいはずだ。

 だが、それを上流階級の人間としてのプライドが邪魔してる。

 思ったことあるはずだ。自分が生まれたのが金持ちの家じゃなければって」


「うるせぇ! それ以上知った口でしゃべんな!」


 隼人の怒号が響く。拳に力が入っている。

 辺りが静かなせいで余計に声が良く通る。

 お前、それ図星だから過剰に反応しちまってんだろ?


「話してみろよ。俺はお前に価値があると評価された人間だぜ?

 他の誰かに話すよりかは幾分か楽だろ。

 さっさと話しちまえよ......心が潰れちまうにさ」


 その言葉に隼人は目線を下げ、迷ったような顔をした。

 言いたいけどプライドが邪魔している......そんな感じだ。

 コイツにとって自分より下の人間に弱った姿を見せるのは恥なのだろ。

 故に、無意識に拒絶反応が出る。


 だが、隼人、乗り越えるならきっとここだぞ?

 お前が今掲げてるプライドは本当に自分にとって必要なのもなのか?

 俺はそうは思わない。

 なぜなら、それはお前が結べるはずだった繋がりを断ち切ってるからだ。


 お前にとってそのプライドだけが自分を守る砦だった。それは分かってる。

 けどな、そんなボロボロの城に一人住んでいてもつまんねぇだけだぞ?

 外はもっと色んなことに溢れていて、きっとお前にも楽しめるものがあるはずだ。


「ビビんなよ、イケメン。この程度のこと、お前にとっちゃ勇気を振り絞るまでもないだろ?」


 その言葉を聞いた隼人はおもむろに体を移動させ、ズリズリと座っていた石から落ちてきた。

 そして、俺の横でカッコいい座り方をしながらゆっくりと口を開いていく。


「.......俺はずっとバカにしていた連中が羨ましかった」

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