第41話 イメージ崩壊もいいとこよ

 弾丸ハイキングを終えて時はいつの間にか夕食時。

 帰ってきた俺達は宿泊施設の目の前でゾンビとなっていた。

 誰も動くことなく、誰かに倒されたように寝転がったり、木に寄りかかったり。

 もはやこの後にキャンプファイヤーが待っているとか言われても全然気分が上がらない。


「あーーーー」


 俺もブタゾンビとなって木に寄りかかっていた。

 口から漏れるのは声にもならないようなかすれた音のみ。

 ここに勇者が来れば確実に「返事がない。ただの屍のようだ」ってテキストが出るだろうな。

 そんな俺の横に同じく疲労困憊の様子のゲンキングがやってきた。


「どうしたよ?」


「ん~~、なんとなく......生存確認のために」


 ゲンキングは横に座る。三角座りでちょこんと。

 まぁ、堪えるよな。二度も登山なんて思ってもいなかったし。


「辛うじて生きてるよ。そっちも素が漏れてるみたいだぞ」


「むしろ、あれで漏れない方がどうかしてる。マジ無いわ、あの体育教師。

 FPSだったら間違いなく死体撃ちしてるよ」


「落ち着け、ゲンキング。ただの根暗の口が悪い奴になってるぞ」


「わたしはもとから根暗ですぅ~~~、アハハハ......ハァ」


 ゲンキングが暗いとやはり調子でないな。

 学校バージョンに慣れ過ぎて違和感がある。

 しかし、普段元気な人だって疲れるんだ。

 それがキャラを作ってる人なら尚更だろう。


 ってことで、安静にしておこう......俺も人の気を遣えるような状態じゃないし。

 そんなことを思ってるとゲンキングが続けて話しかけてきた。


「そういえば、金城君は一人で寂しくなかったかな。ケガしてハイキング行けなかったし」


 寂しがる? アイツが?


「アイツに限って寂しがるとは思えないけどな。

 それにケガしてなくてもサボる可能性高いぞ。

 俺だって出来るならやりたくなかったし」


「それもそっか」


 それにしても、急にゲンキングが隼人のこと心配するなんてな。

 もしかして......と思うのは、この体に思考が引っ張られてるか。

 彼女からしても隼人はもう友達判定だったりするのか?


 俺はふとハイキングの時に玲子さんとの会話を思い出し、ゲンキングにも彼女からの隼人の印象を伺ってみることにした。


「なぁ、ゲンキングは隼人のことどう思う?」


「え、恋バナ?」


「なんでやねん。なんで俺が『隼人君って彼氏いるかな~』みたいな感じになってんだよ」


「だって、二人でいること多いし、普段の昼食だって二人で食事してるじゃん。

 大丈夫だよ、わたしはBLに理解あるから。まぁ、若干一名許さなそうだし、わたしも嫌だけど......」


 チラチラと見て来るゲンキング。

 妙な方向にもっていくんじゃないよ、この子は。


「変な理解を示すな。それに結局ゲンキングも嫌じゃねぇか」


「いや、それはBLが嫌というわけじゃなくて......女子に恥かかせるな、ミニブタ」


「唐突な悪口」


 俺は脱線しまくった話を直すと、改めてゲンキングに聞いた。

 すると、彼女は三角座りの状態でひざに顎を乗せると答えてくれた。


「そうだね、最初の印象はやっぱ近寄りがたくて怖いって感じだったよ。

 金城君、素材は良いからイケメンとは周りの女子でも話になったことはあるけど......ほら? つるんでいた相手が粗暴な連中だったからさ」


「アイツの肩書はどうだったんだ? 金城コーポレーションの息子だろ? アイツ」


「あ~、それはむしろ良い方のステータスになってたかな。

 イケメンで金持ちで強引なオラオラ系......ほら、如何にも乙女ゲーのキャラに出てきそうでしょ?」


 アイツの金持ちイメージって意外とそういう評価だったんだな。

 漫画での金持ちヒロインだと、男は誰も近寄ってはいけない高嶺の花みたいな表現されるけど、それって案外漫画に脳支配された考えだったのか?


「ゲンキングはそういうキャラ好きか?」


「え、わたし?」


「乙女ゲーはやらない感じ?」


「いや、やったことあるけど......キャラ的には好きだよ?

 でも、それはゲームキャラであって現実にいても近寄りがたいだけであって、それに一番好きというわけじゃないから攻略も絶対に一番にやらない」


「オラオラ系苦手なんだ」


 まぁ、好むイメージは確かに湧かないが。


「わたし自身が束縛を嫌うからね。自由に好きなことさせろーって。

 そのせいか、むしろこっちから誘わないと全くデートイベント起きないキャラとかの方が好き。

 構われなさすぎるとかえって構いたくなる」


「......」


「その表情、“絶対今めんどくさ”って思ったでしょ」


「.......うん」


「素直でよろしい。ただし、許すとは言ってない」


 え、なにそれどういう意味? 俺ってこれから何されるの?

 って、今度は俺が話を脱線させてどうすんだ。

 この会話の線路踏み外しすぎだろ。


「乙女ゲーの話はもういい」


「自分から始めたくせに」


「ともかく、今の隼人の印象はどうだ?

 第一印象はそうなんだったとしても、さすがにこれまでの関わりで何か変化とかって起きたか?

 バスだってたまたまだけど横に乗ってたし」


「今か......」


 ゲンキングは過去を振り返るように上を向き、顎を手に当てる。


「うん、そだね、今の金城君の印象はやっぱり寂しがり屋だね」


 可哀そうな人の次は寂しがり屋か。

 第一印象の威圧的な感じから一転して憐れまれてるのがなんとも......。

 まぁ、大地と空太から話を聞いてないから、これが女子の感性によるものなのかどうか判断がつかないけど。


「どうしてそう思うんだ?」


「そだね~、ハッキリとそう思ったのはバスの時だったかな。

 金城君の隣だったから頑張って愛想良くして話しかけてたんだけど、全く顔向けてなくて反応もしてくれないけど、聞いてくれてはいるみたいなんだよね」


 まぁ、ここら辺はいつも通りだな。

 スマホ弄ってて全くこっちの話聞いてねぇだろと思ってれば、的確な返しが来たりするし。


「でも、わたしは中身こんなんダウナーだからさ、会話も長く続けられずに持ってきてたお菓子を食べることで間を持たせてたの。

 そしたら、ずっと無反応だった金城君が急にこっちの様子をチラッと確認するようになってきて」


「作業用として流していたラジオが急に調子悪くなって止まったのが気になってるみたいな」


「そう、そんな感じ」


 アイツ、もはや一周回ってヒロインムーブしてない?

 もう俺の中でのアイツの印象が“孤高を気取っているけど実は寂しがり屋の金持ちツンデレヒロイン”なんだけど。

 そう考えると、アイツの口の悪さなんだか受け止めやすくなってきた気がする。


「だから、ウザったらしく構ってた方が金城君的にはアリなのかなって。

 たぶんアレは強気な姿勢で隠しているだけのただのかまってちゃんだね」


「やめろ、それ以上はもはやアイツのイメージ崩壊に繋がる」


 もうすでに俺の中でかなりのイメージ崩壊が起きてるけど。

 大崩壊もいいところよ。黒〇ダムが決壊したようなもんよ。

 なんせさっきアイツをいよいよヒロインとして例えしまったからね。末期だよこれ。


 とはいえ、隼人という人物を俺以外で近くで見た人の貴重な意見であることには変わりない。

 玲子さんとゲンキングの二人の意見が同じという時点で、もはや隼人という人物がなんとなく理解できた気がするけどまだ判断は早い。


 ほら? 2つはまだ偶然って言うじゃん?

 3つも似たような意見が来たら、それはもう必然だけど。

 でも、まだ3つ目の似たような意見は来てな......と思ったけど、確か大地がケンカした時に.....いや、あれはまだ「小物クセェ」だ。大丈夫だ。

 何が大丈夫なのだろうか、もう隼人のイメージ崩壊的には役満なんだけど。


「ハァ、やっぱこれ以上は隼人と直接話をしてみるが一番だな」


 俺は立ち上がると、大きく伸びをしていく。

 あ、ぜい肉に服を持ってかれて腹が見える。


「ありがとう、ゲンキング。おかげで隼人のこと少し理解できた気がするよ」


「正直、拓ちゃんより金城君のこと理解できてる気がしないけど......ま、何か助けになったならいっか」


 ゲンキングも立ち上がると、俺の横に並ぶ。


「それじゃ、報酬は高くつくよ旦那ァ」


「え? まさかこの体を売れと!?」


「痩せてから出直してください」


 そんな他愛のない会話をしながら宿泊施設へと向かった。

 さて、隼人とも決着をつけるか。

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