第38話 どうしてこうなる?

 現在、俺達は自分達の泊まる部屋へと戻っていた。

 というのも、隼人がケガをしたのでその治療のためだ。

 しかし、本来ならまだオリエンテーリングを行ってる時間なので、全員が帰って来るまで部屋で待機となった。


 俺は妙に重い空気を変えようと、荷物からなんとなーく持ってきたトランプを取り出し頭上に掲げる。


「となれば、やることは一つ......トランプじゃーい!」


「「おおおお!」」


 そんな声に気前よく拳を頭上に付きだし反応してくれる大地と空太。さすがだぜ。


「おい、隼人もやろうぜ。どうせ待ち時間も暇だろ?」


 そう聞いてみるが隼人は答えもせず、窓枠に腰かけて外を眺めるばかり。

 黙ってれば様になるからイケメンとは卑怯なり。

 仕方ない、アイツが参加しやすいよう騒ぎ立ててみるか。


「さて、何やる? この人数だと数分でかたがつくババ抜き、誰かが数字を止め続けて人間関係が泥沼になる七並べ、もはや終わりの見えないダウト。さぁ、どれにする?」


「どれ選んでも妙な空気になるじゃねぇか」


「おい、なぜそこに大富豪がない?」


 大地が俺の言葉にツッコみ、空太が自分がやりたいだろうゲームが入ってないことを指摘する。

 おっと、忘れていた。なら、その4つからだ。

 そして、二人に聞いてみるが、二人して「全部やればいいんじゃね?」と言うのでそうすることに。


 1つ目のゲーム「ババ抜き」では最初に配られた時点で手札が残り4枚となった。

 そして、三人で回していけばあっという間に俺と空太の一騎打ち。


 その時、二枚持つ空太に対してゆさぶりをかけるように、選ぶカードに指をかざして相手の反応を見たのだが、やはり空太はクールキャラを演じているのだなと再確認した。


 なぜなら、恐らくババを選んだであろう時の彼の顔が、明らかに泣きかけのちい〇わみたいな顔してたから。

 幻聴で「あ、あ......」って聞こえてくるぐらいだから。

 結局、そのカードを引いてみれば見事に俺が勝った。

 こいつ、ダウトのゲームダメかもしれん。


 そんなことを思いつつ2つ目のゲーム「七並べ」。

 ここでは俺と空太が嫌がらせのようにして一部の数字を止めたため、大地が「はよぅ、出してくれ.....」と言いながら、やがて指定回数のパスを使い切り爆散。


 大地が残したカードの残骸の穴を受けるように俺がカードを置いて行けば、やがて空太が止めている場所へ。

 すると、先ほどのババ抜きでの恨みを返すかのように徹底抗戦してきやがった。

 結果、俺が爆散し、空太が勝ち誇った顔をしていた。


 3つ目のゲーム「ダウト」。これは結果的に言って、長すぎて途中でやめた。

 というのも、空太が非常に分かりやすいので、彼の場所でダウトをし続けたら、彼の持ちのカードで特定の数字が4枚揃う結果になったのだ。


 それからはただの地獄絵図。

 俺と大地が持っていない数字を順番通りの数字と偽って出せば、必ず指摘警察の空太に捕まるのだ。

 もういっそのこと、空太が偽ったカードを見逃してやろうと思ったがそれは大地が許さなく、結果的に七並べより泥沼となった。案の定終わらなかったな。


 そして、4つ目のゲーム「大富豪」をやってる時のことだった。

 俺達の中心に置いてある5のツーペアを見ながら、何を出そうか渋っている大地が突然隼人へと話しかけたのだ。


「隼人、もしかしてお前......俺達に気を遣ってるのか?」


「......ハァ?」


 大地の言い方が気に入らなかったのか、隼人は威圧的な反応で返した。

 隼人のもともと目つきが悪いこともあってかより迫力がある。

 そのせいで空太がビクッと体を震わせる。

 やめて、この子根は小動物なんだから!

 しかし、そんな俺達に関係なく動じない大地は話を続ける。


「だって、お前がそうやって耽ってる姿って、自分のせいで仲間に迷惑かけたチームメイトと一緒だからな」


 大地が手持ちのカードを床に置けば、姿勢を隼人に向ける。

 隼人は真正面から向けて来る大地の視線から目を逸らし、言い返した。


「俺がそれに対して申し訳なく感じてると?

 ハッ、勘違いも甚だしいな。

 俺はお前らに悪びれることなど一つもない。

 むしろ、このように楽できるような状況になってラッキーとすら思ってる」


 あぐらをかく大地の膝が小刻みに動き始めた。


「......ま、お前がどう思ってるのかななんでもいいけどよ。

 だったら、せめてもう少し楽しそうな目をしろよ。

 今のお前、つまらなそうな顔をしてるぞ」


 瞬間、逆鱗に触れたのか隼人はギリッと鋭い目つきを大地に向けた。


「テメェ、いい加減なことばかり言いやがって......!」


「ストップ。そこまでだ。二人とも落ち着け」


 俺は思わず立ち上がり、二人の間に割って入る。

 その行動が気に入らなかったのか隼人が胸倉を掴んで怒鳴った。


「おい、拓海! そいつを庇うな! お前は俺側のはずだ!」


「庇ってない。それに今の俺はお前の味方でも大地の味方でもない。あくまで中立にいる」


 ま、強いて言うなら大地の言葉に賛成気味だな。

 隼人が窓際で外をぼんやり見ながら耽っている姿なんてらしくない。

 つまんなそうにスマホを弄ってボッチ決め込んでるコイツの方がまだマシなぐらいだ。


「まず大地からだ。どうして急にそう思ったんだ?」


 そう聞けば大地は一つ息を吐いて答えてくれた。


「俺的にさ、隼人はもう怖い存在じゃないんだよ。

 確かに威圧的な態度だったり口の悪さは目立つけどさ。

 自分の立場に鼻にかけて威張り散らかしてるわけでもないんだ。

 そんなことしてたなら、こんな行事にわざわざ参加する理由もないだろ?

 それに久川の時だって助ける理由が無い。

 だから、友達として知りたいんだ、俺は」


「だってさ」


 俺が話を振るように隼人に視線を向ければ、奴は非常にイライラしたように眉を寄せている。

 しかし、語気が強いだけの落ち着いたトーンで奴は言った。


「ハァ? 俺がいつお前と仲良くなったんだ?

 俺は拓海コイツに呼ばれて仕方なく来てやっただけだ。

 たまたま一緒になっただけで友達だぁ? 頭湧いてんのか?」


 胡坐をかく大地の膝の揺れが強く動いた。


「......ハァ、お前の態度に理由があるかもしれねぇが、それでもさすがに我慢の限界だ」


 大地が立ち上がり、隼人を見下ろしていく。

 すると、隼人も対抗するように痛い足を床に踏ん張らせて立ち上がらせた。

 二人の身長はほぼ同じぐらいで大地が少し大きいぐらいだ。

 そんな壁の〇人みたいな存在の二人が俺を挟んで睨み合ってる。


「お、おい、ちょっと待てストップ!」


 そう言ってみるが俺の存在なんて完全にアウトオブ眼中だ。


「お、やんのか? 相手になるぞ?」


「庶民にも分かりやすい様に安い金でケンカ売ってくれてどうもありがとうございますってか?

 いい加減、その人をバカにした目止めて、言いたいことハッキリ言えよ!」


「テメェなんかに俺の気持ちが分かってたまるかよ! 何にも知らねぇくせに!」


「それを話せってんだ!」


 隼人と大地が互いに胸倉を掴み合って怒鳴り合う。

 その表情は今から東〇べばりのケンカが始まんじゃねぇかって具合の荒々しいもの

 その間に挟まれる俺。

 引き離そうと頑張るが、俺の力だけじゃ無理だ。

 かといって、腰を抜かしてる空太に頼むわけにもいかないし。


 おいおい、どうしてこうなるんだ!?

 なんで昨日に引き続きこっちでもケンカが起きるんだ!?

 林間学校という一つのイベントに二つも展開要素持ってくんなよ!

 玲子さんとゲンキングのケンカ展開が出たならそれで今回終わりだろ!


 例え、今回の目的が隼人に友達作らせようってことでもさぁ!

 クソ、空太はもう猛獣同士のケンカに怯える小動物だから役に立たない!

 俺がやるしかない!


「鬱陶しいんだよ! 俺に構ってくんじゃねぇ!」


「っ!」


 隼人が突然拳を振りかぶって、大地の顔目掛けて振るう。

 その拳が伸びる腕を咄嗟に俺が両手で引っ掻けるように掴めば、奴の拳は軌道を変えて斜め下に向かって来る。あ、直撃コース。


「ぐっ!」


「拓海!?」


 隼人の拳が顔面にヒットした。

 振り速度は俺が邪魔したせいで若干死んでいたが、それでも十分に痛ぇ。

 あ、鼻血流れ始めた。


「痛ててて、落ちついたか隼人――っ!?」


 俺が隼人の顔を見てみれば、殴った本人が顔面蒼白という感じだった。

 唇は小刻みに震え、俺を見る目は明らかに泳いでいる。

 まるでこんなことするつもりじゃなかったとでも言うような感じで。


―――コンコンコン


「お前ら~、全員揃ったから戻ってこい......ってどうした?」


 鮫山先生が部屋を訪れ、すぐさま俺達の異様な雰囲気に声をかける。


「俺が足を滑らせて窓枠に顔面ぶつけちゃって......」


「......そうか。ケガも程々にしとけよ。それじゃ、準備したら外に集合しろ」


 先生はそれだけ言ってドアを閉めて出ていった。

 そして、俺達は無言のまま外へと向かった。

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