第35話 ふぅー、一件落着かな
肝試しルートを逆走すること数分。
楽しんでいる人の邪魔をしないように進んでいれば、13番目のペアが通過していったので、茂みを出て堂々と逆走していく。
すると、正面から玲子さんが一人歩いてくる姿が見えてきた。
てっきりスタート地点で待ってるかと思ってたけど......俺が出発時間に間に合わないと踏んで出て来たのか。
どこか暗い雰囲気で俯いて歩く玲子さんに向かって、大きく腕を振って存在をアピールする。
すると、彼女は何か気配を感じ取ったのか俺に気付き、駆け足で寄ってきた。
「拓海君、その......大丈夫?」
「え?」
駆け寄って正面で迎え合えば突然そんなことを言われた。
玲子さんの目を見てみれば、彼女の目線が小刻みに動いている。
そんな彼女の様子に俺は首を傾げつつ理由を聞いてみれば、頭やジャージの所々に汚れや葉っぱを乗せているかららしい。
あ~、まぁ、茂みの中を全力疾走してきたしね。ふぅ、また風呂入りてぇ。
と、そんなことよりも今は玲子さんだ。
「玲子さんの方は大丈夫なの?」
「どういう意味?」
「明らかに暗い顔してるから。何かあったのかと思って」
そう聞くと玲子さんは「歩きながら話しましょ」と歩き始める。
俺が横に歩けば、彼女は俺から目線を外し、自分の行動を懺悔し始めた。
「私、友達に酷いことを言ってしまったわ。あなたは友達じゃないとか。
私が今このように学校生活を送れているのは、彼女の助けによるところが大きいというのに......酷い女よね、私。大人なのに情けない」
顔の表情からも悲しんでるのが伝わってくるが、それ以上に雰囲気がどんよりしている。
心なしか玲子さんが小さく見える。
あの玲子さんが落ち込んでいるではないか。これは慰めなければ。
ただし、偽りない本心でもって!
「情けない? 俺はそうは思わないかな。
だって、玲子さんは言ってしまったことを酷いことだと理解してちゃんと悔いている。
悔いてるってことはしっかりと自分の行動を振り返られてるんだ」
玲子さんの目がチラッと俺を見る。よし、掴みはOK。
「ならさ、悪いことをしてしまった相手に対して次にやるべきは一つなんじゃない?」
「......そんな出来た人間じゃないわ」
玲子さんはゆっくり首を横に振った。
俺は頭の後ろに手を組み言った。
「出来た人間、か。俺には玲子さんの基準がわからないけど、俺からすれば十分出来た人間だ。
それに『大人なのに』と玲子さんは言ったけど、今の俺達は高校生のガキなんだぜ?
むしろ、そうやって反省できる部分が大人だと思う。
俺なんかただ年齢だけ重ねただけで、精神もガキだった頃から何も変わってないとすら思う」
「そんなことは――」
俺は玲子さんの言葉を遮るようにしてサムズアップした。
「だから、二人で頑張って自分が目指す大人の姿ってのを探っていこうぜ。
一人だと大変かもしれないけど、二人なら少しは楽出来そうだろ?」
玲子さんの目が大きく開いた。そして、背筋がスッと伸びる。
なるほど、小さく見えたのは体を丸くしてたからか。
玲子さんは俺でもわかるほど唇の端を僅かに上げた。
「......えぇ、そうかもしれないわね。励ましてくれてありがとう」
玲子さんの表情が明るくなった気がする。
どうやら適切な言葉を送れてやれたようだ。
ふぅー、良かった。あの二人は仲良しなのが一番だからな。
「ってことで、話を戻すけどやるべきことは何だと思う?」
「大丈夫、わかってるわ。唯華に謝ることよね?」
「ザッツライト!」
俺は空気が重たくならない様にあえてこんな返答をした。
とはいえ、玲子さんがゲンキングとケンカした原因がイマイチわからない。
仮に夕食での出来事が原因だとして、それは俺が勝手に暴走した形であって、あの場でゲンキングに断られて公開処刑食らったのは完全に自分の落ち度だ。
ゲンキングは俺のお節介にも近い助けを何回もキッパリ断っていたじゃないか。
それにあの公開告白では俺にゲンキングが断るという可能性が抜けていたから起きた自体。
あれか? 俺の誘いを断った後のしりぬぐいを玲子さんにさせたから?
いや、それで玲子さんが起こるとは到底思わない。謎だ。
っていうか、あ、もうゲンキングってスタートしてね?
不味い、こんな暗がりにゲンキングを一人にさせるわけには――ん?
俺がふとスタート地点の方を見れば、光が前後に揺れながら向かって来る。
その光は段々と近づいて来て、最初は何だと思ったが次第に懐中電灯だとわかった。
そして、その光は次第に持ち手を照らた。
結構な速度で走ってくるゲンキングの姿がある。
あれ? なんでもうここに? もしかしてビビり散らかして走ってきたとか?
だとすれば、素のダウナーさんが現れてる可能性があるじゃないか!?
「ゲンキ――」
「二人ともごめんなさい!」
目の前に現れるやすぐにゲンキングは俺達の前にキュッと泊り、奇麗に頭を下げて謝ってきた。
その姿に俺は困惑しチラッと玲子さんを見れば、彼女も同様な様子でゲンキングを見ていた。
「とりあえず、頭を上げてもろうて」
「いえ、わたしは頭を下げるしかありませんので! 本当にごめんなさい!」
ゲンキングはスッとひざを折る。
「なんで土下座にグレードアップしてるの!? 上げてって言ったのに何より下がってるの!?」
「唯華、立って」
「はい!」
「スッと立った......」
相変わらずゲンキングは玲子さんの前では忠実な兵士。いや、犬かもしれない。
まぁ、彼女の中で玲子さんが絶対的存在なのだから仕方ないと思うけど。
ゲンキングは少し緊張して体を強張らせながらも、しっかりと玲子さんの目を見ている。
まるで自分がここから逃げないと意思表示をしているようだ。
そんな彼女の姿を見て玲子さんは一つ軽く深呼吸すると、頭を下げて謝罪した。
「唯華、先ほどは酷いこと言ってごめんなさい」
突然の推しの行動にゲンキングは目を白黒させれば、慌てて両手を前に出して手を振る。
「え、あ、いや、頭を上げてよ! 謝るようなことをレイちゃんはしてないって!
むしろ、わたしがレイちゃんに怒られても当然のようなことをしたんだから!」
「だとしても、謝らせて。それが私と唯華が再び友達に戻るために必要なことだと思うから」
玲子さんの言葉にゲンキングが体を震わせた。
彼女は両手を胸の前に重ね合わせる。
彼女の目からスッと涙が流れ始めた。
彼女は潤んだ声で返答する。
「レイちゃん......わたし、もう一度レイちゃんの友達になっていいの?」
その言葉に玲子さんはゲンキングの手に自分の手を重ねて言った。
「当然よ。私はあなたほど自分にふさわしい友達はいないと思うわ」
おぉ、玲子さん、その言葉はゲンキングにぶっ刺さりますぜ。
なんせゲンキングの最推しは玲子さんなんだから。
そんなこと思っていると彼女は「マジ神......」と言葉を漏らしていた。
ただのヲタクが漏れてるぞ。
すると、ゲンキングは手を下ろせば、突然拳を握った。
まるで何かを決意したように。
それは表情にも表れたようで涙を拭いキリッとした目つきになれば、口を開く。
そんなゲンキングの様子に素早く察した俺。
ま、まさか言うのか? ダウナーさんの存在を?
「レイちゃん、私、実はレイちゃんに言ってないことが――」
「自分の二面性のこと? だとすれば、言わなくても結構だわ」
一世一代の告白といった雰囲気のゲンキングの行動は、先読みした玲子さんに邪魔されてしまった。
ゲンキングはぽかーんと口を開けて固まっている。
無駄に燃えた決意が空中分解しているようだった。
簡単に言えば、やり場のない気持ちを抱えて悶々としているって感じ。
いや、そりゃそうなりますって。
茫然自失のゲンキングに玲子さんは構わず淡々と言葉を並べた。
「前にも言ったと思うけれど、私は唯華が何かしら抱えていることはわかってるつもりよ。
でも、それを知ろうと知らなかろうと唯華は私の友達に変わりはない。
唯華はその秘密をこれまでずっと隠してきていた。友達の私にも言わないほどに。
なら、隠し続けたい秘密なんだと思ったけれど......言ってスッキリするなら聞いてあげるけどどうする?」
玲子さんの問いかけにゲンキングはハッと意識を取り戻した。
先ほどの玲子さんの行動で意志が揺らいでしまったのか、少しだけ目を彷徨わせるも、彼女は再び拳を握って口を開いた。
「......実は――」
ゲンキングは
自分が本当はどういう性格で、これまで玲子さんに見せていたのが全て作られたキャラであるかということを。
それを聞いた玲子さんは――
「......なんだか拍子抜けの言葉でつまらないわ。『実はパパ活してます』とか言ったのなら驚いたけれど」
「レイちゃん、私の告白を何だと思って......」
「むしろ、それを聞いても驚くだけで済むんだな」
ゲンキングは神の寛大な心の広さ? に頭を悩ませた表情を浮かべる。
しかし、ようやく自分の隠していた秘密を玲子さんに話せたようで、心なしかスッキリしているようにも見える。。
また、玲子さんも拍子抜けとか言ってたものの、自分に秘密を打ち明けてくれたことに嬉しそうにしていた。
どうやら玲子さんとゲンキングは無事に仲直り出来たようだ。
正直、俺がどうにかして間を取り持とうとしていたが、そんなことをしなくても十分なくらいこの二人は確かな絆で結ばれていたようだ。
ハァ、良かった。結局俺は何もしなかったけど、無駄骨になるだけで済んで。
「レイちゃん......一つ、お願いがあるんだけど聞いてくれる?」
ゲンキングがどこかモジモジした様子で玲子さんに聞いた。
その様子を怪訝に思っていた彼女だが、ゲンキングの赤らめた表情を見てすぐにピンと来た表情に変わる。
彼女はため息を吐けば言った。
「......えぇ、わかった。
だけど、こればかりは例え相手が唯華であろうと一切手加減するつもりはないわ」
「大丈夫、大丈夫! わたしはただお礼が言いたいだけだから......たぶん。本当たぶんだから......」
「唯華って大概嘘つくの下手だと思うわよ」
そう言って玲子さんが一人でに先を歩いていく。
正直、二人の会話は俺からすればさっぱしだ。
なんかスパイ同士が短い言葉で意思疎通を交わすようなそんな感じのやり取りに見えたな。
っていうか、玲子さんも一人で行かないで三人で一緒に――
「待って」
「え?」
俺が玲子さんを追いかけようとしたら、ゲンキングがジャージを掴んで止めた。
急なことに振り返ると、彼女は普段全く見せないような真っ赤な顔で言ってくる。
「早ちゃん、今だけペアになろ?」
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