第34話 ファインプレー
「ハァ、なんたってそんな性格......」
現在、俺はお化け役として肝試しのルートの途中の茂みにいる。
どうしてこんなことになっているかというと、それは遡ること数分前......。
――数分前
「俺がお化け役?」
鮫山先生から突然言われた言葉に俺はオウム返しに聞き返す。
そんな反応に、先生は当然の反応だとばかりに理由を説明し始めた。
「実はな、うちのクラスでお化け役に選ばれた不幸少年がいるだろ?
そいつが腹壊したみたいでお化け役を続けられないんだ」
「え、でも、全員参加できるように交代要員もクジで決めましたよね? その人は?」
「あ~、その女子はなんかやたら怖がった様子で『出来ない』って進言してきたんだ。
それが嘘かホントか定かじゃないが、ホントだった場合にめんどくせぇことにしたくはないからな」
「そこで俺に白羽の矢が立ったと」
「あ、ちなみに、体調不良起こした奴は顔が真っ青だっから本当だぞ」
別にそこは疑ってねぇよ。
「なんで俺なんですか?」
「お前が仕事出来る奴だと一番信じてるから」
鮫山先生は俺の肩にポンと手を置き、笑顔で言った。
うっ、なんという断りづらい言葉を送ってくるんだこの人は。
信用されてるのは嬉しいし、出来ることなら協力してやりたいが......俺がやろうとしてることに支障出たりしないよな?
「頼む、お前にしか頼めないんだ!」
先生は手を合わせて懇願するような姿勢を見せてきた。
さてはこの人、俺なら断らないと踏んでいるな?
まぁ、俺も番になったら誰かと交代すればいいか。
大地か空太のどちらかいるだろ。
「......ハァ、わかりました。やりますよ」
「おぉー、良かった! さすが勇者だ! 頼んで正解だ!」
――現在
俺は茂みに隠れながら左手にフライパン、右手におたまを持っている。
先生に渡された時は当然二度見したね、さすがに。おいおいマジかって。
ともかく、この二つでわかるのは俺の仕事は茂みから大きな音を出すことらしい。
簡単でいいし、確かに夜道で突然の大きな金属音はビビるわと思うけど......ひたすら雑。
バーベキュー出来るほど金あってここ手を抜くのかよ。
「あ、来た」
肝試しルートを歩く一組の女子二人。
その二人が丁度俺のいる位置を超えた辺りでカンッと音を鳴らしていく。
結構大きな金属音が響き、女子二人は「キャッ」と驚きながら互いにくっつき合った。
お? もしかしてこれは百合製造機か? そう思うとちょっとやる気出て来た。
女子二人組の時は少し頑張り、男子二人組の時は手を抜き、男女二人組の時は忍たま〇太郎の食堂のおばちゃん並みにけたたましく音を鳴らしてやった。リア充は許しまへんで~! と。
そんな時間を過ごしていると、歩いてくるペアがクラスメイトとなってきた。
どうやら俺達のクラスの番が来たようだ。
となれば、俺は大地と空太のどちらかに交代してもらえれば、無事に自分の番には間に合うだろうな。
あの二人だったら断らないだろうし安心できる。
それに、もしかしたらお腹壊した奴が戻ってくるかもしれないしな。まぁ、望み薄だけど。
あ、思ったより早いタイミングで大地と空太が歩いてきた。
アイツら仲良すぎだろ。ま、誘う女子がいなかっただけだろうけど。
俺はこの二人にはサービスしてけたたましく音を立ててやった。
その音に大地は「うぉっ!?」と声を出したが、空太はビクッと反応するだけ。
あれは......恐らく声に出ないタイプのビビりの反応だな?
それからしばらく経った後、通過したグループで10番目。
大地と空太もさすがにゴールしてるだろうし、交代してもらうか。
ジャージのポケットに入れたスマホを......あ、不味い、部屋の中だ。
この肝試しはあくまで学校行事だ。
だから、スマホとかは部屋に置いてくるよう指示されてたっけ。
不味い、スマホで連絡すればいいかと思ってその事実を忘れてた。
しゃあない、ちょっとゴールまで移動して誰かに声をかけてみるしかないか。
俺は持ち場を離れて茂みの中を移動しながらゴール方向へ向かっていった。
それから数分後、ゴール付近に無事に辿り着く。
俺がここに来ると同時に8番目のペアがゴールしたか。
となると、もう12番目のペアはすでに出発してるだろう。
やばい、時間が無い。
俺はすぐさま大地と空太を探した。
あの背のデカい大地ならすぐに見つかるだろうと思っていたが、なぜかあのでっかいのの姿が見えない。あれ? アイツどこいった!?
「拓海、どうした?」
「うぇい! そ、空太か! 実は頼みたいことが――」
「お化け役か?」
「え、なんでわかるんだ?」
「お前がおかしな組み合わせな道具を持って一人で肝試しルートに向かう姿を見たからな。
で、まだ番じゃないのにここにいるってことは答えは一つ。交代相手を探してるってことだ」
「お前、天才かよ!」
なんか空太が妙にイケメンに見えてきた。
コイツのことち〇かわだったり、ハムスターだったりと思ってたけど、ごめん! 俺が間違ってたようだ!
「フッ、俺にかかればこれぐらい楽勝だ。ってことで、大地を待とう。アイツは野ション中だ」
ん? なぜ大地待機?
「え、お前は?」
「俺は怖い所は苦手だ。夜の森の茂みとか一人でいたくない」
「締まらねぇ......」
それから少しして大地が戻ってきたので事情を説明。
大地が快く協力してくれたので俺は安心してスタート地点に戻って行く。
とはいえ、肝試しルートを通っていくわけにはいかないので、茂みの中を移動。
う~ん、少しだけ送れるかもな。
*****
――肝試しスタート地点
そこは少し前に13番目のペアが出発し、今は拓海が戻ってくる&順番待ちの玲子、15番目最後に出発する唯華、そんな二人を妙な面持ちで見る鮫山先生がいた。
玲子と唯華との間には微妙な空気が流れている。
いつもなら二人いればすぐに周囲に花畑が咲くようなオーラが放たれ、一部の者からは侵入不可の神聖領域と崇められるのに、今の二人の空気は冷えていた。
二人の態度は対照的だ。
表情にあまり出ない玲子は珍しく眉を僅かに寄せていて、対していつも元気な唯華は視線を落とし表情を暗くしている。
そんな二人の雰囲気を見かねた鮫山先生は一つため息を吐くと、二人に尋ねた。
「二人とも全く話さないなんて珍しいな。なんかケンカしたのか?」
「別に、なにもありません」
「......」
淡々と答える玲子と沈黙する唯華。
絶対何かあったやつじゃん、と鮫山先生が思うのは当然のことだ。
鮫山先生は頭をかきながら教師らしく行動した。
「何があったかわからないが、とりあえず話し合えよ。それは時間が解決するものなのか?」
「「......」」
「あたしの言ってることが今の二人からして無理難題であることは百も承知だ。
だが、教師の立場として言わせてもらえば、口がついてるのは食べるためだけじゃないだろ?
しゃべって互いを理解し合うために口がついてる。それを活かせ。子供じゃないんだから」
「......そうですね」
玲子は鮫山先生の言葉に同意する姿勢を見せた。
瞬間、凍てつく刃のような鋭さでもって唯華に言葉を投げつけた。
「私から言えることは、自分を助けようと身を粉にしてまで頑張ってくれた人の優しさを袖にした友達を私は友達と思わない」
「......っ!」
「.......誰が
鮫山先生はさっきよりも激しめに頭をかき、顔を俯かせ、重たいため息を吐く。
玲子は「時間だから行くわ」と言って、未だ拓海が戻って来てない中一人肝試しルートを歩き出した。
そんな玲子の後ろ姿を唯華は希望を失ったような暗い瞳でもって見送っていく。
彼女にとって玲子は神にも近しい存在だ。
その人物から絶縁にも似た言葉を送られた。
今の彼女に張り付けられる
彼女の目からスーッと涙が流れていく。
鮫山先生は腕を組み、スタスタと歩いていく玲子を見ながら唯華に言葉をかけた。
「......お前らの間に何があったかはわからん。だけど、元気はそれでいいのか?」
「......嫌......だけど、レイちゃんの大切なものを傷つけたわたしに近くにいる資格はない......」
唯華は涙ぐんだ声で言った。
鼻水も出ているのかすする音もする。
「友達でいるのに資格がいるのか。だりぃな、それは」
鮫山先生は唯華の回答に疲れた様子で再びため息を吐いた。仕方ねぇな、と。
そして、スイッチを入れるように腰に手を当てて、キリッとした目つきになると言った。
「だけど、それは本当に必要なのか?」
「......え?」
唯華が呆けた顔をして鮫山先生に視線を向ける。
そんな彼女に対し、鮫山先生は正面から言葉をぶつけた。
「お前が勝手に思ってるだけで、相手がそれを求めてるかどうかは別だって話だ。
とある勇者は資格うんぬんに関わらずこう言いやがった――俺はずっとゲンキングの味方だってな」
「っ!?」
「そいつをお前は資格が無いって拒絶するか? そうじゃないだろ?」
拓海の言葉を聞いた瞬間、明らかに唯華の表情に変化が現れた。
その表情を見た鮫山先生はバシッと強めに唯華の背中を叩いた。
その衝撃で唯華は数歩歩いていく。
「一度盛大に振られた勇者がめげずにこう言ってんだ。
なんで断ったのかわからないが、あの時のお前の顔満更でもないって感じたっだぞ?
ってことは、お前は味方がいてくれてることに嬉しかったってことだ。
だったら、今にも味方を失いそうな久川を放っておいていいのか?
たった一回言われたぐらいで諦めるってのは少し勿体なんじゃないか?」
「......そうかもです」
唯華の視線は下を向いていた。
しかし、先ほどよりも声色がしっかりしていた。
「追いかけるかどうかは好きにしろ。あたしは生徒が全員無事に帰ってくるならそれでいい」
「わたし、少し早いですが行ってきます!」
そう言って唯華は涙を拭い、肝試しルートを駆け足で走り始めた。
そんな姿を見て鮫山先生は「やっぱ勇者じゃん」と拓海を脳裏に浮かべた。
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