第33話 希望と試練はハッピーセット
時刻は夜の8時半。
普段の街であれば街灯や車のライト、飲食店の明かりとかで十分に明るいが、ここ山奥では宿泊施設を除けば暗さが際立つ。
頭上から照らしてくれる月明かりさえも森の中に入ってしまえば遮られるだろう。
そんな時間帯に始まったのが林間学校一日目最後に行われる肝試しである。
集合時間に全員が集まり、クラスごとに並んでいく。
その時、学級委員である俺は生徒達の前に立ってクラスメイトを並ばせないといけないのだが......如何せん、笑われ過ぎている。
俺がやらかしたせいなのだが、そのせいで俺の声では全く統率が取れない。
おぉ、どうしたもんか。
そんなことを思っていると玲子さんが一言「早くして」と言った。
それはまさに鶴の一声となって瞬く間に大人しくクラスメイトが指示に従っていく。
これがカーストの差よ。わかっちゃいたが差でけぇ~。
そして、そこからは先生によるザックリとした肝試しの説明と注意事項が話された。
肝試しの内容は簡単だ。決められたルートを歩いていくだけ。
その先にある神社に辿り着けばゴールで、帰りは全員。
ただし、道中には悲しくもお化け役に選ばれてしまった生徒による驚かし要素がある。
他のクラスが出発し始めた所で、俺は相変わらず注目を集めながら、常に人生疲れた様子の鮫山先生の所へ向かった。
「先生、さっき全体説明前に話があるって言ってましたけどなんですか?」
「おぉ、勇者。来たか」
この先生は夕食でやらかした以降突然俺のことを「勇者」と呼び始めた。
適当な先生とは思っていたが、まさか生徒に躊躇いもなく仇名をつけるとは。別にいいけど。
「実はな、今肝試しをやってるクラスでどのペアが先に行くかってことで少し揉めた? ことがあったらしいんだ。
ってことで、急遽このクラスではないようにクジ引きを用意したからこれ受け取ってやってきてくれ」
「なるほど。わかりました」
「そういや、金城の奴は?」
「あー、体調不良らしくて......」
嘘です。アイツはこれに限っては「こんなガキの茶番やってられるか」とサボりました。
まぁ、ある意味アイツらしくて納得したんだが、俺に言わせるのはやめてくれよ。
そんな言葉に対し、鮫山先生は「ハァ、わかった」とどこか察した様子で頭をかいた。
なんで察した様子かだって? 先生が向けた視線が明らかに宿泊施設の方だったからだよ。
ま、なんであれ先生の方で納得してくれたなら俺にお咎めが来ることはなさそうだな。
「となると、うちのクラスは31人で隼人がいなくて、さらにここから一人不幸少年がお化け役として選ばれた分を除くと29人。
二人ペアで組んだならどうやっても1人余るな。
そこら辺ってお前らの間でどうなってる?
一部三人組を作ったとか? それならそれでもいいんだけど」
「それが......」
先生の言った通り、その懸念は分かり切っていた。
俺達の間でも三人組を作ろうという話が出たのだが、そこに待ったをかけた人物がいたのだ。
それがゲンキングだった。
彼女は自分の二面性が他の人に知られたくないために自分一人で行きたいと言ったのだ。
当然、俺達の中でも困惑が生まれたが、彼女は周囲を騙し続ける強烈な
しかし、ゲンキングは自らでも認めるほど怖がりだ。
故に、彼女が一人でなんて絶対に無理だろう。
それは分かっているけど、断られてる俺にはかける言葉がなかった。
玲子さんなら何か言うのでないかと期待したけど、彼女はどこか怒った様子で黙って見ているだけだった。
俺は先生に「元気さんが一人で行きたがってるようです」とだけ答えた。
それに対し、先生は「ホラー好きなんだな」と適当な返事を送ってくるだけ。
そして、先生は背を向けてクジ引きのことを頼むように手を振った。
本当にこのままでいいのか? いいわけない。
とはいえ、今の俺に何ができる?
結局、風呂に入ってる間考え続けたけど、案の一つも出て来やしなかったじゃないか。
......なら、せめて言葉でも残して置こう。
俺が力を貰ったこの言葉を今度は俺が送るんだ。
「先生」
「ん?」
「一つお願いがあります」
――数分後
鮫山先生から戻ってきた俺は番号が割り振られた割りばしが入った袋を持ち、クラスメイトに事情を話していく。
玲子さんが近くにいる手前、素直に言うことを聞いてくれた彼らは次々に割りばしを引いていった。
「玲子さん、何番だった?」
「14番。最後からに2番目」
「なら、結構待ちそうだね」
そう返答すると、ふとゲンキングの番号が気になった。
なので、俺は割り箸を回収していくと同時に割りばしの番号を見ていく。
8,2,13,7......ここらの番号はゲンキング以外のペアの番号だ。
彼女の回収はあえて最後にした。
「ゲンキング、割りばし回収するよ」
「あ、うん......」
そして回収した時、ゲンキングの番号は......15番だった。
一番最後だ。よりもよって俺達の後ろがゲンキング。
見た感じ玲子さんとケンカしたみたいな感じだし。
おいおい、本当に大丈夫かよ!? 明らかに顔色悪いぞ?
「ゲンキング、大丈夫か?」
「え、あ、うん! 全然大丈夫だよ! それよりも早ちゃんの方は大丈夫?
その......わたしのせいで大変なことになっちゃったし」
「ハハハ、それなら大丈夫。俺が単に気分に浮かれてやったことだと皆思ってることだろうから」
「......そっか」
俺が笑顔を向けると、かえってゲンキングは罪悪感に苛まれてるかのような表情の曇らせ方をした。
この時にかける言葉が見つからないのが本当に歯がゆい。
俺は鮫山先生にくじを返しに行く間、どうにかゲンキングを救う方法がないか考えた。
えーっと、今わかってることは、ゲンキングは一番最後に出発する。その前に俺と玲子さんが出発する。
ん? 待てよ? この順番って別に悪くないんじゃないか? いや、むしろ良い!
俺は玲子さんと出発したが夜の森にビビッて暴走した挙句、最後に出発したゲンキングとバッタリ遭遇しそのまま二人でゴールすれば万事解決!
玲子さんには申し訳ないことをしてしまうが、今はゲンキングのメンタルをどうにかした方がいい気がする。
さて、このことはいつ玲子さんに言おうか。
出来れば周りのクラスメイトにもゲンキングにも聞こえて欲しくないし。
まぁ、普通に肝試し中に言えばいいか。
俺は一縷の希望を見出すとそれに対するシミュレーションをし始めた。
うん、恐らく大丈夫だと思う。
怖がりなゲンキングだったら肝試しの最中に出会ったとしても逃げない、否、逃げられないと思うし。あ~、この発想ってなんかキモいな。
しかし、自分にも出来ることがあると思うとなんだかやる気に満ち溢れてくるものだな。
例え、一度砕けたって何度でもかき集めてもう一度ぶつかればいい。
とはいえ、前向きな言葉として捉えたらそれでいい気がするけど、これを女子に何度もやったらただのストーカーと間違えられそうで怖いな。
良識の範囲内でとだけ注釈入れて置こう。
そんな希望に満ち溢れた時こそ、神の試練というか運命のイタズラというか、とにかく都合が悪いことが起こるものだ。
「勇者、ちょっといいか?」
「ん? 先生、どうしたんですか?」
「勇者に頼みがある。ちょっくらお化け役やってくんね?」
「......はい?」
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