第27話 ファーストコンタクト

『―――というわけで、お前は俺のいるグループだ。だから、安心しろ』


『それは普通俺に了承得てからの話だろ。何事後承諾にしようとしてんだ』


 しおり作りを終えた日の夜、俺は隼人に電話をして決まったことを報告していた。

 正直、アイツの立場を考えると電話とか繋がるとは思ってなかったから、一応電話することをレイソして反応待ちだったけど、まさかあっちからかかってくるとは......多少は仲良くなれたってことか?


『確かに勝手に決めたことは悪いと思ってる。

 だが、俺が思うに勝手に決めようと結果は変わらなかったと思うぞ?』


『どういう意味だ?』


『お前がどう思うと俺がお前のそばから離れることはない。

 それに、友達出来た俺と違ってお前は孤高を謳っているが、一言で言えばボッチであることには変わりないからな』


『テメェ......どうやら最近随分と調子乗ってるようだな』


『そう言われる隙を見せてるお前が悪い。ただ、俺も突っかかるような言い方をしたことは謝ろう』


『ハッ、謝るなんざ気持ち悪りぃ。俺がそんなことをいちいち気にするほど暇じゃねぇんだよ。だから、テメェも気にすんな』


 前に玲子さんも言ってたが隼人の奴やっぱりツンデレキャラだよな? 典型的な。

 ハァ、よりによって需要が多いキャラがお前ですかい。出来れば女子で見たかったよ。


『なんにせよ、お前の周りの味方じゃ絶対他のグループじゃ合わない。

 だったら、お前は俺のグループで良かっただろ?

 お前が評価する俺と玲子さんがいるんだからな』


『......ハァ、わかったよ。後のことは好きにしろ』


 それだけ言うと隼人は電話を切った。

 アイツがこんな悪態をつくのは今更なので慣れてしまった。

 前まではコイツにビビり倒していたというのに。

 なんとも慣れとは恐ろしい。


「ん? もしかして俺、ツンデレキャラを攻略しようとしてる?」


―――林間学校 当日


 この日は制服ではなくジャージでの登校が許可されていたので、その姿で学校に向かうと正門には何台ものバスと先に来ていた生徒がいた。


 皆、林間学校ということで浮かれた様子で友達と話している。

 俺もその一部になりたかったがあいにく大地と空太はまだ来てないようだ。


「拓海君、おはよう」


「早ちゃん、おっはー!」


「玲子さん、ゲンキング、二人ともおはよう」


 一人で暇を持て余していれば話しかけてきたのはいつもの二人だ。

 完全にボッチ決めてた俺に話しかけてくれるなんて本当に優しい二人だ。泣ける。

 それはそうと、ゲンキングを見て一つ思うことが出来た。

 俺はゲンキングをちょいちょいと呼ぶと小声で声をかけていく。


(ちょ、どしたの? あんましレイちゃんの前でひそひそ話とかしたくないんだけど。

 レイちゃんの視線が危険領域に至るまでに話して)


(了解。それでゲンキングは大丈夫なのか?)


(大丈夫って何が?)


(ほら、ダウナー元気さんが出てこないかだよ。

 林間学校は二泊三日だからその間に出てきたりしないかってこと。

 玲子さんなら未だしも他の人達に知られるのは印象的に良くないでしょ?)


(まぁ、そうだけど......レイちゃんなら未だしもってどういうこと?

 わたしの二面性はまだレイちゃんにバレてないよ!)


(そうなのか? 電話した時にてっきりバレてるかと思ってたけど)


(別のわたしがいることはバレてるっぽいけど、前に家凸して来た時それを聞いてきたことはないよ。

 たぶん知ってて聞かないんだと思うけど)


(なるほど)


(ともかく、気合で乗り切るしかないとは思ってる。

 でも、もしかしたら息抜きとして早ちゃんを呼ぶかもしれないからそん時はよろしく)


(わかった)


「二人とも随分長いけど何か心配事?」


「「いやいやいや、何でもない何でもない」」


 玲子さんから凍てつく視線が飛んでくるがゲンキングの素がバレてないとしたなら隠さねばならぬ。

 それにしても、本当に視線がキツいな。

 男子の嫉妬の目よりもキツいかもしれない。


「二人とも何してんだ?」


「あぁ、大地と空太か。おはよう」


「うっす」


「......はよ」


 俺とゲンキングが蛇に睨まれた蛙のような時、二人が声をかけてくれたおかげで緊張した空気が解除された。ありがとう。


 俺の挨拶を返した二人はゲンキングに気軽に挨拶していくのに、なぜか玲子さんに対しては敬語で挨拶していた。

 一体いつの間に......まぁ、いつの日からは予想できるけど。


 さてと、これで俺のグループはあと一人だ。

 周りを見た感じまだ来てる感じはないな。

 なら、校門の方を見てればそのうち......と言ったそばから来たな。

 アイツ、真っ黒のリムジンに乗って登校してんのかよ。

 どこぞのラブコメのお嬢様か。

 俺は隼人に駆け寄っていくと声をかける。


「おはよう、ようやく来たか。いつも車で来てんのか?」


「あぁ、そうだな。楽だから」


 コイツが俺の挨拶を返さないのはいつものことである。だから、こちらも気にしない。

 しかし、俺の言葉に返答してくれるのでどうやら機嫌は悪くないらしい。

 機嫌の悪いコイツは黙って睨んでくるからな。シャ〇クスの「失せろ」って感じで。


「にしても、今更言うのもなんだがお前がこういった行事に参加するのはなんだか意外だな」


「俺だってこんなめんどくせぇ行事なんか参加したくねぇよ。

 だけど、理由もなく休んで成績に響かせたくねぇだけだ」


「なんだ、ただ突っぱねてる良い子ちゃんかよ」


「はったおすぞ」


「まぁまぁ、こちらとしてはありがたいことだ」


「あ? どういう意味だ?」


 隼人と横並びになって話しているとグループの4人がいるところへやってきた。

 そこにはどこか緊張した様子の大地と空太、いつも通り関心が無さそうな玲子さん、ニコニコとした笑顔を浮かべて平常心を保っているゲンキングの姿がある。


 当然ながら、同じクラスなので4人とも隼人のことを知っているが、ほとんど関りは無いので初対面を紹介するように話していくことにした。


「4人とも知ってると思うけど、この明らかに目つき悪いけど中身はただのツンデレの金城隼人だ」


「おい、なんだその調子乗った自己紹介は?

 訂正しろ、俺を手足のように使うことが出来る主の金城隼人ってな」


「と、本人は申しますがツン成分が多めなのでこのような反応なだけです」


「テメェ、後で殺す」


 隼人の明らかに怒気のこもった声を浴びせられてるのに平然としている俺を見て、玲子さん以外の3人は困惑したような顔色を浮かべていた。

 ハハハ、大丈夫だよ、じゃれついてるようなもんだから。

 しかし、一方で玲子さんだけは睨むような目で隼人に突っかかった。


「ふざけないで。そんな羨......ごほん、そんな横暴が許されていいはずないわ。

 拓海君はあなたの都合のいい駒ではないわ」


 あれ? 一瞬、羨ましいって言いかけなかった?

 さすがに聞き間違いだよね? だって、玲子さんだし。


「へぇ~、随分と突っかかって来るじゃねぇか。俺のことが気になりでもし始めたのか?」


「まさか、私のあなたの評価は“野良犬に食われればいいわ”から“野良猫に食われればいいわ”に変わっただけだから」


「玲子さん、それの違いがイマイチ伝わってこないんだけど」


 思わずツッコんでしまえば彼女からの回答は「猫の方が可愛い」だった。

 うん、それだと玲子さんが猫好きという情報しか伝わってこないね。


「あらら、味方にツッコまれるとはあんたでも盲目になるんだな」


「......大阪湾に沈めてやるわ」


「ストップ。その言葉は明らかに怒りのスケールがさっきと違うのがわかるから。一旦落ち着こう」


 玲子さんがここまで強い言葉を使うなんて。

 相変わらず、隼人に対しては全力で威嚇する猫のような感じだな。

 それに対し、隼人は面白がってるから余計に拗らせてんだな、ハァ。

 ま、慣れればある意味仲が良いとも捉えられるかもだけど。


「アハハハ!」


 その時、そんなやり取りを見た大地が腹を抱えて笑い始めた。

 特に面白いやり取りがあったようには思えないけど。

 一体何がツボったのか。

 その笑いにはさすがの隼人も困惑している。


「なるほどな、拓海から悪い奴じゃないってのは聞いてたけど、実物を見て改めてそう思ったわ。ってことで、友達になろうぜ」


「......ハッ、誰がお前みたいな価値がない奴と」


 そう言って隼人は差し出された手を無視してどこかへ歩き出してしまった。

 まだ時間があるからいいけど、集合時間前には戻れよー!


「あらら、振られちった」


「......告白失敗したな」


「それだけにはカウントするな」


「まぁ、また告白できるって。信頼度足りてないだけだから」


「早ちゃん、ギャルゲーで例えなくても.....ぷふっ、いや、この場合BLか」


「応援してるわ」


「だから、ちげぇって!!!」


 そして、これから始まる隼人友達作ろう大作戦のファーストコンタクトが終わった。

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