第26話 グループ結成

 これまでのあらすじ!

 大地が玲子さんの地雷を踏み抜いてゲンキングが作り出した軽い空気をぶち壊したよ!

 また空気が死んじゃったね!


 お、おかしい、俺の描いてる未来なら今頃まるで文化祭の準備期間の時のように楽しく談笑しながら作業している......はずだった。


 しかし、今は玲子さんが黙々と作業する中、ゲンキングがずっと目を泳がせ、大地が真っ白に燃え尽きた顔をし、空太がち〇かわのごとく「あ、あ......」と言いながら死んでる大地を眺めて震えてる。


 やばいやばいやばい、俺が求めていたのはこんなのではない!

 急いで軌道修正しないと! しかし、どうやって!?

 ゲンキングは玲子さんに逆らえない。

 それに今の彼女は触らぬ神に祟りなしといった感じで戸惑いながらも沈黙を貫いてる。


 大地は当然ダメだ。

 無駄に足掻いて見事に粉砕した。

 サイ〇イマンを侮ったヤム〇ャのごとく。

 そして、空太はち〇かわだ。


 となれば、フリーなのは冷静に状況を分析出来てる俺だけということになる。

 くっ、この状況で俺が動かなきゃいけないのか! 仕方ない!

 どうか地雷を踏み抜きませんように!


「へ、へぇ~、玲子さんって身長が低い方が好きなんだ......なんというか意外に感じるよ」


「そうかしら?」


「中学の時とか周りの女子とか話してたけど、やっぱり背の高い男の方が包容力があるって言ってたし。ゲンキングの方では聞いてない?」


「え、わたし!?」


 俺が目線で「話題を広げてくれ」と伝えるとゲンキングは渋々ながらも頷いてくれた。

 さすがゲンキング! やはり彼女的にもこの空気感は堪えかねるらしい。

 それから、大地は俺に希望を見出すな。

 断じてお前のためを思って言った言葉じゃねぇ。


「そうだね~、そのような話も聞いたことあるかな。

 中学の頃にいたわたしの背の高い友達なんかはね、自分が170センチぐらいあって自分よりも低い人には異性の魅力を感じなかったらしいよ。

 恐らく早ちゃんはそのようなことを言いたいんだと思うよ」


 くっ、相変わらずのコミュ力お化け具合だ。

 実体験を交えつつ(本当かはわからないけど)あくまで第三者目線で意見を述べていく。

 そして、最後は爆弾を投げてきた俺へキッチリ爆弾を投げ返すスタイル。

 その爆弾、甘んじて受けてやろうじゃないか! この空気が変わるならな!


 ゲンキングの言葉に玲子さんは「そういうこと」と呟くと、何かを考えるように腕を組み始めた。

 その姿に大地はまるで神に熱心な祈りを捧げる信徒のように手を合わせてる。

 なにワンチャン意見が変わらないか期待してんだよ。

 お前、さっき玉砕したばっかじゃねぇか!

 それと空太、お前はさっきからフリーズが長い。


 目を閉じていた玲子さんがパチッと目を開けると、俺達の意見に対して返答していく。


「そうね、そういう意味ではわたしも女性の中では身長が高い方だから異性の魅力を感じるかもしれないわね」


「「「おぉ!」」」


「だから、そうね。最初は小さくて最終的に私の身長を超えるぐらいなら私も意識するかもしれないわ。

 でも、別に私を超えることが無くても気にすることは無いわね」


「「「おぉ......?」」」


 え、もしかして......玲子さんってショタコン?

 最初から小さくて後からデカくなるなんて成長期のショタしかいねぇだろ。

 な、なんか玲子さんの思わぬ性癖を垣間見てしまったような気がする。

 そっか......玲子さんってショタコンだったのか。


 玲子さんはどこか恥ずかしそうに「話しちゃった♪」みたいな様子なのだが、聞いた俺達からすればそれはそれで困る回答だったので正しい反応がわからない。

 ただわかるのは俺達の中で大地が再び燃え尽きたというだけだ。


「へ、へぇ~、そうなんだ。空太君的にはその言葉聞いてどう思う?」


「ふぇ、俺!?」


 ゲンキング!? どうして空太まで飛び火させようとしてるの!?

 ほら、空太も急に振られる準備できてなくて絶対素が漏れてるよアレ!


「お、俺は......ごほん、俺は好みは人それぞれだから久川が良いならいいんじゃないか?」


 おぉ、百点満点の逃げ回答だ。

 “人それぞれ”、“俺個人の意見”ここら辺の言葉を使っておけば大体あやふやな回答でも逃げれるからな。


 そんな空太の言葉に玲子さんも上機嫌な様子で「そうね。その通りだと思うわ」と返事した。

 ふぅ、なんとか空気が戻ったな。ゲンキングが飛び火させた時は一体どうなるかと。


 恐らくだけどなんとか話を回そうとしたんだろうな。

 しかし、玲子さんのショタコン発言に戸惑いを見せて上手く言葉が出なかった感じだろう。

 だから、そこの敗北者大地、血涙した目で相方を見ない。


 とはいえ、空気が戻ったとしてもこの話題を続けていくのは危険だ。

 何かいい話題......そうだ!


「そういえば、皆はもうグループを組む相手は決めた?」


 林間学校はクラス単位で行動する場合と予め組んだグループで行動する場合がある。

 作ったしおりの中身を見てみればオリエンテーリングと昼食のカレー作りがそれに該当するみたいだ。

 その質問に最初に答えてくれたのはやはりゲンキングだった。


「まだ決めてないよ。でも、わたしは当然レイちゃんと組むつもりだよ。

 レイちゃんは競争率高いだろうし、早ちゃんの言葉で早めに予約入れられてラッキー!」


「私は例えどんな人が......どんな女子生徒が来たとしても必ずあなたを選ぶわよ。

 気の置けない仲の方が私としても楽だしね」


「俺も空太と組むつもりだな。幼馴染の仲ってことで」


「右に同じく」


 大地の奴復活したのか。まぁ、立ち直りは早そうな顔してるしな。


「拓海君も私達と一緒のグループに入らない? 確かグループは五人組のはず」


「そうなのか? なら、俺と空太も含めてこの五人でグループ組めばいいじゃん!」


「確かに、ここにいるメンツはもう友達みたいなもんだしね。わたしもそれでいいと思うよ」


 話がどんどん盛り上がっていく。

 もうグループが結成されたような雰囲気だ。

 こうやって気軽に誘ってくれる間柄になれたのかと思うと正直とても嬉しい。

 本当だったら二つ返事でグループを組みたいところだ。だけど―――


「ごめん、俺は金城と組むつもりだ。だから、玲子さん達と大地達が組むのだとしたら残りの1名の枠に俺が入るつもりはない」


 今回の林間学校にて俺は一つの目標を立てた。

 それはこの行事を通じて金城に友達を作らせるまたはよりクラスに馴染みやすいキャラに仕立て上げることだ。


 隼人のベ〇ータプライドを考えると後者は難しそうだから、前者でアイツの性格を理解した上で友達となってくれる人を探すべきなのかもだけど。


 ともかく、あの一匹オオカミみたいな態度は危険なように感じるんだ。

 だから、俺はお節介でもアイツに友達を作らせる。

 そして、あわよくば自分の異常な価値観の高さに気づいて欲しいけど......それはおいおいだな。


 ハッキリそう言うと玲子さんも納得してくれたようでわかったわと返事をし―――なぜか大地を見た。


 その視線に大地はわかってないようだが、空太は玲子さんと大地を見比べると悲しそうに相棒に告げる。


「大地、ごめん。どうやら一人になるのはお前みたいだ。俺は久川達と早川達との残り1枠に入る」


「え、えぇぇぇえええぇえええ!? まさかの余るの俺!? 幼馴染の仲はどうしたよ!?」


「そんな仲は初めから無かった」


「バカなあああぁぁぁぁ!」


 空太に肩をポンッとされた大地は椅子から崩れ落ちていった。

 そんな彼に相変わらず玲子さんは冷たい。

 というか、興味すら持たれていない。

 なんか......そのごめんな? 俺が金城と組むって言ったせいで。


 俺と空太が憐れむように大地を見つめる中、ずっと何か引っかかってたゲンキングが何かに気づいたように手を叩き皆に言った。


「そういえば、うちのクラスって31人じゃん。

 だから、五人ずつが組んで6組作っても一人余る。

 だったら、わたし達がその1名枠分を貰えばいいんじゃない?」


「「つまり......」」


「俺、復活! やったー!」


 おぉ、しおしおだった大地がこんなにも元気に。

 良かったな、大地。ハブられなくて。


「良かったな、大地。先ほどの発言は撤回しよう」


「普通に遺恨残る言葉だったけどな」


「良かったな。なんか」


「おう! やっぱお前と友達になって良かったぜ!」


「そろそろ作業再開して」


「「「はい......」」」


 そして、俺達は玲子さんの鶴の一声で冊子作りを再開していった。

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