第25話 ちょ、おま、早まるな!
―――火曜日の夜
筋トレをした後、俺は早速大地と空太に連絡してみた。
えーっと、確かグループ作れるような設定どこかにあったはず......これか。
で、「友達になって急だけど頼み事頼んでいい? 出来ればだけど」と。
な、なぜだろう、普段から玲子さんのレイソを返してるというのに、相手が男というだけでここまで文章が打ちやすく感じるのは。
玲子さんの方だと失礼のないように文章を2、3回は読み直してるからな。
『頼み事? 何?』
早速大地から返事が返ってきた。既読数的には空太も見てくれてるな。丁度いい。
『まず、確か今日からテスト週間に入ったと思うんだけど、部活が制限されたという認識でOK?』
そう聞くと俺の知らない「OK」スランプが送られてきた。なんかのスポコン漫画か?
『ありがとう。で、頼みってのは五月末にある林間学校のしおり作成について。
冊子にするだけなんだけど、それが俺だけだと大変で』
『いいぞ!』
『面倒だからパス』
大地は圧倒的速度で返事が返ってきた。しかも協力的な声で。
おま、俺でさえ急にこんなこと言われたら渋るぞ。いや、ありがたいんだけどね?
空太は空太で反応が早かった。
キャラを作ってる時点で薄々感じていたがやはり意志が強いな。
「ふっふっふっ、だが甘いな空太。俺が断られた時のことを考慮して策を打ってないとでも?」
俺は早速レイソの文章欄にてとある一文を打ち込み送信した。
『ちなみに、久川さんと元気さんの二人の協力を得ている』
『必ず行くぜ、大将!』『ふっ、それを早く言え。承った』
「コイツらめっちゃ現金......」
まぁ、なんとなくわかってたけど。相手はクラスでも人気の高い二人だ。
その二人に連絡が取れるという時点で二人の意志はもはやこちらのままさ!
と、悪役みたいなムーブはさておき、普通に休み時間の時に彼女欲しいな~とか話して他の聞いてただけ。
ともかく、これで戦力は確保した。
そんじゃ、明日の放課後にでもしおり作成を始めるとするかな。
―――水曜日の放課後
「今日は俺の声に集まってくれてありがとう。
それじゃ、早速作業を始めようか......と行く前に一応集めた張本人として紹介だけはするよ」
自分のクラスでいくつかの机を向かい合わせにくっつけて俺達は座っている。
ポジション的には俺が上座で大地と空太、玲子さんとゲンキングがそれぞれ向かい合う形だ。
そして、机には先ほど職員室から回収してきた分厚い紙の束がいくつか。
俺は互いに知っている存在だからあれだけど、上座というポジションは両側の反応の差が見れて面白いな。
玲子さんとゲンキングはこれといって普通だ。
しかし、ゲンキングに限ってはいつもなら家に帰ってる時間のはずなので内心のダウナーゲンキングが「だるぅ~」と言っているのが透けて見える。
一方で、大地と空太に限ってはガッチガチだ。
まるで初めて合コンに参加した大学生みたいな。知らんけど。
空太はなんとなく予想ついてたけど、コミュ強だと思っていた大地までが緊張しているとは少し意外だ。
「こちら二人が玲子さんと元気さん。ちなみに、元気さんの方は勝手ながらゲンキングというあだ名で呼ばせてもらってる」
「どうも」「よろしくねー!」
玲子さんは淡々とした様子で返し、ゲンキングはキャラ通りの明るい反応。
「で、こっちの二人がつい昨日仲良くなった大地と空太だ」
「大地っす! よろしく!」「......よろしく」
声の反応からしても大地は緊張してんな。で、空太はこの状況でもクールな感じで言ってる。
つーか、今更ながらこのクラスキャラ作りしてる人多くない?
挨拶もし終えたところで一つ手を叩くと「それじゃ、作業に入ろうか」と言っていく。
気分はまるで合コンの主催者だ。大地と空太の反応がそう感じさせる。
そして、作業手順を説明した後、それぞれは作り始めた。
しかし、しばらく空気が重かった。
会話が無く各々が黙々とやっているからだ。
いや~その、ね? 真面目なのは良いことだけど、もっと湧きあいあいとしていいのよ?
というか、むしろそれを望んでいたというか......もっと楽しもうよ!
そんなことは思いつつも、長年子供部屋でこもってきた俺には適切な言葉が思い浮かばない。
四人の反応を見てみれば、玲子さんとゲンキングは特に気にした様子もなく、一方で大地と空太は真面目に作業しながらもチラチラと反応を伺ってる。
もはやその反応は可愛らしさすら感じる。
中学生か! てツッコみたくなるけど、高校入学して間もない今はまだ心は中学生よ。
俺は精神年齢的に達観してるんだけど。
それに恋愛してる暇はなさそうだしね。
俺はサッと机の下にスマホを忍ばせるとゲンキングにレイソを送った。
『ゲンキング! この空気変えてください! お願いします!』
すると、すぐにゲンキングから返事が返ってきた。
『なんでわたしなのさ。自分で変えなよ』
ごもっともで! だけど、ゲンキングも空気重いって感じない?
『まぁ、感じなくはないけどさ。ハァ、この前のレイちゃんの件も含めて貸し2ね』
相変わらず文章だとダウナー面が見え隠れするな。いや、俺が知ってしまったからか?
ともかく、これでゲンキングの協力は得た。
ゲンキングなら貸し2でも重くならなさそうだし。
「じーーーーっ」
「っ!」
スマホをブレザーのポケットにしまうとふと視線が来てるのに気づいた。
目線を向けてみれば妙に玲子さんがこっち見てくる。
え、何? あ、作業止まってるってことね、すぐに再開します。
「あーもう! 空気重い! 皆真面目にやりすぎ! もっとおしゃべりしようよ!」
おぉ! ゲンキングの
あれは“本当はずっと楽しくおしゃべりしたかったけど空気感に合わせていて我慢していて、だけどついに空気感に堪えられなくて皆とおしゃべりしたいことをアピールする元気っ娘”の図! 完成度高けぇなおい。
「ってことで、早速話したいけどまだわたし達ってお互いのこと知らないじゃん?
ま、さっき会ったから当然なんだけどね。
というわけで、仲良くなろう質問コーナーの開催をここに宣言したいと思います!」
そして、すかさず仲良くしたいアピールからの全体を巻き込んでの突然の企画もの。
これは陽キャだから出来る違和感なき行動。俺でなきゃ見逃しちゃうね。
「それじゃ、早速主催者のわたしから大地君への質問です」
「え、あ、はい!」
「大地君って大きいからクラスでも目立つんだけどどのくらいあるの?」
「ひゃ、180センチあります!」
ゲンキングの質問に大地は顔を真っ赤にして返答していく。
それに対し、今のはゲンキングが悪いとすぐにわかった。
ゲンキングは質問する側として流れが続くように必ず返答してくれるだろう大地に質問してくれたのは良い。
しかし、普通に身長に対して質問すればいいところをわざわざ「大地君って大きいからクラスでも目立つんだけど」という前置きを作ってしまった。
それは
その言葉は童貞からすれば“大きいからクラスで目立つ”って言葉が安易に“自分の存在を認知してくれている”に繋がり、その後容易く“自分を見ている”に変わり、酷ければ“意識してくれてる!?”に昇華する可能性すらある。
実体験ではないが俺がイジメられてる時にそのような男子を見たことがある。
ほら、周りの顔色を窺っているとよく見えるんだよ。その時に。
余計な一言が童貞を
案の定、大地の目がめっちゃ泳いでる。
不味い、落ちるな! 今落ちたら間違いなく死ぬぞ!
「大地は逆に質問とかないのか? よっぽどのことじゃなければ答えてくれるぞ」
「え.....あ、うん、そうだな。俺はだな......」
大地は腕を組んで質問内容を考え始めた。
ふぅ、思いとどまって何よりだ。
そして、彼は玲子さんへと質問していく。
「それじゃ、久川さんに質問いいか?」
「えぇ、どうぞ」
「久川さんは背の高い方と低い方どっちが好きすか?」
あ、コイツ! まだ浮かれてやがった! 自分の背のデカさにうぬぼれてやがる!
「低い方」
「え、あ、そうなんですか......」
即答だった。その言葉に大地は思わず口ごもる。
きっと期待していた回答と違ったのだろう。
コイツ、安易にモテアピールしようとしたな。
可哀そうに。だが、これで一つ距離感というのを学んだな、うん。
俺だって常々気を遣ってんだから。
にしても、玲子さんの回答は俺からしても意外だった。
「で、でも、背が高い方が色々便利だと思いますけど、ほら高い所に手が届いたり、待ち合わせでも目立ってすぐに見つけられますし、他にも―――」
おま、足掻くなって! それ以上は―――
「私の好みに何か文句でも?」
「あ、いえ......」
「「「「「......」」」」」
に、二巡目にして空気が死んだ......。
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