第23話 とりあえずお咎めなし?
俺はガクブルの気持ちで日曜日を迎えたが特に何も起きず翌日の月曜日。
いつも通り朝から掃除をしているとガラガラと教室に誰かが入ってきた。
こんな朝早くから誰だろうか? またゲンキングか? と思ってたら入ってきたのは玲子さんだった。
おっと、不味いな、いや別にやましいことがあったわけじゃないんだけど。
ならば、堂々とすべきか。うん、俺はただゲンキングと親睦を深めただけだ、結果的に。
「お、おはよう、玲子さん」
やべっ、どもった。そう思ったが玲子さんは特に気にした様子もなく挨拶を返してきた。
「おはよう、拓海君。あなたはどうして掃除してるの?」
「まぁ、簡単に言えばイメージアップ的な感じ」
そこで俺はゲンキングにも話したようなことを玲子さんにも言った。
それに対し、玲子さんは「それなら私が変えてあげましょうか?」とよくわからないことを言ったけど、なんか怖く感じたのですぐに却下した。
「打算的に言えばそんな感じ。でも、そうじゃなくても綺麗な教室ってのは居心地良いだろ?
だから、やってるだけさ。ただの自己満足」
「そう......拓海君は偉いのね」
「言われるほどのことはしてない。それに打算があるから」
「それでもよ。私はそう思う。これじゃダメ?」
「......なら、ありがたく受け取らせていただきます」
そんな可愛らしく言われちゃ頷くのが男ってもんになってしまうでしょうが。
すると、玲子さんも一緒に手伝い始めた。
そのおかげか作業効率が上がっていく。
その時、突然話題を振ってきた。
「そういえば、昨日唯華と話したわ」
その一文でなぜかビクッと反応してしまった。
なんでこんなにも浮気現場を見られて問い詰められてるような気分になるんだろう。
成り行きでそうなってしまっただけであって、別に玲子さんに知られたところで問題ないはずなのに。
「だ、だろうね。電話でも言ってたし。ってことはゲンキングの家に行ってきたの?」
「えぇ、そうね。最初こそ居留守をされたけど、電話でカウントダウンをし始めたら素直に迎えてくれたわ」
想像するだけでも恐ろしい。ゲンキング、ご愁傷様です。待っててください、次は俺です。
「......で、そこで色々聞いてきたの?」
「そうね。土曜日にどのようなことをしたのか洗いざらい」
何故そこまで!? 俺とゲンキングが男女の仲になるなんて、それこそジョークで済ませられるレベルでしょうに!?
「内容を聞いて安心したわ。拓海君に何かあったわけじゃなくて」
「え、普通心配するのはゲンキングの方じゃ......?」
そう聞くと、机を運んでいた玲子さんは所定の位置でそれを置き答えた。
「いい? 拓海君。あなたはオオカミは男の方だと思っているけれど、昨今は草食系男性が増えてる今、肉食となった女子の割合の方が増えてるの。
故に、拓海君は十分にターゲットとして狙われやすいの」
「そんなバカな」
この体形はリアルサバンナの肉食獣には好まれそうだけど、コミュニティサバンナには絶対受けない体形よ? 一部の
「それはさすがに考えすぎだと思うけど。
正直、このチビデブ具合がダメなことぐらい俺でもわかるって。
それって玲子さんが女優だった頃の界隈の話じゃない?」
「否定は出来ないけれど......でも今じゃないだけであっていずれは違うわ」
「そんな先の話になっちゃったらなんでも言えるって。問題ないよ。
自虐になっちゃうけど、この体形でモテると思ってないし、八方美人な優しさを得ようとしてる俺としてはモテることはまずありえないから。
ほら、優しいだけの男はモテないってよく言うだろ? 考えすぎだよ、やっぱ」
俺がそんな恋愛ごとに現を抜かすなんて、それはきっと痩せていることは大前提で勉強やら教室内のヒエラルキーやら色々を解消した後だって。
それにそんなことは俺にとってあまりにも過ぎた幸福のように思える。
俺が一度目の人生でしでかしてきたことの大きさは知っている。
それをやり直すチャンスを貰ったんだ。それだけで十分だ。
ゲンキングの一件だって結果的にそうなってしまっただけで、あんなことはもう起こらないだろうし。
玲子さんを説得するような言葉を送ったはずだが、彼女はイマイチ納得していない顔だった。
玲子さんってばちょっと過去のことを引き合いに出して俺への評価が高すぎるきらいがあるな。
それだけ俺の人間性を信じてくれているのは嬉しいけど、盲目的にも見えて少し心配。
しかし、俺の言葉以降玲子さんが何か言い返してくることはなかった。
その後、妙な無言で机を片付ける時間が続く。
全て終わった後にしばらくしてゲンキングが登校してきた。
彼女は登校するやすぐに玲子さんの目の前で平伏していくではないか。
い、一体何があったんだ......?
―――昼休み
この時間いつもなら晴れてるので外の東屋で昼食を取っているのだが、4限目の終わりで担任の先生が用があるとのことで俺を呼んだのだ。
担任である鮫山先生は俺に用件を述べてきた。
ちなみに、鮫山先生は保健体育の教師でヤ〇クミみたいに基本赤いジャージ着てる人物だ。
「早川、そろそろ一年最初の行事があるかなんだかわかるか?」
「行事? そう聞かれるとパッと思いつかないんですが」
「おいおい、せっかくの高校生活を楽しまんか。
行事だぞ、行事? 学校イベントは......まぁ、めんどくせぇよな」
「急にテンション落ちますね」
てっきり熱血教師のように「学校イベントは楽しめよ、おらぁ!」みたいなタイプかと。
つーか、さっきの言葉のフリが完全にその流れだったんだけど。
「嫌に決まってんだろ。誰が好き好んで山に行きたいってんだよ。めんどくさいったらありゃしない」
「先生、ここ職員室。せめてもう少し声のボリュームを落としましょうよ。
ん? 山ってことは林間学校ってことですか?」
「そういうことだ」
林間学校か......嫌いじゃないけど好きでもない。
なぜなら、今の体形で山を登れば間違いなく疲労が膝に来る、足が上がらなくて段差に転ぶ、やぶ蚊の格好の的になるの三点セットが必然的についてくるわけで。
あれ? やっぱり普通に嫌いかもしれない。
「で、そんな行事に学級委員のお前が呼ばれた理由......わかるよな?」
「いえ、全然」
「察し悪いな。しおりだよ、し・お・り! ほら、中学の時でも学校行事の旅に散々もらったろ? あの資源の無駄遣い」
「先生、学校行事に恨みでもあるんですか?」
「それが当然今回もある。で、もう日程とか組まれた紙はあるんだが、まだ冊子の形にはしてない」
「......」
「おぉ、清々しいほどの嫌な顔だ。そうだ、その通りだ。
めんどくさいから放課後にでも受け取りに来てやってくれ。
別に今日やれとは言わない。ただ、締め切りに間に合うように仕事をしてくれ」
それはそれは素晴らしいほどに邪気を含んだ笑顔だった。
―――火曜日
俺は朝掃除をしながらため息を吐き、決意した。
「ハァ、今日にでもやるか」
結局、月曜日のその日は全くやる気が湧かなかったのでやらなかった。
とはいえ、仕事と夏休みの宿題は溜めていて良いことないとはよく言うし、早く終わらせて楽をしよう。
それから、クラス人数分+αの冊子を作るのはさすがに一人じゃしんどそうだし、素直に玲子さんとゲンキングに協力を依頼するかな。隼人は論外だしな。
つーか、女子しか気軽に頼めないって俺.....。
「考えれ見れば、林間学校ってことはグループ作る必要あるよな。
くじ引きなんてありえないし......ハァ」
俺は中学時代にヲタク友達と組んで学校行事に挑んだあの時に思いを馳せながらため息を吐いた。
その時、教室のドアがガラガラと音を立てる。
玲子さんかゲンキングのどちらかと思えばそのどちらでもなかった。
「教室一番乗りー!......じゃなかった!?」
「ん? アイツは......」
野郎二人組だった。
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