第21話 妙にタイミング悪くない?
何秒だろうか。体感的には十秒ぐらい固まっていた気がする。
なぜなら、そこにもじもじした様子で現れた
神よ、これは一体何の試練なのだろうか? 俺は何の試練を受けさせているのか?
いくら何でも俺とはいえ男が泊まる状況でその寝間着のチョイスは一体......?
あんな全身を包むような服って、ギャルゲーのヒロインがパジャマパーティーした時にしか見た事ないんだけど?
ダメだ、この状況に困惑して疑問文しか出てこない。
落ち着け、さっきまで明らかに防御力ゼロのような服装をしていたゲンキングだって女子だぞ?
寝間着ぐらいファンシーな格好をする可能性は無くはないはずだ!
それにしても、さすがにその恰好は暑い気がするけど。
「え、えっと......その、あの、えーっと......どう?」
そう聞いてる来る割には、表情から思ってもいなかった言葉が出てしまったような羞恥心が伝わってくる。
どう、とは......いや、その恰好について言うべきなんだよな。
え、そう聞くってことは俺のためにその服を? いや、早まるな、そこは死地だ。
しかし、求められたなら答えるべきだよな?
「良いと思います」
「......ありがと」
((間がもたない......))
なんなんだこの状況は!?
俺得なことには変わりないけどなんか後が怖い!
この空気感を壊したいとは互いに思ってるだろう。
しかし、妙な気恥しさがその行動を阻害していく。
なんか、なんか起これ! それだけで状況が変わる!
―――ぐうぅ~~~~
その時、腹の虫が大きめな音を出した。
俺ではない。ということは、ゲンキングか。
そう思って見てみれば、恥ずかしそうにお腹を隠してしゃがんでいる。
そして、聞いてもいないのに言い訳をし始めた。
「そ、そのこの音は単に朝から食べてないだけで!
これから朝兼昼兼夕食を取ろうと思ってたところだから!」
「それは流石に朝か昼のどっちかは食っておこうよ」
思わず心配になる内容だが......とりあえず、ナイスゲンキングの腹の虫!
これで空気感はさっきよりも和らいだ。
この流れで夕食の話に持っておこう。
「そういえば、お腹空いたな。とはいえ、俺は料理出来ないんだけど......」
「簡単なものなら作れるけど、一応。おばあちゃんに覚えさせられたから」
「食費代出すんでオナシャス!」
「いいよ、別に。しばらく待ってて」
そう言ってゲンキングはウサギの格好でエプロンつけて料理の準備をし始めた。
恰好が凄くシュールだが何もツッコまん。
とはいえ、やっぱり服変えるべきだと思うけど。
絶対火を扱えば暑くなるだろうし。
ゲンキングが夕食の準備をしてる間、俺は彼女から引き続きレベリングするか図鑑を埋めるよう指示を受けた。
その指示に従うままにスウィッチを操作し始めたが、俺の心中は少し複雑だ。
勝手に人の家に転がり込んで料理を頂いていく。
そこは本来俺が料理すべきなのだろうけど、俺が料理できないばかりにこんな結果に。
う~ん、そうだな、俺も料理覚えよう。
そうすれば、次に似たようなことあった時にも少しは恩返しになると思うし、母さんの負担を減らせるだろうし。
って、俺はまた女子の家に転がり込む予定でもあるというのか。恥を知れ!
「あ、そういえば、リンリンにご飯やってない」
「リンリン? もしかしてゴールデンレトリバーの?」
「そう。いつもはおばあちゃんがやってくれてるけどいないからやんなきゃ」
「なら、俺がやるよ。作り方とかある?」
「分かるよ。教えてあげる」
そして、俺はゲンキングに教わりながらリンリンのご飯を作っていく。
少しだけ気持ちが軽くなった。
庭にいるリンリンにご飯を与え、しばらくレベリングをしながら道中ペケモンを捕まえていると、尿意を催した。
なので、ゲンキングにトイレを借りていく。
女子の家のトイレを使うって妙な気まずさあるな。
スッキリしたところでリビングに戻ってくれば、俺はすぐさま自分の目を閉じ顔を背ける。
しかし、俺の目には一瞬にも関わらずその姿がしっかりと目に焼き付いてしまった。
一言で言えば、ゲンキングが上半身だけ脱いで料理していた。
ゲンキングの家の構造はリビングとキッチンが繋がっていて、キッチンのある場所から廊下に出て曲がったところにトイレがある。当然ながら、廊下は一本だ。
これは行きはリビングのドアから出て、帰りはキッチンのドアから入ってしまった俺も悪いのだが、それでもゲンキングが上半身だけ脱いだ状態で料理してるとは思わない。
そのせいでハッキリとブラジャーを見てしまった。
つーか、結局着ぐるみみたいなその恰好暑いんじゃん!
脱いでエプロンつけちゃ、上半身だけほぼ裸エプロン(下着アリver)みたいなもんじゃん!
もう少し防御力、防御力を意識して!
これは何が正解なのだろう。
指摘するべき? それとも気付かなかったフリをするべき?
幸い、ゲンキングは料理に集中してこちらには気付いてない様子だ。
なら、選ぶべきは後者か。料理中だしな。うん、落ち着け、俺はロボット。
俺は何事も無かったかのようにリビングへ戻っていくと、レベリング&図鑑埋めを続けていく。
それから少し経ち、ゲンキングが料理を作り終えたので夕食へ。
その時にはもうゲンキングは元の状態に戻っていた。
ただ、額に貼ってある冷えピタからは何か鉄の意志を感じた。
「ごちそうさまでした。美味かった。ありがとう」
感謝は大事だ。こういうことからしっかり意識しないと。
そう思って言えば、ゲンキングは恥ずかしそうな顔で目線を外し「うん」とだけ返事をした。
さて、ここからだ。現在の時間は19時半過ぎ。
早寝だからと嘘をつくにしても23時ぐらいまでは何かしらで時間を潰さないといけない。
しかし、ここら辺は割と大丈夫だろう。
なぜなら、ゲンキングはゲーマーだから!
「さて、時間もあるしさっきのバイオデリートの続きでもやる?」
「う~ん、それもいいけど......せっかくだしルイパしない?」
そう言ってゲンキングは俺が返答する前にちゃちゃっと準備をしていく。
ルイーダパーティ......基本大人数で遊ぶゲームソフトだ。
内容はシンプルでスゴロク形式で進み一番スターを集めた人が勝ち。
途中ミニゲームがあり、大人数でやれば盛り上がることなし。
「これさ、新しいの出るたびになんとなく買っちゃうんだけど、結局家で一人だからあんましやらないんだよね~」
なんかサラッと悲しいこと聞いた気がした。
そうだね、それやろっか。きっと二人なら楽しいよ。
そんな俺の同情した目を気にすることなく、いつになくウキウキした様子で専用リモコンを操作していく。
それから、俺達は二人でそのゲームをプレイし始めた。
ゲンキングがサッと選択したCPUの難易度がマスターだったせいで、終始CPUの強さに二人で阿鼻叫喚していたが、今までにないほど彼女が楽しそうだったので良しとした。
まぁ、さすがにプレイ終了想定時間が12時間を超えるようなターン数の選択は止めたけど。
穏やかだった。それはそれは穏やかだった。
まるで俺の一度目の高校生活が悪い夢だったかのような感覚だ。
こんな未来もあったのかと思うと怖くても一歩踏み出すという大事さが身に染みる。
―――♪♪♪
「ん?」
「どした~?」
「電話だ」
スマホが突然音を出したのでビクッとしてしまった。
一体誰からだろう......って玲子さん? どうしたんだ急に?
「誰から?」
「玲子さんから」
「レイちゃん?」
「前にレイソを交換してから夜やり取りしてるんだよ」
もっとも玲子さんから割ととめどなく来る文章を処理してる感覚に近いけど。
(そっか、レイちゃんとレイソを......友達だしわたしも交換した方がいいよね?)
ゲンキングが何か言った気がしたが、とりあえず今は電話に出た方がいいだろう。
しかしどうして、隣にゲンキングがいるというだけでこんなにも電話に出づらいのか。
「もしもし、玲子さん? どうしたの?」
『ごめんなさい、突然、いつもレイソでの会話だったから思い切って電話してみたの』
なるほど、玲子さんも勇気を出して電話してきてくれたわけね。うん、なんという間の悪さか!
こういう時どうすればいんだ?
何か用があるのかと思って電話に出てみれば、ただの長電話タイプだった場合。
さすがにここはゲンキングを優先すべきだよな?
とはいえ、どういったらいいものか。
玲子さんに嘘つきたくないが、さすがにこの時間までゲンキングの家にいるとは言いづらいしな~。
仕方ない、ここでの秘密は墓まで持って―――
「あいたっ!」
「っ!」
突然の大きな声に振り返ってみれば、ゲンキングが足を押さえて悶えてる。
あ、これソファの角に小指ぶつけたやつだ。めっちゃ痛そう。大丈夫か?
それに取りに行った飲み物もこぼれてるし。拭かないと。
『ねぇ、今のって女の人の声よね? それも年齢が若い』
「え?」
『拓海君、今誰といるの?』
あれ? おかしい? こんな俺なのに......もしかして今......修羅場ってる?
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