第19話 Oh......
「隊長! 弾がありません! ショットガンの許可を!」
「ダメ、この先にショットガンがあった方が楽なボスが控えてるから。それまで耐えて」
「隊長、それだと俺ナイフで戦うことを余儀なくされるのですが」
「ガンバ」
「Oh......」
ゲンキングから誘われるままに一緒にゲームをし始めた俺はエイムの無さに大苦戦していた。
子供部屋時代の時からバイオデリートのようなホラゲーは苦手意識があって触れてなかったし、FPSはエイムの無さに嫌気がさしてやってなかったしで、こういうタイプのゲームはほんと慣れてない。
しかし、ゲンキングはそんな俺に対しても文句一つ言うことなく「ドンマイ」と声をかけてくれたり、俺が苦戦していれば速やかに自分の場所を制圧してサポートに入ってくれたりしてくれたのでとてもイケメンだった。
それにしても、こうして一つの画面に二人で向かい合ってゲームをするのはいつ以来だろうか。
小学生の頃でも一度か二度くらいだった気がする。
大体持ち運びできるタイプのゲームやってたし。
そう考えると懐かしさで胸いっぱいになるな。
「早ちゃん、ここはちょっとした耐久戦になるからさっき手に入れたスナイパーで近づかれる前に制圧するよ」
「イエスサー!」
ゲームをやり始めたゲンキングはというと、まるで人が変わったように目つきが変わった。
今まで見た事のない真剣な目つきで、それでいてとても自然体で楽しそうだ。
そんな俺のチラ見に気づいたのか「一旦止めるよ」と言い、近くのペットボトルの紅茶を飲みながら聞いてきた。
「どうしたのさっきから、チラチラ見て。あ、まさか......エッチ」
「濡れ衣です、隊長。部下を信じてください」
ゲンキングが胸元を気にしてパーカーのジッパーを上にあげて閉めていく。
やましい気持ちが全くなかったと言ったら嘘になるけど、見ないように努力してたから。
後、閉めるにしても気づくのが遅いと思う。
「で、どうしたの?」
「なんつーかさ、今更ながら今のゲンキングが素なんだなと思ってさ」
「まぁ、そりゃ自分の家だし。まさか早ちゃんに見られるとは思ってなかったけど......ハァ」
「そんな露骨にため息吐かれるとごめんとしか言いようがない。
ともかく、俺が思ったのは今のゲンキングの素を見ているからこそ、学校とのオンオフが大変そうだなって」
ゲンキングは「あーそれね」と返事をすると、突然その場でごろんと寝転がった。
やっぱり、この人やたら無防備過ぎません? いや、自分の家だからいいんだけどね?
「そりゃめっちゃ疲れるよ。学校では元気なわたしの仮面をつけてるんだから、そのキャラ通りの行動をしないといけないし、レイちゃんの前でもそのわたしでないと立ってられないし。
家の中ぐらいぐうたらさせろよってね。そもそもわたしもそんな出来たわけじゃないし」
別に実物を見たわけじゃないけど、なんか疲れ切ったOLみたいなこと言ってる。
とはいえ、実際素の自分と違うってのを演じ続けるというのは大変だろう。
それも一種の努力の形であるから。努力は大変なんだ。
「玲子さんなら今のゲンキング見たって受け入れてくれると思うよ」
なんせあの人も精神的には立派な大人なんだし。
元女優だからそれこそメンタルの強さはハンパないはずだよ。
ちょっとやそっとじゃ動じないよ、あの人。
しかし、ゲンキングは渋い顔をした。
「確かにさ、何度か考えたよ? レイちゃんに話してみてもいいんじゃないかって。
でも、それって単にわたしが楽したいだけなんだと思うんだよね。
今のわたしがあるのはレイちゃんの隣にふさわしい人間という目標があってこそで。
それが崩れてしまえばわたしは努力する意味を失ってしまう。
自分がこんなんだってわかってるから続けてる努力ぐらい頑張ってみたいんだ」
そっか、彼女も彼女で未来に続く今を努力しているのか。それは俺と同じだ。
そのことに気づかずに俺は無知の優しさで彼女から努力の意欲を奪おうとしていたのか。
まだまだ相手のことをちゃっと見れてないな、気を付けないと。
「ごめん、安易に提案して」
「別に謝ることじゃないよ。そう言われるのは良そうで来てたし」
ゲンキングは体を起こすと両手で上半身を支えてリラックスした大勢になる。
「それにわたしのことを想って言ってくれたわけでしょ? それが悪いはずないじゃん」
ゲンキングはニコッと笑った。その笑顔に思わずドキッとする。
結局、姿が変わろうと彼女が彼女であることには変わらないわけで。
となると、こんな風に一人の人生を変えてしまうって玲子さんの影響力ハンパないな。
「それじゃ、聞きたいことも聞けたし続きやろうぜ。隊長、ご指示を!」
「ふむ、それじゃこれから進む扉に突撃ー!」
「了解です。えーっと、ここの扉だな......って、え、ちょ、隊長! ゾンビの数が! ゾンビの数が多すぎるんですが!?」
「ふむ、そこはそうだったか。確認ご苦労。屍は回収してあげるから安心して」
「隊長ぉおおおおおお!?」
そんなわちゃわちゃを続けることさらに数時間が経過し、時間は18時になろうとしていた。
さすがに長居しすぎたなと思った俺はゲンキングにそろそろ帰ることを伝える。
その時、外から一つの雷鳴が轟いた。
「おっと、雷だ。意外と近いな」
「ひっ、雷!」
その音にゲンキングはビクッと反応する。
もしかしたら雷が怖いのかな? と思っていれば、彼女が動き向かったのは自身のパソコン。
「雷はパソコンの天敵だ! すぐさま念のためのバックアップを取っておかないと!
わたしのこれまで撮り溜めして編集したゆっくり実況攻略動画が全てパァになるかもしれない!」
心配事は思いっきり別のことだった。ま、確かにそれは怖いね、うん。
っていうか、ゆっくり実況動画なんてアップしてたんだ。後でこっそり探してみるかな。
ゲンキングがパソコンの前で色々と操作している一方で、俺は窓から外の様子を確認してみた。
すると、お昼ぐらいは快晴だったのに今はバケツをひっくり返したような土砂降り。
こん中帰るのは大変だなぁ。
「そういえば、早ちゃんってここから家近い?」
「いや、そこそこ離れてる」
「傘は.....持ってないか。昼間晴れてたし。なら、一本貸すよ」
「ありがとう、恩に着る」
ゲンキングの方でも一段落が着いたところで、彼女が玄関で見送らせてと言うので、同行してもらった。
そして、玄関までやってくるとドアに一つの紙が貼ってあることに気づいた。
『まさかこんな大雨の中で帰らそうという失礼なことはしないだろうね。
私の恩人だよ、せっかくの同級生なんだから少しはもてなしなさい。
私は今晩友人の家で一泊お邪魔するからそっちも今晩家に泊めるように! by祖母』
「「......」」
俺もゲンキングも言葉を失っていた。
そっとゲンキングの顔を見てみれば、祖母に色々言いたいことはありそうなのを堪えた様子だ。
同時に隠し切れないほどの真っ赤な顔になっている。
ゲンキングのおばあさんも思ったよりアグレッシブなご様子で。
まさか孫の相手ってこういうことじゃないだろうな?
いや、ある意味さっきまで相手してたし。
ともかく、年頃の女子の家にお邪魔するわけには行かないだろう。
子供部屋出身の俺がこんな待遇を受けるほどの善行はまだ積んでない!
「気にすることじゃないよ。それじゃ、また学校で」
そう言って靴を履き、玄関のドアを開け、ついでに傘も開けば―――
―――ザアアアアァァァァァ!
一瞬にして傘がひっくり返り、全身ずぶ濡れとなった。
季節外れの暴風雨過ぎんだろ。
しかし、背に腹は代えられない。
いざ、行かん、マイハウス!
「待って!」
歩き出そうとした足がピタッと止まる。
声に振り返れば、今にも逃げ出したそうな湯でタコのような顔をしたゲンキングが震えた声で言った。
「と、泊っていきなよ。さすがにこの雨の中帰らせるのはアレだし......」
「だけど......」
「レイちゃんの友達には迷惑かけれないし、それにこ、こんなわたしでも受け入れてくれたから......その......いいから入って」
「あ、はい......」
俺はいそいそと玄関に戻っていく。と同時に聞いた。
「ちなみに、ご両親は?」
「二人とも基本動き回ってるから帰ってこない......」
「Oh......」
玄関のドアがガタンと音を立てて閉まった。
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