第18話 まぁ、誰しも表と裏があるわけで
ゲンキング―――もとい元気唯華。
身長156センチの明るい茶髪が似合うポニテ少女。
彼女の性格は周りからの反応からしても明るいとされている。
基本元気な声に溌剌とした態度、それから眩い笑顔は人々に楽しさと安らぎを与えていく。
そんな彼女の評価は様々だが総じて受け入れらている。
彼女がいると元気になってくるんだよねとか、いるだけに気分が明るくなるとか、元気で美少女とか最高かよ! 等々。
また、そんな彼女の印象をもとに彼女のことを「元気っ娘」「活発少女」「陽キャ代表」「太陽神(若干一名)」と一部の人達は密かに呼んでいる。
しかし、そんな彼女にも誰にも知られていない秘密があるのだ。
それは彼女が学校以外で見せるフォルムチェンジした姿であり、元の姿が
「さながら、ダウナー唯華ってところだね.....ハハ」
回転椅子で三角座りするように座っているゲンキングは自嘲気味に笑った。
そんな彼女のそれこそ朝と夜のようなギャップの違いに俺は上手く言葉が出てこない。
現在、俺はゲンキングの部屋にいる。
リビングでバッタリ会ってしまってからここに連れて来られたのだ。
そんな彼女の容姿は一言で言えば、引きこもり陰キャだ。
髪は降ろしていて少しボサッとし、大きめな赤ふち眼鏡をかけている。
服は非常にラフで黄色い緩そうなタンクトップにパーカー、ズボンも明らかに短い緩いやつ。
そのせいか三角座りで露わになる美脚に思わず目が吸い寄せられそうになる。
しかし、それ以上に驚いたのは彼女の机だろうか。
そこには一台のデスクトップパソコンの周りに、まるで漫画に出てくるハッカーの部屋のようにいくつものディスプレイが置いてあり、そこには先ほどまでやってたであろうゲーム画面が出ていた。
しかも、やってんのバレッドボーンって......死にゲーかよ。
というわけで、今の俺はゲンキングの二面性に対面してしまっている。
同時に、ゲンキングがこれまで隠していたがっていたことを理解した。
なるほど、この二面性を隠したかったのね。
「その......ごめんね、テンションの違いに驚いたでしょ? でも、こっちが本当のわたしなんだ。
こうやって部屋に閉じこもってゲームをしてばかりで主体性が無くて引きこもりで......」
「ストップ、ストーップ! 大丈夫、落ち着いてくれ。
確かに驚きはしたがだからといって別にゲンキングのことを変な風に思ってないぞ?」
「ほんと?」
ゲンキングがまるで捨てられた子犬のような目で見てくる。
普通なら普段見せないようなギャップにドキッとしそうだけど、その前に大きなギャップがあったせいで違和感が強い。
「ほんとほんと! それに色々合点がいったぞ。
ゲンキングが例えで妙にゲームでなぞらえることや、俺がランニングしてる時に見た犬の散歩をしている人とか。
ゲンキングは今の姿がバレるのが嫌で、俺に見られてバレたと思ったから、俺に会って気まずくしていたんだろ?」
「おっしゃる通りです......」
「どうして学校ではあんなキャラを?」
そう聞くとゲンキングはゆっくりと話し始めた。
本来の陰キャ姿が素のゲンキングは、小学生の頃は暗い性格で友達も出来ず一人ゲームをするばかり。
そんな彼女を心配するように両親や祖母は声をかけてくれるが、一人に慣れて徐々に思春期に入り始めた彼女からすればそれがウザかったらしい。
一人でもゲームがあれば生きていける。
幸い、ゲームの腕はあったし出し始めたRTA動画も意外と視聴者数が取れていて、このまま続けていけばやがて広告収入も得られる可能性が出てきたのもあって。
そんな時、彼女の出会いを変える出来事が起こった。
それは進学した中学での玲子さんとの出会いだった。
その頃の玲子さんはすでに今のようになっていて、まるで西洋人形のような完成された美はすぐさま周囲の生徒をくぎ付けにした。
ゲンキングもその一人で、彼女は玲子さんのことをゲームから飛び出した美少女だと思ったそうだ。
彼女は葛藤した。
多くの人が彼女に話しかけていく中、自分も話しかけたいが今の姿で話しかけられても
最初は見てるだけで満足だった。
しかし、ゲームの中の人のような推しに関われば、自分もゲームの世界に飛び込んだような気分になれるんじゃないかと思うと、次第に膨れ上がる欲求に歯止めが効かなくなっていった。
やがて、彼女は決意する。玲子さんと友達になりたいと。
そして、彼女は推しの隣にいてふさわしい姿を研究し、さらに自分が理想としている姿のキャラをイメージして作ったのが普段学校で見るゲンキングだ。
「だから、私が変われたのはレイちゃんのおかげなんだ。
もし、レイちゃんに出会えてなかったらきっと外との折り合いがつかずに引きこもってたかもしれないし」
ゲンキングはチラッと俺を見ると目を伏せがちで気まずそうに言葉を続ける。
「それと、わたし......早ちゃんには一つ嘘をついた」
「嘘?」
「レイちゃんが教室で一人寂しそうにしてたから~とか言ったやつ。
ほんとは全然そんなことなくて、私が勝手に一人でダル絡みしただけなんだよね」
あ、なんだ、そんなことか。
「確かに嘘ではあるけど、そんな小さな嘘なんてどうってことないだろ。
なんせ、今の玲子さんを見てればわかるよ。
ゲンキングがいてくれたおかげで楽しそうだし」
「ほんとかな? そうだといいな.......」
ようやくゲンキングが笑った気がした。
自分でダウナーというだけあって、今いる空気は非常に重たい。
まぁ、学校の時の明るさがデフォになってるだけだから、俺の中の設定を弄ればいいだけだけど。
それにここは学校じゃないんだ。
俺のせいで安らげないってのは俺としても嫌だからな。
ここは誠意を持って宣言しよう。
「安心してくれ、ゲンキング! 俺は今の姿を学校で言いふらすような真似は絶対しない!
これは俺とゲンキングとの秘密だ! 破ったら自害することをここに誓う!」
「ありがとう。だけど、最後の言葉で覚悟が重く感じるから。
そこまでしなくていいから。私も早ちゃんのことは信じてるから」
お、本人から信じてる宣言頂きました! これは大事にしないといけないな。
ゲンキングとの話が一段落したところで、俺は思ったより長居してしまったと思って「そろそろ帰るよ」と立ち上がった。
「待って」
その時、ゲンキングが俺の服の裾を掴んできた。
その行動に俺は思わず止まって振り返る。
すると、どこか潤んだ瞳がこっちを見てる。
え、何事? ゲンキングは俺に何を求めて―――
「まだ時間ある? 良かったら一緒にゲームしない?」
コントローラーを持って可愛くおねだりしてくる。
普段見ないゲンキングの庇護欲をそそるような一面が俺の心に刺さった。
くっ、そろそろギャップに慣れてきたところにこれは来る!
俺はチラッと部屋の中にある時計に目を通すと14時ちょっと過ぎ。
帰ったら勉強しようとしてたけど、こんな目をされればさすがに断れんよな。
それにゲンキングの過去を聞いた限り、きっと彼女は友達と一緒にゲームすることに憧れてただろうし。
「いいよ。何やる?」
そう言うとパァと花が咲いたようにゲンキングが笑顔になった。
やっぱり、学校での明るい笑顔が見慣れてるだけにこっちの笑顔の方がいいな。
そして、何やるんだろうと思っていれば、ゲンキングが取り出したのはバイオデリートだった。
ここでそのチョイスすか。てっきり大乱闘の方かと。
「このゲーム、二人でやってみたかったんだ。一緒にゾンビを殺して回ろうね!」
「あ、うん......」
そんなセリフは明るい笑顔で言ってほしくなかったなぁ。
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