第17話 まさかと思ってる時点で結果は確定してるのよな
―――放課後
帰りのホームルームも終わり、教室から人気が無くなってからしばらくして3人の人物が集まっていた。
1人目は当然俺で、2人目は玲子さん、そして3人目が―――
「ん......っ、んんっー!」
俺の目の前で椅子に縛られているゲンキングである。
何故か目隠しと猿ぐつわがされてて犯罪臭が凄い。
つーか、猿ぐつわどこにあったよ?
「なにこれ?」
「何って......唯華よ? 拓海君が先生の手伝いに駆り出されてる間に逃げようとしたから捕まえたの」
捕まえたの、って淡々に言うけど捕まえたとしてこの状態にする必要ありましたかね?
俺が教室に来たら机は端に寄せられて、中央には拘束されているゲンキングが視界に飛び込んでくる俺の気持ちよ。
それに対して、玲子さんは全然悪びれる様子がないどころか、まるで獲物を仕留めて飼い主に自慢する猫のようにキラキラした目で褒められ待ちしている様子。
確かに、ゲンキングと話したいとは言ったがいくらなんでもこれは......
「玲子さん、とりあえず目隠しと猿ぐつわを外してくれない?」
「え!?......あ、うん......」
玲子さんは褒められると思っていたのか、俺が何も言わないことにしょげた様子で仕方なさそうにゲンキングにつけてある猿ぐつわを外していく。
少し可哀想かなとも思ったが、ぐっと我慢した。つーか、若干怖い。
俺はゲンキングの前で跪くと、この犯罪臭ハンパない空気感を消すようにまるでマイクを向けてインタビューするように声をかけてみた。
「えーっと、今のお気持ちは......」
「そうですねぇ、出来れば優してくださると嬉しいです......」
「俺が何をすると思っているのか」
ぐったりとした様子で目から生気が抜けた様子だ。
いつも背後から後光を出しているようなゲンキングに曇ってしまっている。
あぁ、なんと可哀想なゲンキング。
太陽神は輝いてなんぼだというのに。
そんなゲンキングに対し、玲子さんは謎の怒りを見せる。
「こら、唯華。淫靡な言葉で拓海君を惑わそうとするのは止めなさい」
「玲子さん、ストップ。少し静かにしてて」
これ以上玲子さんに暴れられても敵わない。だから、静かにしててもらおう。
俺の言葉に玲子さんが再びショックを受けたような表情をするが、出来るだけ視界に入れないようにゲンキングに話しかけていく。
「ゲンキング、とりあえず俺と話をしてくれないか?
俺はゲンキングとも仲良くありたいと思ってる。
だが、ゲンキングがその調子じゃ俺も困る。
俺が何かしてしまったのだとしたら謝るから話してくれないか?」
その言葉にゲンキングは渋い表情をする。
そして、何か迷ったようにギュッと眉を寄せると答えた。
「ごめん、やっぱり無理。だけど、別に早ちゃんが何かしたってわけじゃないの。これは完全にわたし自身の問題だから」
「早......ちゃん?」
「玲子さん、ステイ。話進まなくなるから」
なるほど、俺は全く関係ないと。
しかし、俺を見てそのような反応をするということは俺が関係してるのでは?
そう思うけど、ゲンキングはあくまで自分でケリをつけたい様子だな。
なら、これ以上はいいか。
俺はゲンキングの背後に回り、椅子に縛られている彼女の両手の縄を解いていく。
ちょ、玲子さん、思ったより頑丈......!
「これでよし」
「え......聞かないの?」
ゲンキングは俺の行動を不思議思ったのか聞いてきた。
喋りはしないが玲子さんからも「問い詰めるべき」と圧が来ているが、別にそこまででは無いでしょ。
「俺がゲンキングと話したかったのは、俺が気付かぬうちに何か迷惑かけてしまったのかと思ったからなんだ。
もしそうなら、俺はゲンキングとの良好な関係を続けるためにも謝る必要があると考えた。
しかし、闇雲に謝っても火に油を注ぐような結果になることもある。
だから、先にゲンキングと話をしたかったんだけど......その状況になるよう頼んだ相手が悪かったようでごめん」
「っ!?」
「ハァ、ま、確かに理由を告げずに突然避けられるって悲しいもんね。
それに関してはわたしの方こそごめんなさい。そして、今になっても理由言えないことも。
ただ、信じて欲しいのはこれはわたしの弱い心が原因で、早ちゃんには何も関係ないってこと」
「そっか、なら良かった」
これにて俺は無事にゲンキングとの気まづい間柄を解消できたわけだ。
一件落着って感じだな。
ちなみに、この後玲子さんも自分のやったことを謝った。
それに対して、ゲンキングは太陽神と言えるような懐の広さで許していた。
―――土曜日
俺がダイエットを初めてから二週間が経過した。
そんな俺は今ルンルンとした気分で外を散歩している。
というのも、今朝ランニングかれ帰って来てシャワーを浴びる前にふと体重計に乗ってみると、なんと2キロも減っていたのでしたー! パチパチパチ!
俺の体重は80キロというラインを超えて79キロに到達!
今日はなんと清々しい日だろうか!
努力の成果が出てると分かってからはテンション上がって散歩に来てるのが今だ。
いつものランニングコースを外れて気まぐれに道を歩いていく。
普段あまり通らなそうな場所を積極的に。
違った道はそれはそれで面白い。
同じ地区のはずなのに景色が違うだけで別の場所に来たような感覚になる。
それが案外面白かったりするのだ。
野良猫なんか目にした時はテンション上がっちゃったね。
そんな住宅街を抜けてスーパーの近くにやってくると、おばあさんが買い物袋を持って歩道前で立ち止まっていた。
明らかな大荷物で案の定移動するだけでもだいぶ大変そうだ。助けなければ。
その時、俺はピーンと来たね。これは試練であると。
お前がこれまで続けてきた筋トレの成果を見せてみよと神が言っている。
というわけで、俺は早速おばあさんに声をかけてみた。
これまでの俺の性格ではまずやらないことなんだけど、やっぱりダイエットの成果見えてテンション上がってんだな。
それに自然と助けようと思えたのは思考の変化と言うべきなのか?
「おばあさん、手伝いますよ」
「おや、いいのかい? ありがとうね」
俺はおばあさんから買い物袋を受け取る。
お、意外と思い......このおばあさん見た目の割に力あるな。
しかし、筋トレをしている俺の敵ではないのだ!
おばあさんと一緒に歩いていると色々と話しかけられた。
俺が高校生であることを伝えると、おばあさんも高校生の孫がいるということを教えてくれた。
しかし、その孫は夜も休日も部屋に閉じこもってはゲームばかりしてるという。
おばあさん的にはもっと外で元気に遊んで恋愛の1つでもして欲しいらしい。
正直、そんな話を俺にされても困るのだが。
ふーむ、なるほどね~。でも、俺も基本インドア派なので説得とか無理ですよ?
「着いたわ。せっかくだからお茶でも飲んでって」
「いえいえ、大丈夫です。そこまでのお礼をされるようなことは......」
「孫があまり相手をしてくれんで寂しいのよ。だから、少しだけ、ね?」
「え......あ、はい......」
結局、おばあさんの明るい笑顔の裏に潜む圧に勝てず、荷物を持ったまま玄関に向かっていく。
ん? あれ? 今、表札に「元気」って見えたような......いやいや、そんなまさか!
俺は頭の中に過ぎった考えを否定するように頭を横に振ると、お邪魔して家に上がらせてもらう。
そして、俺が居間で座りながら待ってると例の孫が登場した。
「あれ、おばあちゃんいつの間に帰って......え?」
俺はその姿に驚いた。
それはいつぞやの朝に出会ったゴールデンレトリバーの飼い主である陰キャさんで―――
「ゲンキング......?」
太陽神の光も何も無い
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