第16話 これが優越感か......
逃げられました。
それはそれは見事なフラグ回収です。
俺はゲンキングの妙な反応に俺が気が付かないうちに何かやってしまっていたと考えた。
だから、その事情を聞くもしくは謝ろうと思って話しかけようとしたんだけど、全部避けられる始末。
どの休み時間もダメで、俺が必死になってゲンキングに話しかけようとしているところが、周りの女子達から白い目で見られ始めたのであえなく撤退。
そして、昼休みになったところで俺は隼人に相談してみること出した。
なんか女子を手玉に取ってそうな見た目してるし。
「は? どうやって避けられないで声を掛けれるようになるかだって? 避けられてる時点で終わりだろ」
「そんな身も蓋もない正論ぶつけるのやめろ。こっちは何かした覚えないんだから」
まぁ、お前に相談してまともに返答されるとは思ってないけどね。
いや、この場合はまとも過ぎて俺がキャッチするのを止めたのか。
「お前にはねぇだろうが相手にはある......ってのはお前も自覚してるんだろ?」
「そりゃまぁ」
「なら、それを思い出さなきゃ意味ねぇだろ。なんかあるだろ。
ほら、お前なんかロリコンを拗らせたおっさんみたいな体形してるし、もしかしたら夢の中でお前似のおっさんに追い掛け回されたとか」
「それ、結局俺のせいじゃなくね? 後、太ってるでいいだろ。
余計なところまで火をつけるような発言やめろ」
「お前がその姿な時点で悪い」
相変わらず、コイツの言葉には容赦ってものがねぇ。
言葉のナイフがただのナイフじゃなくてサバイバルナイフぐらいある。
とはいえ、もし仮に隼人の言ってることが正しいとすれば、確かに大変なことをしてしまったかも。
太ったおっさんに追いかけられるって高い所から落ちる夢よりよっぽど怖いだろ。
俺が腕を組みながら悩んでいると、それを横目で見ながら弁当を食う隼人が続けて言った。
「ま、何にせよ、女子ってのは理由を明らかにしないと謝っても怒るめんどくせぇ生き物なんだよ」
「さすがプレイボーイ。言うことが違うねぇ」
「俺がいつお前にプレイボーイって言ったよ。後、俺は女子で遊んだことはねぇ」
なら、その発言はどこからくんだよ......と思ったけど、こいつに妹か姉かのどちらかがいたら成立する話でしたね。
クッソー、俺もコイツをたまにはあっと言わせたい!
とはいえ、今の隼人の言葉はもっともだろう。
理由もなく謝られたところで「コイツ、ただ謝ればいいと思ってるだろ?」とか思いそう。
相手の怒ってる度合いにもよるけど。
う~ん、しっかし、俺が話しかけようとした時、どうにも怒ってる雰囲気じゃなかったんだよな。
朝に教室で顔を合わせた時だって、俺に怒るだったらあの時点で怒っててもいいはずだし。
どちらかというと、一緒にいて気まずいって感じだった。
仕方ない、出来れば自力で解決したかったが、ここまで避けられれば自力では不可能。
もしかしたら時間が解決する可能性もあるけど、そうじゃなかった時が後々不味そうなので、火事の火種になりそうなのは速やかな処理あるのみ。
ということで、俺は玲子さんにレイソでゲンキングの様子を聞いてみるよう頼んだ。
打って返信したら数秒後に「り」と返って来た。
意外とレイソ上だと文章軽いんだよな、あの人。
さて、これでしばらくは玲子さんの情報待ちかな。
その間にお弁当食べないと。
するとここで、ふと玲子さん繋がりで隼人のミッションの件を思い出した。
まぁ、ここでこうして一緒に食ってる時点で結果はわかってるようなものだけど、一応聞いてみよう。
「そういや、結局俺は隼人のミッションを達成したってことでいいんだよな?」
俺がタコさんウインナーを頬張りながら聞いてみれば、ペットボトルのお茶に口をつけていた隼人が答えてくれた。
「そうだな。俺が言ったのは“久川に会わせろ”だから条件は達成してるな」
「なら、俺とお前の契約は継続で並びに俺はお前と友達になったわけだ」
「そうなるな。ま、俺の方が上ってのは変わんねぇけど」
「残念ながら、友達関係となった以上は同等で扱わせてもらう」
そう強気に出た俺だったが、いざ隼人に命令できるかというと微妙な話だ。
精神年齢が上でも人間というのはその部分で評価されることはまずない。
結局、社会的立場の上下が物を言う世界だ。
だから、金城コーポレーションの跡取りであるコイツに命令するのは難しい。
せめてもう少し気の置けない中にならないと。
しかし、こういう関係になった以上はしてみたい気持ちもある。
一度でいいから金持ちを顎で使ってみたい。
なんでかわからないけど、考えただけで優越感を感じる。
とはいえ、先ほども言った通り直接は言えない。
ならば、考えを変えるのだ。
同じ“やらなければいけない”でも、勝敗がついたから仕方なく“やる”にすればいい。
つまり、罰ゲームだ。
「隼人、じゃんけんをしよう」
「ハァ? なんだ急に」
「お前のほぼ飲みかけのお茶の代わりを買ってきてもいい。
ただし、俺も丁度別の飲み物が欲しいんだ」
「水筒あるのに?」
「そういう気分だ。だから、じゃんけんで負けた方が自販機で買ってくるということにしようじゃないか」
「......ハァ~ン、なるほどね。俺相手に直接命令する度胸はないけど、俺を顎で使いたいから罰ゲームにかこつけて俺にじゃんけんで勝って飲み物を取って来てもらいたいんだな?」
わぁ~お、思いっきりバレて~ら。
俺のさっき長考がバカみたいじゃないか。止めろ。
しかし、意外にも隼人は乗ってきて、俺とじゃんけんをしてくれることに。
隼人が「じゃあ、始めるぜ」と言い始めたがすぐに俺は待ったをかける。
「あぁ? どうした? 怖気づいて俺が買ってきます、か?」
「ちげーわ。俺がお前相手にそこまでビビッてたまるかよ。いいか? 俺はチョキを出す」
「なるほど、そう来たか。なら、俺はパーを出そう」
くっ、コイツ! 俺が仕掛けたブラフをカウンターしてきやがった!
つまり、俺はコイツを素直に信じれば勝てる。
しかし、ひねくれ者のコイツがまともに出すか。
ハッ、舐めんな! お前は俺の裏の裏の裏の裏の裏の裏を読んでチョキでいく!
「行くぜ、最初はグー、じゃんけん―――ぽん」
結果、俺がチョキ、隼人はグー。ウィナー隼人。ぐはっ! 裏読みすぎた!
「くっ、負けた。せっかく顎で使ってやろうと思ったのに......」
「ハハハ、お前如きが俺に勝つなんざ100年経とうが無理だ」
「俺が仮に生きててもお前死んでるだろ」
「俺の人生設計は120歳まで生きることだ」
「うわっ、妖怪かよ」
「うっせ」
そう言いながらも隼人は勝利を噛みしめるように拳を見つめると急に立ち上がった。
そして、自販機のある方へ歩き出す。へ? 何事?
「ま、今回だけは俺の気分が良いから特別に俺を顎で使った感覚を味合わせてやるよ。
ただし、飲み物はこっちで選ばせてもらうけどな」
「それはそれで嫌だなぁ。絶対変なもの買ってくんなよ!」
「わかった。“絶対”だな?」
「フラグじゃねぇよ!」
俺がそう言い返せば隼人はケラケラと笑って、体育館通路近くにある自販機に向かって歩いて行った。
そんな後ろ姿に一抹の不安を感じながらも自分の弁当に向き直す。
ふはぁ、卵焼き美味い。さすが母さん。
それに試合に負けて勝負に勝ったような複雑な気分だけど、あの隼人に飲み物を買ってこさせるなんて。
昔の俺じゃまず考えられないことだな。
―――ピロン♪
スマホから着信音が鳴った。
画面を確認してみれば玲子さんから文章が一言。
『なんかはぐらかされてばっかで埒が明かないので放課後に捕獲作戦に移行する』
......ホワッツ?
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