第15話 何かした覚えがねぇ
昨日、俺は久川もとい玲子さんから衝撃的な事実を聞いた。
それは俺がこの時代に来た真相だった。しかし、結局真相は真相だ。
それを聞いたところで俺がこれから目指す未来は今の俺の行動次第だ。
というわけで、今日も今日とて朝からランニングをしている。
ランニングは少しお腹に入れた方がカロリーの燃焼に良いとかなんとかどっかで聞いたので、少し食べてから外に出ている。
そんなわけでいつもより走る時間が少し遅い。
まぁ、その根本的な原因は昨日のレイソにあるけど。
というのも、俺と久川の間のわだかまり? のような何かが解消されると、玲子さんが積極的に話しかけてきたのだ。
それを返してたら寝るのが遅くなった。
玲子さんとしてもこの時代にあまり友達がいなかったから、ついたくさん話してしまったとのこと。
俺としては俺で玲子さんが楽しんでもらえるのならそれでいいけどね。
いつもより走れるようになったかな? と調子こいてたらすぐさま膝が悲鳴を上げたのでウォーキング開始。
少し時間が遅いせいか、いつもよりランニングしてる人にすれ違うのが多い気がする。
後、犬の散歩をしてる人。
そんな中、周りを見ていると一際目を引く飼い主を見つけた。
簡単に言えば可愛らしい女性だ。
少しダウナー系にも感じる陰キャ味の明るい茶髪。
年齢は同じぐらいだろうか。
そんな人がゴールデンレトリーバーの散歩をしている。
自分で言うことでもないが俺は俗物だ。
なので、当然可愛らしい人を見ると目で追ってしまう。
あ、あの人もこっち見た。瞬間、目をそらされた。あ、心に来るやつだ。
反対側の歩行者通路なのでそこまで頑張って顔を隠さなくてもいいと思うけど、その人はフードを被り、さらにそのフードの端を持って顔を隠すほどには徹底していた。
あ、なんかごめんなさい。
ジロジロ見てしまって。
別に大した理由はないんです。
俺は出来るだけ自然を装って「さーて、そろそろ走るかな」とか言ってみたりして、その場から逃げるようにランニングを再開した。
くっ、やっちまった。
忘れていた、自分の容姿の醜さを。
失礼なことをしてしまった。
あの人のあの反応、絶対明日から散歩コース帰るやつだ。
あ、俺のハートにヒビの音が!
その後、いつものランニングコースを通って家に帰って来たが、いつもより疲労が大きい気がした。
......特に精神的な部分で。
―――学校
朝の掃除を済ませるとホームルームの間に勉強していく。
その光景はまるで受験を間近に控えた高校三年生のような感じだ。
しかし、やってる内容はずっと受けた授業の復習。
俺の場合、人より多くやんないとダメかもしれないから。
多くの人が教室に登校してくる。
そして、だんだんと賑やかさも増してくる。
最近では俺に対する視線も薄れてきたような気がした。
前までは「コイツ、朝からなにやってんの?」って感じだったが、それが日常化してきたのか気にする興味も失ったかしたみたいで。
しかし、そんな教室でザワつかせる案件が出来てしまった。
「おはよう、拓海君」
「あ、おはよう、久川さ―――」
「じーーーーっ」
「れ、玲子さん......」
教室に入るや自分の席に向かうこともなく俺の席の前に立ち、玲子さんが挨拶してきたのだ。
それも俺と玲子さんの関係性の変化を見せつけるような感じで。
レイソの中で俺をこれから下の名前で呼ぶと明言していたのは知っていたが、まさかこう来るとは俺も予想外だ。
そのせいか一斉に教室がその光景を見てザワついていく。
正直、生きた心地がしない。
女子からの視線も男子からの視線も。
絶対あらぬ噂も立ち上がってるだろうな。
そんな明らかな浮いた環境の中でも玲子さんの表情は相変わらず固い。
カッチカチと思うぐらいには表情の変化が乏しい。
だけど、あれ? 背後に花畑のオーラが見えるぞ? 俺の目がおかしくなったか?
「まさかここで堂々と言ってくるとは思わなかったよ。
というか、要らぬ噂が立つけどいいの?」
「別に大したことないわ。週刊文〇に質の悪いこと書かれたことに比べれば全然優しいもの。
それに(元女優だから)見られ慣れてる」
「パネェっす、流石っす、玲子さん」
もはや比べるベクトルが違うとも言えるんだけど。
まぁ、本人が気にしてないならいいのか?
少なくとも俺は気になるんだけどなぁ。
だけど、俺が弁解しようとしてまともに話聞いてくれるかどうか。
人の噂も七十五日というしそれまで待つか......って長っげぇなおい。
「おっはよー! おやおや、なんだかクラスがザワついてるけどどったの?」
「おはよう、唯華。別に大したことないわ」
お、太陽神ことゲンキングの登場だ。
相変わらず雰囲気そのものが明るい。眩しい。
「と、本人が言うだけで結構大したことある話なんだけどね」
「げっ」
「げ?」
俺がサラッと話に混じっていくと、なぜかゲンキングが俺の顔を見てバツが悪そうな表情に変化していく。
え、混じっちゃダメだった? だとしたら、ごめん。
何か警戒した様子でずっと構えてるゲンキングであったが、俺が何も言わない様子を見ると腕を組んでブツブツと何か呟き始めた。
(あれ? もしかして......でも、知ってて敢えて言ってない可能性も。
それならそれでありがたいけど、それをネタに脅されたら嫌だし......いやいや、レイちゃんの友達なんだからそんなことは......)
教室のザワつきで何を呟いてるかわからない。
っていうか、さっきからちょいちょい聞こえてるぞ、周り。
アレが彼氏はありえねぇってとか、アイツ元気さんとも話してやがるとかそんな言葉。
安心しろ、俺だって自分の見てくれの釣り合いぐらいわかってる。
だから、一部でアイツは久川のブタなんだって話から俺も久川女王様のブタになりてぇって話に繋げるのは止めなさい! 何教室で性癖拗らせてんだ!
「あ、あの......俺、何かやっちゃいました?」
「え? あ、いやいや、別に何もしてないよ! 恐らく、うん!」
「何もしてないはずのことを恐らくで片付けられると心残り出来るんだけど」
「それじゃあ、たぶんね!」
「なんで確信のグレード下がってるのさ」
ゲンキングが必死に「大丈夫、大丈夫だから!」と言っているので信じることにしよう。
なぜかさっきから彼女の顔色が良くないが。
仕舞には「やり残した宿題があるんだったー!」とか言って自分の席へついてしまった。
その間、俺一言も発してないんだけどね。
「ねぇ、何かあったの?」
「いや、何もないはずだけど......ひっ」
ふと視線を玲子さんの方へ戻してみれば、先ほどよりも眼力が強い。
それに背景からも不穏な圧を感じる。
待て待て、何がどうしてこうなった?
「あ、あの......怒ってたりします?」
「私がどうして拓海君の言動に対して怒らなきゃならないの?」
「いや、その圧が......」
「私が今まで見た事ない唯華の反応に拓海君が関係していて、二人の間に妙な関係性が起きていたとしてもそれは私が怒る原因になり得ないわ」
「なってる。絶対なってる。長文で返してくるあたりが特に」
「何か?」
「なんでもありません」
結局、玲子さんが怒っている理由は見当もつかないまま、身を縮こませているとチャイムが鳴った。
いつの間にかそんな時間が過ぎていたようだ。
しかし、これで圧からは解放された。
っつーか、勉強ほとんど何もしてねぇ。
机の上でノート広げてただけだ。
にしても、ゲンキングのあの反応......どう考えても何か俺がやっちまった可能性があるからとりあえず謝りに行こう。
逃げられなきゃいいけど。
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