第11話 なんとか凌いだって感じだな

 昼休み、俺はいつもの東屋にやってきていた。

 ゲンキングに教室で食べようと誘われたが、あそこで食べるには俺に度胸が足りない。

 あそこは多くの友達と一緒にパーティを組んで挑む場所だと思ってるから仲間がいない今の俺には無理。


 後、ゲンキングを妙な視線の的にさせるのも申し訳ないしな。

 それに意外と居心地いいんだここ。まぁ、晴れてる日限定の話だけど。


「いいね、ここ。特にうるさくないところが」


「ゲンキングもそういうこと気にするんだな。

 どっちかっていうと皆でワイワイするイメージあったけど」


「あ~、それはこのフォルムの時だけだよ。

 私も普段は静かでのんびりできる場所の方がいいし」


「え、第二形態でもあんの?」


 ゲンキングはお弁当に入っている卵焼きを箸で持つと、「これ好きなんだ~」と言いながらパクッと食べていく。それにしても、美味しそうに食べるな~。

 さて、俺もお弁当を開けよっと。


「お、意外とヘルシーお弁当だね。もしかしてダイエット中?」


「察しがいいな。そう、いい加減この怠惰の象徴である腹を手術以外で削るにはそれしかないからな」


「なにその言い方、まさかそれも検討項目に入ってたの?」


「そのぐらい気合入れてるって感じだ。今にデブと呼ばれないようになってやる!」


 俺はお弁当のおかずを口の中に放り込んでいくと、しっかり30回ほどよく咀嚼して飲み込んでいく。

 咀嚼回数は満腹中枢を上げてくれるって言うしな。

 食う量を減らせるのなら使わない手はない。


 そんな俺をゲンキングは何かを考えてるような顔でじっと見ていた。

 その視線に俺は気づくことなく咀嚼しながら数を数えてたけど。


「そういえば、ゲンキングは久川と友達だけどそれはいつからの付き合いなんだ?」


 俺はそんな質問をしてみた。

 理由はあり、これを機に隼人と久川さんの言葉の矛盾を解消しようと考えてるのだ。


 その二人の糸口を探るには久川の友達からに限るだろう。

 といっても、いきなり二人の関りを質問しても説明が面倒なので、まずはジャブとしてその辺りから。


 俺の質問にゲンキングは少し考えるように上を向くと、答えてくれた。


「確か中学2年時だったかな。たまたまクラスに凄い可愛い子がいたから、こりゃ話しかけなきゃと思ったわけよ。それがどうしたの?」


「それからずっと二人は今のような感じ?」


「そだね、運よく何回も同じクラスになれたから」


「それじゃあさ、どこかで隼人に会ったりした? あ、隼人ってのは―――」


「金城君のことでしょ? 知ってるよ。う~ん、別に金城君とどこかで会った記憶はないかな。

 さすがにあのイケメンは忘れないと思うし」


 あまり聞くことなかったけど、やっぱり傍から見ても金城はイケメンなんだな。

 なら、アイツといる俺は正しく月とスッポンってか。別にいいけど。


 にしても、ゲンキングで空振りであるとすれば、いよいよ二人の接点はないという感じになった。


 だけど、それが際立つほどあの時の久川のセリフの異質感も強くなっていくんだよな。

 もうここまで来たなら腹をくくって久川に聞いてみるしかないか。


「そんなところで二人で何してるの......?」


「あ、レイちゃ―――っ!?」


 噂をすれば久川......って!? なんだろう、表情は普段と変わらないのに異様に怖いオーラを放っている。


 チラッとゲンキングを見てみれば彼女もよくわかってない様子で慄いてる。

 あ、こっち見てきた。目が合った。


「何、二人で目を合わせたの? 何か隠してる?」


「いえいえ、滅相もございませんぞ! 姫! わたし達めが姫に隠し事などしようはずもござらん!」


 なんかゲンキングがテンパって変なこと口調になってる!?

 逆に捉えればそれだけの異常事態ということだ。

 とりあえず、全力で首を縦に振っておこう。


 久川は俺とゲンキングの表情を交互に見比べると、一つため息を吐いて「信じるわ」と言ってくれた。


 ふぅ~、危なかった~。今までに感じたことのない圧だったから焦ったよ。

 それにしても、何だったんだ今の?


 久川は何事もなかったように俺の隣に座っていく。ゲンキングとは反対側だ。

 そのせいで俺は女子二人に囲まれる結果となってしまった。

 え、なにこれ? どういう状況? 今更ながら俺汗臭くないよね?


 すると、ゲンキングがそろ~りとその場から離れようとするので、俺は咄嗟に袖を掴む。


(ちょ、何するの!?)


(なに一人で逃げようとしてるの!? 置いてかないで俺を!)


(情けないことを自信もって言うんじゃないよ! わたしだってわかんないんだから!

 これ以上掴んでたら訴えるよ! セクハラ! エッチ!)


(その罵倒は甘んじて受け入れよう。だから、ここにいてくれ!)


(カッコよく言ったところでカッコついてないから! っていうか、受け入れないで!)


「二人とも何してるの?」


「「何もしておりません」」


 久川に一睨みされるとさすがにゲンキングもそっと元の場所に座っていく。

 そして、すぐさま「恨むからね」と小声で隣から言ってきた。

 うわぁ、絶対怒ってるから怖くてそっち向けねぇ。


(ねぇ、この状況どうするの?)


(どうするって......何かないの? 友達でしょ)


(こんな空気一度たりともなかったよ。今回が初見だから。攻略方法がわからない!)


「二人はここで私よりも先に来ていたのよね? 何話してたの?」


 久川が切り込んできた。

 俺はゲンキングと目を合わせ頷くと、二人で話を合わせていく。


「わたし達は大したことは話してないよ。強いて言うならレイちゃんの話をしてたぐらい」


「私の話?」


「そうそう、ゲンキングが久川さんと友達でどのくらいの付き合いなのかなって」


「......ゲンキング?」


「あっ」


 思わぬ失言をしてしまった俺に対し久川は的確に反応し、ゲンキングは俺の胸倉を掴んで引き寄せていく。


(このバカ! アホちん! ゴ〇べ!)


(おい、ゴ〇べは悪口じゃないぞ!)


(なに、うっかり親し気な呼び方しちゃってるの!? どう考えても誤解されるやつじゃん!)


(それに関しては言い訳のしようもございません。大変申し訳ございませんでした)


(ハァ、過ぎたことはしょうがない。切り替えていくよ!)


(うっす!)

 

 小声で会話を交わした後、すぐさまゲンキングがフォローの言葉を入れていく。


「ゲンキングってのはわたしがである早川君とも、良好な関係でいたいからそう呼んでもらってるだけだよ。他意はない」


「うん、そうそう。だから、気にすることじゃなくてもいいよ」


「......そう、わかったわ」


 久川の返事を聞いて俺とゲンキングは溶けるように脱力していく。

 威圧的な空気が消えていくからだ。

 ふぅー、助かった。安心するにはまだ早いけど、一時的な危機は凌いだ。


(久ちゃん? いや、それだとセンスがない。同じようにレイちゃん呼び?

 別にいいけど、もう少し何か特別感が欲しい。他にこう何かいい呼び方は......)


 なんか久川がブツブツと独り言を言い始めた。

 耳を澄ませば聞こえる距離感だったけどやめておこう。

 また余計な地雷を踏みかねない。

 あ、腕時計見れば思ったより時間経ってる。

 早いとこお弁当食べなきゃ。


 俺ががっつきながらもしっかりと咀嚼していると、久川がどこか恥じらった様子で俺に向かって言ってきた。


「ねぇ、早川君」


「ん?」


「金城君との件、頑張ったらご褒美くれない? それが聞ければもっと頑張れる気がする」


「っ!?」


 あまりに聞きなれない言葉にむせかけた。

 クールな久川がデレている......だと!? なんだこの状況は? 急に何が?

 チラッとゲンキングの方を見れば、監督彼女からのゴーサインが出てる。

 さっさと返答しろとも見えるが。


「わ、わかった。俺なんかで良ければ」


「......!」


 久川の雰囲気がパァと花咲いたように明るくなった。

 そのことに思わずドキッとする。

 そして、彼女は「やる気でた」といって立ち上がり、颯爽と教室に戻っていく。


 そんな姿を見ながら、結局俺は久川のあの謎発言に関して回答が出ることはなかったことにため息を漏らした。

 まぁ、それを考える状況でもなかったとも言うが。


「あ、予鈴だ」


「あ~! 早ちゃんのせいで全然食べれてないよ~!」


「俺のせい? なら、今度一つ何か奢るで」


「よし、乗った。このことは不問にしてやろう」

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