第10話 コイツもなんか拗らせてそうだな

「で、まずはここの二次関数を解いてみろ。そして次にグラフにして起こせ」


「うっす」


 ある日の休み時間、俺は基本的に隼人に勉強を見てもらいその時間を過ごしている。

 本当だったらその時間に友達とゲームや漫画の話だったり、テレビの番組の話だったりをするのだろうけどあいにくそれに割いてる時間はない。


 学力が死ぬほど落ちてるからだ。高校1年の最初だから大丈夫だって?

 バッキャろう、俺の場合は中学の範囲から怪しいんだ。

 そんな悠長に構えてたら手遅れになる。


 別に具体的な未来設計があるわけじゃないが、俺だって二度とあんなような環境は嫌だ。

 不労所得親の金で好きなことして生きるのは、自己だけ見れば生きていけるのだからそれでいいのかもしれない。


 だが、そのような生き方を目指してしまえば、俺はせっかく得たやり直すチャンスを棒に振ってしまうだろう。


 そうなれば、俺は再びクズ野郎に戻り、親は俺のために早死にする。

 その未来を否定するためにも、俺はこの思考に気を付けなければいけない。


 正直なこと言えば、めちゃくちゃ友達と色んな話してぇよ!

 ゲームやアニメから少し下世話な男だけの話だったり、色恋沙汰の話してぇよ!

 つーか、俺、未だまともな男友達いねぇよ! 隼人すらまだ怪しいよ!


 そんなわけで、最低でも俺の学力が今時の高校生の平均レベルぐらいに達するまで休み時間に雑談などできない!


「よし、できた。これでどうだ?」


「バーカ、ここケアレスミスしてるぞ。そのせいで芋づる式にその後の問いも間違ってる」


「がはっ」


 俺はダメージを負いながらも再びミスに気を付けて計算し直していく。

 そして、計算しながら俺はふと隼人に話しかけた。


「そういや、今更だけど勉強に付き合ってくれてありがとな」


「は? なんだ急に気持ち悪りぃ」


「おいこら、人の感謝をなんだと思って......」


「別にこの程度お前が気にすることじゃねぇんだよ。

 これはお前が自分の価値を磨こうとしていることに投資してやってるだけだ。

 それに俺も今はいつだって暇してんだ」


 そう言いながら、隼人の目はどこかの男子グループの方を向いていた。

 そのグループは窓際の一つの机に集まって楽しい雑談しているのか笑いが絶えない。

 隼人の目が羨ましそうに見えた気がした。


「お前なら友達ぐらいいそうだと思ってたけどな」


「友達ね、価値もねぇ相手に同じ目線立てるかってんな」


「無駄にプライド高けぇ、ベ〇ータかよ。フ〇ーザにボコられるから気をつけろよ」


「うるせぇ、グ〇ド」


「誰がグ〇ドだ。完全に見た目だけじゃねぇか」


 まぁ、コイツの場合は性格の面もあるが、同時にコイツの肩書も大きく影響しているだろうな。


 隼人は金城コーポレーションの跡取り、そしてその企業は今やこの日本の中枢を担うほどの大企業だ。


 隼人がどれだけ普通に振舞おうとその肩書がどこまでも纏わりつく。

 結局、俺達一般人はコイツを無意識に上流階級に人間だと思ってしまうわけだ。

 大方、そんな感じの視線にさらされ続けて捻くれたんだろう。


 加えて、前に隼人のいた俺をイジメてた連中のグループは素行が悪かった。

 そのイメージも相まってより近寄りがたい感じになってんだろうな。

 後、もう一度言うけど性格もな。ここ重要。


「ま、安心しろよ。今に俺の価値を見せつけてこのグ〇ドが友達になってやんよ」


「......やっぱグ〇ドじゃねぇか」


 そんなツッコみを受けた後、「手、止まってるぞ。はよやれ」と怒られたので、集中して勉強を始める―――ようとしたところで話しかけてきやがった。


「そういや、お前の方は進捗どうなのよ? 俺と久川を会わせるって話」


「してみたよ。だけど、即答拒絶されたぞ」


「だろうな」


「何したんだ?」


「さぁ?」


 いや、さぁ? って......あの時の久川の反応は完全に何かあったような反応だったぞ?


「久川さんが言うには今じゃないいつかにお前と何かあったみたいだぞ?」


「だから、俺は久川と関わったことねぇって。

 俺が価値ある存在を忘れるわけねぇし、そもそも久川と出会ったのはこの高校に来て初めてだ」


「......え?」


 隼人が嘘を言ってる様子はない。つーか、嘘をつく理由もない。

 だとすれば、久川が嘘をついている? いや、あの時の表情は嘘には見えなかったし......。

 両方本当だとすれば、なんだこの異様な違和感は。あの言葉は何を意味してる?


「......み。おい、拓海」


「え、はい」


「予鈴鳴った。そろそろ片付けろ。そして、席戻れ」


「......はい」


 妙な違和感を抱えたまま俺は次の授業に臨んだ。

 その時の授業はあまり頭に入ってこなかった。


―――昼休み


 俺は4限目の先生に頼まれたクラス全員のノートを国語準備室に向かって運んでいる。

 そんなことをしていれば、どこからともなく久川が飛んできそうなものだが、現在彼女は国語の教師と一緒に職員室に行っているので絶対に来ないことを知ってる。


 なので、俺は現在一人で落とさないように移動中だ。

 隼人? アイツが手伝うタイプに見えるか?

 相変わらず、俺の周りへの評価はイマイチなのか誰かが気を利かせて手伝ってくれることもな―――


「手伝うよ。少し分けて」


「た、太陽神!」


「なんか呼び名違くない?」


 間違えたゲンキングだ。

 にしても、彼女は授業が終わった後に一番に教室を飛び出していったような?


「何か用事あったんじゃないの?」


「トイレに直行しただけだよ。ちょっとギリギリだった」


「.......あ、そうなの」


 コメントに困る。ナニコレ、どういう回答が正解なの? 教えて、ギャルゲーの選択肢!

 それとゲンキングはその意外と明け透けなのね。


 ゲンキングは俺が抱えてるノートを少し受け取ると、一緒に並んで歩く。

 とりあえず、感謝の言葉を述べなければ。

 ゲンキングとも友達のはずだし......たぶん。


「ありがとう、手伝ってくれて」


「ふふん、これくらいどうってことないよ。

 それにしても、他の子も手伝ってあげればいいのに」


「最初に踏み出す一歩って勇気いるんだよ。ほら、周りからの目もあるし」


「わかるぅ~、明らかにおかしい位置にある宝箱を開けたいと思いつつも、ミミックの可能性あると思うとなんとなく躊躇っちゃうよね~」


「それ、本当にわかってる?」


 この子、前にもゲームの何かで例えたけどこの陽キャなりで意外とゲーマーだったりする?


「そういう意味じゃ、ゲンキングは躊躇わなかったの?」


「一度話しかけたNPCに戦闘になるかもって思って話しかけないプレイヤーいる?」


「いないな」


「でしょー? それよ、それ」


 やっぱり、この人意外とゲームするタイプの陽キャの人だ。

 さっきから妙に例えにゲームを挟んでくる。


「それにレイちゃんの友達だからね。レイちゃんの友達に悪い人はいない」


「なんか凄い自信だな。自分の友達に対してそこまで言える人ってまずいないと思う」


「あの子は奇跡の巫女じゃからな。いづれ、この世界を導く救世主となるじゃろう」


「急に村長出てきた」


 そんな雑談をしながら歩いていると、あっという間に国語準備室に着いてしまった。

 準備室をノックして反応が無かったので、勝手に入って抱えていたノートを空いているスペースに置いていく。


「ふぅ、これでよし。改めてありがとう、手伝ってくれて」


「別にいいよ。お礼言われることでもないし。それよりもお昼ご飯まだだよね?」


「うん、まぁ......」


「ならさ、一緒にお昼ご飯食べない?」


「へ? 二人で?」


「だね」


 な、なんかよくわからないけど昼食に誘われた。

 陽キャと二人きり? 太陽神と二人......ダメだ、絶対に身が持たない! 焼き焦げる!

 しかし、俺が断る隙もなく腕を掴まれると、そのまま教室へお弁当を取りに行かされた。

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