第8話 こういう時対応の仕方わかんねぇ
それはあまりにも早い即答であった。危うく聞き逃すところだった。
それにしても、敢えて“友達になったげて”から“顔合わせる”まで、ランク下げたお願いだったのに回答がノータイム過ぎる。俺の言葉遮ってたし。
「金城と会うのがそんなに嫌? つーか、何かあったの?」
「あったわ。まぁ、今じゃないけど。むしろ、私としては金城君と仲良くしている早川君の方が不思議なくらいよ」
「それはまぁ色々あって......」
俺とアイツの関係性を語るならイジメのあった事実は切っても切り離せない。
それを久川に話すわけにもいかないしなぁ。
雑な濁し方だけど追及しないで!
それよりも、隼人の奴やっぱり何かあったじゃねぇかよ!
何があったか知らねぇけどさ!
「でも、金城は悪い奴じゃないよ......今のところは」
「知ってる。根っから悪い人ではないことぐらい。でも、彼はあなたをイジメていた!」
久川が初めて感情的にしゃべった瞬間かもしれない。
彼女は言葉を言い放った後すぐにハッとして口を閉じた。
そんな彼女の様子に俺は開いた口が塞がらない。
理由は一つ――なんで久川が俺がイジメられてたことを知ってるんだ?
俺をイジメてた連中は自分勝手で暴力的でそのくせ小賢しい連中だった。
要は上手くバレないように俺をイジメてたわけよ。
表向きはあくまで仲が良いとギリギリ周りから判断される範囲での命令をし、裏では制服で隠れる部分を集中的に攻撃した。
パッと見の外見ではバレないように。
結局、一度目の高校生活では三年間まともにやり遂げやがった。
まぁ、一部の連中は見て見ぬフリをするよう抱き込んだかもしれないが。
少なくとも、まだ高校生活が始まったばかりの時期でイジメの事実を知ってるのは俺と隼人の二人だけのはず。
「......久川さんは知ってたのか? 俺がイジメられてること」
「......」
久川は沈黙で答えたが、目線が明らかに斜め下を向いている。
それは肯定も同じ意味だよ。
明らかにさっきよりも表情が曇っている。
なら、俺が追及するのは無しにしよう。
「確かに俺はイジメを受けていて金城も加害者の枠に入ってた」
「だったら、もう関わらない方が―――」
「だが、アイツだけはあのグループで一番の理解者でもあった。
本当は気づいてるんだろ? 突然、クラスの中から三人も転校した理由を」
「それは......」
久川は再び視線を下に向けていく。どうやら嘘は苦手のようだな。
それぐらいでいい。それぐらい清いままでいてくれ。
「変な話、俺は生まれ変わろうと思ってる」
「生まれ......変わる?」
「俺は今のままじゃダメなんだ。
今のこんな意志の弱い思考や性格じゃきっと同じことを繰り返してしまう。
だから、変わる。でも、俺一人じゃどうにもできない。
俺が変わるために金城の力を借りてるんだ」
俺は久川の目をしっかり捉えるように見ながら言った。
今の俺、少しだけ勇気あるかもしれねぇ。
もしかしてマザーテレサの言葉効いた?
って、そんな即効性のあるようなものじゃないか。
にしても、俺ってこんなにハッキリ言葉言えたんだな......。
ふと周りを見れば周囲からの視線がすごい。
相変わらず、久川という存在はいるだけでこんな視線を集めるのか。
そして、ついでのように俺にも悪意が集まる。
美醜の対比として面白がってんだろうな。
「久川、それ食べて外に出よう。きっとここじゃ長話するのに適さないだろうし」
「そ、そうね。急いで食べてしまうわ」
それから、久川が昼食を終えると、そのまま外に出て少し歩いた先にある公園へとやってきた。
その公園はかなり広く、芝生エリアにある木陰に入ったベンチに二人で座っていく。
......妙に近くない? 座るにしても片腕ぐらいは距離あけない?
今の距離感握り拳の二つ分ぐらいしかなくて、これから真面目な話するって感じになれないんだけど。
「私、思ったわ」
あ、シリアスモード再突入すか。
「さっきの早川君の話を聞いて生まれ変わる必要があるのは私もなんじゃないかって。
私も学校生活で馴染める方じゃなかった。
誰かが良くしてくれるけど、本質の私を捉えてくれる人はいなかった。
それを私は誰も見つけてくれないと勝手に塞ぎ込んで、新たなチャンスを貰ったにもかかわらず私は相手に変わることを望んでいた」
これは久川の昔の話だろうか?
まぁ、そりゃ美人は美人なりの苦労はあるだろうな。
人間は美醜には敏感だ。
美でも自分よりかけ離れていれば羨ましく思い、疎ましく思う。
「でも、変わるべきは私なのかもしれない。
誰かが変わることを望んでいては、きっと私が本当に欲しいものは手に入らない気がするから」
久川はスッとベンチから立ち上がると、数歩遠ざかっていく。
そして、そのままの状態で俺に話しかけた。
「ねぇ、早川君。金城君に会う話......考えてもいいわ」
「......無理してないか?」
「大丈夫よ。ただ今すぐにというわけにはいかない。少し時間がかかるかも」
その言葉に「どれぐらい?」と期間を尋ねる言葉が思いついたのは完全に自分本位だな。
久川を俺が人生をやり直すための道具のように見るな。
どうやらまだ性根が腐ってるようだ。
「いくらでも待つよ」
久川は何か変わろうとしている。
俺と同じように何か変化が生まれてる。
それだけは邪魔しちゃいけない。
これで仮に隼人からのミッションを失敗したとしても、痛手を負うのは俺だけだ。
「......ありがとう」
そう言って久川は一人歩き始める。
その後ろ姿を俺は見えなくなるまで眺めていた。
―――月曜日
隼人と久川との話があった土曜日が過ぎ、早くも学校を迎えていた。
その日も朝早くに登校してせっせと教室の掃除を行っている。
早朝のランニングでヘロヘロになりながら、「一回ぐらいサボっても......いやダメだ」と自問自答していると、本来ならまだ誰も来ないはずの時間帯に元気な声が響き渡った。
「おっはよーございます! って、誰もいないか~アハハ、ハハ......」
「......」
やっべ、目が合った。あぁ、みるみるうちに顔が赤くなっていく。
「その......おはようございます?」
「安易な優しさが一番人を傷つけるんだよ」
どうやら傷つけてしまったらしい。それは申し訳ないことをした。
教室に入ってきたのは明るい茶髪に黄色いシュシュをつけたポニテガール。
確かこの子って普段久川と一緒にいる子じゃ......?
「君って確か早川君だよね? レイちゃんから聞いてるよ」
レイちゃん......久川のことか。
「そちらこそ、よく久川さんと一緒にいる......すみません、お名前は」
「元気と書いて“もとき”と読む。私の名前は元気唯華。元気な唯華って覚えてね!」
あ、明るい......太陽の化身か何かか?
直射日光でも放ってるかのような輝きで今にも目が潰れそう。
「それでこんなところで何してるの? って、見りゃわかるか」
「その後に来そうな“なんで?”という質問に先に答えておくと心象アップのためです」
「......ぷ、アハハハ! それって自分で言うこと?
っていうか、言っちゃったらアップしないんじゃない?」
「なら、聞かなかったことに......」
「ざんね~ん。そのお願いは通りませーん。
ゲームでストーリー上一つしか手に入らない装備を誤って売ってしまったように、一度言ったことはもう取り戻せないんだよ?」
「何その例え。というか、それ経験談?」
なんかよくわからないけど、陽キャ女子に絡まれてる気がする。
そんなことを考えてると、元気さんはズイズイと近づいてきた。
そして、絶対距離感おかしいような顔の近さで言ってきた。
「ねぇ、暇だから話そうよ。掃除も手伝うからさ」
うん、やっぱこれ絡まれてるわ。
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