第6話 ミッション 仲良しイベント
「どうよ? 成果のほどは」
イジメグループが消えてから早くも休日。
その日は隼人にとあるカフェに来るよう呼び出されていて、着いてみれば現状報告するような言葉を投げかけてきた。
とりあえず、頑張ってる......とは言いたいが、コイツは未来の社長である。
つまり
くっ、今のところ何も成果がねぇ! 嘘つくか?
いや、コイツとも信頼関係を結ばなければ俺はコイツの匙加減で破滅の運命を迎える。
正直に言うのがベストか。
「今のところ、成果は見込めてません」
「ふ~ん、あっそ」
聞いてきた割にはすごくあっさりとした反応だった。
ビクビクとした様子で言ったこっちがバカみたいに。
つーか、今更ながら俺は精神年齢は35歳のわけで、自分よりも19歳も下の相手にビビってるのか。
自分ながらなんとも情けない......ハァ。
隼人はコップを手に持ってストローからアイスティーを飲んでいく。
その時も終始窓の外をぼんやりと眺めていた。
コップの氷がカランと音を立てる。
そのタイミングで俺のなんとも言えない顔をしていることに対しての返答をしてきた。
「言っておくが、別にこれで契約解除って話じゃねぇよ。
そんな短期で成果出せると思ってねぇ。
そもそもの話、ここまでのお前の評価は正直想定通りだ。だから、気にするな」
「それなら、それでいいが......」
「なんだ? 不安そうな顔してるじゃねぇか」
「お前とは契約関係者でまだ友達としての信頼関係を結べてねぇからな」
そう言うと隼人は「へぇ」とこっちを値踏みするような目で見てきた。
その目は少し不快だ。
「お前は俺のことを友達だと思ってんの?
今はこんなんだが元はお前の怨敵と言っても差し支えない存在だぜ?」
「わかってる。俺だってそんな簡単に割り切れるほど良い人間じゃない」
それどころか今だって憎んでいる。
今回は俺の動きによってコイツは傍観だったが、やり直す前の世界ではその後にコイツも平然と俺に暴力を加えてきた。
だが、俺がこの生をやり直している目的はお前らへの復讐なんて小さいものじゃない。
俺の家族が笑って過ごせるような、そして俺も笑って生きていけるような、そんな未来を目指している。
だから、俺はお前と友達関係を作る。
それは俺にとって目指す未来へ近づくためにその関係性でいた方が都合がいいから。
「だが、もう感情だけで左右されるような
利を取るのならそっちの方が俺に都合がいいからな。
お前にとってもそうのはずだろ?
なんせ契約だと貸し借りが発生するが友達だと制限なしだ」
もちろん、友達関係が俺の言った言葉ばかりじゃないだろう。半分は勢いのでまかせだ。
だが、これで俺が本気でお前と友達関係を作ろうとしていることは理解してくれただろ。
「ククク、ハハハハハ!」
急に隼人が悪役の親玉並みに笑い始めた。
そのことに周囲から視線が集まってくる。
うわぁ、なんか妙な視線が突き刺さってくる。
つーか、急にどうした? 壊れたか?
「やっぱりいいわ、今のお前。俺相手にそれだけ言ってくるその姿勢。いいぜ、友達になろうか」
「本当か?」
「ただし、その関係になる前に一つ見極めさせてくれ。その結果次第で判断する」
やはりそう来たか。コイツがこんな簡単に好感度上げてくれるようなチョロい奴なわけない。
「驚かないんだな」
「そんな気はしてたからな」
その言葉に隼人は「そうか」と答えてニヤッと笑うと、俺に課題を提示してきた。
「拓海、お前に出す課題は“俺を久川玲子に会わせろ”だ」
久川と......!?
「お前、久川のことが好きなのか?」
「そういうわけじゃない。だが、この学校に来てからアイツには“価値がある”と目をつけてたんだ。
だが、どうにも俺は久川に避けられてるっぽくてな。接点が持てればそれでいい」
価値がある、か。確かに久川は将来“常盤レド”という芸名で有名な女優になる。
そういう意味では目の付け所はさすが未来の社長というところか。
しかし、あの久川が避けるのか。
久川はあくまで男子とのかかわりが極端に少ないだけであって男子が苦手というわけじゃなかったはず。
「何か嫌われるようなことをしたのか?」
「まさか。俺が価値あるものを傷つけることは絶対ない。これは俺のポリシーだ」
隼人から嘘のような言葉は感じられない。
それに“価値がある”というだけでイジメグループから俺へ鞍替えするほどだ。
隼人の言ってることは本気のことなのだろう。
「期間は一週間だ。それでお前なりの成果を見せてみろ」
隼人は席を立つと「奢りだ」とテーブルに置いてあったレシート入れにあるレシートを手に取ると、一人カフェへと出ていった。
その姿を見ながら俺は脱力するように息を吐く。
そして、一人カフェラテを飲みながら穏やかな時間を過ごした。
隼人が朝早くから呼び出したために時刻はまだ正午を迎える前。
日差しも少しずつ強くなってきて、太ってる故の汗っかき体質の俺としては外にいることは太陽を嫌うドラキュラも同じ。
さっさと帰って勉強するか。後、筋トレ。
できるだけ日陰の多いルートを考えながら歩きだすと、すぐさま「早川君」と俺の名を呼ぶ声がした。
あれ? この声って......?
「久川さん......」
人が往来する通りでまるで太陽を味方につけたかのような輝きを放つ久川が、こっちに向かって駆け足で来るじゃないか。
通り抜ける彼女を漏れなくすれ違った男性達は目で追っていく。
あぁ、デート中の男性は可哀そうに。
「あっ!」
「あぶな―――っ!?」
厚底のサンダルで駆け寄ってきた久川は俺の目の前で躓き、そのままこっちに向かって倒れてくる。
咄嗟に受け止めようと動き出した俺は見事久川をキャッチ。
同時に柔らかい感触が思いっきり伝わってくる。こ、これは!?
「ご、ごめんなさい......」
「あ、いや、大丈夫......」
久川は咄嗟に胸を両手で覆うと、いつになく恥ずかしそうに頬を赤らめた。耳まで真っ赤だ。
な、ななな、なんということだ!? 俺は女優の卵の胸の感触を知ってしまった!?
久川が地面に倒れることが無かったのは喜ばしいが、俺があの久川の胸の感触とクーデレ顔を拝めんでしまった......って駄目だこれ以上の思考は完全にキモおじ思考だ。鎮まれ。
とはいえ、とんだラブコメハプニングに年甲斐もなく緩んだ顔つきになってしまっていると、周囲から凍てつく視線を感じた。
通行する男達からの嫉妬による殺意だ。
やばい、これ一人になったら突然“久川親衛隊だ! 咎人には天誅!”ってくる奴だ。
出来るだけ速やかにここを脱出するために久川の要件を聞こう。
「久川さんが無事そうで何よりだよ。それにしても、どうしたんだ? 俺の名前呼んでなかったか?」
「うん、呼んだわ」
「何か用があったの?」
「?」
久川が首を傾げる。それに合わせるように俺も首を傾げる。あれ? 何もなし?
「私は早川君を見かけたから声をかけただけ。ダメだった?」
ダメなわけないじゃない! なにその無邪気な行動! 可愛いが過ぎる!
おっと鎮まれ、鎮まるんだ俺。
俺が久川にしていいのは法被を着てペンライトを振り回すだけの萌えブタになることだ。
余計な感情は持つな。相手は未来の国宝ぞ。
俺は歪みそうな口元を必死に抑えながら返答していった。
「ダメじゃないよ。まぁ、びっくりはしたけど」
「早川君はこの後時間ある?」
「え、ないけど......」
「なら、私と一緒にショッピングモール行かない?」
......え? ええええぇぇぇええぇぇえええぇええぇぇぇぇぇ!?!?
俺が久川とデート.....だと!? 死ぬんじゃないか俺?
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