第5話 思わぬ俺得
俺による改造計画がスタートしてから3日が経過した。
いわゆる三日坊主という期間である。
習慣化するために意識して行動していたおかげか意外とすんなりクリアすることができた。
そして現在、俺は朝早くから学校に行って誰もいない教室の掃除をしている。
まるでいつか昔の漫画に出てくる学級委員長のような動きだが、これにもちゃんと打算があるのだ。
というのも、今の俺は虎の威を借りる狐状態。
もっとわかりやすく言えば、ド〇えもんにおけるジャ〇アンの威を借りるス〇夫状態だ。
え? 表現あまり変わってなくね?って。こっちの方が現代的でわかりやすいだろ。
ごほん、失礼。
理由を簡単に説明すると今の俺は恐怖されてるが、それは厳密に言えば俺ではないのだ。
クラスメイトが本当にビビってる相手は隼人の方である。
当たり前な話で、相手は一流大企業のご子息で(どうしてこんな高校にいるかわからんが)敵に回すと恐ろしい存在だ。
そして、隼人と仲良くしている俺はいわばアイツの小間使い。
もっと言えば、歩く地雷なのだ。
故に、イジメグループが消えた後のこの3日間俺は隼人以外としゃべっていない。久川は例外として。
隼人のおかげで俺の高校生活は最悪を逃れたとはいえ、このままじゃ灰色のままで終わってしまう。
俺だって男だぞ? せっかくこの年齢になったんだから夢がある!
それは当然バカ騒ぎできるような男友達を作って一緒にカラオケ行ったり、食いに行ったり、遊び出かけたりしたいだ!
え? 高校生活に戻れたのなら彼女を作ることじゃないかって?
馬鹿言うんじゃないよ、今の俺に一体どんな魅力があってモテると思ってるんだ?
腹の肉で制服が膨らんでるんだぞ?
皮下脂肪が肥大した妖怪みたいな感じなんだぞ?
つまるところそれは高望みというやつだ。
人間、決められたレールがあるわけじゃないが、辿っていい道は決まってるものだ。
ましてや、俺の精神年齢はおっさんだぞ? それもキモおじ。
いいか? 今の俺が恋愛をするということはキモおじが制服着てJKとキャッキャウフフしてるということだ。
正直、見るに堪えん。
あれはフィクションであるからこそ許されることであって、今の俺がそれをしてしまえば合法的な犯罪となる。極刑ものだ。
おっと、話が逸れてしまったな。すまん、すまん。
ともかく、俺のイメージが隼人ありきなものだとすれば、どうにかして俺個人として見てもらえるような環境やら状況やらを作らねばならん。
とはいえ、俺がいきなりこれ見よがしにいい子ちゃんぶった行動をすれば、今度は何を企んでいるのかと勘繰られる可能性が高い。
そこでまずは影からこっそり信用を得るような行動をする。
日本には偉大な言葉があって“壁に耳あり障子に目あり”と自分がバレないと思っても必ずどこかで誰かが見たり聞いたりしているものだ。
それを逆手にとれば、俺も単純ないい奴として捉えられて友達もできるんじゃないかって寸法よ。
もっとも、それがいつどこで気づくかは全くもって未知数で最悪ずっとバレない可能性もあるが......まぁその時はしょうがないことにしよう。
そして、その日の朝の掃除は無事に誰にも見つからなかった。
―――休み時間
3限目の休み時間、隼人に勉強を教わろうと思っていたが、俺はクラスでの役割について忘れていた。
いわゆる委員会というやつである。
それを教卓に積まれたノートを見て思い出した。
「俺......学級委員じゃん」
そういえば、そうだった。忘れてたけど。
ちなみに、言っておくが好きでなったわけじゃない。
委員会を決めるのが4月で学校生活がスタートして少ししたタイミングなのだが、その頃には俺はすでにイジメにあっていた。
というのも、俺がイジメグループに目をつけられたのはなんと入学前の3月だ。
たまたま欲しいフィギュアを買った帰りに何か苛立ったアイツらにストレス解消ついでにカツアゲされた。
ちなみに、その時は隼人はいなかったが。
気分は天国から地獄そのものよ。
買ったばかりのフィギュアも壊されたし。
そのくせ地獄は続いてまさかの入学した学校が同じでクラスも同じ。
これほど絶望感と学校生活の終わりを感じたことはなかったね。
今時流行らない暴力系ヒロインに毎日殴られる方がよっぽどマシだと思ったよ。
ともかく、アイツらのおもちゃとなった俺は遊び半分で学級委員に仕立て上げられた。
アイツら無駄に外面は良かったから担任も気づかなかったのが悲しかったけど。
そんなわけでアイツらがどうして俺を学級委員にしたのかはわからないまま、変に役割だけが残ってしまったわけだ。
「ふぅー、運ぶか」
弱音は吐かない。めんどくさいとは思わない。
この状況だけでもかなりの幸運だ。
あの頃に比べればこれぐらいなんともない。
学級委員といっても、基本的に先生のパシリのような感じで一度目の学校生活を思い出しても、何気にノートやら荷物やらの運ぶことが多かった気がする。あ、もしかしてそういうこと?
俺が教卓にあるノートを抱えると瞬間に両腕に電流が走った。き、筋肉痛が!?
しかし、ノートを落とすわけにはいかない。
ここで落とせば皆から白い目で見られる。
今の俺は一挙一動が監視されてると思え!
変なことで嫌われたくない!
俺は痛みを堪えながら教室を出て廊下を歩いていく。
廊下の端を歩く生徒達が俺を見ている......と思いきや、その視線は俺の背後。
しかし、見てる余裕がないので気になりつつも無視して歩いていれば、原因が声をかけてきた。
「早川君、手伝うわ」
「え?」
ひ、久川!? ななな、なんで久川が俺に声を!?
いや、それ自体には前にもあったけど、久川って男子にほとんど声をかけないんじゃ......?
「大丈夫、これぐらい。俺、今体鍛えてるからちょうどいい負荷なんだ」
「え?」
俺がそう返答すると久川は驚いたような顔をする。
といっても、わずかに目が開いただけだけど。
しかし、彼女はすぐに俺からノートの一部を抜き取ると「科学準備室よね」と一緒に歩き始めた。
久川はとても目を引く。
そのせいか今俺に容赦ない悪意の視線が突き刺さってる。うっ、この視線は慣れないな。
対して、久川も結構な視線を集めてる割に全然気にしてない......スゲェ。
「早川君、もう一人の学級委員って確か西藤さんよね?」
この学校ではクラスに男女の学級委員を選出する。
故に、学級委員の仕事は基本的に相方と協力するのだが、俺がこんなんであるために避けているのだ。
「うん、そうだけど......それがどうかした?」
「私、代わってもらった」
「......へ?」
代わってもらった? ってことは、つまり相方は西藤から久川にチェンジしたってこと!?
やべ、驚きのあまり小泉構文になってしまった。
それはなんというか......久川と関わる時間が増えるということで、彼女とも仲良くなれるのなら俺得でしかないが......一体どうして?
「なんで急に? つーか、色々言われたでしょ?」
「えぇ、言われたわ。わざわざそんな雑用引き受けなくたっていいだったり、キモブタになにされるかわかんないよだったり、トラウマ抱えることになっちゃうだったり」
「な、なるほど......」
今の俺の立ち位置がよく分かった。なるほど、そこら変なのね。
正直、めっちゃ泣きそうだけど、生の意見はありがたい。
やはり信用を得る行動しなければいけないということがわかったから。
「だから、言ってやったわ。あなた達が早川君の何を知ってるのかって」
「え?」
その言葉に見上げて久川の顔を見ればなぜかどこか誇らしげな感じであった。
そう感じてるだけかもしれないが。
「それは久川.....さんの印象が悪くなるんじゃ......」
「それぐらいで悪くなるのなら私は悪くていい。言ったはず、私は早川君の味方だって」
か、カッコいい......! カッコ可愛いとか最強か? この久川玲子って奴は。
「ありがとう。助かるよ」
「よかった」
俺は素直にお礼を返すとこの繋がりを大切にしようと思った。
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