第3話 契約成立

 一週間後、俺の教室にはかつてイジメていた最悪な連中達の姿は見る影もない。

 別に俺が何かしたわけじゃない。

 つーか、俺としても何が何だかサッパリ。

 とりあえず、ありのままを話すとこんな感じであった。


―――一週間前


 俺はあのイジメグループの連中にパシリのような指示を出されても頑としてNoと言い続けた。

 すると、奴らは今まで従順だった俺が急に反抗的になったように映って苛立ち、放課後に俺を呼び出すとフルボッコ。


 俺としては行かない選択しもあったが、行かなければ家族に何されるかわかったもんじゃない。

 それぐらいしそうな連中だった。

 それに俺としても逃げたくなかった。


 これまでは逆らえずに呼び出された場所に向かってたが、今の俺は徹底して強気で立ち向かい抵抗した。


 そんな日々が3日ぐらい経った日のことだ。

 暴力こそ加えないがいつも傍観しながらつまらなそうにスマホを弄ってるだけの金城が声をかけてきたのだ。


 ちなみに、この金城とは未来で常盤レドこと久川玲子との結婚報道が流れた金城隼人その人である。

 そういえば、こいつは季節変わってもずっと頭にニット帽被ってる変な奴だったな。


 なぜこんな奴が久川ととは思ったけど、結局世の中美男美女の考えてることなどわからん。

 そして、この時の金城の行動も同じようにわからなかった。


 金城はボロボロの俺を見ては俺を無理やり立たせると校舎裏へと連れてった。

 金城がいつもいたイジメグループの連中の姿はない。

 何か言って帰らせたみたいだった。


 俺は校舎に背をつけるよう座っていた。

 体中痛くて立ってられなかったから。

 すると、金城は俺に目線を合わせるようにしゃがむとこんなことを言ってきたのだ。


「お前、本当にあの早川か?」


 その言葉に俺はドキリとした。

 まさか俺が意味不明のタイムリープ? してきたことに勘づいたのかと。

 しかし、そこまでは気づいてないようで、というか聞いといて興味なさそうに「まぁいい」とつぶやくと話を続けた。


「今のお前いいな! ハッキリと目に強い意志を感じる。俺が投資する価値がある」


「???」


 何を言ってるのかサッパリだ。

 そんな顔をするとそれに気づいたように金城は立ち上がると大きく両手を広げて答えた。


「俺はな、価値ある人間が好きなんだ。

 どいつもこいつも底辺で弱いくせに弱いものいじめをする。

 そんな奴らに当然価値はなく、お前も無論ない......はずだった」


 金城は再びしゃがむと俺の目を覗き込む。

 その目に吸い寄せられるように目が合った。


「いや、なかった。これまでのお前はお前をイジメる奴らがゴミだめのドブネズミだとすれば、お前はゴミそのものだった。

 だが、それが3日前のあの日にまるで人が入れ替わったように強い目をしていた。

 最初は気のせいだと思ったが、3日経とうが心が折れずに立ち向かう。

 その瞬間、俺はお前の中に価値を見た」


 なんだか散々な物言いだが、これは俺のことを評価してるってことでいいのか?

 しかし、こんな急な手のひら返し。

 なんだか胡散臭い気がしてならない。


「......何が目的だ?」


「言っただろ? お前への投資だ。厳密に言えばお前の価値への投資をすることで未来の俺への投資になる」


「つまり俺を利用するってことか」


「極端に言えばそうなる。だが、逆を言えばお前が俺に価値を見出し続ければ俺はお前のスポンサーであり続ける。

 お前も俺を利用できるんだ。悪い話じゃないだろ?」


 とんでもない話だが確かに悪い話じゃない。

 俺がこいつのどんな琴線に触れたのかはわからないが、俺の最悪な高校生活を望むものへと変えるには金城ほどの影響力のある人物は必要不可欠。


 意識を変えろ。

 俺が見据えるべきは未来の自分の姿。

 感情的に返答してはいけない。

 自分が変わっていくために必要な選択をしろ。


「わかった。金城、契約する」


「契約か、良い言葉だ。これから俺のことは隼人でいい。俺もお前のことは拓海と呼ばせてもらう」


 金城もとい隼人は俺の手を掴むと引っ張り起こす。

 そして、突然どこかへ電話すると何かを伝え、電話を切った後にこういった。


「サービスだ。場は整えてやる」


―――現在


 イジメグループの暴力を耐え続けて休日明けの現在、俺の教室からはそいつらの姿はない。

 そして、朝のホームルームでは担任の先生がそのイジメグループが急に転校することを伝えてきた。


 そのことにクラスメイトは当然ザワつく。

 そいつらとよく話していたギャルグループも困惑の顔を浮かべている。

 誰もが一気に複数人が転校したことに様々な憶測を立て一斉に俺を見てきた。


 かかわりがもっとも深いから当然だろう。

 その目はこれまでの俺を哀れに見てた目から恐怖する目に変わってるが。

 ただ一人、俺の席より後ろにいる隼人に目を向けてみればアイツはニヤッとした顔をした。


―――昼休み


「おい、これどうすんだよ! この空気!」


「あ? 何が?」


 周囲の視線に耐え兼ねなくなった俺は隼人を連れ出して校舎外にある東屋へ。

 昼食も兼ねて何をしたか問いただすことにした。


「隼人、お前何したんだ?」


「何ってアイツらの両親に圧力かけてこの街にいられなくしただけさ」


「いられなくしただけさ......じゃねぇよ! 誰が、そんなことしろって言ったよ!?」


「だが、おかげで環境は整っただろ?

 アイツらがいる限りお前の価値は上がらない。

 加えて、周りはお前を底辺だと見下すばかり。

 しかし、俺のおかげでお前は価値を悠々と上げることができ、周りもお前にへんなちょっかいを出さなくなる」


「確かに、そういう意味では助かったかもしれない。けど、お前はいるだろ?」


「そりゃいるだろ。お前ごときに俺のメンツを潰せるかよ」


 確かに金城コーポレーションは食品から生活物資、車に至るまで様々な分野に手を伸ばしている大企業だからな。

 つーか、今更ながら俺イジメグループよりもやべぇ奴と関わってね?


「これからお前は俺とより関わっていくわけだが、俺でも手を貸さない時はあるからそん時はよろしく」


 そう言って、意外と庶民的な弁当のおかずをパクッと食べていく。

 見た目もパーカーの上に制服着てるだけでそこまで御曹司のオラオラした雰囲気がないのが不思議なんだよな。


「それって例えばどんな時?」


 そう聞くと隼人はニヤッと笑みを浮かべて答えた。


「面白くなりそうだなって思った時」


「......」


「おいおい、そんな嫌そうな顔するなよ。お前が本当に困ってたら助けてやる」


「ほんとかなぁ......」


 疑わしい言葉だが、今の俺には隼人しか頼る手立てがない。

 コイツがやったことはともかく俺にとって過ごしやすい環境になったのは確かだ。

 後は俺がコイツに見限られないように頑張るだけ。


「ちなみに、俺はどうやってお前に価値を証明し続ければいいんだ?」


「さぁ? それぐらい自分で考えろ」


 隼人は弁当を食べ終わったのか立ち上がると去り際に言った。


「ま、強いて言うなら俺はそれが何であれ前向いてあがき続けてる奴を評価するだけだ」


 隼人はその場を去っていく。

 恐らく教室に戻っていったのだろう。

 そんな奴の姿が小さくなるまで見届けるとデカい弁当箱を黙々と食べていく。

 こんなのを毎日平げてたのかそりゃ太るわ。

 明日から減らしてもらおう。


「あ、あの......」


「ん?」


 誰かが目の前に立ったようでローファーが見える。

 スラーッと長い足を見ながら顔を上げてみれば、制服は女子生徒のもので顔を見ればなぜか久川が目の前にいた。


 そのことに思わず思考が固まる。

 どうして久川が目の前に。つーか、相変わらずめっちゃ美人。

 そんな俺に久川は少し緊張した様子で聞いた。


「今、少し時間ある?」

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