呪いの幽霊 4



そして迎えた夜。

小さな倉庫の中では、昨日とは別の女官が易(イー)先生と向かいあって座っていた。


「昨日とは別の方ですね?」

「仕えている主は同じですから。同じことです」

「ふふ、そうですね」



「一日経ちましたが、『して欲しいこと』は決まりましたか?」

「ええ」


「『幽霊』の正体を、占ってほしいのです」

「分かりました」


だったら、いつものように「占い」をするだけだ。雪英(シュウイン)は蝋燭の火にそれっぽく手をかざした。


(求められているのは、『世にも恐ろしい幽霊』だろうな)




「『幽霊』の正体……きっと恐ろしいものでしょう。人ならざるもののようですし、呪いの力というのも確かにある、と占いでは出ています」

「はい」


「そして、どうして紅梅宮の周りに出現するかですよね。貴方に心当たりは?」

「…李妃様に執着しているのではと私は感じます」

「んん……、貴方は勘が冴えていますね。占い向いてますよ」

「そ、そうですか」


「ふふ。李妃様は南方からいらっしゃる前に、余計なものを憑けてきてしまったようです。李妃様お綺麗ですからね」

「……ええ」

「体調を崩された李妃様の精力を吸いとって、今はこのように姿を見せているのでしょう」


「では、李妃様の体調が戻ったら『幽霊』も消えますか?」

「はい。元々力の弱い幽霊のようですから、もう二度と現れないでしょうね」

「分かりました。…以上でしょうか」


(え?)



「そうですが、他に聞いておきたいことがございましたか?」

「いいえ」



「ありがとうございました。こちらが、李妃様からの謝礼です」

(こ、これは…!)

李妃からの謝礼は想像よりもずっと豪華で、南方の珍しい菓子から、宦官受けも良さそうな海産物の珍味まで、カゴの中に盛り沢山に詰め込まれていた。流石は后妃、太っ腹である。


「こんなに良いんですか?」

「ええ、李妃様のお気持ちですから」

これだけで今日の苦労は全て報われた、雪英はそう思った。


(でも、まだ行ける)



何度も言うが、彼女はがめついのだ。


(これは、行くべき…)


相手が「出す」人間だと分かっていて、引くわけがない。

雪英は、今度は「商売」を始めた。


「こんなに頂いたので、サービスしましょう」

「え?」




———————————————



「もう少し、『幽霊』について占って差し上げます」

再度蝋燭に手をかざしながら、雪英は言う。


「貴方も『え?これで終わり?』と思っていたでしょう?すみません、こんなに頂けるとは思っていなかったもので」

「…ふふ」女官は静かに微笑む。



「しかしその前に、貴方は李妃様とかなり近い女官ではないですか?」

「え、ええ」

「筆頭侍女とか?」

「当たっています…」

「それは良かった」


「李妃様とは旧知の仲で?」

「ええ。同郷の一歳違いなので、小さな頃から。ですから急遽決まった召し入れですが、李妃様は私を呼んでくださいました」

「そうでしたか」


「いきなり後宮に召されるなんて、不安でしょうからね」

「そうですね」

「皇帝も居ないですからね。不穏な中で、よくいらっしゃいました」



相手は筆頭侍女、相手にとって不足はなし。

雪英は気合いを入れ直した。

彼女を突き動かすのは、いつだって金(かね)への情熱である。



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