呪いの幽霊 2
「ねぇ依玲(イーリン)、李妃(りひ)の噂って知ってる?」
「もちろん」
朝餉を食べながら、柳雪英(リュウシュウイン)は同じく女官である依玲から噂話を聞いていた。
依玲はかなりのゴシップ好きで、雪英のインチキ占い業を支えているのは彼女だ。彼女から横流しされるゴシップが無ければ、雪英は「易(イー)先生」をここまで上手くやれていなかっただろう。
「紅梅宮(こうばいきゅう)の周りに『幽霊』が出るって話でしょ?」
「そうそう」
「『幽霊』って怖いのかな…?」
「ははは!雪英って意外と怖がり?」
「…いや」
「誤魔化さなくても良いって!」依玲はおかしそうに笑う。
「『幽霊』を見たって話は毎日のように聞くけど、何かされたって話は全然聞かないよ。きっと大丈夫じゃない?」
「…依玲、面白がってるでしょ」
「全然!」
「……だってその、『呪い殺されたり』…とか」
「ははは!雪英怖がりすぎだって!そんな話誰から聞いたの?」
(…?依玲も知らないのか)
「い、いや…想像…」
「ははははは!」
以後、雪英は依玲に『幽霊』についていじられながら朝食を食べる羽目になった。
「じゃ、私は今日も仕事だからお先に」
「一緒に片付けとく。頑張って」
「ありがと!」
そう言って、依玲は部屋を出てく。
その後雪英は後宮内を歩いては、暇そうな女官に『幽霊』について話を聞いたが、『呪い』について知っている者は居なかった。
(…どういうことだ?)
———————————————
昼飯を簡単に済まし、雪英は後宮内をふらついていた。
「あー!雪英、こんなところに居た!!」
声のした方を向くと、依玲がばたばたと走ってきた。
「依玲、どうしたの?」
「休暇中にごめんね。出納帳に不備があって…」
「……分かった。すぐ行く」
(今日は散々だ…)
仕事場に向かうと雪英たちの上司が待っており、昨日雪英が作成した出納帳が机の上に広げられていた。
雪英の担当は、各宮の食費である。
「どこ?」
「えーと、紅梅宮なんだけど」
(……紅梅宮)李妃の住む宮だ。
「李妃の食費のこと?」
体調を崩したせいで、李妃の食費は前期に比べてがくんと落ちていた。食べなくてもお金だけは貰っとけばいいのに、と金にがめつい雪英は思ったものだ。
「ううん、申告された女官の人数が一人分多いみたいなんだよね」
「え?」
「ほら、こっちが中央で管理してるやつ」
「……本当だ」
後宮において、各后妃の食事はそれぞれのお付きの女官が作っている。しかしその女官たちの食事については、他の一般女官たちと同様、食堂でまとめて作ったのちに各宮に運ばれるのだ。
よって、各宮は事前に女官の数を申告している。
「あれ?でも貰った申請書には、その通り書いてたと思うんだけど」
雪英は自分の机の上を探し、一枚の紙を持ってくる。
紙には、雪英が記入した通りの人数が書かれていた。
「ええと…これは?」
「…虚偽申告、かな?」
上司は苦い顔をしている。
「……揉み消します?」
「一旦、…今期は李妃の減少分で帳尻を合わせなさい」
「はい」
雪英は速攻で新しい出納帳を書き上げ、「雪英が書き損じた出納帳」はすぐに焼却処分された
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