第10話 私自身の望み

猫カフェに来てその場所で絵を描くのが好きだという。

これは鳴の話だ。

それから動物園とかそういうのも好きらしい。

生き物とか描くのが好きらしいのだ。

俺は何だか、可愛らしいな、と思える。


そんな言葉を受けてから、動物園とか植物園とか行くのも良いんじゃないか、と思っってしまったのだが。

うむ。これでは完璧な彼氏では?、と思うのだが。

考えながら俺は赤くなりながら猫に触れる。

猫は目を細めながらゴロゴロと気持ち良さそうに俺を見ていた。


「.....しかしまぁ.....」


横の猫に囲まれて座っている鳴を見る。

スケッチをしながら真剣な眼差しであった。

そんな姿を見ている俺の目の前の席に姫路さんがやって来る。

そして俺を対面に腰掛けて肘を乗せて頬杖をつき.....ニコニコしながら見つめる。


「今ならあの子は真剣で聞こえないから聞きたいんだけど」


「.....は、はい?」


「ね。実際はどうなの?好きなの?.....あの子」


「いや.....!?」


大人っぽい色気がある。

若い方だとは思うんだけど.....だ。

俺はその感じにドキドキしながら姫路さんを見る。

そして鳴を見る。


「.....俺は.....そういうの分からないです。.....俺自身はそういうの興味は今は無いので.....それに昔、失恋しているんです俺」


「.....ああ。そうなのね。.....私も失恋したけどキツイよね」


「.....そうですね。.....だから俺は暫く恋をしないつもりです」


「.....そうね。.....成程」


でももし付き合ったらお似合いだと思うけどなぁ、と俺に向いてくる姫路さん。

俺はその言葉に、アイツとは釣り合わないです、と答える。

釣り合わないっていうのは?、と聞いてくる姫路さん。

それからメモを取り始める。

何でや。


「.....な、何でメモを取るんですか?」


「.....うん。私としては何かしらお互いを知ってくっ付いてほしいから。君達に」


「は!?」


「.....君達が幸せな姿を見たいからね」


「.....成程ですね.....」


何かインタビューされている気分だ。

思いながら俺は姫路さんを見る。

すると猫が机に乗ってくる。

俺はその姿を見ながら居ると姫路さんはその猫を撫で始めた。

それから、私は釣り合うとかそんなの関係ないって思うよ、と語る。


「私の場合もそうだったけど。私の付き合った人は高学歴だった。.....まあ失恋したから何も言えないけど。.....でも君達なら話が別だと思う。付き合えるよ。きっと」


「.....そうですかね?」


「.....後は多分.....君の背中を誰かが押してくれれば良いんだろうけど」


「.....」


俺は考える。

そして目の前のジッと俺を見る猫を見る。

猫は目線も全くずらさず俺を見ている。

何か.....俺に納得感を与える様な。


「.....頑張ってみます」


「.....そうだね。それこそだよ」


「.....それはそうと話が変わるんですけど」


「.....何?」


「.....アイツは.....この場に来て和んでますか?」


その言葉が何を指すかは分からないけど。

でもあの子は.....本当に嬉しそうに絵を描くよ、と笑みを浮かべて言ってくる。

俺はその姿に複雑な思いを抱く。

そして、アイツは実は飼い犬を亡くしています、と言葉を発した。


「え.....?」


「.....交通事故でアイツをリードを引っ張って守ったんですけど.....代わりに轢かれて死にました。.....トラックだったんですけど」


「.....そうだったんだね」


「.....だからこういう場所に来るのが.....アイツにとって良いのか分からない。それから何を考えているかも分からないです」


「そうなんだね」


「.....はい」


何か心残り。

名残りがあるんだろうね、と答える姫路さん。

そして俺を真剣な顔で見てくる。

私としては.....きっと慣れる為だと思う、と答える。

動物に、だよ、と言った。


「.....つまり?」


「耐久性.....身体を慣れさせているんだろう。そして安堵を探している。きっとね」


「.....ああ.....成程です」


「ペットロスから救われるには結局、心の支えに何かをするのが良いんだろうけど。あの子には絵が良かったんだろうね」


「.....」


俺はその言葉を受けながら俺は横でまだスケッチをしている鳴を見る。

鳴は俺達の言葉をまるで聞いてない様だ。

真剣にデッサンしている。

動物を.....愛している、か。

成程な。


「私はそういう事なので.....やっぱり君とあの子がくっ付いてほしいかな」


「.....無理矢理のゴリ押しですね」


「.....何となく察してはいたけどね。.....何か飼っているものを失った様な顔だったからね」


「.....」


するとお客さんが入って来た。

その事に姫路さんは、また後で、と手を振って去って行く。

俺は姿を見送ってから居ると。

スマホが震えた。

開けてみるとそこに昼食と一緒に写っている夢が。


(楽しんでいる?)


とそう文章が添えられている。

俺はその写真を見ながら、ああ。楽しいよ、と答える。

すると、出来た!、と声がした。

俺は顔を上げると。


「見て見て!」


と目を子供の様にスケッチブックを見せてくる。

そこには三毛猫の姿があった。

寝ている.....三毛猫。

俺はその姿を見ながら鳴を見る。


「.....良いじゃないの。鳴」


「有難う。志布」


「.....」


「.....どうしたの?」


「.....いや。.....何でもない。その。昔の.....件とかを話していたんだ。姫路さんと」


「.....ああ。そうなんだね」


鳴は柔和になりながら俺を見てくる。

その姿を見ながら俺は複雑な顔をしていたが。

鳴が、大丈夫だよ、と言いながら俺に向いてくる。

そして俺の手を握る。


「.....乗り越えられない痛みだけど。.....でも貴方が居るから乗り越えられるんだよ」


「!」


「.....だからずっと側に居てね。幼馴染としてとかで」


鳴は優しげに微笑む。

ドキッとする言葉ばっかりで表情だが。

鳴はこれでもかなり真剣なんだろう。


考えながら俺は鳴を見た。

全く、とは思う。

だけどまあ.....これが俺達だしな。

そう考える。

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