(3) 坂本光代

 警察に連絡したのはちょうど時刻が十二時を回ったあたりだった。それはまるで卵を地面に叩きつけたような有り様だった。

 雨上がりのまだ湿っているアスファルトに広がっていたのは、水たまりなんかじゃなくて血の海だった。寺院の地図記号のような格好で地面に横たわっていた少女は、まつげの長いその大きな目を開いたまま左頬を血に浸していた。海上を渡る小舟をまじまじと観察している海坊主みたいに。

 幸い、近くに自分以外の住人はいなかった。建物の方を振り返ってみても、ベランダから顔を覗かせているような人はいない。坂本光代さかもとみつよは十メートルほど建物から距離をとり、七階建マンションの上層階を見上げた。その場からベランダの奥にある掃き出し窓が目視できたのはせいぜい三階の部屋までだった。

 遠くからうっすらとパトカーのサイレンの音が近づいてくるのがわかる。連絡してまだ二分と経っていなかった。ジーンズのポケットの中でスマホが震え、光代は電話に出た。荷物は車に積んでおいたのであとは頼みます、と言うその声に彼女は「そっちはどう、ほんとに大丈夫なの?」と尋ねた。

「大丈夫ですよ、ちゃんと手は打っておきましたから。それに目についたものは全部移動させておきましたし、いちおう部屋もそれっぽくしておいたので。抜かりはないかと」

「そう、わかった。じゃあこっちも手があき次第、すぐ捨てに行ってくるから」

「わかりました。ほんと面倒かけてすみません」

「いいのよ。私にはこれくらいしかしてあげられないんだから」、光代がそう言った頃に一台のパトカーがマンションの敷地内に入ってきた。部屋の中で過ごしていた住人の耳にもようやくサイレンの音が届いたのか、ぽつぽつとあちこちからベランダの窓が開く音がしだした。「ごめん。ちょうどいま警察がきたところだから電話切るね。車のキーはドアポストの中にでも入れておいて」

 了解、と返事が聞こえ、ほどなくして通話が切れた。

 光代はスマホをジーンズのポケットにしまい、血の海に浮かぶ少女に近づいた。辺りを見渡し、何かこの悲惨な光景の目隠しになるようなものはないかと点検する。するとその最中に、はっと息を呑むような声が頭上で聞こえた。見上げると、ベランダから顔を出した住人の何人かがみんな同じように狼狽えた顔つきでこちらを見下ろしていた。そりゃそうだ。誰が見ても一目で人が死んでいるとわかる。数分前の光代がそれと全く同じ顔をしていた。でもこの状況はまるで私がこの女の子を殺害したようにも見えなくもないような気がして、そう考え始めると途端に気持ちが落ち着かなくなった。

 光代は結局死体を隠すことを諦め、近づいてくるパトカーに向かって大ぶりに手を振った。ここです、ここ。みなさん、警察を呼んだのは私なんです。私はただこの悲惨な現場に居合わせただけの第一発見者なんです、とベランダから顔を出す住人たちに無罪であることを必死にアピールするように。

 騒がしいサイレンの音が止まり、白黒の車は植木の近くで停車した。ルーフの上でぐるぐると回る赤いランプは、まだ異常事態であることを周囲に知らせるように光を放ち続けていた。すると今度はまた違うサイレンの音が遠くから聞こえてきた。

 パトカーの中から出てきた二人の警官のうち、片方の若い青年は無線機を使って誰かとやりとりしながら周辺の状況を確認していた。もう片方の中肉中背の男はのらりくらりと光代のもとに近寄ってきた。

「あらら、こりゃひどいな」とその中年男は地面に横たわる血まみれの少女を見下ろして言った。「どうも、六本松ろっぽんまつといいます。あなたが連絡をくれた坂本さんですか」、顔を上げた彼は胸元から取り出した警察手帳を開いてみせた。手帳には『警視正』という肩書きが記されていたが、それがどれくらいの立場に位置しているのかなんて光代には見当もつかなかった。男の頭頂部には明らかに禿げの兆候が現れていた。明らかに偉い人の貫禄があった。

 やがて救急車がマンションの敷地内に到着し、血の海に溺れている少女のすぐ横に車をつけた。中から出てきたのは水色の感染防止服で全身を包んだ救急隊員が三人。運転席に残っていた隊員は彼らが車から降りたことを確認すると、すぐさまハンドルを回してその場で方向転換をおこなった。

 それからしばらくして少女の近くにいた隊員の一人が持ち場を離れて六本松に近づき、二人でこそこそと話をし始めた。光代は素知らぬ顔でそのやりとりに聞き耳をたてた。ケンシがどうこうとか聞こえてきたから、おそらくはもう少女の死亡が正式に確認されたのだろう。血まみれの少女はいつの間にかブルーシートに覆われ、そのうち救急車でどこかへ運ばれた。

 気付けば現場は複数台のパトカーに囲まれていた。きっと無線機を使っていた若い警官が呼び出したのだろう。警官の何人かは、あたり一帯に群がり始めていた野次馬たちを現場に近寄らせないように、ドラマでしか見たことがない黄色と黒の規制テープを植木やパトカーのサイドミラーに張り巡らせてガードしていた。

「じゃあ私はこれから現場検証やらなんやらをせんといかんので。あとの若いもんたちにも同じように話してやってください」、一通り事情聴取が終わったあとで六本松はそう言って光代に軽く頭を下げ、足早にマンションのエントランスの方へと消えていった。

 すると今度は彼の言った通り、まるでアイドルの握手会でもしているかのように代わり番こにやってくる警官の一人一人に、光代は毎回さっきと同じように発見時の状況について説明しなければならなかった。面倒ではあったが、光代はできるだけ簡潔に、そして前の警官に説明したものと証言が食い違わないように気を付けながら、ことの顛末を語った。ドサッという鈍い物音が聞こえてベランダに出てみると、女の子が血を流しながら地面に倒れていた、と。それ以上でもそれ以下でもない。変に話し過ぎてしまうと事態がおかしな方向へねじ曲がってしまいそうな気がして、光代は一貫して警官の質問に首を振り続けた。

 何か変わった様子はありませんでしたか?

 近くに怪しい動きをする人はいませんでしたか?

 倒れていた女の子のことは以前から知っていましたか?

 一切嘘はついていない。事実、光代はあの女の子がどこの誰なのかなんて全く覚えがなかった。

 光代が無事に解放されたのは、警察がこの場に到着しておよそ二時間が経った頃だった。最後に念のため電話番号や住んでいる部屋番号などを控えられたが、その警官曰く、あらためて署に呼び出されるようなことはおそらくないでしょう、とのことだった。どう見たって事故か自殺にしか思えない。身体に刃物の刺し傷があるようには見えなかったし、後頭部を鈍器で殴られたような痕もなかった。もちろんそれはあくまで素人の見解でしかないのだが。

 それでもなお警察がこれを事件と言い出すのなら、もはや光代の手に負える話ではなかった。第一発見者としてのやるべきことは全部やった。あとはことの成り行きがテレビやラジオで報道されるのを聞くしかない。光代は事情聴取から解放されたあとも数分ほどはマンションに住んでいる野次馬たちに捕まり、警官に説明したことをそのまま機械的に話してからようやく自分の部屋にたどり着いた。

 どうやら無意識のうちにずいぶんと神経をすり減らしていたらしい。家の中に入って何とはなしにひとつため息をつくと、それを皮切りに全身から一気に力が抜けていく感覚があった。光代は靴を履いたまま玄関扉を背にしてその場にへたり込んでしまった。その際にドアポストの出っ張りが勢いよく腰とぶつかり、「痛っ」と反射的に漏れた声から数秒遅れて、ようやく実際に骨を削るような激痛が腰回りを駆け抜けた。ここ最近は特に老いがひどくなっているような気がして、光代は若干の焦りを感じ始めていた。自然治癒力なんてもうあてにならない。きっとこの内出血の痕も二週間は消えないんだろうな、と光代は思った。

 いつまでも若々しくいたいと願うのは、人として、女として当たり前のことだと光代は認識していた。しかしそれは願えば叶うような代物ではなく、上りのエスカレーターから階下を見下ろしているみたいに、何もしていなくても少しずつ、でも確実にそれは遠くへ離れていった。時折それに近づこうしてみても、またすぐに波打ち際のように元の位置へ押し返されてしまう。だから結局はいつになっても若返ることはない。でも、そんなことはずっとわかっていた。

 先月、光代は四十二歳の誕生日を迎えていた。思い出すだけでもイライラする。夫はケーキのひとつも買ってきてくれやしなかった。自分で自分の誕生日ケーキを予約することほど惨めなことが他にあるだろうか。どうして聞かれてもいないのに、わざわざ冒頭で「誕生日ケーキを予約したいんですけど」と嘘をつかなくちゃいけないのか。三十代の折り返しに差し掛かったあたりから、夫からの愛情は一切感じられなくなっていた。

 光代は呼吸を整えてから立ち上がり、ドアポストを開けて中に入っていた車のキーを取り出した。それから靴を脱ぎ、廊下左手の脱衣所に向かった。

 あらかじめ水を張っていたスロップシンクには、二年前に夫から買ってもらった誕生日プレゼントが浮かんでいた。どうやら光代が外にいる間にある程度の汚れは取れていたようだが、どうしても幾つかのシミは点々と残っていた。使わなくなった歯ブラシや指先でいくら擦ってみても取れそうにない。光代は途中で諦め、付着した水滴をタオルで拭き取ったのちにそれをキッチンまで持っていき、何の躊躇いもなく燃える用ゴミ箱の中へ押し込んだ。手元に置いておいても仕方ない。だいたいそれを見つけるまでは、その存在自体をすっかり忘れていたのだ。買ってもらった直後に二、三度使ったあと、それをどこかへ置き忘れてきたという記憶だけはかすかに残っていた。

 光代は冷蔵庫の中を点検し、卵を切らしていたことに気付いた。今日の献立は何にしようか、とそんなことをふと考えながらもその傍では、どうせ何を作っても美味しいとは言ってくれないんだから何でもいいじゃないか、と勝手に一人で苛立っている自分がいた。じゃあ今日はいっそのことスーパーで弁当でも買ってくるか。うん、それがいい。いずれにしろ次に私が家に帰り着く頃にはきっと日も暮れているはずだ。そんな時間帯から料理なんて面倒くさくて仕方がない。当たり前のように「飯、まだか?」なんて急かしてくる薄情な夫のために作る料理なんて、なおのことだった。

 光代は麦茶を一杯飲み、使ったコップをそのままシンクに置いた。食器はある程度溜まってから一度に洗うタイプだった。それから彼女は動きやすい格好に着替え、脱いだばかりの服一式と財布と車のキーを白い手提げバッグにまとめてから家を出た。光代は足早にエントランスを抜け、ベランダ側の裏手にある駐車場に向かった。さっきまでよりかは幾分かパトカーの数が減って落ち着きを取り戻しているように見えたが、それでもまだ数人の住人たちは警察の聞き込みに協力しているようだった。

 歯抜けになった駐車場の中から白いミニバンを見つけ出すのはいたって簡単だった。平日の昼間は当然ほとんどの住人が仕事で出払っていたらしく、他に駐車場に残っていた車は黒いハイエースと、あとは軽自動車がいくつか停まっているだけだった。

 光代は肩に掛けていた手提げから車のキーを取り出し、遠隔でロックを解錠して運転席に乗り込んだ。手荷物は助手席に置き、エンジンをかける。久しぶりの運転で彼女は心なしか緊張していた。サイドブレーキを外し、バックミラー越しに緑色の大きなボストンバッグが後部座席に積んであることを確認する。そっとアクセルを踏み込むと、白い車体は象のようにゆっくりと動き出した。

 もともとホームヘルパーとして働いていた頃にミニバン車はよく運転していたのだが、それはもう十年以上も前のことだった。車体の横幅と奥行きの感覚がいまいちまだ掴みきれていない。光代は左右のサイドミラーを入念に確認しながら、おそるおそるハンドルを切った。


 家に帰り着いた頃には予想通り日が沈んでいた。

 光代はただいまも言わずに靴を脱ぎ、先に秩序なく玄関に脱ぎ散らかされていた革靴をきちんと踵を揃えて並べた。どうやら夫がもう帰ってきているらしい。

 脱衣所に向かうと、例によって洗濯機の下に脱ぎっぱなしの靴下が片方だけ落ちていた。もう片方はどこへ行ったのかと思い、しばらく脱衣所の中を点検してみると、それは何故か浴室の中に落ちていた。おそらく帰宅後すぐに汗で蒸れていた素足をシャワーで洗い流したのだろう。浴室の床が濡れていた。光代はそれを拾い、脱衣所に落ちていた靴下と合わせて洗濯機の中に入れた。

 はあ、とため息が漏れる。それが疲労感からくるものなのか、それとも夫に対する呆れのようなものなのかは自分でもはっきりとしなかった。

 光代は指先に付着した汚れと異臭を微塵も残さないように入念に手を洗い、今度は手提げバッグの中から取り出した汗臭い使用済みのジャージをスロップシンクで軽く洗い流した。それから濡れたままのそれを洗濯機につっこみ、適量の洗剤と柔軟剤を入れて洗濯機を回す。スイッチを入れた直後に、あっ、と思った。光代は慌てて一時停止ボタンを押し、蓋を開けて中身を確認する。夫のワイシャツが入っていないことを確認し、ホッと安堵した。

 夫は全く家事を手伝わないくせにいちいちこだわりが強く、それができていないとねちっこく嫌味を言ってくるような人だった。柔軟剤はこの銘柄を使えだ、すすぎは毎回二回はしろだ、脱水は必ず三分に設定しろだ、ワイシャツは擦れるから他の衣類と一緒に洗うなだなんだかんだと、とにかくうるさかった。柔軟剤に関してはいま若者の間で流行っているというバニラの香りがする海外製のものを指定してきたが、その甘い香りは爽やかな若者たちが身に纏うからこそ大人っぽさや上品さを引き立たせるのであって、昼間は額がテカテカになるほど油分の多い中年男がその柔軟剤を使ったところで、それはかえって加齢臭と喧嘩してしまい、さらに強い異臭を放つだけだった。その悪い例を横目に、光代は自身の普段着を洗濯する際には自分専用に買ったほのかに石鹸の香りがする国内製の柔軟剤を使用していた。なるべく汚れもの以外は夫の衣類と一緒には洗いたくなかった。そのせいで毎月水道局からは決して安くない請求書が送られてきていたが、無理に若者ぶって他人に迷惑をかけるよりは幾分かマシに思えた。

 光代は洗濯機の蓋を閉めて洗濯を再開させ、リビングに移動した。夫はソファーでのうのうとテレビを見ながら寛いでいた。首元のよれた白いTシャツにグレーのボクサーパンツ姿の彼はリビングに入ってきた妻には見向きもせず、夜の七時から放送しているバラエティー番組を見て呑気に笑っていた。もちろん先に帰ったからといって米を炊いてくれている様子もない。ワイシャツとネクタイを雑にソファーの背もたれにかけ、素足を平気でローテーブルの上に載せている。ジャケットとスラックスはそれぞれ別のハンガーにかけられ、閉め切ったカーテンレールに吊るされていた。夫はそれを隣の部屋に備え付けられたウォークインクローゼットまで持っていくだけでも面倒臭がるような人だった。

「おい」

 光代がスーパーで買ってきた卵を冷蔵庫へしまっていると夫に声をかけられた。「ん、どうしたの?」

「飯はまだか?」と夫は言った。

「はいはい、ただいま」、光代はスーパーのビニール袋から幕の内弁当と唐揚げ弁当を取り出し、電子レンジでそれぞれ一分ずつ温めた。

 こちとら食堂のおばちゃんじゃないんだよ、と舌打ちしたタイミングでチンっとレンジの音が鳴る。どちらかといえば、光代がわざとタイミングを合わせた形だ。妻の不満のおおよそは、生活音に紛れているものなのだ。世の中のほとんどの旦那がそれに気付いてくれないが。とりわけ、うちの夫にいたっては、それに気付いても鼻で笑って一蹴してしまう。三組に一組の夫婦が離婚するような世の中だ。うちも時間の問題だろうな、と光代は思った。

「どっちがいい?」、光代は温め終えた弁当をダイニングテーブルに並べ、夫にこちらで食べるように手招きをした。結婚してからからもう十年以上は使い続けているこの四人用テーブルのうち、自分たち以外の二席は結局いつまでたっても埋まらなかった。今さらそれが埋まるとも思えない。子供がいたら少しは夫婦の形も変わっていたのかな、と今とは全く違った未来を想像してみることもあったが、やっぱり夫と笑い合っている日常なんて信じられなかった。

「嘘だろ、弁当かよ」と夫は悪びれもせずに言った。

「ごめんごめん。ちょっと今日は作る元気がなかったから」と光代は謝った。

 歳のせいなのか、年々、いちいち衝突することが面倒になっていた。仮に衝突してしまった場合に生じるストレスと、ふっと瞬間的に沸き上がる怒りをどうにか鎮めて我慢する場合に生じるストレスをはかりにかけた時、それはいつも前述の方へと傾いた。当然、ストレスは重いより軽い方がいいに決まってる。光代はいつからか勘定的に物事を見極めるようになっていた。

「元気がないつったって、お前は家にいるだけだろ。仕事で疲れてる旦那にできたての温かいご飯を用意しておくのが妻の務めってもんじゃねえのかよ」、夫は不満を隠す様子もなく見せつけるように舌打ちを鳴らした。

 それからしばらくしてようやく怒りがおさまったのか、夫は光代に一言の断りも入れず当然のように幕の内弁当を手を伸ばし、椅子に座って黙々とそれを食べ始めた。彼女が幕の内弁当を食べようとしていたことも知らずに。

 光代は仕方なく選ばれなかった唐揚げ弁当を手元にたぐり寄せ、蓋を開ける。プラスチック容器から白い湯気がもわっと立ち上がった。光代はさっそく衣に若干水分を含んだ唐揚げを箸でつまみ、一口かじった。

「そういえば昼間にこのマンションで転落事故が起こったんだって?」、夫は鮭の身を箸でほぐしながらそう言った。「お前、第一発見者だったんだってな」

「ああ、うん。まあね」と光代は返事をした。それよりお前って言うな。

「にしてもこの世に三つの坂があるっていうのはほんとなんだな」

「どういうこと」と光代は聞き返した。

 夫は一度箸を置き、真ん中の三本指を順番に折り曲げながら得意げな顔でこう話した。「三つの坂だよ。上り坂、下り坂、まさか」

「それは知ってるけど、それがどうかしたの?」

「どうかしたの、じゃねえよ」と夫は眉をひそめた。「お前が第一発見者になったっていうのも驚きだったけど、七階に住んでるあの原田くん? って子がついさっき捕まったらしいじゃねえか」

 光代はそれを聞いてつい箸を止めてしまった。「え、それってニュースか何かでやってたの?」

「知らなかったのかよ」、夫はまるで光代を小馬鹿にするように鼻で笑い、ほぐした鮭の身をちまちまと口に運びだした。

「まあ、ちょっと出かけてたからね」

 光代は弁当の蓋の上に箸を置いてスマホを開いた。きっと世間一般的な母親であればこんな時に「食事中にスマホをいじらないで」と注意する側に回るべきなのだろうが、光代には娘も息子もいなかった。彼女に母親の一般像が当てはまるはずもない。

 転落事故のことをネットで検索してみると、もうすでにいくつかの媒体が現時点での転落事故に関する詳細や速報を取り上げていた。光代はその中から『【速報】未成年者誘拐の容疑でS市内に住む28歳の男性を逮捕──』という記事を選び、その中身を隅々まで熟読した。内容はこうだった。

『未成年者誘拐の容疑で逮捕されたのは、S市に住む会社員男性、原田剛徳容疑者(28)。捜査関係者によると、原田容疑者はSNS上で知り合ったN市に住む女子中学生(14)を所有するマンション<シャトー・ヴァンベール>の一室に数日間泊まらせていたという。

 取り調べに対し、原田容疑者は「自分はただ所有地を貸していただけで誘拐した覚えはない。それに彼女が未成年だとは知らなかった。むしろ騙されていたのはこっちの方」と供述し、容疑を否認している。

 また、女子中学生(14)については二日前から警察に行方不明届けが出されていたが、本日正午ごろにマンションの住人から通報があり、遺体で発見された。遺体の詳細は明らかになっていないが、警察は少女が殺害されたの可能性は低いとみて、現在も捜査が進められている』

 読み終えたあと、光代は実体のない不安に襲われた。何者かが後ろから不穏な足音を立てながらゆっくりと近づいてくるみたいに。

 光代は原田剛徳のことが心配だった。このまま有罪判決が下ってしまうのだろうか、と。日頃から付き合いのあった人間が、まだ起訴されていないとはいえ、いきなり罪人のように扱われている現状を目の当たりにするのは胸が痛かった。光代は気休めに検索バーに『未成年者誘拐 不起訴』と入力し、検索をかけた。どうにかして彼が助かる方法はないのかとネット上で情報をかき集めた。

 あるサイトによると、合理的な根拠に基づいて「未成年者だと思わなかった」のであれば故意を欠くことになり、未成年者誘拐罪は成立しないと記述されていた。ただし、故意の有無は、相手の容姿、言動、年齢確認の有無など様々な事情を考慮した上で判断されるようで、被害者とSNS上でやりとりしたメッセージの内容なども重要な判断材料になるらしい。光代にできることはなさそうだった。

 また、その他にも示談成立によって不起訴にする方法というものも存在した。これに関しては光代にも協力できそうなことが一つだけあった。

 そもそも未成年者誘拐罪は告訴がなければ起訴できない親告罪というものにあたるらしく、弁護士を通して被害者(本人がすでに死亡しているため今回に関しては遺族)と示談交渉を行い、そこで相手側に告訴の取り下げ、または告訴しない旨の意思表示をしてもらうことで不起訴になる可能性がかなり高くなるという。つまり、金銭的に許してもらうという方法だ。

 その方法であれば光代にだっていくらか支援することができた。夫に隠してコツコツ続けていたへそくりだって結構貯まっている。いざとなれば、夫と離婚して財産の半分を合法的にぶんどることだってできる。夫はこれでも大手食品メーカーの管理職を任されていた。それなりの額は期待できた。とはいえ、あくまでそれは最終手段に過ぎなかった。いきなり離婚を切り出したところでそう易々と首を縦に振ってくれるとは思えないし、第一、そこまでして手に入れたお金を剛徳が受け取ってくれるとは限らなかった。それに彼のことだ。きっとこっちからわざわざ手助けしなくても、自分一人でなんとかしようとするに違いない。

 何でもいいから力になってあげたいという気持ちが先行して、つい相手の迷惑を考えずに行動に移そうとしてしまうのは光代の悪い癖だった。ただし、それはもちろん好意を抱いている相手に限る。光代は剛徳に対して、ご近所付き合い以上の感情を持ち合わせていた。

「犯罪者と同じマンションに住んでいたなんて信じられないよな。ほんと人って第一印象じゃよくわかんないもんだ。母親想いのいい青年って感じだったんだけど、なんだか詐欺師にでも騙されてた気分だよ」、夫はそう言って他人事のように薄ら笑いを浮かべていた。もちろん、他人事なのだが。

 とはいえ、夫に剛徳のことを犯罪者呼ばわりされるのはなんだか癪に障った。光代自身にそんな義理がないことくらいは承知だったのだが、心の中で夫に向かって「あなたの方が詐欺師だわ」と毒づいた。出会ったばかりの頃のあなたはよく気配りができて、愛情深い人だったのに、と。

 平気でくちゃくちゃといわせる咀嚼音が耳障りだった。光代は目を閉じ、静かに呼吸を整えて気持ちを落ち着かせた。やがて瞼の裏に剛徳の爽やかな笑みがうっすらと浮かんできた。こんにちわ、初めまして、と挨拶する彼の若々しい声が。母親を気遣うようにゆっくりと歩みを進める彼の姿が、まるで昨日のことのように思い出された。光代がまだ四十歳手前だった頃のことだ。たしかその日は、散歩がてらにオープンしたばかりの国道沿いのコンビニエンスストアへ昼ご飯を買いに行った帰りのことだった──。


 エントランスで見知らぬ二人組を見つけ、光代は声をかけた。剛徳は車椅子を押していた。ハンドリムのついた大きな車輪、小回りのききそうなキャスター、えんじ色の背もたれ、黒いメッシュ素材のクッションを敷いたシート。そこに座っていたのが母親の文恵ふみえだった。交通事故による下半身不随だったらしい。それはつい一年ほど前の出来事だったと、あとから剛徳が教えてくれた。

 光代は自分がホームヘルパーとして働いていたことを告げ、困ったことがあればなんでも言ってきてほしい、と剛徳に言った。ありがとうございます、何かあったら必ず、と彼は去り際に丁寧にお辞儀までしてくれた。

 光代は嬉しかった。これから誰かの力になれるかもしれないという期待が、それまでずっと家事をこなして夫の帰りを待つだけだった閉塞的な生活を変えてくれるような気がした。男は外で働き、女は家を守る。夫は昔ながらのその価値観を大事にしている人だった。

 外とのつながりが欲しい。常々、光代は夫にそう言っていたが、それが許されたことは一度もなかった。ポストに投函されていた学生寮の調理スタッフの求人広告を見て働きに出たいと申し出た時も、友達が欲しいからヨガ教室に通わせてくれと頼んだ時も、彼は「結婚した女の本分は家事だ」とかいい加減なことを言って、まったく聞き入れようとしてくれなかった。でもご近所付き合いならどうだろう、と光代は考えた。集合住宅で暮らす以上、近隣に住んでいる人たちと良好な関係を築いていくことは、平穏な生活を送っていくためにも必要不可欠なことだ。ということは、健全なご近所付き合いをしていくことも家を守る者としての重要な務めなのではないだろうか。光代はその日のうちに仕事帰りの夫に剛徳と文恵のことを告げ、これから時々手伝いに行くことになるかもしれない、となんとか説得を試みた。そして、ご近所付き合いなら仕方ないか、と渋々納得する夫を見て、光代はしめしめと思った。

 剛徳は六一三号室に、文恵は七一三号室に住んでいた。

 聞けば、もともとこのマンション<シャトー・ヴァンベール>の所有者は剛徳の父親だったらしく、離婚したことをきっかけに、財産分与のひとつとしてマンションの名義が母親の文恵に変更されたという。彼の父親は不動産投資や起業支援を行う凄腕の実業家だった。もちろんそれもあとになって聞いた話だ。

 なんとも羨ましいような話だったが、車椅子に座る文恵を前にしてそんな配慮に欠けたことを言えるはずもなかった。

 光代はさっそく次の日から七階の文恵の部屋を訪ねていた。決して彼女が困っていたからとか、息子の剛徳に頼まれていたからとか、そういうわけではなかったのだが、なんだかいてもたってもいられず身体が勝手に動いていた。

 はじめは昼どきに肉じゃがを作って文恵の部屋に持って行った。誰に出しても恥ずかしくない光代の得意料理だった。ドアホン越しに応答してくれたのは文恵ではなく剛徳だった。彼は光代のことを覚えていなかったのか、「あの、どちら様でしょうか」という控えめな声が返ってきた。

 昨日の昼にエントランスで、と言うと剛徳は思い出してくれた。「ああ、坂本さん、でしたっけ。今日はいったいどのようなご用件でしょうか」

「えっと、その、ご飯っ、作りすぎちゃったので」、光代はしどろもどろになりながらベタな嘘をついた。するとその時、ドアホン越しにぱりんっと何かが割れるような音が聞こえた。「どうしましたか。大丈夫ですか?」

「……ああ、すみません。ちょっと母が食器を床に落としてしまいまして」と剛徳は言った。「でも大丈夫です。いつものことなので」

「手伝いますっ」と咄嗟に光代は口にしていた。

「えっと」、剛徳は戸惑ったような声を漏らすと、しばしの沈黙のあとで「ほんとに大丈夫ですよ。お気持ちだけで結構ですので」と丁重に光代の申し出を断った。

「お願いします。なんでもいいから手伝わせてください。私、文恵さんの力になりたいんです」

 わりと大きな声だった。光代も必死だったのだ。ようやく外とのつながりを持てるかもしれないと期待した以上、そのチャンスを逃すわけにはいかない。なにがなんでもしがみついてやる。そんな気持ちだった。

 それからしばらく間が空き、やがて根負けしたような剛徳の声が返ってきた。「わかりました。じゃあ少しの間、そこで待っていてください」

 五分ほど経ったのちに玄関扉は開かれた。中から姿を現した剛徳は若干緊張したような面持ちで、どうぞ、と光代を招き入れた。

 おそらくは持ち家だからこそ大幅に改装できたのだろう。段差がなくされてフラットになっていた玄関周り、車椅子が方向転換するだけのゆとりをもたせた廊下幅、家中の壁にはりめぐらされたように設置された腰高の手すり、座ったままでも作業できるキッチンや洗面台。基本的な間取りや広さは一階に住む光代の部屋と同じ2LDKなのだが、いたるところに車椅子生活を強いられた文恵のための配慮が窺えた。そしてなにより、最上階の部屋ともあって窓からは見晴らしのいい景色が見えた。

 文恵は低めのダイニングテーブルで食事をとっていた。床が濡れた痕跡があっとのは、きっとさっき食器を落とした時にでもその中身がこぼれ、剛徳が拭き取ったのだろうと推察した。文恵が着ていた薄いグレーのカーディガンの胸元にも握りこぶしほどのシミがついていた。エントランスで顔を合わせた時から元気がないとは思っていたが、この日はさらに目に力が感じられなかった。何かを消耗したような、諦めたような、そんな目をしていた。

 こんにちは、と光代は挨拶をした。

 だが、文恵は返事をくれなかった。それよりも彼女はやたらに光代に向けた視線を上下に動かし、頭のてっぺんからつま先までを隅々まで点検するように見つめていた。ほんとに何も問題はないのでしょうね、と提供された料理に髪の毛が一本も入っていないかをくまなく確認するかのように。

「すみません。うちの母、事故に遭ってからずっとこんな感じなんです。警戒心が強いというか、知らない人に敵意を向けるところがあるいうか」、後ろに立っていた剛徳はそう言った。

「いえいえ、当然ですよ。私が無理やり家族水入らずの場に押しかけたんですから。申し訳ないです」、光代は二人に謝り、持参していた肉じゃがの入ったタッパーを文恵の前に置いた。「これ、ちょっと作りすぎちゃったので」とベタな嘘はなんとなく押し通すことにした。

 テーブルの上に載っていたのは白米をよそった茶碗が二つと豚肉ともやし炒めが盛られた大皿のみ。質素な食事をしているんですね、と光代は思ったことをそのまま口に出した。

 すると剛徳は苦笑いを浮かべながら「ご飯はいつも俺が作ってあげてるんですけど、いかんせん男の一人暮らしみたいな簡単な料理しか作れなくて」と言った。どうやらこの親子は文恵が車椅子生活になったことを機に同じマンションに暮らし始めたらしい。剛徳はまだ二十六歳の青年で、母親の介護をするために今年から自宅で仕事ができるWEBライターとして働き出したのだと教えてくれた。

 そのことを聞いた光代は、途端に先ほど何気なく口にしてしまった発言があまりに配慮に欠けたものだということに気付き、顔が燃えるように熱くなった。何も知らないくせに私はなんて馬鹿なことを言ってしまったんだろう。とてつもなく大きな罪悪感と後悔が同時に襲ってきた。なにが外とのつながりを持ちたい、だ。なにが誰かの力になれるかもしれない、だ。光代は次第にホームヘルパーをしていた経歴さえも恥ずかしく思えてきた。強みになると思い込んで履いたはずの靴が明らかに足枷になっていた。

 そんな時にふと文恵と視線がかち合った。何か言いたげな目で光代を見つめていた。あんたホームヘルパーとして働いてたんでしょ? とその目が言っているような気がした。ホームヘルパーだったくせにあんたって配慮のない人ね、とその目が呆れているような気がした。光代は今すぐにでもこの場から逃げ出したい衝動に駆られた。ここに立っていることさえも恥ずかしくなっていた。

「じゃあ、私はこの辺でおいとましようかしら」と光代は言った。

 なんでもいいから手伝わせてください、と自分から申し出ておきながらさっさと帰ろうとするのはおかしな話だとは思ったが、そうでもしないとこの気まずい空気に押し潰されてしまいそうなほどばつが悪かった。

「肉じゃが、ありがとうございました。タッパーはのちほど返しにうかがいますので」、剛徳は丁寧な言葉遣いで礼を言い、軽く頭を下げた。

 光代はその場から後ずさるように部屋を出ていこうとした。文恵はまだじっとこちらを見つめていた。元気のない目で、何か言いたげな目で。光代はすぐにでも視線を外したかったのだが、なぜかそれができなかった。文恵の瞳の奥であらゆるものを吸い寄せるような力が働いていたのかもしれない。

 不意に文恵は口を開いた。「もう帰っちゃうの? もし時間に余裕があるなら一緒にお昼食べていけばいいのに。ねえ、剛徳」

 か細く、ろうそくの灯のように今にも消え入りそうな雰囲気すらあったが、何故か迫力に満ちたように感じてしまう声だった。

 光代はつい「えっ」と声を漏らしてしまった。咄嗟に剛徳の顔色を確認する。彼は返答に困ったような苦笑いを浮かべていた。

「何かこのあとご予定でもあるの?」と文恵は尋ねた。

「いえ、特になにも」と光代は首を振った。

「じゃあいいじゃない。せっかくだから一緒に食べましょうよ」、文恵はそう言ってから目で合図を送るように剛徳を見た。「ほら、何してるの。この方のご飯もよそってあげて」

「でも母さん、坂本さんに気を遣わせちゃいけないよ」と剛徳は言った。「すみません、坂本さん。母の言うことは全然気にしなくていいので」

「剛徳っ!」

 室内に文恵の鋭い声が響き渡った。光代はその声にどきっと心臓が跳ねた。それは剛徳も同じだったらしい。一瞬肩をビクッと震わせ、眉をひそめて母親を睨みつけるように見た。急に大声出すなよ、というように。

 それから十秒ほどの沈黙があり、やがて剛徳は折れたように一つため息をついて光代の方を振り返った。「すみません、坂本さん。母もああ言ってるので、今日だけ一緒にご飯食べていただいてもいいですか?」

「も、もちろんです。私のことはお気遣いなく」と光代は言った。

「今日だけと言わず、毎日来てもらっても構わないのよ」

「母さんっ」、剛徳はわがままを言う子供を宥めるような声でそう言った。

「いえいえ、私のことはほんとに気にしないでください。自慢じゃないですが、これでも毎日暇を持て余してる専業主婦ですので」

「ほら。この方もこう言ってることだし、いいじゃない」、文恵は相変わらず震えた細い声でそう言った。そして今度は息子を無理やりにでも納得させるように「ねっ」とわずかに口角を持ち上げた。

 光代の目には何故かその仕草が不自然なものに映った。まるで何かを企んでいるみたいに。胸の奥で少しだけそんな嫌な予感はしていたが、それがいったい何だったのかは自分でもはっきりしなかった。それに根拠のない直感なんてあてにならないことはわかっていた。夫と結婚する前だって嫌な予感なんて何一つ感じなかったのだ。だいたい、そんな便利な危機察知能力がもともと備わっていたのなら、最初からこんな風に外とのつながりを持ちたいと必死に足掻く必要もなかったではないか。わざわざ配慮に欠いたことを口にして後悔することだってなかった。

 光代はどうするべきか迷っている様子の剛徳にこう言った。「私からもお願いします。いつもいつも家の中に一人でいるのは息苦しくて辛いんです。それに夫が仕事から帰ってきてもあごで使われるだけだし、日常会話だってろくに交わさないから、ちょうど話し相手を欲していたところなんですよ」

「でも……」と剛徳は言った。

 この青年は相手のことを気遣える素敵な男性なんだな、と光代は思った。昨日エントランスでばったり会ったばかりの人に、しかも同じマンションの住人に気を遣わせてしまうなんて申し訳ない、きっとそんなことを考えているに違いない。

「ほんとに私のことは大丈夫ですから」と光代は念を押すように言った。ついさっきまでつきまとっていたばつの悪さなんて、その頃にはすっかり忘れていた。

「わかりました。じゃあお昼ご飯の時だけ、一緒にお願いします」

 剛徳は力なく首を縦に振った。ほんとすみません、と目で訴えるような眼差しを光代に向けながら。いえいえとんでもない、と光代は声にせず見つめ返した。

 しかしそれでもなお文恵は納得していなかったのか、「昼だけと言わずに、朝も夜も、一日中ずっとここにいてくれたっていいのよ?」とわがままを言った。やはりか細く震えたような声で。

 だが、さすがにその申し入れは光代も断った。これ以上は剛徳に申し訳なさそうな顔をさせたくなかったというのもそうなのだが、第一、夫がそれを許すはずがなかった。これをきっかけに少しでも家のことがおろそかになってしまえば、今度こそ一切の外出を禁止されてもおかしくはなかった。文恵には申し訳なかったが、せっかく手に入れた外とのつながりをそう簡単に失くすわけにもいかなかった。

 それから光代は仕事をしながら母親の介護をしているという剛徳の労力も考え、毎日三食分の食事をそれぞれタッパーに詰めて昼食時に持って行くという約束のもとに、次の日から文恵の部屋を訪ねるようになった。その際、食材費用はもちろんのこと、労働の対価として決して少なくはない額の賃金を光代は受け取っていた。最初は当然その申し入れを断っていたが、剛徳がどうしてもと言うので仕方なく頂戴することにした。目に見える形で感謝を伝えてもらえるのは素直に嬉しかった。とはいえ、さすがに一回りも歳下の男の子からもらうお金に手をつけるのはなんだか悪いことをしているみたいで、一円も使う気にはなれなかった。そのお金は夫に見つからないように、茶封筒にまとめて箪笥たんすの奥にしまい込んでいた。

 意外だったのは、文恵がおしゃべりな人だったということだ。結構どころではない、彼女はかなりおしゃべりだった。三人で食卓を囲んでいる時も、光代がキッチンを借りて料理を作っている時も、文恵は何かと喋り続けていた。しかも剛徳がいつも近くにいたというのに、彼女は何故か光代にばかり話しかけてくるのだ。最初は気のせいだと思っていたが、それが何日も続くと、まるで文恵が息子の存在を無視しているようにしか思えなくなった。

 たまに光代が食事中に相変わらずたわいもない話を続けている文恵の隣で黙々と料理に箸をつけている剛徳に話を振ってみると、文恵はそれをかき消すように声を大きくするのだ。私を見て、私だけを見て、と注目を集めたがる幼稚園児みたいに。そして帰り際には寂しそうな顔をする。まだ行かないで、もう少し遊んでよ、と。

 光代は次第に剛徳のことが気の毒になっていた。せっかく母親のために住まいを変え、仕事を変えてあげたはずの彼がそんな仕打ちを受ける意味がまったく理解できなかった。理由を尋ねてみると、「昔からなんです」と剛徳は苦笑いを浮かべていたが、だとしても光代は納得できなかった。他の家の事情に口出す権限なんてあるはずもないのだが、日を追うごとに文恵に対する怒りすら少しずつ芽生え始めていた。

 母親のために尽くす大人しい息子と、息子のことを無視するくせにおしゃべりな母親。そんな二人の様子を見ていると、蛙の子は蛙ということわざが戯言であったかのように思えた。光代はきっと二人の間には普通の親子とは違う何か特殊な関係性があったのだろうと勘繰っていたが、そこから深いところまではさすがに足を踏み入れることはできなかった。虐待、ネグレクト、そんな文字が頭に浮かんでいたが、足がすくんで言葉にはできなかった。

 そしてそんなある日のことだった。

 その日は剛徳がひどく体調を崩して六階の自室で寝たきり状態になっていたため、光代は七階の部屋を訪ねる前にまずお粥を持って剛徳の様子を見に行った。もともと作ろうとしていた夜の分と次の日の朝の分の作り置きのメニューも急遽変更し、消化のよいものをタッパーに詰めて朝早くから買いに行ったゼリーやスポーツドリンクと一緒に彼の家の冷蔵庫に入れておいた。それから光代はベッドの上で横になっている剛徳と一言二言会話を交わした。

 どうやら剛徳は自分のことよりも文恵や光代のことが気になっているようだった。母は昔から一人にすると情緒が不安定になっておかしなことを言い出すことがあるのだと、だからできれば今日はあまり相手をしないでやってほしいと。

 それを聞いた光代は「じゃあせっかくだから今日のお昼ご飯は文恵さんの好物でも作って機嫌をとろうかしらっ」とおどけてみせた。

 すると剛徳はいいことを思い付いたような顔で「それならゾウ串なんてどうでしょうか、ウインナーをうずらの卵で挟んで串で刺したやつ。うちではそう呼んでたんです」

「なにそれ、しらない」

「ですよね」と剛徳はクスクスと笑い出し、「母が昔からよく作ってたんですよ。その形がゾウの顔に似てるからって」と続けた。ほんと子供みたいな人だよね、という言葉を添えて。

 ほんとね、と笑みを返して光代は部屋を出た。その足で買い出しに向かう。何故だか足取りは軽かった。剛徳の笑った顔が頭から離れなかった。

 文恵の部屋を訪ねたのは午後一時を回ったあたりだった。

 リビングの窓際で空を見上げていた文恵は光代の気配に気付くと、「遅かったじゃない」と安堵したような笑みを浮かべて振り返った。「今日は来ないのかと思ったわよ」、文恵はいつになくはきはきとした口調で喋っていた。

「ごめんなさい、剛徳くんの様子を見に行ったあとにちょっと買い出しに行ってたから」、光代はそう言って冷蔵庫に二食分の作り置きが入ったタッパーをしまい、早速昼食の準備にとりかかった。

 スーパーで買ってきたシャウエッセンを焼き色が付くまでフライパンの上で転がし、開封してそのまま使えるタイプのうずらの卵の水煮はめんつゆに浸けて金いりごまと一味唐辛子を振った。それらを剛徳に教えてもらった通りに串で刺す。それが終わると今度はほうれん草と人参のごま和え、小松菜とえのきのナムル、豆腐とねぎの入った味噌汁を手早く作った。そのあたりでようやくセットしていた炊飯ジャーから愉快な機械音が鳴り響き、水気多めの柔らかい白米を縁から少しだけ頭を出す程度に茶碗によそった。それから一品ずつ器に盛り付けた料理をいつものように低めのダイニングテーブルに並べた。

「文恵さん、ご飯できましたよ。今日はゾウ串を作ってみたので、よかったら温かいうちに食べてみてください」

 光代が窓際で外を眺めていた文恵にそう声をかけると、はあい、と柔らかな返事が返ってきた。いつもより大人しいような声をしていたが、何かはっきりとした確信があったわけではなかった。どこか思いつめたような顔をしているようにも見えるし、相変わらず生気のないその目は普段と何も変わっていないようにも思えた。いつもいるはずの剛徳がこの場にいないせいで不穏になっているのか、それともなんだかんだ言って、息子の具合を心配しているだけなのかもしれない。ともかく、彼女が普段のおしゃべりな姿とはどこか違った空気感をまとっているように見えたのはたしかだった。

 文恵は慣れた手つきで車体を回転させ、定位置についた。四人掛けテーブルのうち一脚だけ椅子を抜かれたスペースが彼女の特等席だった。向かいの席に腰を下ろした光代は合掌したところで卓上に飲み物がなかったことにふと気付き、席を立った。

 キッチンで二人分のグラスに麦茶を注いでいる時だった。突然、テーブルの方から大きな音が鳴り響いた。光代は手を止め、慌てて文恵のもとへ駆け寄った。

 どうやら卓上に並んでいた料理のほとんどを床に落としてしまっていたらしい。味噌汁はみるみるうちに足元で陣地を拡大させていき、ほうれん草と人参は団子のようにひとかたまりなって落ちていた。串から外れたうずらの卵はあてもなくふらつく旅人のように床の上を転がっていた。

 幸いなことに、床に落ちた食器が割れて破片が散らばっているようなことはなかった。それもこれも光代があらかじめこの家にある陶器製の食器類をすべてプラスチック容器に替えていたおかげだろう。文恵が怪我をしたような様子もなかった。光代はそれを確認してホッと息をつき、急いで冷蔵庫の横からキッチンペーパーを持ってきて後片付けに取りかかった。

 だが安心したのも束の間、光代が床に落ちたうずらの卵を拾っていると、今度は鼓膜を引き裂くような金切り声が頭上から降り注いだ。

「ふざけないでちょうだいっ!」と文恵は叫んだ。

 一瞬、頭上でなにが起こっているのか理解が追いつかなかった。「いったいどうしたんですか?」と光代は恐る恐る顔を上げた。

「ふざけないでって言ってるの!」と文恵はまた叫び声をあげた。「なにがゾウ串よ、あんたもを食えって言うの? ふざけないでよっ」

「ごめんなさい、剛徳くんに思い出の味だと聞いたので……」

 文恵はうんともすんとも言わずに鋭い目つきでただ力一杯に光代の顔を睨みつけていた。何かおぞましいものでも見ているような目をしていた。

 やがてあたりはしんと張り詰めた静寂に包まれた。雨漏りのようにテーブルから滴る味噌汁の雫が目の端に映る。てん、てん、と落ちていくその光景だけが時間の経過を教えてくれる。

 混乱に乗じて真っ白になっていく頭の中に剛徳の言葉がすっと浮かぶ。昔から一人にすると情緒が不安定になっておかしなことを言い出すことがある、と彼は言っていたが、果たしてこれがそうなのだろうか。光代はつい数十秒前まで穏やかな顔をしていた文恵のことを思い返してみるが、いきなり喚き始めた目の前の女性の姿とはどうしてもそれが重ならなかった。そうなってしまった原因がゾウ串だということははっきりしていたが、いったいそれの何がどう彼女の琴線に触れてしまったのはまったく見当もつかなかった。

「もう帰って。一生顔も見たくないっ!」、文恵は沈黙を破るように大声をあげると、おもむろにテーブルに残っていた箸を掴み、それを思い切り投げた。

「痛っ」

 箸は勢いよく光代の頬にぶつかった。馬鹿、あほ、ろくでなし、などと勢いよく文恵の唾が飛ぶ。せっかくあんたのこと信じてたのに。もうあんたなんて大っ嫌い。

 いくらそれが子供じみた言葉の羅列だったとはいえ、そんないわれのない非難をただ無抵抗に浴び続けるのには限界があった。丸かった石が雨風に削られて角を持つように、もともとは刃を持っていなかったはずの善意の積み重ねがささくれのようにめくれて少しずつ尖っていく。ふつふつと腹の底から込み上げてくる熱い塊のような感情を見て見ぬふりはできなかった。

「どうして? ねえ、どうしてあたしばっかりこんな目に遭わなきゃいけないの? ぜんぶあたしが悪いっていうの? あたしがあの子をあんな風に育てたのがいけないっていうの? あたしがこんな風になった途端にやり返すの? ねえ、どうして? あたしのこといじめるのがそんなに楽しいの?」

 光代は何も言わずに立ち上がり、その場で大きく息を吸った。その瞬間、反射的に身構えるように文恵の顔が強張ったのがわかった。喉元に控えている数々の暴言がいまにも飛び出してしまいそうだった。

 うるさいクソババア。ぜんぶこっちのセリフよ。なんで私がこんな目に遭わなくちゃいけないの? 今までどれだけあなたの面倒を見てきてあげたと思ってるの? 毎日三食作って、洗濯も掃除もしてあげて、つまらない話にも付き合ってあげて、それで感謝の一つもないわけ? 恩を仇で返すわけ?

 しかし光代はすんでのところで思い留まった。いくら苛立っていたとしても、弱者を虐めるほど理性を失っていたわけではなかった。胸のつかえをすべて吐き出すように息を吐く。それでなんとか少しは怒りも鎮まった。とはいえ、文恵に優しい笑みを向けるまでの余裕はなかった。

 光代は何も言わずに文恵に背を向けた。落ちた食材も床を濡らした味噌汁もそのままで、その場から逃げるように部屋を後にした──。

 その日を境に光代が文恵を訪ねることがなくなったのはいうまでもない。後日、光代がその日のことを剛徳に説明すると、彼は何度も「うちの母が迷惑かけてすみませんでした」と謝るばかりで、一切光代のことを責めようとしなかった。「もしかすると、離婚したお父さんのことを思い出したのかもしれません」、ついこの間の笑顔とは打って変わって悲しそうな表情を浮かべていた剛徳を見て、光代はなんだか申し訳なくなった。これまで貯め込んでいたお金もこの際にまとめて返そうとしたが、「それはあくまで俺からの感謝の気持ちなので」と言って彼は一銭も受け取ってくれなかった。

 それからというもの、光代はまた元の外に出ない閉塞的な生活へと逆戻りした。せっかく手にした外とのつながりを自ら放棄した。でもそれが間違っていたとは思っていなかった。むしろもうあんな恩知らずと顔を合わせなくて済むと思うと、どこかすっきりしたような清々しささえあった。自分と夫のために家事をする、それだけで十分じゃないか、と光代は自分に言い聞かせながらその後の日々を過ごしていた。

 しかし、そのわずか一週間後に文恵の訃報を知らされた光代は、一瞬のうちにとてつもなく大きな後悔と罪悪感に飲み込まれてしまった。またしても文恵を襲ったのは交通事故だったらしい。平日の昼過ぎ、昼ご飯を買いにスーパーへと外出した彼女は信号のない横断歩道の途中で転倒し、そのまま通行車に轢かれてしまったのだという。

 文恵の葬儀に参列した光代は剛徳に泣きながら謝った。前みたいに私が昼ご飯を作ってあげていれば文恵さんは死なずに済んだのに、彼女を死なせてしまったのは私なんだ、と。そんなことないですよ、と彼は何度も言ってくれたが、こんな時まで剛徳に気を遣わせてしまう自分の不甲斐なさに無性に腹が立った。帰り際、まだ二十六歳の青年が葬儀場で参列者全員に深々と頭を下げて見送っているその光景を見ていると、なんだか胸が強く締めつけられた。涙を一切流さずに喪主として気丈に振る舞う剛徳の方が自分なんかよりもよっぽど大人だと、光代は思った。


 光代は目を開けた。正面にはくちゃくちゃと汚い咀嚼音をたてながら幕の内弁当を頬張る夫の姿があった。もうすでに八割がた食べ終わっていた。子供じゃないんだから。そう注意すればきっと彼は怒るだろう。誰のおかげで生活が出来てると思ってるんだ、誰の金で飯を食ってるんだ、とそんな言葉が返ってくるに違いなかった。

 はあ。自然とため息が漏れる。

 あれから二年が経っているというのに、光代の閉塞的な生活は何も変わっていなかった。いまだに働きに出ることも許されないし、ヨガ教室だって通わせてもらえない。とはいえ、文恵が亡くなってからひとつだけ変わったことがあった。それは再び光代が定期的に文恵が暮らしていた七一三号室を訪れるようになっていたということだ。

 文恵の葬儀が終わって一ヶ月ほどが過ぎた頃、光代は剛徳が六一三号室から七一三号室に引っ越すという情報を耳にした。もともと車椅子生活のために大幅な改装をしていたため、元の状態に戻して賃貸に出すのであればそれなりに余計なコストがかかってしまう。それよりも何も手を加えていない六一三号室を賃貸に出す方が手間もコストもかからない。だから引っ越したのだろう、と勝手に剛徳が上の階に引っ越すことを決めた背景について推測していたが、彼は予想に反して六一三号室を手放さなかった。

 光代は半ば強引にその剛徳の引っ越しを手伝った。そしてそれきっかけにまた以前と同じように三食分のご飯を用意し、要らないと断られながらも光代は罪滅ぼしをするかのごとくタッパーを持って七一三号室の扉を叩くようになった。

 きっと剛徳にとってそれは迷惑な行為だったに違いない。最初の頃は「申し訳ないですから結構です」と何度も玄関先で苦い顔をされていたものだ。それでも光代はやめられなかったのは、自分のせいで剛徳を独りぼっちにさせてしまったという罪の意識が消えなかったからに他ならない。そんな日々が二週間ほど続くと、ようやく彼も根負けしたように「週に一度だけなら」という条件付きでまた家に訪ねることを許してくれた。

 剛徳が空き部屋となった六一三号室を見ず知らずの人たちに貸し出しているということはなんとなくひと伝いに聞いていた。しかも無料で、だ。なぜそんなことをしているのかはわからなかったが、赤の他人がわざわざ他人さまの所有物に対してあれこれ口出すわけにもいかなかった。光代が彼の部屋を訪ねるようになってから、実際に何度かそんな人たちの姿を見かけたこともあった。しかしさすがに声をかけることはしなかった。未成年は断っているということはあらかじめ剛徳からも直接聞いていたし、それで何かマンションの住人が迷惑しているというような声も聞かなかったからだ。

 だから初めて少女の死体を目の当たりにした時にはつい言葉を失った。どうしても目の前の現実を受け入れられなかった。またしても裏切られたような感覚に陥り、軽い怒りすら覚えた。それでももう二度と彼を独りぼっちにはさせないと心に誓っていた。私にやれることがあるならなんでもやる。示談金を用意するために離婚だってできる。光代は剛徳に対して、ご近所付き合い以上の感情を持ち合わせていた。

「そんな思い詰めたような顔すんじゃねえよ。そんな顔されてっと食欲が失せるだろ。ただでさえ、こっちはこんな手抜きメシで我慢してるんだからさ、ちっとは気持ちよく食べさせてくれよ」、夫はいきなり怒鳴るような声を出した。

 その声は頭の中の世界から現実に引き戻すように思い切り光代の袖を引っ張った。はっとした彼女はついとっさに「ごめんなさい」と謝ってしまう。すると火打ち石で火を起こしたかのような舌打ちが聞こえた。夫のものだ。光代は肩をすぼめた。

 光代は時々、自分のことを不思議に思うことがあった。どうして私はこんな人のことを好きになってしまったんだろう。どこに好きになる要素が隠れていたのだろう。もしくは、どうしようもない人間を好きになってしまう星のもとに生まれてしまっただけなのかもしれない。そう考えれば少しは気が楽になった。

 感情に流され、相手に尽くし、いつの間にかそれが一方通行であることに気付き、それからはただ見返りを求め、そしていつも後悔に突き当たる。そんなことばかりを繰り返していた。四十二歳にもなって光代はそれ以外の生き方を知らなかった。出口のない迷路に迷い込んだ気分だった。

「ああ、もう風呂入るわ」、苛立ったような声でそう言った夫はごちそうさまも言わずに席を立ち、わずかに食べ残した幕の内弁当を持ってキッチンへ捨てに行った。

 光代はそれを見て思わず「あっ」と声が漏れる。その直後にしまったと思った。案の定、弁当の容器を捨てる際に何かに気付いた夫はおもむろにゴミ袋の中を漁り始めた。色付きのビニールにでも入れておけばよかったと後悔してももう遅かった。

「おいおい。俺がいつかの誕生日にあげたプレゼントをこうも堂々と捨てるかね、普通。意外と薄情なやつだよな、お前って」、夫はゴミ袋の中から拾ったそれを光代に見せつけるかのように顔の前に掲げた。捨てられていたことを落ち込んでいるわけでも、咎めているわけでもないような淡白な声だった。「わりと高かったんだけどなあ」

 たしかにそのCCマーク付きのリボンがワンポイントになったホワイトカラーのそれは、流行りに疎い夫でも知っているハイブランドの代物だった。光代は黙ったままその場をやり過ごそうと唐揚げを口に運ぶが、ほとんど味がしなかった。

「まあいいや」、夫はそう言って手に持っていた帽子をゴミ袋の中に戻し、そのまま脱衣所へ向かった。

 光代はその遠ざかっていく無抵抗な後ろ姿を意味もなくじっと睨みつけていた。

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