花吹雪Ⅱ

 木陰こかげに移動して数分、ようやくひなは言葉を発する方法を思い出した。「ありがとう」とだけ呟くとまた気を失いかけモモに支えられる。持参したジュースを一口、二口ゆっくりと飲むと髪留めを大切に髪に留め、深呼吸をした。

 モモはひなの背中をそっと擦ると「本当にピンを大切にしてるんだね」と声をかけた。ひなはゆっくりと声をひねり出して「そう。お姉ちゃんからの宝物だから」と返した。

 ひなは幼少期に姉を亡くしていると言うのはみくり以外にはあまり話さないようにしていたが、直感的にこの子には話して良いと判断し、姉の事について話だした。

「お姉ちゃんが死んでから、ずっとお姉ちゃんが着けてた沢山のピンを使ってて。モモちゃんも知ってると思うけどかなりの種類があるんだよね。お姉ちゃん、おしゃれだったから」と笑う。今まで萎々しおしおとしていたのが嘘のように満開の笑顔だ。「私もね、両親がいなくなったから……だからなんかわかる、埋めようとすると何か別のものになるんだって。私の場合はお姉ちゃんもそうだけど、おにいもそうなんだよね。血は繋がってないし正式な家族でもないけど、それでもおにいが居ると何故か和らぐんだよね。せっかくだったら会わせたかったのにな」と語る。

 ひなはこれだけ言われるのだから相当良い兄なのだろうなと思う。噂で聞いた程度ではあるが、かなり妹思いの兄で、実の家族でもないのに優しく接しているらしい。それを二人がどう思っているかは不明だが。

 そうこう話しているうちにひなの体調もだいぶ戻り、なんとか立ち上がるところまで回復してきた。ふたりはメッセージを送ると少ししてからお互いのスマートフォンにメッセージが帰ってきた。合流場所は百メートル程先だがひなは歩けると言うのでモモは一緒に歩くことにした。

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