揺蕩う - みくりxナズナ

揺蕩うⅠ

 春風に身をゆだねるように四人は思いのままに歩いていく。気になった出店をとにかく回っていく。春らしい出店もあればとにかく祭りと言えばこれと言った定番の出店、変わり種の出店など、二百メートル程の道を歩き、そろそろ終点といった所で「あれ、三月さんは?」とナズナが呟く。みくりはハッとした顔で周囲を見渡すも、見知った顔は隣に佇む少女ナズナだけであった。「って、モモまで居ないじゃん」とナズナは呆れた顔でまた呟く。

 人混みの影響か、何度かメッセージを送ろうとしたが送信中と送信失敗を交互に繰り返すアプリにため息しか出ないみくりをナズナは見つめる。「相当心配してるんだね、三月さんのこと」と言われるとみくりは指摘点に対して今まで持ったこと無い意見を得た。

 みくりはひなのことを(自分自身では普通なつもりだったのだが)傍から見ればやや過剰に心配している事にようやく気付く。これは恋故になのか、それとも別の何かなのかはみくりには未だにわからないが、ナズナには心当たりがあった。それは彼女が妹に対して抱いている感情と似通っていると。

 その感情は依存と呼ばれる物だった。感情と言うにしてはもはや重たすぎるかも知れないし、あえて感情と言う枠で抑えているのかもしれない。とにかくナズナはモモの不在が耐えられないものであった。それはみくりに対して違和感や嫌悪感を覚えているわけでもなんでも無く、ただただひたすらにモモの不在が不快で仕方がないのである。

「桔梗さんもなんか、そわそわしてると言うか」とみくりが言うと「ナズナでいいよ」とナズナが笑う。「だってモモだって桔梗だからね」と微笑む。「確かにそうだね」とみくりは頷くとナズナの方を改めて向いた。自分と似通っていて、それで居て別の存在であるナズナにみくりはなんとなく安心感を抱いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る