第5話


 朝、目が覚めた俺は部屋に備え付けてあるシャワールームに入って寝汗を流す。水や電力もマテリアルで作れるから、部屋に備えつけのマテリアルタンクに補充しておけば好きなだけ使えるものだ。

 なお、こういう安アパート地帯では満タンまで補充しておく奴はいない。留守の間にマテリアルを盗まれるからだ。

 俺も下宿から出たばっかりの頃にやられてからは満タンまで補充しないようにしている。

 なお設備に関しては盗まれない。マテリアルを盗まれても盗まれた奴が間抜けで終わるが、アパートの設備にまで手を出せば管理会社が契約している犯罪者追跡に特化した冒険者たちに追われるからだ。

 そういう意味で、最低限の治安は保たれている。

 なおこういった施設の設備をマテリアル回収装置でマテリアルに分解することはできない。

 都市の建物もそうだが、こういった住居の設備に関しても分解に対抗するための保護術式が組み込まれているからだ。そうでなければ愉快犯やテロリストなどによって、都市がぐちゃぐちゃにされてしまうだろう。

 ちなみに俺の使っている物資生成アプリにも俺以外が分解できないように保護術式が組み込まれている。

 都市外では人間を襲う追放者ストレンジャーとかいう連中もいて、俺たち冒険者も都市外での活動中に襲われることもある。

 そういうときに武器を分解されたら殺されるだけだからだ。

 とはいえ、都市の工場で作られた高ランクの保護術式と違って、アプリ製の保護術式はそこまで硬くはないし、闇属性の俺なんかは最低ランクのものだ。

 都市の防衛軍には冒険者の反乱に備えて、そういう低ランクの保護術式で守られた生成武器をマテリアルに還元してしまう装置などもあるようで――あーあー、関係ない思考してるな。

「ご飯」

「おはよう。ホワイトヴェール」

 おはよう、と言葉を返してくるホワイトヴェール。少女の死体が用意してくれた美味い朝食を食べ、俺は彼女をマテリアルに還元した。

 ホワイトヴェールを還元して回収できるのはホワイトヴェールの死体情報とマテリアルが【8】だ。【10】で作って一晩活動させて【2】の消費、ちょいちょい魔法を使わせたりしたからしょうがないが、ホワイトヴェール製の美味い食事代や娼婦代が節約できたと思えばもったいないというほどのものではない……か。

(ああ、一応、ステータスとアプリも確認しとくか)

 俺は寝ている間に洗濯が終わっていた、闇属性持ちが都市で活動するための黒いローブを羽織ったあとにスマホを取り出すと、出発前の自己確認セルフチェックを行うのだった。



                ◇◆◇◆◇


 ――▼――▼――▼――▼――▼――▼――▼――▼――▼――


 スマホ機種名:ニュービー8

 スマホ製造元:ネリアルベリアル

 登録パーティー:ネクネクネクロマンサー

  ――メンバー1名

 登録者:ゲンジョウ・ミカグラ

 年齢:18

 出身:第二十五開拓都市オウギガヤツ

 所属冒険者ギルド:第二十五開拓都市オウギガヤツ支部

 冒険者ギルドランク:E

 基本ステータス:生命点5/防護点1/攻撃点1/属性【闇】


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 登録アプリ:

 ◆装備イクイップメントアプリ 『アプリ容量リソース/使用時消費マテリアル/最大付与アプリ数』

  →『鉄の長剣Ⅰ』―【1/2/3】 ――攻撃点2の長剣サイズの実体剣を生成する。

    ―『毒付与Ⅰ』―【2/1/0】 ――生物の生命点を40秒に1減少させる弱毒を剣に付与する。

  →『対魔物用短銃Ⅰ』―【1/1/2】 ――攻撃点2の装弾数15発の中距離用の拳銃を生成する。

    ―『通常弾Ⅰ生成』―【1/15発1マテリアル/0】 ――ランクⅠ対魔物用拳銃弾を15発生成する。

  →『魔獣皮の鎧Ⅰ』―【1/2/3】 ――身体表面に【瘴気汚染耐性Ⅰ】と防護点2を持つ防護フィールドを発生させる。

    ―『体温維持Ⅰ』―【1/0/0】 ――肉体の体温を平熱に維持する。

  →『冒険者のコンパス』―【1/0/4】 ――侵入異界マップの生成、現在位置の表示を行う。【ギルド公認】

  →『マテリアル回収装置Ⅰ』―【0/0/2】 ――低ランクのアイテムをマテリアルに解体する。【ギルド公認】

  →『設計図保管装置Ⅰ』―【0/0/2】 ――マテリアルを回収されたアイテムの構成情報を保管する。【ギルド公認】


   合計消費容量――【8】

   全アプリ使用時合計消費マテリアル――【7】

   合言葉【バトルモード】で『毒付与Ⅰ』以外の全武装を展開する――消費マテリアル【6】


 ◆身体能力ステータス強化アプリ 『アプリ容量リソース/使用時消費マテリアル/最大付与アプリ数』

  →『物資生成Ⅰ』―【1/マテリアル適量/3】 ――設計図の登録された物品をマテリアルを用いて生成する。

                         ――生体、異常物質を除く設計図の登録・複製・削除が可能。

    ―『生存者サバイバーⅠ』―『1/0/0』 

      ――飲料水、簡易食料、栄養サプリ、Ⅰランクの医療系異常物質、簡易野営設備の設計図データ。【ギルド公認】


   合計消費容量――【2】


 ◆固有能力ユニーク ――備考:固有能力の付与アプリに関する使用容量は基本的に0である。

  →『死霊魔術ネクロマンシーⅡ』―【アプリ容量3/使用時マテリアル適量/最大付与アプリ数4】

    ―『死者の儀式ネクロマンス

     ――マテリアルを消費し、死体を活動状態にできる。【ランクⅠ】

     ――マテリアルを消費し、死体情報を持つ死体を生成する。【ランクⅠ】

     ――死体をマテリアルに還元する。【ランクⅠ】

     ――死体にマテリアルを保有させる。【ランクⅡ】

    ―『冒涜の墓穴Ⅰ』 ――所有する死体の死体情報を保管する。【保管最大数10】

              ――簡易的な死体情報を閲覧可能。

              ――死体情報永続保護可能数【1体】

    ―『死者忠誠度最大』 ――復活させた死者の反逆を防止する。

    ―『肉体改造Ⅱ』 ――マテリアルや素材を消費し、生物・死体を改造する。


   合計消費容量――【3】


                ◇◆◇◆◇


 さて、スマホに異常がないことを確認した俺はそのまま部屋を出た。家を出るときは布団以外の私物を残さないようにしている。補充したマテリアルもいちいち全部回収してるしな。

 その理由はたったひとつだ。建物とその設備はギルドの警備依頼で冒険者と契約しているが、中に入っている人間とその人間の持ち物はまた別だからだ。

 俺が害されようが、財産が盗まれようが都市の防衛軍も、冒険者ギルドも守ってはくれない。

 都市の下層民はスラムの住人とほぼ同じぐらいの人権しかない。

 いや、闇属性だから、もっと酷いぐらいか。

(俺ぐらい稼いでりゃ普通はさ、もっと良いとこ住めるはずなんだけどな)

 冒険者も下積みから初めて八年ぐらいか。使いっぱしりや荷物持ち、モンスターとの壁役だのを必死でこなして、経験と知識を積んで、なんとか搾取される立場から独り立ちして、ギルドの貸出品のスマホや、マテリアル回収装置を安くても私物に変えて、闇属性に課される高い税金も払ってよ。

 それで、それでなんだっけか。俺ってなんかやりたかったような気もしたが。

(ああ、そうだ。俺は、ヒジリの傍に立てるような人間になりたかった……んだよな?)

 あの女のために偉くなりたかったのか? 自分に自分で確認してしまい、ふと困惑で立ち止まってしまう。

 ヒジリのことを考えても、もうドキドキなんかしたりしない。運命の女だとかも思わない。というか、俺、なんであんなにがんばれたんだろう――っと、後ろからやってきた人に突き飛ばされる。

「止まってんじゃねーよ! 闇属性!! つかてめー、もっと道の端歩けやカスがッ!!」

 言うだけ言って去っていくチンピラみたいな格好の奴に言われて――……俺は黙って道の端に寄った。

 冒険者の俺が本気で戦闘すればあんなチンピラぐらい楽勝に叩きのめせる。言われっぱなしなんてことにはならない。

 でも、開拓都市オウギガヤツでは闇属性は道の真ん中を歩いてはいけないという法がある。

 闇属性は黒いローブを身に着けなければならない。闇属性は往来や商店、公共施設で顔を見せてはならない。闇属性が三人以上集まってはならない。闇属性が集会を開催・参加してはならない。闇属性が都市上層・中層区画に住んではならない。闇属性の冒険者の装備は制限されなければならない、ならない、ならない。

(くそ、こんな都市、出てってやる。準備ができたなら、すぐにでも……)

 でも準備……都市を出る準備って何すりゃいいんだよ。役所に行けばいいのか? そんなことを考えながら俺は冒険者ギルドにたどり着く。

 考え事をしながら、ゆっくりと歩いてきたので結構な時間が経っているが問題はない。

 闇属性持ちはギルドを早朝から利用してはならないことになっている。良い依頼は早朝に来なければ獲得できないけど、まぁ闇属性に良い依頼をくれる受付嬢はいないから問題はない。

 そんな俺を見てか、珍しい人間が声を掛けてきた。

「おう、ゲンジョウじゃねーか。どうした? 珍しいな? がははは」

「フウマの爺さんじゃないか」

「そうだよぉ。フウマの爺さんだよぉ。くっくっく」

 俺と同じ黒いローブに身を包んだ、コタロウ・フウマという闇属性冒険者の爺さんがギルドに併設された酒場のテーブルから俺に話しかけてくるのだった。

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