〜ランク別武闘大会・開戦〜
〜ランク別武闘大会・開戦〜
闘技場には全身に響くほどの大歓声が轟いている。
一般の方や協会関係者、クエストに行かずに観戦に来ている底ランク冒険者に、冒険者に憧れる子供たち。
王宮騎士団の人まで来ている、騎士団の人たちは恐らくスカウトのためだろう。
毎年何人かは騎士団に引き抜かれるらしい。
それが目的なのか、開催には王宮からも寄付金が出されるとか。
私も
「去年より人が多いでやんすね」
「今回で初開催から」「六回目だしな!」
双子さんの言う通り今回が開催六回目。
受付嬢になったばかりの時観戦したことはあるが、前回大会では冒険者を率いて参加していたため、こうして観客席から観戦するのは新鮮だ。
なんせその前回大会では、初参加にもかかわらず大勝利という伝説を残している。
初開催から三年目ということもあり随分と賑やかになり、闘技場周辺は屋台まで出ていてお祭り騒ぎだ。
「今日の勝者と私たちが戦うことになるので気合入れて観戦しますよ!」
「無論でやんす!」
「「あいあいさー!」」
私たちは気合を入れて闘技場に入っていく。
関係者席をあてがわれたため、双子さんと鬼羅姫螺星さんには先に座って待っていてもらう。
私は控え室にいるメル先輩とレイトに挨拶にでも行こうと思い闘技場の裏に足を向ける。
先にメル先輩の控え室に挨拶に行こう、そう思って裏口の分かれ道を進もうとしたら……
「おやおや〜♪ セリナったら♫ 先にメルさんへ挨拶しに行ってしまうのかい?♩」
……見つかった。
「だってレイトさんは自分から来てくれると信じてましたからね」
「おおっと、これは一本取られたね?♪」
小首を傾げながら可愛らしく笑うレイト。
全くこの人はいつも行く先々にふらっと現れる。
しかも背後から急にオカリナの音が響いてくるもんだから、毎回びっくりするこちらの気持ちにもなって欲しい。
「そんなことよりレイトさん? こんなところで油売ってていいんですか?」
「私の担当冒険者たちは優秀だからね?♩」
こうは言っているが、レイトは確か……闘技大会では毎年最下位だったはず。
まあそれも仕方ない。 彼女の担当冒険者は中衛と後衛に強者が揃っていて、前衛は盾役が多い。
私が一緒に仕事したのは
あの人には色々と助けられたし、キャラが濃かったから覚えている。
っていうか第二世代はみんなキャラが濃い。
「まあ、あと三十分ほどで一回戦が始まるからさ♬ 君も私たちの奏でる旋律に酔いしれていってくれよ?」
「ああ、はい。 善処します」
今年は何故か自信満々らしい、しかし相手のメル先輩はこの闘技大会では結構強い。
前回はエキシビジョンマッチでキャリーム先輩が追い込まれるほどの強さだったとか?
私も決勝で当たって銅ランク冒険者が敗北した。
そんなふうに前回大会のことを思い出しながらメル先輩の控え室に挨拶に行く。
「セリナ! もしかして偵察に来たのかしら?」
「おっ! セリナさんじゃん! ひっさしぶりだなぁ!」
控え室で出迎えてくれたのはメル先輩とシュプリムさん。
この人は鋼ランク冒険者で、直近だと
鋼ランクの代表はこの人だったか……いや、ちょっと待った!
「シュ、シュプリムさんも代表だったのですね! 健闘を祈りますよ?」
「あ、やっぱ前回のこと覚えてない感じ?」
……やはりそうだったか、この人は前回も鋼ランクの代表だったのだろう。
接点がなかったし、ぺろぺろめろんさんが瞬殺してしまったから全く印象になかったのだが、今の一言で確信した。
「今回は前回みたいには行かないっすよ? 何せ俺の相手は夢時雨だろ?」
「まぁ、そうなるとは思いますが、うちの鋼ランクは脳筋が多いので怪我には気をつけてくださいね?」
相手がぺろぺろめろんさんじゃないなら負ける気がしない、とでも言いたそうな顔でにやけているシュプリムさん。
夢時雨さんもかなり強い、シュプリムさんは武闘派の中でも野生児と戦ったことがないのだろうか?
彼に戦術とか駆け引きは通用しないのだ、完全な本能型。
パイナポの攻撃誘導も本能的に誘われていることに気づき、ぬらぬらさんの高速攻撃すら感覚だけで対応できるほどの野生児。
おまけに体が異常に柔らかいため、普通ならあり得ない角度からの攻撃が可能なのだ。
「まぁ、俺の戦い、楽しみにしててくれよ!」
「ふふ、セリナ? 言っておくけどシュプリムさんはね……ぺろぺろめろんさん以外に負けたことないのよ? それに今年はすいかくろみどさんも出ないのでしょう?」
……この二人の意味深な嘲笑は一体なんだ?
「まぁ、金ランクにはぺろぺろめろんさんに出てもらいますからね」
「対人戦はね、実力の上下よりも相性の良し悪しが鍵になるのよ? そして前回の私は腑抜けだった時の私……今回は違うわ?」
なんだろうか、メル先輩もシュプリムさんも、強者の風格みたいなオーラをビンビンに振りまいてる気がする。 なんだか心配になってきてしまった。
私は、大変な計算違いをしていたのかもしれない。
☆
メル先輩の控え室を出た私はダッシュして対戦名簿を確認しに行く!
メル・チーム名「サンクルフィーフォ」
鉄ランク・カシュウ
銅ランク・ぽぽるぽ
鋼ランク・シュプリム
銀ランク・
金ランク・
……ちくしょう、なんだこのカッコいいチーム名。
フランス語をもじって最強の五人とでも言いたいのか?
それにしてもこの世界はモンスターの名前といいフランス語もじりが多い気がする。
というかメル先輩のチームは銀ランクと金ランク代表が規格外にやばい!
そうだよ! 最近本調子に戻ったメル先輩は、以前ずっと彼女を慕っていた高ランク冒険者と契約し直したんじゃん!
メル先輩が落ち込んでいる間という条件でクルルちゃんが担当していたやばい奴らが、今はメル先輩の担当に戻っている!
私はまたダッシュして鬼羅姫螺星さんたちの元へ向かう。
「ど、どうしたんでやんすか? ものすごい慌て用でやすが……」
「メル先輩の代表が! えげつなくなってます!」
私は肩で息をしながら対戦名簿の写しをみんなに見せる。
「金ランクは朧三日月か〜」「まぁあのゴリラ女なら平気だろ!」
「双子さん! 朧三日月さんの噂、知らないんですか?」
私は聞いたことをそのまま伝える。
朧三日月さんは第一世代で、双子さんや夢時雨さんと一緒で
第一世代の数少ない生き残りだ。
しかし当時幻影狼討伐戦に参加していなかった第一世代の中で、唯一金ランクまで上り詰めている。
その理由は単純だ。
「この人! たった一人で
「そりゃあ朧三日月は、念力猿が相手なら相性抜群でやすし?」
鬼羅姫螺星さんは何言ってんだこいつ? とでも言いたそうな表情だが、逆になんでこの三人はこんなに平然としているのだろうか?
「そりゃあ、レイトさんの」「このラインナップなら」「十中八九」「メルさんが勝つと思うよ」
「しかしうちの銀・金ランクはぬらぬらの嬢さんにぺろぺろめろんの嬢さんでやんす、そんなに慌てなくても彼女らを信じてあげるでやんす」
二人の
そうだよ、私の代表は大会無傷無敗のぬらぬらさんに、圧倒的パワーを持つぺろぺろめろんさん。
今できることは、この試合をしっかりと見てみんなに少しでも情報を持ち帰ること!
「今日はこの試合の情報を俺らでみんなに伝えるために来たでやんす」
「シードの強み」「存分に生かしちゃおうぜ!」
その後、落ち着きを取り戻した私は真剣に試合の展開を見守った。
☆
「メル先輩の圧勝です」
試合が終わった後、私たちは訓練場に向かう。
代表五名を先頭に、みんなで私を円状に囲って話を聞いてもらっている。
「戦績は四体一だったでやんす」
「俺らが見ている感じだと」「シュプリムがちょっと厄介だな」
「朧三日月さんと神怒狼夢さんも強かったですよ! まぁ、ぬらぬらさんとぺろぺろめろんさんなら大丈夫でしょうけどね!」
私は試合前動揺していたのが嘘のように、普通に観戦してきた感想を言う。
「確かにあいつらは問題ないだろう」「少なくてもゴリラ女の敵じゃねー」
「おいこら! 双子! お前ら今すぐ生意気な口聞けないようにしごきまわすからこっち来なさい!」
ぺろぺろめろんさんが悪口に鋭く反応し、双子さんたちはすぐさまトンズラした。
逃げる二人を追いかけるぺろぺろめろんさんは心なしか楽しそうだ、もしかしていじられて喜んでるの?
閻魔鴉さんも少し頬が赤いし、なんだこれ?
「セリナさん、神怒狼夢さんは確か兎科の獣人で、殴るヒーラーなどと呼ばれていましたね? 彼はダメージを与えることで相手の魔力を吸収し、自らのコンディションすら治癒してしまうとか?」
そう、ぬらぬらさんのいう通り、銀ランクの神怒狼夢さんは兎科の獣人で、薄桃色の短い髪。
つぶらな瞳で、儚げな表情をしている男子だ。
兎科の獣人なのに、男子。 残念だよ、本当に。
そんな事はさておき、彼の能力は水魔法を利用して相手に与えたダメージ分の魔力を吸収し、自分を治癒する。
これは攻撃魔法としてではなく回復魔法にカウントされるらしい、確かに攻撃自体は普通の攻撃だ。
しかし彼の強みは、相手にダメージを与え治癒魔法で怪我を全て治したら、次に治すのは自分自身のコンディション。
人である以上、誰でもある好調不調すらもその治癒魔法で絶好調へ回復する。
もちろんスタミナも回復する。
「彼の権能の強みは、攻撃を当て続ける限り回復し続けることです。 ええ、当てることができればね? ああ、哀れな神怒狼夢さん……あなたがお相手するのはこのわたくしなのです」
「まぁ、ぬらぬらはこの大会で無敗。 さらに全試合無傷の女なんだ。 僕からすれば、ケモミミ君がかわいそうになってくるよ?」
ぴりからさんがやれやれと肩を
「そんなことよりも夢時雨の旦那、旦那の相手は厄介でやんす」
「ぼ、僕の相手はそんなに強いんですか?」
夢時雨さんは不安そうな顔で鬼羅姫螺星さんを見る。
「旦那と同類の戦闘スタイルでやんす、しかもやつは風魔法で体の周りに微弱な風を纏ってて間合いに入った相手の動きを察知する、つまり間合いに入った時点で動きがバレてあの薙刀でぶん殴られるでやんす」
さすがは鬼羅姫螺星さん、この人の目は特殊だ。
小人族の中で
しかも同じ風魔法を使うシュプリムさんの意図がわかるのだろう。
常に風魔法を身に纏い、気流を操って自分の姿を消している鬼羅姫螺星さんと、シュプリムさんの風魔法は使い方は違うが原理は同じだ。
「言っちゃ悪いでやんすが、旦那とシュプリムは上位互換でやんす」
「おいおい鬼羅姫螺星! お前獣人の身体能力忘れたか? 完全に上位互換って決めつけんのは早えぞ?」
パーティーメンバーのことを悪く言われたと感じたのだろう、パイナポが不機嫌そうな顔で叱咤する。
「ど、どうしよう……やっぱりパイナポが変わってくれた方が……」
「いやいや、お前が勝てるか勝てないかのやつに俺様が勝てるわけないだろ! 今は、だけどな!」
その後もしばらくみんなで色々話し合ったりしたが、夢時雨さんの相手になるであろうシュプリムさんへの対策は誰も思い付かずに大会当日を迎えた。
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