〜ランク別武闘大会・波乱の幕開け〜
〜ランク別武闘大会・波乱の幕開け〜
大会当日。
私は選手通路でメル先輩と睨み合っている。
「セリナ? いえ……元・王者さん。 今日は正々堂々戦いましょうね?」
「ふふふ、随分と自信満々ですねぇメル先輩。 今回も王者になるのは私たちセリナ組ですよ!」
カッコよく言葉を交わし、回れ右して歩き出す。
あ、なんかこう言うのライバル同士の決戦っぽくてかっこいいかも!
とか思ってかっこつけて歩いてたら、慣れない歩き方のせいで自分の足に足が引っかかって!
……以下略。
観客席で真っ赤に腫れたおでこをさすりながら、隣にいるぺんぺんさんと今回の見どころを話していた。
「結局昨日は、鋼・銀・金ランクの対策やらなんやら話したが、鉄・銅ランクの方はどうだったんだ?」
「その辺は平均以上ってくらいしか分かりません。 ぶっちゃけメル先輩の代表は鉄・銅は名前聞いたの初めてですし、昨日戦いを見てたんですが鬼羅姫螺星さんも双子さんも特に何も言ってなかったので」
私が気まずそうに答えると、ぺんぺんさんの奥に座っていたパイナポが声をかけてくる。
「まぁ、俺らが鍛えまくったし……あいつらは大丈夫だろ?」
……本当に大丈夫なのだろうか。
心配する私の気持ちを刺激するように、とうとう一回戦開始の合図が闘技場に鳴り響いた。
☆
どうやら心配は杞憂に終わったらしい。
……現在、会場は静まり返っていた。
誰一人言葉を発さず、みんながみんな同じ表情で闘技場の上を凝視していた。
闘技場の上に立っているのは一人の男性。
すると、闘技場に立っていたイケメンは、左目にかかっていた前髪をファサッとかっこよく
「審判さん、勝者の宣言……まだですか?」
その一言を聞くと、ぼーっと突っ立ってた審判はふと我に返って勝者の宣言をする。
「しょ! 勝者は、どるべるうぉんさん……です! え、ええっと……」
煮え切らない勝者宣言、それもそのはずだ。
勝者宣言を聞いたどるべるうぉんさんは颯爽と闘技場を去って行く。
物音ひとつ立たない静寂した闘技場。
さっきまでの盛り上がりが嘘のような沈黙の中、眉ひとつ動さかずに去っていくどるべるうぉんさん。
闘技場で起こった事に理解が及ばず、会場のほぼ全員が自分の拳が入ってしまうほどの大口を開けてポカンとしている。
ぶっちゃけ、ド素人の私も何が起きたかよく分かっていない。
なので、ありのまま……今起こったことを説明するとこうなる。
試合開始の合図と同時に、なぜかどるべるうぉんさんは肩の鎧を外して対戦者であるカシュウさんに向かって投げた。
当然、何してんだこいつ? ……って思ったが次の瞬間。
どるべるうぉんさんがパッ! と背後に回ってポカーンとしてるカシュウさんの襟首を掴み、シュバッ! と投げて場外の壁にドーッン!
私が何を言いたいのか分からないでしょう、私も何を言ってるのか分かりません。
と、言うわけで隣にいるぺんぺんさんに解説をお願いしましょう。
今回ド素人の私のために、解説としてぺんぺんさん、パイナポが来てくれているのです。
隣にぺんぺんさん、その向こうにパイナポという席順です。
チームを率いている私たちは、闘技場と同じ高さの観客席から声援を飛ばすため、一番近くで戦いを見ることができるのだ。
昨日は二回席からの観戦だったが、今日は超至近距離、この距離ならさすがのぺんぺんさんも、何があったか詳しく説明してくれるはず!
「ぺんぺんさん! 今何が起きたんですか?」
「……あいつは今何をしたんだ?」
「ぅお前も分からんかったんかーい!」
思わず裏手で肩を叩いてしまった。
私の急なツッコミにさらに驚き、目を回し始めるぺんぺんさん。
忘れていた、ぺんぺんさんは近距離戦が苦手だから中衛でサポートに徹するスタイルになっていたんだった。
もしかして人選間違えたかな? などと思っていると、パイナポが興奮したように大きく息を吐いた。
「いやぁー、今のはマジで半端ねぇなぁ! どるべりんのやつ!」
説明しよう! 『どるべりん』とはここ数日の特訓期間中に定着したどるべるうぉんさんのあだ名だ! 命名はもちろんぺろぺろめろんさん。
パイナポは目を爛々と輝かせ、興奮した子供のように顔の周りがキラキラしている。
戦いたくてうずうずしているようにも見えるが、こいつは重度の戦闘狂だから仕方がない。
「パイナポ? 今何が起きたか分かったのか?」
「ん、ああ。 辛うじて分かったぞ?」
……パイナポですら辛うじて分かったの?
あのイケメン一体何者? 本当に鉄ランクなの?
思わぬカミングアウトに、私はごくりと喉を鳴らした。
ぺんぺんさんも身を乗り出してパイナポの次の言葉を待っている。
「なんて言えばいいんだろうなぁ……セリ嬢、手品って知ってるか?」
手品? それは得意分野だ。
私はすかさず親指を握り、握った親指を小指側から少し出して、反対の手の親指をくっつけるように拳に入れる。
そしてパイナポの前に突き出しながら
「親指が伸びた!」
「……っ」
「……?」
沈黙。
「あ、ああ。 伸びてるように……見えるな!」
困った顔のパイナポを見た私は、一気に顔が熱くなりたまらず両手で顔を覆う。
パイナポは気をとりなおすように咳払いをする。
「わ、わかりやすく説明するとな! どるべりんのやつ、開始と同時に肩鎧外して投げただろ? 恐らく見てた全員が、思わず外された肩鎧に視線を送って『何してんだ?』とでも思っただろうな」
確かに私もあの行動を見て首を傾げた。
鎧壊されたら負けなのに、自分から外すバカは初めて見た。
何がしたいのか分からない、意図も全く分からない。
ぶっちゃけ私は、あの子もしかして血迷った? とすら思ってしまったのだ。
私は素人だからそう思ったのかもしれない、けれどぺんぺんさんすら同じことを思っていたのだろう、パイナポの言葉に何度もうなづいていた。
「人間って理解が追いつかない物を無意識に注意深く見ちまうんだ。 対戦相手のカシュウってやつもどるべりんの行動を見て戸惑ったんだろうな。 その隙にあいつは背後に回り込んで、突っ立ってるカシュウを場外に放り投げたわけだ。 ちなみにあの最初の動きがなけりゃ、カシュウも反応できる速さだったぜ? あいつが早すぎるわけでも特殊な能力も使ってない。 言うならばあいつは道化師だな」
すっ、すっげー!
どるべるうぉんさん超カッケー!
つーか、パイナポの説明わかりやすすぎだろ!
パイナポの解説が終わると同時に少しずつ拍手や歓声が湧いていき、すぐに耳を突き刺すような大歓声が起きる。
「なんだよ今の! あいつ本当に鉄ランクなのかよ!」
「見て見て! あの人超イケメンよ!」
「あいつは確か、育成学校を主席で卒業したギルマネーだな! もう鉄ランクになったのかよ!」
客席からはそんな声が聞こえてくる。
その歓声の中、闘技場の壁に寄りかかったまま硬直していたカシュウさんも、自分があらためて敗北したことに気がついたのだろう。
悔しそうに地面に拳を突き立てながら涙をこぼしていた。
なんか、うちのイケメンがすみません。
控室からメル先輩のチームメイトがカシュウさんに駆け寄り、背中をさすりながら宥めている。
その光景を見ながら引き
そして!
「まずは一勝、だな!」
と、パイナポは満面の笑みで私に視線を送った。
どうやらこの数日間で、私の担当冒険者たちは想像も絶する強さを身に付けたらしい。
この一試合目を見て私の不安は消し飛んだ。
きっとこのメンバーなら、相手が誰であろうと負けることはない。
次の試合はパイナポ自らが鍛え上げたとーてむすっぽーんさんだ。
彼の強さは私が思うに、既に銅ランクにしておくのは勿体無いと思うほどだ。
高鳴る鼓動を感じながら、ぺんぺんさんとパイナポの三人で力強いハイタッチを交わしていた。
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