〜緊急クエスト・負傷者を救出せよ!〜

 〜緊急クエスト・負傷者を救出せよ!〜

 

 現在、パイナポは涙目でぐったりと倒れている。

 

「だっ、だから! 加減してって言ったじゃないですか!」

 

「でっ! ですが僕も一泡吹かせようと必死だったので!」

 

 などと喧嘩し始めるとーてむすっぽーんさんとどるべるうぉんさん。

 

「とっ、とりあえず治癒はかけたからしばらく安静だし! 骨折れてなくて本当によかったし!」

 

 パイナポの脛にどるべるうぉんさんの裏拳が炸裂した直後、青ざめた顔のぺんぺんさんと夢時雨さんは足を車輪んのように動かしながら回復士を探しにいった。

 

 たまたま協会の入り口には、クエストから帰ってきていたぺろぺろめろんさんのパーティーが、クエスト達成報告をしようと私のことを探していたらしい。

 

 その三人を見つけた二人が、半ば誘拐してくるような形でべりっちょべりーさんを担いで戻ってきた。

 

 後ろからは鬼のような形相で、罵詈雑言を浴びせながら追ってくるぺろぺろめろんさんとすいかくろみどさんがいてちょっとひやっとした。

 

「なるほど〜、それなら急に拐って言ったりしないでちゃんと理由話してくれても良くな〜い?」

 

「本当にすまん、俺もキャステリーゼちゃんも、ついでに時雨もかなり焦っていたのだ、その……ものすごくエグい音だったからな」

 

 当時のことを思い出し、眉をしかめながら脛をさするぺんぺんさん。

 

「にしても、うちらに内緒で何おもしろそ〜なことしてんだし〜、混ぜてよ〜」

 

 すいかくろみどさんは、とーてむすっぽーんさんとどるべるうぉんさんに詰め寄っていく。

 

「すいかくろみどさんが訓練に付き合ってくれるんですか! ぜひお願いします!」

 

 嬉しそうに目を輝かせるとーてむすっぽーんさん。

 

 その日から私の担当冒険者たちは、朝イチでクエストを持っていき昼過ぎに帰ってきては終業時間まで訓練場にこもるようになった。

 

 私もみんながこもっていると聞いた日、一日の仕事を終えて訓練場を覗いてみると……

 

「あれ? なんで増えてるの?」

 

「とってぃ! お前筋力上がったな! けど振り下ろすだけじゃなくてもっと攻撃にバリエーションを増やせ!」

 

「はい! 師匠! もう一本お願いします!」

 

 全身がっちりと鎧をつけたパイナポと、楽しそうに訓練するとーてむすっぽーんさんや

 

「オラァ! さっさと立てクソ雑魚! この程度で寝てたら大会じゃあ通用しねぇぞぉ!」

 

「すみません夢時雨さん! もう一度! お願いします!」

 

 戦闘中のため、人格が豹変した夢時雨さんのスパルタトレーニングに、泣き言一つ言わずに応えているどるべるうぉんさん。

 

 後方には、そんな四人に器用にアドバイスをしているぺんぺんさんがいた。

 

「すいかくろみどさん、やはりかなりお強い……三発も食らってしまいました、私は今一度自分を見直す必要がありそうです」

 

「はぁ? ぬらりん、それもしかして嫌味? 三発しか当てらんなかったし、少しかすっただけっしょー?  ちょ、もっかいやらせてくんない?」

 

 などと言いながらありえないスピードの攻防を繰り広げる二人を、呆れながら見ているぴりからさん。

 

「おやおや〜? セリナさんも見にきてくれたの〜? うちらで練習してたらいっぱい人集まっちゃたんだ〜。 もううちらみんな仲良しすぎっしょ〜!」

 

 ぺろぺろめろんさんは暇そうにしながら双子さんたちと話していたが、私の姿を見て嬉しそうに駆け寄ってくる。

 

 心なしか、双子の兄、閻魔鴉えんまからすさんの顔が赤かったのは気のせいだろうか?

 

「ぺろぺろめろんさんは休憩中ですか?」

 

「いや、なんかね〜。 ぬらりんと練習してたら急にくろみっちが『うちにもやらせて!』とか言ってきて。 譲ってあげたんだけどそれっきり、ずっと変わってくんないの〜」

 

 などと頬を膨らませながら二人の攻防を観ている。

 

「セリナさん、三日後は一回戦が始まるが、偵察に行くでやんすか?」

 

「ひゃあぁ! 痴漢ですか!」

 

 急に、音もなく背後に現れるのは小人族の鬼羅姫螺星きらきらぼしさん。

 

 暗殺者の彼は常に気配を消しているため、声をかけられてついつい驚き悲鳴を上げてしまう。

 

 無論、体には一切触れられていないけど、反射的に痴漢と叫んでしまった。

 

 これは冤罪というやつだ、ごめんなさい。

 

 鬼羅姫螺星さんは首をちょこんと傾げながら、その可愛らしい幼子のような顔を向けてきている。

 

「ち、痴漢とはなんでやんすか? まぁそれはいいでやんす。 試合を見に行くなら、俺も同行した方が相手の情報も詳しくわかるはずでやんす。 よければ同行してもいいでやんすか?」

 

「あ、ああ! もちろんいきますよ! 鬼羅姫螺星さんが同行してくれるのは心強いです! あなたの魔力眼は頼りになりますからぜひお願いします!」

 

「いいなぁ〜、でも見てるだけなのは退屈だろうし、うちはいつも通りクエスト行って訓練場かな〜。 っていうかきらりん暇ならうちの相手してよ!」

 

 ぺろぺろめろんさんに急に絡まれる鬼羅姫螺星さん。

 

「いいでやんすが、暗殺者の俺では正面からの戦いでぺろぺろめろんの嬢さんに勝てる気がしないでやんす。 そこで暇そうにしてる双子も混ぜていいでやんすか?」

 

 意外と乗り気な鬼羅姫螺星さんはさらっととんでもない提案を……

 

 しかし、待ってましたとばかりに勢いよく立ち上がる双子さん。

 

 特に閻魔鴉さんなんか、嬉しそうにニヤニヤしている。

 

「あ、いいよ別に〜! おーい双子くーん! うちの相手してよ〜! きらりんも一緒にやってくれるって〜!」

 

「はぁ〜?」「お前の攻撃!」「食らうと痛いから」「嫌に決まってるだろ〜」

 

「んなこと言わないでよ〜! 暇なんでしょ〜? それとも何? ビビっちゃってる感じ?」

 

 表面上はめんどくさそうに駄々こねていた双子さんは、ぺろぺろめろんさんの挑発を聞き悪戯っ子のように満面の笑みを作った。

 

「上等だゴリラ女!」「早く来い鬼羅姫螺星!」「こいつに一泡」「吹かせてやろうぜ!」

 

「ちょっ! あんたら! ゴリラ女ってもしかしてうちの事? よーし全力で相手してあげっから覚悟しなさい!」

 

 ギャーギャーと喧嘩しながら戦う準備を始める三人に、ため息をつきながら近づいていく鬼羅姫螺星さん。

 

 彼の背中を見送りながら思う。

 

 前回の大会ではこんなふうにみんなで楽しく訓練したりとかしていなかった。

 

 いつの間にかみんな仲良くなっていて、こうしてお互いがお互いを尊敬し合っている。

 

 ……すごく楽しそうだ。

 

 青春しているみたいで羨ましく感じる。

 

 そんなことを思いながら苦笑いしていると、訓練中の冒険者たちが私の存在に気づいて声をかけてくる。

 

「セリナさん! いらっしゃったんですか! パイナポさんの攻撃誘導が、一人だと攻略できません! アドバイスをいただけないでしょうか!」

 

「こちらもお願いいたします! というか、どうかすいかくろみどさんを説得してはいただけませんか? もうすでに二時間もの間ぶっ通しで手合わせをしているので……」

 

「セリナさん! 今からこの生意気な双子をボッコボコにしちゃうから! そこでうちの勇姿を見ててよ!」

 

 などとみんなが口々に私を呼ぶ。

 

 私は少し困りながらもみんなの元に駆け寄っていった。

 

「私! 一人しかいないんでそんなにいっぺんに回れないですよ〜!」

 

 困ったように返事をしながら、一人一人順番にアドバイスして回っていった。

 

 いつの間にか私も、みんなの輪に入れてもらっていたようだ。

 

 私たちは今大会シードになっている。

 

 三日後の初戦、勝ったチームが私たちの相手になる。

 

 そしてそれに勝てば、十中八九決勝に上がってくるのはキャリーム先輩のチーム。

 

 でも、相手がどんなに強くても、みんなと一緒なら

 

 ——————負ける気がしない。

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