〜緊急クエスト・攻撃誘導を攻略せよ〜

 〜緊急クエスト・攻撃誘導を攻略せよ〜

 

 私はなぜか、訓練場に連行された。

 

 この訓練場は冒険者のために用意されたものであり、大会期間以外も解放されている。

 

 小体育館のような大きさで屋根付きだ。

 

 壁は土壁で作られているからナイフ投げの練習もできるし、武闘大会で使用する予定の木製武具も無料貸し出しをしている。

 

 ちなみに、貸し出している武具を壊したらクエストの報酬から天引きされる。

 

 冒険者協会の事務員が常にこの訓練場を監視しているため、暴れたりしたら逐一上に報告されてしまうのだ。

 

 私が受付嬢になったばかりの時、パイナポとよくやらかして、上からしょっちゅう説教されていた。

 

 当時破壊した土壁の跡が未だに残っている。

 

 その壁を横目に見ながら含み笑いをしていると、夢時雨さんが不安そうな顔を向けていることに気がついた。

 

「セ、セリナさん。 一体何がどうしてこうなったんですか?」

 

 急に連れてこられて、何をどうすればいいかわからず困っているのだろう。

 

 この人は戦闘時、ものすごく口が悪くなるが、平常時はものすごく腰が低い。

 

「というか俺は中衛だから今回の大会は関係ないと思うんだが……」

 

 ぺんぺんさんは腰につけたぬいぐるみ……もといキャステリーゼちゃんを優しく撫でながら文句を口にする。

 

 あのぬいぐるみはキャステリーゼちゃんという名前で、この人はいつも事あるごとにあのぬいぐるみに話しかけている。

 

 そしてこの現状を作り出したパイナポはと言うと、大人気なくとーてむすっぽーんさんとどるべるうぉんさん二人をこてんぱんにしている。

 

「おいおい! まだへばんの早えぞ! せめて俺様に剣を使わせるくらいはしてくれよ!」

 

 パイナポはさっきから肩に訓練用の木製大剣を担いだまま二人を相手している。

 

 ちなみに防具は付けていない、攻撃を喰らわない自信があるのだろう。

 

 二人は「いくら木製の片手剣でも、当たれば怪我をしてしまいます!」とか言って防具をつけさせようとしていたが……

 

 パイナポはその二人に対してこう言った。

 

「俺様が怪我? お前ら、攻撃当てられる気でいんのか? 当てられるもんなら当ててみろよ!」などと言って二人を挑発していた。

 

 木製とは言ってもしっかりと作り込まれているから、生身の体に当たれば痛いではすまない。

 

 相当自分の回避力に自信があるのだろう。

 

 改めて見てみると大口を叩くだけあって、パイナポはかなり強いというのがよくわかる。

 

「あの二人、鉄ランクと銅ランクですよね。 かなり筋がいいですね」

 

「まあ、実力で選んだ代表二人ですからね。 ですがパイナポさん、あの位置から軸足動かしてないですよ?」

 

 そう、パイナポはさっきから軸足も動かしてなければ、剣も使っていない。

 

 夢時雨さんは二人を褒めるが……今見ている感じだとどうしても、本当にあの二人は強いのだろうか? と自分を疑ってしまう。

 

「パイナポは対人型モンスターをいつもなぶり殺しにするほど駆け引きがうまいからな、キャステリーゼちゃんも大人おとな気ないって言っているぞ」

 

「僕らはパイナポが今使ってる技を攻撃誘導と呼んでます」

 

 ……攻撃誘導?

 

 何? そのかっこいい技?

 

 しかしパイナポは戦闘に魔力は使わないはず。

 

「ちなみに、彼は魔力使ってないですよね? どうやってそんな技つかってるんですか?」

 

 私は思わず聞いてみた。

 

「あれは魔力なんて使ってないぞ、あいつの技量スキルだ。 今の動きを見ろ、どこなら攻撃が当たると思う?」

 

 パイナポを顎で示しながら質問される、わたしは戦いとかよくわからないけど見たまんまのことを言ってみた。

 

「右腰がガラ空きなんじゃないですか? あっでもとーてむすっぽーんさんも右腰狙って……あっ、避けられちゃった」

 

「誰でも今の体制なら右腰を狙う。 もし俺が片手剣を持っててもそうするだろう。 だがあいつはそれを誘って、タイミングを合わせて紙一重で避けるんだ。 『攻撃される場所をあらかじめ分かっていれば、目を瞑ってても避けられるぜ?』なんて言っていたが、忌々しい。 あいつはいつもああやって、当たると思わせたところをギリギリで避ける。 つい攻撃が当たると錯覚し、力が入ってしまった攻撃側は避けられた瞬間バランスを崩す」

 

 バランスを崩したとーてむすっぽーんさんの足を払い、肩を突き飛ばしてちょうど攻撃しようとしていたどるべるうぉんさんと衝突させた。

 

 まるで子供と遊ぶ父親のようだ。

 

「あの二人は絶対に弱くはないんです、鉄ランクの方なんてかなり身体能力が高い。 鉄ランクと言われても信じられないほどの実力です。 けど、パイナポが相手をすると弱く見えてしまう。 誰でも勝てるんじゃないかと錯覚してしまう……パイナポ、少しは加減してあげないとあの二人は挫折しちゃいますよ?」

 

 夢時雨さんはあたふたしながら私の顔を見てくる。

 

 確かに挫折されては困る。 あの二人はかなりの実力者だ。

 

 普通にパイナポは対人戦だと強すぎるらしい。

 

 二人がかりでいっせいにかかっていっても攻撃が擦りもしない。

 

 パイナポってあんなに強かったのか?

 

 運動能力的に夢時雨さんを代表にしてしまったが、実際どっちが強いのだろうか? なんて考えてたら、夢時雨さんがモジモジしながら呟いた。

 

「やっぱり僕よりパイナポが代表の方が……」

 

「何を言っている? お前あいつに負けたことないだろう? お前はいつも隙があろうとなかろうと関係なしにゴリ押しするからな、頭が悪すぎて逆にやり辛すぎると言われていたぞ」

 

 ……たった今、夢時雨さんも恐ろしく強いことが発覚した。 そして超絶脳筋であることも。

 

「お前ら攻撃が正直すぎなんだよ! もっと頭使え! 考えて考えて考えまくれ! 俺を出し抜いてみろ!」

 

 パイナポは呆れたように肩を窄めながら、倒れ込む二人に声をかける。

 

 夢時雨さんよりパイナポの方が頭悪そうだが、戦闘時の駆け引きはぺんぺんさんが言うように緻密で丁寧だ。

 

 しかしあんなにボコボコにされてるのに……

 

 滝のように汗を流しているのに……

 

 二人は一向に諦めようとしない。 肩で息をしながらも、なんとか立ち上がる。

 

「考えて——————出し抜く?」

 

「せっかく、セリナさんの担当冒険者になったんだ……こんなところで挫けてたまるか!」

 

 立ち上がり、武器を構える二人。

 

 それを見て心底嬉しそうに笑うパイナポ。

 

 全く、パイナポはいつもああやって強くなろうと努力している冒険者に、なにかとお節介をする。

 

 頑張っている二人に免じて、調子に乗ってるパイナポには少しばかり痛い目にあってもらおうじゃないか。

 

「ちょっと! おふたりさ〜ん! わたしに相談しに来たのは、強くなるためですよね?」

 

 へばっている二人に声をかけると、キョトンとした顔で視線を向けられる。

 

「私が、パイナポさんを出し抜くためのアドバイスしちゃいますよ? 一緒に強敵を倒すための作戦をたてましょ〜! 強くなりたいと言うあなた方の願いを叶えるのが受付嬢の仕事ですし。 ちなみに、もう秘策は考えてあります!」

 

 そう、私も大概お節介なのかもしれない。

 

 二人は嬉しそうに目を輝かせているが、その背後にもう一人。 ものすごく狂気的な笑顔で私に視線を送るヤツがいた。

 

「セリ嬢が、俺を倒すための秘策を考えただってぇ! おい! 早くその二人にそれを教えろ! 俺はお前の秘策を使ったこいつらと今すぐ戦いたい!」

 

 私の隣で呆れたようにため息をつくぺんぺんさんは、こっそり耳打ちをしてきた。

 

「たぶん、これがあいつの本当の狙いだったんじゃないか?」

 

 なるほど、最初からこれが狙いだったのか。 なんだかしてやられた気分だ。

 

 しかし可愛い子犬のような瞳で私の元に走り寄る二人を見てると、この二人と一緒にあの迷惑な男に一泡吹かせてやりたいと思ってしまう。

 

 この二人は絶対に強くなる。

 

 だからこの機会に自信をつけてもらい、さらにワンランク上の強さになってもらうとしよう。

 

 私が本気で立てた作戦で、ひぃひぃ言わせてやろうじゃないか!

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