〜ランク別武闘大会・準備期間〜

 〜ランク別武闘大会・準備期間〜

 

 カフェエリアで鉄ランクのどるべるうぉん、銅ランクのとーてむすっぽーんの二人はセリナが来るのを待つ間、何気なく会話をしていた。

 

「とーてむすっぽーんさんは銅ランクになるまで結構かかったんですね……」

 

「僕はぺろぺろめろんさんと違って才能があるわけではなかったですから」

 

 同じ第五世代で、冒険者になった時期も近い二人は気が合ったのか、長々と冒険のことや、日頃セリナから学んだ知識を話していた。

 

 そこに楽しそうなものを見つけたような表情で、一人の冒険者が近づいていく。

 

「それにしても、セリナさんは本当にすごいです! 桜花月おうかのつきの大武闘大会の成績といい、蒼海月そうかいのつきの間に上級モンスターを二体も狩ってしまうとは!」

 

 どるべるうぉんは目を輝かせながらつぶやく。

 

「そりゃあそうだぜ、セリ嬢はこの協会の中でもかなり戦闘特化の受付嬢だからな! 担当の冒険者共もかなり強え奴が多い!」

 

「あっ! パイナポ師匠! お疲れ様です!」

 

 二人の会話に急に割り込むのは鋼ランクのパイナポ。

 

 背後にはおどおどした夢時雨が立っていて、受付の方をチラチラと見ている。 視線の先にいるのはチームのリーダーぺんぺんだった。

 

「おいパイナポ、クエスト完了の報告がまだだぞ? キャステリーゼちゃんも待ってるんだ」

 

 ぺんぺんが受付の方から、腰につけたぬいぐるみを見せつけながらパイナポへ呼びかける。

 

「ああ、報告は頼んでいいか? 大武闘大会に向けて俺からこいつらに話がある!」

 

「そっ! そういうことなら僕がぺんぺんと一緒に手続きしてくるから!」

 

 夢時雨が気を遣って席を離れる。

 

 すると、どるべるうぉんは緊張した面持ちで立ち上がった。

 

「ぼっ! 僕は鉄ランクになりました! どるべるうぉんと申します!」

 

「おお! 鉄ランクの代表だな? お前にも話があんだ」

 

 パイナポはさりげなく二人の正面に座る。

 

「そんなことより師匠、セリナさんを戦闘特化の受付嬢と言っていましたが?」

 

「ああ、ここの受付嬢はな、一人一人特化した分野がある。 例えば……あのいつも寝てるみたいな目のオカリナ吹いてる嬢、あいつは危機察知能力が高い。 具体的に言うと、危険なモンスターが発生兆候を予知みてーな速さで気づく。 あいつが一月ひとつきで担当する蹂躙戦の数は常にセリ嬢の三倍だ。 モンスターが群れる前に蹂躙戦で潰しちまうみてーだな。 だからセリ嬢はあいつのランキングを抜けねえんだ」

 

「そ、そんな特徴があったのですね?」

 

「ナンバーワンのちんちくりんは利益を生み出すのがうめえ。 採取クエストでとんでもないお宝を見つけるわ、危険モンスターの遺体をきれいな状態で納品したりしてる。 あいつの持ってくる遺体は一撃で仕留めたモンスターや無傷の状態のものが多い。 水魔法が得意な担当冒険者が多いから窒息死とかさせてんだろうな。 多分あのちんちくりんいなかったらこの協会は赤字になるかもしんねえぞ?」

 

 パイナポは機嫌良さそうに二人に受付嬢の特徴を話していく。

 

「けどな、あの受付嬢どもにもデメリットがある、例えばちんちくりんは担当が多いからな、下のランクのやつはなかなか美味しいクエストにありつけねえし、オカリナの嬢は群れの規模が大きくなる前に潰しちまうから雑魚退治が多い」

 

 とーてむすっぽーんは急いでメモ帳を取り出し、ペンを走らせた。

 

「な、なるほど……」

 

「でっ、では! セリナさんのメリットとデメリットは何なのですか?」

 

 どるべるうぉんの質問に、パイナポは呆れたような表情をする。

 

「お前もセリ嬢の担当なら、聞くばっかりじゃなくて自分で考えな」

 

 パイナポは笑いながら背もたれに体重を預けた。

 

「……っ! そ、その通りです! え、ええっと。 セリナさんは強力なモンスターの討伐が多いとなると、デメリットは命や怪我の危険が高くなること。 メリットは、多くのモンスターとの戦闘経験を得られることですか?」

 

「デメリットはほぼ正解だ、けどメリットは三割くらいしかあってねえな」

 

 どるべるうぉんは腕を組んで考え込んでしまう。

 

 すると、とーてむすっぽーんは少し得意げな表情でこほんと咳払いをした。

 

「まず、モンスターとの戦闘が多くなれば、多くのモンスターへの対処法を学べると言うこと。 つまり自分自身が強くなり、いざと言う時に的確な判断ができます。 それと、セリナさんのアドバイスや戦闘時の知識があれば、予想外の強敵が出てきても自分の力で対処できるようになってくるでしょう」

 

 人差し指を立てながら得意げに語り始めるとーてむすっぽーん。 そんな彼の背後に近づいてくる足音が聞こえてきたのだが……しかし、回り始めた舌は止まらない。

 

「それにデメリットはもう一つあるのではないでしょうか? 強力なモンスターを討伐してるかも知れませんが。 その……セリナさんは容赦がなさすぎて素材が全く手に入りません! モンスターの遺体はほぼ無残な姿になっているので、報酬が周りの冒険者と比べると渋いですからね。 他には……」

 

「お〜い! とってぃ〜! お前さぁ、先輩なら後輩に譲るくらいの配慮しろよぉ! こいつせっかく色々考えてたのによぉ〜。 それに、命が惜しかったらデメリットの話はそのくらいでやめといたほうがいいぞ?」

 

 そう言ってパイナポはとーてむすっぽーんの背後を顎で示す。

 

 とーてむすっぽーんは首を傾げながら振り向くと……

 

「これはこれはとーてむすっぽーんさん、相談があると言われたので来て見れば。 後輩ができたからって先輩風を吹かせたかっただけですか? それとも私に隠れて愚痴タイムですか? 随分と嬉しそうに私のデメリットを話してくれていましたねぇ?」

 

 後ろには目元に影を下ろし、引き攣った笑みを見せるセリナが立っていた。

 

「セッ! セセセリナさん! 違うんです! 誤解です! これには深い訳が……」

 

「ち・な・み・に! 言っておきますが、私は冒険者さんたちが無事に、生きて帰ることを目標にしているので! モンスターをオーバーキルするのは念には念をおいてのことなんです。 そこんとこ! 勘違いしないように!」

 

「はっ、はい! 肝に命じておきます!」

 

 人差し指を立てながら、ずいずいっと顔を近づけてくるセリナの剣幕にあてられ、怯えたような表情で返事をしているとーてむすっぽーん。

 

「おいおいセリ嬢! この前、せっかく見つけた新種モンスターを黒焦げのミンチにしちまったって上から怒られてたんだろ? 上級モンスターをミンチにしちまうようなやつが常にオーバーキルなんてしたら、中級モンスターなんて灰も残らなく——ったたた! 痛い痛い! ごめんって!」

 

 パイナポはセリナに思い切り耳を引っ張られて涙目になっていた。

 

 

 ☆

 私はとーてむすっぽーんさんとどるべるうぉんさんに呼ばれたはず……

 

 会議室で代表発表した後、ほぼ同じタイミングで相談があるとお願いしにきたから二人一緒に話を聞こうとしたのだが。

 

「なんでパイナポさんがいるんです?」

 

「こいつらがここで話してたからだよ」

 

 全く理由になっていないと思うのは、私だけだろうか?

 

「私は二人から相談を受ける予定なので、パイナポさんはぺんぺんさんたちと報酬もらいに行った方がいいですよ? せっかく鍛治師の村から出たクエストだったのに、二人にいい素材取られちゃいますよ?」

 

「あぁ〜、それもそうなんだがなぁ〜」

 

 パイナポは気まずそうな顔で頭をぽりぽりと掻く。 なにやら渋い顔つきでとーてむすっぽーんさんと、どるべるうぉんさんの顔を交互に見ているが?

 

「つまりはあれだ! こいつら代表に選ばれてただろ? 俺は代表になれなかったが、何か協力できる事はないかと思って話をしに来たんだよ!」

 

 なぜそれを先に言わなかったのだろうか?

 

「では、一緒に話聞いていきます?」

 

「ぜひに!」

 

 私は二人に了承を得ようと顔を見たら即座に頷いてくれたので、相談内容を聞いていく事にする。

 

 相談内容は大会に関することだった。

 

 初出場となる二人は緊張しているらしい。

 

 元はと言えばこの大会は、他の冒険者と戦って自分の実力を確認してもらうための大会だ。

 

 私がみんなをその気にさせていたせいで二人は『今からすぐ強くなれる方法を、片っ端から教えて下さい!』などと言いだした。

 

 強くなろうとするのはいいことだが、そんなに必死にならなくてもいい。

 

 私が二人を選んだのは、正真正銘実力で選んでいるのであって……どうやら彼らは、それを実感していない。

 

 少しというか、かなりネガティブなのだ。

 

 二人にはいい機会だと思うし、おそらくこの大会を通じてかなり実力も上がるだろう。

 

 参加してほしくはあるのだが、こんなにもプレッシャーを感じさせてしまうと少し背徳感がある。

 

「セリナさんの担当冒険者になった以上! 不甲斐ない結果で終わらせるわけにはいかないのです!」

 

「僕なんか最近ニックネームじゃなくて、鬼人殺しなんて呼ばれ方ばっかり! みんなからかなり過大評価されてしまってます! この大会で実は弱いなんて知られてしまったら、恥ずかしくて街を歩けません! 昨日なんか幼い男の子にサインを求められてしまいました。 あぁどうしよう! あの幼い男の子の落ち込んだ顔を想像すると夜も眠れない!」

 

 そんな風に困った目で見られると断りずらい……

 

 必死すぎる二人を前にして、私は解答に困る。

 

 二人に自信をつけてもらいたいが、何かいい手はないだろうか?

 

 この二人なら普通に戦えば勝てると思うのだが?

 

 とーてむすっぽーんさんなんか、この前のクエストで鬼人ガルユーマ三体討伐してくるほど強くなっているし、どるべるうぉんさんなんて元々がかなり優秀だったので、すでに十体くらいの小規模な小鬼ルガティットの群れ程度なら一人で狩れるほどだ。

 

 ぶっちゃけ、強すぎてランクと実力は釣り合っていない。

 

 こめかみを人差し指でこづきながら思案をしていると、黙って話を聞いていたパイナポが勢いよく立ち上がる。

 

「話はあらかた分かったぜ! 俺も協力してやる!」

 

 自信満々に声を上げ、ちょうど報酬を受け取って帰ってきたパーティーメンバーを見つけたパイナポは、二人をこちらに手招きをする。

 

「時雨とぺんぺんも来てくれ! 今からこの二人、俺らが鍛えるぞ!」

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