〜冒険者協会本部の陰謀〜
〜冒険者協会本部の陰謀〜
ぺろぺろめろんさんの傷は、回復士の治癒があったとしても全治二週間という大怪我だった。
同じくべりっちょべりーさんも脳に障害が出ている可能性があり、五日間は絶対安静。
冒険者協会の隣に併設された提携病院に入院する二人を、毎日のようにお見舞いに行く私とすいかくろみどさん。
しかし驚くことにぺろぺろめろんさんはたった三日でケロッとした顔で歩き回っていた。
病院の回復士の人たちはあたふたしていたが、ぺろぺろめろんさんは「ぼーっと寝てるのはつまらな〜い!」などと言ってすいかくろみどさんと冒険者協会内にあるカフェエリアでだべっていた。
どんな体してんだあの子は?
クエスト達成した冒険者が戻ってくるまで暇な私は仲良くおしゃべりしてる二人を遠目に見ながらいつもの窓際で日向ぼっこをしていたのだが、クルルちゃんが手紙を持って近づいてきた。
あの手紙には見覚えがある。 冒険者のランクアップが認められた時に本部から届く手紙!
私はすぐにぺろぺろめろんさんたちのことだと察して目を輝かせた。
「セリナ〜! 協会本部から通達が届いてるわよ?」
「分かってますよ! ランクアップの通達ですね! 早く下さい!」
思ったより大きな声が出てしまったようだ、協会内にいた冒険者たちが私の方に視線を集めていた。
無論ぺろぺろめろんさんとすいかくろみどさんも興味深そうな顔で近づいてきた。
私は集められた視線など気にせず、手紙の封筒を慌ただしく破り捨て中身を確認する。
「セリナ興奮しすぎよ? ほらほら、ゴミをその辺に捨てないで」
クルルちゃんは私が破り捨てた封筒を肩をすくめながら拾う。
しかし私は通達の内容を見て、冷静さを欠いた。
通達の手紙を握りつぶし、机に叩きつけた。
☆
「ちょっ、えっ? ど、どしたのセリナちゃん?」
剣幕な表情で冒険者協会の入り口を蹴破って駆け出したセリナに、驚きを隠せず戸惑うぺろぺろめろん。
セリナはよく仲がいい担当冒険者たちに意地悪をしたり、嫌味を言ったりすることがあるが、
握りつぶされた手紙が、セリナの怒りを
驚いて固まっているクルルの隣で、呆然としてしまうぺろぺろめろんとすいかくろみど。
しかしぺろぺろめろんはくしゃくしゃの手紙を丁寧に取り出し、中に目を通した。
手紙に目を通したぺろぺろめろんは、驚いた顔でその手紙をクルルに突き出す。
「ねぇそこの受付嬢さん! 確か……クロロさん?」
「え? いや、いい加減セリナ以外の受付嬢の名前も覚えて下さい! 私はクルルです!」
突然声をかけられ、間抜けな声を上げてから応じるクルル。
ぺろぺろめろんが真剣な表情でくしゃくしゃの手紙を押し付けているので
そして手紙に目を通した瞬間、クルルは驚いて目を見開いた。
【通達】
『ぺろぺろめろん、すいかくろみどの二名は
☆
冒険者協会本部の扉が勢いよく開かれた。
「あの通達、どう言う意味か説明してもらいましょうか?」
開口一番激怒したセリナが協会本部の上層部に怒鳴りかける。
円卓を囲むように座っていた五人の男性は気だるそうに書類から目を離し、怒鳴り込んできたセリナに視線を向ける。
「おやおや、受付嬢のセリナさんじゃないか? まだ就業中のはずだよ? 何か意見があるなら書類をまとめてから出直しなさい」
三十代後半くらいの男が、椅子にどっしりと座ったまま悠々と受け答えする。
「んなこと知ったこっちゃない。 もう一度言いますがあのふざけた通達の意味を教えてもらいましょうか? なんでべりっちょべりーさんだけランクアップを認めないのか私にわかるように説明しろ!」
目が血走っているセリナの口調はかなり荒れていた。
にも関わらず平然とした表情の上層部五人。
「通達に記した通りだ。 回復士のべりっちょべりーは金ランクにする事は認めない。 銅ランクのままだ」
男の行為に、怒りの沸点をとうに超えているセリナはずかずかと歩み寄る。
「その理由を教えろっつってんだよ! 頭こったんねぇのかテメェは!」
胸ぐらを掴み、その男を掴み上げるセリナ。
上層部の男は不機嫌な顔でセリナを睨む。
「君は今している行動がどういうことか分かっているのか? この私を誰だと……」
言葉の途中に拳を振り上げたセリナの腕が、後ろから掴まれる。
「セリナちゃん、ストップ!」
腕を掴んだのはぺろぺろめろんだった。
駆け出したセリナを追ってきたらしい、冷静な表情でセリナを見つめるぺろぺろめろんの顔を見てセリナは掴み上げた男を乱暴に突き落とした。
「ぺろぺろめろんさん、あなたは許せるんですか?」
ぺろぺろめろんに声をかけられて少し冷静になったのだろう。
少し尖った口調は抜け切っていないが、ぺろぺろめろんに視線を向けるセリナ。
「セリナちゃんがべりちょんのために怒ってくれて、あたしはすごい嬉しい! けどそのせいでセリナちゃんが酷い目に会うのは見たくない」
「友達をコケにされたようなもんです。 このくそったれどもを一発殴ってやらないと気が済まないです」
セリナの受け答えに、ぺろぺろめろんは嬉しそうに口角を上げた。
「そういうわけでおじさんたち! うちら二人だけが金ランクになるとか、全員納得してないんで! そんな事するくらいならランクアップは拒否りま〜す! べりちょんも金ランクになるなら話は別ですけどね〜」
軽い口調で上層部の男たちに声をかけるぺろぺろめろん。
「拒否は認めん、お前達二人が金ランクになる事は決定事項だ。 それと私はまだ三十代、おじさんではない」
その一言にぺろぺろめろんは眉をぐしゃりと歪ませる。
「あ? おじさん耳聞こえてた? あたしはベリちょんも金にならないと認めないって言ったはずだけど?」
「そんな自分勝手な意見は認めないと言っているのだ、これは決定事項だ。 大人しく従いなさい。 それと私はおじさんじゃ……」
上層部の受け答えに対して、またもや怒ったのはセリナだった。
「あんた自分で矛盾したこと言ってんの分かってんのかよ! テメェらの方が自分勝手な意見言ってんだろうが! 本人が認めねぇっつってんだろ! 頭悪すぎかよ!」
怒号を飛ばすセリナ。
とうとう上層部の五人のうち、二人目の男が書類から目を逸らす。
こちらはメガネをかけた二十代後半に見える男性だった。
「騒々しいぞ、僕たちも暇じゃないんだ。 君たちの相手をしている時間はない! 強い冒険者を評価するのは当然のことだ、大人しく従って早く帰りなさい」
男はため息混じりに声をかけてくる。
「おかしいでしょ? 強い冒険者を評価するって、べりちょんが評価されてないじゃん。 あの子がいなかったら角雷馬討伐なんてできなかったんだけど? それなのに銅ランクのままなの? 矛盾してんじゃん!」
「では問おう、べりっちょべりーは単騎で中級モンスターを討伐できるのか?」
悔しそうな顔で口をつぐんでしまうぺろぺろめろん。
「金ランク冒険者ともあろうものが、単騎で中級モンスターも倒せない。 それで他の冒険者は納得するのか? 冒険者だけではない、一般人も認めてくれるのか?」
今度はセリナが悔しそうに下唇を噛んだ。
ぺろぺろめろんも何も言い返せずに下を向く。
「これで理解しただろう。 大人しく金ランクになることを認めて帰りなさい」
勝ち誇った顔でぺろぺろめろんを睨むメガネの男。
しかしぺろぺろめろんはゆっくりと顔を上げた。
「何であんたらは、強さだけで冒険者を評価するのさ」
メガネの男はぺろぺろめろんを小馬鹿にするようにを首を傾げた。 拳を震わせ、肩を怒らせながらも言葉を続けるぺろぺろめろん。
「冒険者は生き残ってなんぼの職業っしょ? 強いモンスターをどれだけ倒したか評価するんじゃなくて、仲間をどれだけ守れたかを評価した方がいいに決まってんじゃん!」
悔しそうに声を上げる。 その言葉を聞いてため息をついたのは、胸ぐらを掴まれてた男。
「そんなものは君の考えだろう? 世論はその意見を認めたりしない」
「ならあたし、冒険者なんてやめっから」
初めて顔を引き攣らせる上層部の五人。
ぺろぺろめろんの一言で、こんどはセリナが焦った表情を浮かべる
「ぺろぺろめろんさんにやめられたら、私すごく困ります! だって、ぺろぺろめろんさんは私が初めてニックネームを決めた冒険者ですし、私の自慢の担当冒険者なんですから……」
セリナの言葉を聞いてうれしそうな顔をするぺろぺろめろん。
「セリナちゃん、そんな事言われてあたし最高にはっぴーだよ! だけどさ、こんなおじさんたちにいいようにされてる冒険者協会じゃ、あたしたちは楽しく冒険なんてできないじゃん?」
ぺろぺろめろんが申し訳無さそうな顔でセリナの肩に手を置く。
セリナはぺろぺろめろんたちと違い、モンスターが怖くてしぶしぶ冒険者協会の受付嬢になった。
本当は冒険者になって俺TUEEEE異世界ライフを送りたかったセリナだが、心身ともに純粋な日本人であるセリナには、生身のモンスターを殺傷する勇気が出せなかったのだ。
そこで選んだのが受付嬢。 自分自身で手は下せなくとも、強い冒険者たちに的確な指示は出せる。
この仕事以外にデキる仕事はたくさんあるが、二度目の人生は自分のやりたいと思った仕事をしたいと思い、この仕事を選んだのだ。
ぺろぺろめろんたちと違い、軽い気持ちで仕事を辞めるだなんてことは言い出せない。 それに、ナンバーワンになりたいという目標もある、途中で投げ出すなんてまっぴらゴメンだったのだ。
「ちょっ! ちょっと待てぺろぺろめろん! 考え直せ、せっかく金ランクになれるのだぞ? それにセリナ、君もせっかく担当する金ランクの冒険者が増えるのだ、給料も弾むはずだ! 無論ランキングでも上位を狙える! だからぺろぺろめろんを説得するのを手伝え!」
慌てふためき出す五人の上層部。 セリナは上層部の言葉など一切聞いておらず、吹っ切れたような顔をしているぺろぺろめろんをじっと見つめることしかできない。
胸ぐらを掴まれてた男が必死に声を荒げるが、ぺろぺろめろんは動じた様子がなかった。
「お金なんかより楽しく冒険したいし、仲間と楽しく過ごすのがあたしらのポリシーなの。 ぶっちゃけさ、うちら村人から直接依頼受けたりすれば金にも居場所にもこまんないし、実際問題冒険者やめて流浪してる人とかも中にはいるんでしょ?」
まさにその通りだった。 冒険者の中には、報酬に満足がいかず協会と揉めてしまい、個人で村を回って直接以来の遣り取りをする、いわゆる個人事業冒険者なども存在していた。
ぺろぺろめろんほどの実力があればそのように立ち回っても行きてはいけるだろう。 だが、冒険者協会に依頼されるクエストの総数と、報酬や武器の素材、食料などの配給面を考えれば、苦労するのは言うまでもない。
けれどぺろぺろめろんは報酬を望んで冒険者になったわけではない。 気ままに冒険するために、冒険者協会という場所は都合がいいと判断されただけだ。
背を向けて歩き出すぺろぺろめろんに対し、苦虫を噛み潰したような顔をする上層部の五人。
セリナは困惑しながらも、背を向けて歩き出してしまったぺろぺろめろんに力なく手を伸ばすことしかできなかった。
しかし、
「ちょっと待ちなさい! 分かった! 君の要求を認める! それに回復士がもっと認められるよう私たちも尽力しよう! 二人がその気になればすぐにでも金ランクにする! だからやめるのは少し考え直してくれ! それと私はまだ三十代だからおじさんじゃない!」
手のひらを返して慌てふためくのは、セリナに胸ぐらを掴まれていた男。
「今更何言ってるわけ? 友達を侮辱されてんだから、許すわけないっしょ?」
立ち止まり、振り向いたかと思ったら冷たい視線で上層部の五人を睨むぺろぺろめろん。
「待、待ってくれ! 僕たちはべりっちょべりーを一言も侮辱してはない! むしろランクアップさせられないような苦情を言ってきてるのは、貴様ら冒険者たちの方じゃないか! まぁでも、君たちにやめられてしまうくらいなら、なんとか冒険者たちを説得して彼女も鋼ランクになら上げられる! 納得しない冒険者たちは責任を持って説得しよう! ここまでの私たちへの非礼も無かったことにする。 無論、セリナ嬢もだ! だから考え直してくれ!」
メガネの男が必死に説得し始めた。
上層部の五人が慌てるのも当たり前だった。
ぺろぺろめろん、すいかくろみどの脅威的な戦闘力が一気に無くなってしまえば、冒険者協会は痛手ではすまない。
金ランクに認められてしまうほどの実力があるのならなおさらだ。 さらに、そんな冒険者の怒りを買い、他国の要人に囲い込まれたらこの国にとっても非常に痛手を負うことになるだろう。
万が一牙をむかれでもしたら、たまったものではない。
冒険者協会に魔物討伐の依頼をする王城や、冒険者を頼りにしている近隣の村々からの苦情が相次ぐことすら考えられる。
それに比べれば、べりっちょべりーを鋼ランクに上げることに対しての苦情を処理する方がいくらかマシだ。
セリナは、上層部の華麗な手のひら返しを見て呆れ返っていたが、ぺろぺろめろんはなにやら顎をさすって思案を始める。
「確かに、おじさんたちはべりちょんのこと悪く言ってはなかったね。 むしろ、悪く言ってるのは三下冒険者たちの方だ。 それに、今あたしが出てったらセリナちゃんお説教されちゃうのかな?」
「そのとおりだ! 我々だって回復師であるべりっちょべりーの存在はかなり重要視している。 冒険者の死傷者数が減れば、助かるのは我々なのだからな! だがしかし、彼女を銅ランクにした途端貴様ら冒険者たちからの苦情が跡を絶たんのだ! あのわからず屋たちを対応する我々や、本部の事務員達の苦悩を少しは理解してくれ!」
ペラペラと饒舌に語りだす眼鏡の男をキッと睨んだぺろぺろめろんは、ずかずかとその男の下へと歩み寄る。
眼鏡の男は思わず表情を強張らせた。
「そんなら、文句言ってきた冒険者のこと教えてくんない? あたしから直々に文句言いに言ってやっから!」
「む! 無論だ! だからぺろぺろめろん、どうか辞めるという話はなかったことにはしてくれないか?」
すがるような眼鏡の男の言葉を聞いたぺろぺろめろんは、不機嫌そうな顔をしつつも、不安そうにじっと見つめてきていたセリナの顔を盗み見て、押し黙った。
眼鏡の男は何も返事をしないぺろぺろめろんに焦ったのか、更に言葉を重ねていく。
「今は鋼ランクで我慢してもらうしかないが、いつか必ず冒険者たちを納得させよう! ランクアップの定義に、仲間を救出した貢献値もプラスしてこれからは評価を改める!」
眼鏡の男の言葉に他の上層部も賛同し始めた。 聞こえのいい言葉をつらつら並べてぺろぺろめろんのご機嫌を取ろうとまでし始める。
そんな中、セリナは寂しそうな顔でぺろぺろめろんを見つめ、そして下手くそな笑みを浮かべる。
「ま、まあ。 私としてはぺろぺろめろんさん達がいなくなってしまうと、ものすごくさみしいですが……個人的な都合で貴方がたを縛るわけにはいきません。 それに、あなた方が楽しく冒険してくれる方が、私としては何よりも嬉しいですから」
先程までの怒りようはどこへやら、儚げに笑いながらスッと視線を下げた。
上層部たちは「お前もなんとか言ってくれ」だの、「何を言っているのだ君は!」などと慌てふためいているが、セリナは上層部の言葉など全く持って聞いていないようだった。
その様子を見て、ぺろぺろめろんは思わず盛大なため息をこぼしてしまう。
「はぁ〜。 まぁ、ここまで言われても無理矢理やめるなんて、セリナちゃんに申し訳ないから考え直そっかな〜」
ぺろぺろめろんの一言に、安堵してお互い顔を見合わせる上層部五人。
しかし安堵する上層部の男たちをぺろぺろめろんが睨みつけた瞬間、暖まり始めた空気が凍ったかのように緊迫する。
「ただし、これだけは忘れないで欲しいんだよね。 あたしたち、ズッ友だから! べりちょんが金に上がんないとあたしらも金にはならないし! これ、決定事項だから! そう言うことでよろ!」
ぺろぺろめろんはそう言い捨てると、協会本部の扉を蹴り壊して外に出ていった。 セリナは嬉しそうにその背中について行ったのだが……
扉をくぐる間際、ほっと胸をなでおろしている上層部の面々に、寿命が縮まりそうな鋭さの眼光を飛ばしてから出ていったセリナの形相は……上層部のおじさんたちの脳裏に深く刻まれていることだろう。
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