〜鋼ランククエスト・地堀虫五体討伐〜

〜鋼ランククエスト・地堀虫五体討伐〜

 

 月光熊討伐戦から帰ってから数週間。

 私はとある冒険者から相談を受けていた。


 「なぁセリナさん」「俺たちどうやったら目立てるかな?」

 私の前に座ってしょんぼりしているのは鋼ランク冒険者の閻魔鴉えんまからすさんと極楽鳶ごくらくとんびさん。


 彼らは第一世代の双子冒険者で、いつも交互に話すほど息ピッタリなのだ。

 正直交互に話されると少しウザいが、個性たっぷりで属性てんこ盛りである。


 兄の閻魔鴉さん、本名クローゼ。

 黒髪で人懐っこい顔をした少年で、黒い炎を剣に纏わせて斬撃を飛ばせる。

 黒い炎を剣に纏わせたまま戦闘もできるし、意外とすばしっこいため機動力にも優れる。


 弟の極楽鳶さん、本名ホルック。

 顔はそっくりだが、こちらは見分けがつきやすいように白髪にしているらしい。 わざわざ髪を染めているらしい。

 兄と同じような能力だが炎の色は、青白く燃える蒼炎だ。


 見た目も名前もかっこいい上に双子。

 機動力も優れて接近戦もできるし、中衛も任せられる万能冒険者だ。 しかもダメ推しとばかりに、いつもハイタッチが上手に決まらないという特徴まである。

 しかし彼らは浮かない顔で悩んでいたのだ。


 「俺たちは」「こんなにパンチが強い見た目なのに」

 「「どうしてこんなに目立たないんだ?」」

 そう、なぜか彼らは目立たない。


 「いつもクエストから帰ったら」「交互に話す練習してるのに!」

 ………そんな暇があったら素振りでもして鍛錬しろ。

 と言いたかったが、落ち込む彼らにそんなことは言えない。


 「あの〜、多分なんですけど原因わかりますよ?」

 そんな彼らに私は思ったことを優しく教えて上げようとした。


 「わかるんですか!」「僕たちが目立たない理由!」

 ずずいっと顔を寄せてくる双子さんたち。 私は少し後退りながら咳払いをする。


 「まず、火力不足! それと能力が普通すぎる! あと、交互に話してるから双子と一括りにされてしまう! この三つですかね?」

 私の言葉を聞いた双子さんは、石のように固まって真っ白になってしまった。

 ストレートに伝えたのが仇となったようで、ショックで燃え尽きちまったか………

 

 

 

 翌日、私は朝のクエスト受注ラッシュをさばいていた。

 いつもこのラッシュがある程度すぎて、簡単すぎるクエストか難しすぎるクエストが手元に残ってしまい、どうしようかと悩んでいるタイミングで来る冒険者がいる。


 「セリナさ〜ん! 今日もいいをリしに来ました! なーんちゃって! ごめんなさい。」

 などとやかましい上につまらないギャグしか言えない銀ランク冒険者のレミスさん。


 本名はスミレさん、お察しの通りニックネームは本名をひっくり返しただけ。

 第三世代は特徴がないと言われるのが嫌らしく、ダジャレを言ってキャラを作ろうとしているのだ。

 この子は見た目もめっちゃ可愛いエルフだからそんな必要ないと思うのだが………


 しかもエルフなのに珍しい黒髪だ、初めて会ったときは髪もそんなに長くなかったし若草色の髪だったが、私が担当するようになってしばらくした頃急に髪を黒く染めたのだ。

 理由を聞いても教えてくれないから一年たった今でも、理由がすごく気になっている。


 「今日はいつも以上に厄介なのしか残ってないですよ? さっきこのクエスト見て渋々鋼ランクの二人組がきびすを返してカフェエリアに行っちゃうくらい厄介なクエストです。」

 「ほうほう、ランクはなんですか?」

 興味深そうな顔で私の顔を覗き込んでくるレミスさん。


 ちなみに踵を返してしまった二人組とは双子さんのことだ。

 なぜか二人は踵を返したくせにチラチラ私のことを見ている。

 なんだか絡まれたら面倒だから、念のため横目で動向を確認して問題なさそうなら放置する方針だ。

 それはさておき、私は例の厄介なクエストの張り紙を受付カウンターの引き出しから取り出す。


 「地堀虫ティリュニーユ五体討伐です。 元々はメル先輩の担当だったんですが、ここの山間エリアは例の不思議現象が多いところで………その、彼女はこのエリアのクエストを受けたがらないので」

 メル先輩とはこの王都の冒険者協会で最下位の受付嬢だ。

 一年前まではいつも元気で明るい受付嬢だった。

 しかし一年前にこの山間エリアで起きた事件に巻き込まれて、担当の冒険者が亡くなってしまった。


 その日を境にこのエリアのクエストは他の受付嬢に丸投げするようになり、昔のような元気は亡くなってしまった。

 一応接待のために冒険者の前では笑顔を作っているが、一人の時とかは悲しそうな顔で、持ち歩いている資料をじっと見ている。

 私も受付嬢になりたての時、うまくいかないこととかがあって悩んだりしてたが、そんな時はいつも彼女に何度も励ましてもらっていた。


 担当冒険者からもかなり信頼されていて、レイトとナンバーツーの座を争うほどすごい受付嬢だったのだ。

 私もかなりお世話になったし、恩返しをしたいが当時の彼女はもう見る影もない。


 「この山間エリアは不気味ですからねぇ。 鬼羅姫螺星きらきらぼしさんが持ってる禍々しい形のたいに味です。 はい、申し訳ありません!」

 「謝るなら言うんじゃねえでやんす。 しかもそんなくだらないダジャレに俺を巻き込むなでやんす」

 「「ぎゃあぁぁぁ!」」

 レミスさんの背後に急に現れた鬼羅姫螺星さんは、ボソリと耳元で文句を言うと、そそくさと去ってしまった。

 あんな可愛いらしい見た目をしてる少年のくせに、いつも急に現れるから怖いよほんと。

 

 

 

 結局、地堀虫五体討伐はレミスさんが受けてくれることになった。

 レミスさんや双子たちはいつもラッシュが終わる頃にクエストを受けに来てくれるため、厄介なクエストばかり受けてくれる。


 個人的にはかなり助かるのだが、割と難しいクエストばかり残るためいつも入念に打ち合わせしなければならないのだ。

 なんでいつも面倒なクエストしか残らないと分かっているのにラッシュの後に来るのだろうか?


 レミスさんはパイナポの次に私が担当した冒険者で、かなり古株だから気を遣ってくれているのはわかるが、双子に関しては謎すぎる。

 ただのお人好しなのだろうか?


 「セリナさん、流石に私と地堀虫は相性最悪です。 なんかいい手はないですか? 狙撃できないと手の打ちようがないです………」

 レミスさんは依頼を受けておきながら頭を抱えている。

 私も依頼を受けに来た冒険者達をほぼ全員さばいたので、カフェエリアに移動して相談を受けているが、どうしたものだろうか………


 「レミスさんは狙撃できれば倒せない敵はいないと言ってもいいほどの腕ですからね。 地堀虫に関しては唯一の弱点ですよね。」

 「いやいや〜。 そんな、美しくて可愛い狙撃手だなんて〜。 褒めても何も出ませんよ〜」

 にんまりしながらテーブルに顎をつけているレミスさん。

 誰も美しくて可愛いだなんて言ってないし。

 

 地堀虫【ティリュニーユ】常に地中に潜んでいる全長五メーターくらいの芋虫。

 地面から奇襲を仕掛けてくるため非常に危険だ、攻撃力は高くないが巨体な上に地中に潜ってしまう。

 潜っている間は、狙撃手であるレミスさんは手の打ちようがない。

 地中でもすばしっこく動く上に真下から襲われたら丸呑みにされかねない。

 動きの速い冒険者なら追いかけて地面の上から切り付けられるが、接近戦が得意な冒険者に限られてしまう。


 「私はぺんぺんさんより接近戦ダメだからほんとどうしましょう。 罠を仕掛けてじっくり待つしかないですかね〜。」

 机に突っ伏して頭をかいているレミスさん。


 この人は超遠距離狙撃を得意としていて、討伐するモンスターはほぼ一射でしとめている。

 そのため討伐したモンスターは買い取り単価が高く、私の担当する冒険者の中で一番の稼ぎ頭なのだ。


 なぜなら他のみんなは血の気が多いからモンスターをギタギタのメタメタにしてしまい、素材の買取単価はないに等しい。

 この辺りの買取なんかも考えて討伐する、キャリーム先輩が担当する冒険者たちは頭がいいのだ。


 「罠を仕掛けたとしても、罠を仕掛けてから狙撃地点に行く前に罠にかかったりしたらどうするんです? そんなに離れなくてもいいかもしれないですが、討伐するまでにめっちゃ手間がかかっちゃいますよ? ぶっちゃけ準備するだけで赤字です」

 レミスさんの狙撃は五キロ先のモンスターをも撃ち抜ける。

 大抵のモンスターは彼女を捕捉する前に討伐されるのだ。

 かなり精密な狙撃ができる故に近づけもしない、しかし地中に潜って生息する地堀虫は話は別だ。


 基本的には前衛冒険者が受けるクエストで、囮役と攻撃役の二人で討伐するのが基本パターン。

 囮役が地上に誘き出してさえいれば討伐するのはそんなに難しくない。

 腕利きの冒険者なんかは一人で誘き出してスパッと討伐してしまう。


 しかしレミスさんは接近戦は全くできないのだ。

 敵が接近するとパニックしてしまうぺんぺんさんとは違う。

 ぺんぺんさんも普段は冷静だが敵が急接近すると、途端に思考が回らなくなってしまい立ち尽くしてしまうが、うまく砂鉄を扱えればなんとか対処はできる。


 しかしレミスさんは、ガルシアさんのように接近したモンスターをダガーや弓で殴ったり蹴ったりする事も苦手で、近接戦闘の心得がほぼ皆無なのだ。


 「囮役の人がいれば倒せないことはないんですよね? すばしっこくて近接戦ができれば地堀虫の誘き出しに最適なんですが、そんな腕利き冒険者はもうどこにも………」

 私はそんなことを考えながらカフェエリアを見渡すと、二人の冒険者とバッチリ目があった。


 「「あ、いた。」」

 レミスさんも私と同じくカフェエリアを見渡していたようで、同じ二人組と同時に目があったらしい。

 私たちは笑顔でその二人を同じテーブルに招くことにした。

 

 「そのクエストは」「さっき俺らが断念したクエストだ」

 笑顔で招かれた双子さんたちは、私たちのテーブルの上に置いてあった張り紙を見てそんなことを言う。


 「いやいや、レミスさんに協力して囮になってくれればいいんですよ! あなた達なら簡単でしょ?」

 私は二人にそう言ったのだが、二人とも渋い顔をする。

 というかどうもこの二人、昨日からずっとよそよそしい。

 私が言ったことに相当腹を立ててしまっているのだろうか?

 ここは素直に謝っておこうかな………


 そう思っていたら、双子は口をひょっとこのように窄めながら耳を疑うような発言をする。


 「俺たちはな」「ニョロニョロがダメなんだ」


 沈黙。


 おかしい、聞き間違いだろうか?

 そう思った私は苦笑いしながらレミスさんに視線を送ったが、レミスさんは眉間にしわを寄せている。


 「は? 男のくせに虫嫌いとかないわー。 セリナさん、こいつらしましょう! だけに!」

 「レミスさん、ちょっと黙ってくださいね。」

 机に顎をくっつけたまま口をへの字にしているレミスさんを、とりあえず黙らせる。


 「俺たちは虫は平気なんだ!」「ニョロニョロがダメなんだ!」「双頭蛇ペルセルパとかは」「まじ最悪!」

 両肩を抱き締めて顔を真っ青にする双子さんたち、確かに気持ちはわかるがそれで冒険者が務まるのかと言いたい。

 でも私が知らないだけで、彼らにはニョロニョロ系の敵に対して何らかの弱点があるのかもしれない。


 「私が考えるに、お二人の戦闘傾向を考えると、地堀虫は相性的には最適だと思うんですが、何か弱点があったりするんですか?」

 私は優しく二人に問いかける。

 すると二人は腕を組んで、ふんっ!と鼻を鳴らした。


 「弱点は特にない!」「戦えば普通に倒せると!」「だけどやっぱり」「生理的に無理!」

 私とレミスさんは同時に双子の頭をこづいていた。

 

 

 

 「なぁレミス!」「やだよニョロニョロは!」「あんなきもいモンスターと」「戦いたくないよ!」

 「ギャーギャーうるさいわね! じゃあ私が走り回って囮になったげるからあんたらが討伐しなさいよ!」

 山間エリアへと向かう馬車の中で喧嘩をしている双子とレミス。

 あの後結局レミスと双子は簡易的にパーティーを組むことになったのだ。


 「それは嫌だ」「討伐はお前に任せる!」

 「じゃあ囮は頼むわね! 一瞬でも地面から顔を出させれば私がすぐに仕留めるから。」

 「「それもお断り!」」

 レミスは両腕で双子にヘッドロックをかました。


 「お前接近戦できんじゃん!」「ヘッドロックはセリナさんの十八番だぞ!」

 首を絞められながらも抗議を続ける双子。


 「そもそもあんたらさ、今日セリナさんの面倒なクエストを受けなかったのって、本当にニョロニョロがダメだからなの? あんたららしくないわね!」

 レミスはヘッドロックした二人を解放するとそんなことを言い始める。

 すると罰が悪そうな顔をした極楽鳶が馬車の外を眺めながら口を開いた。


 「別に、本当にニョロニョロが無理なだけだし!」

 レミスは訝しみながら極楽鳶を睨んだが、閻魔鴉は慌ててレミスの注意をひこうとする。


 「あーあ! 俺もレミスみたいにセリナさんから信頼されてたらな! 具体的には森林調査の任務に誘われるくらいに信頼されてたら、このクエストも受けてたかもなー!」

 一人、わざとらしく声を上げる閻魔鴉。

 そんな彼の言葉を聞いたレミスは、双子を解放して何かに気がついたようにポンと手を打つ。


 「もしかして、仲間はずれにされてへそ曲げちゃってたの? だからセリナさんの注意をひこうとしてたのね! そういえば、さっき頭こづかれた時も嬉しそうだった気がするし!」

 そんなことを言い出したレミスに、二人は慌てて詰め寄った。


 「「そんなわけ! ………ないんだからね」」

 同時に口を開いてしまった双子は、お互いの顔を見合わせ、すぐに気まずそうな顔でそっぽを向いた。

 

 結局双子は山間エリアの地堀虫の目撃情報があった地点に放り出され、二人は最後の最後まで文句を言いながら囮を引き受けることになった。

 二人きりになった事で、弟である極楽鳶が物憂げな顔で口を開く


 「なあ兄」「なんだ弟」

 地堀虫が通った後には捲れ上がった地面が残るため、注意していれば目視で探すのは簡単なのだ。

 二人はそんなめくれ上がった地面を見ながらポツポツとおしゃべりを始めた。


 「俺、セリナさんに嫌われちゃったかな?」

 「このクエストを完了させれば喜ばれるさ、しかしなんでニョロニョロが嫌いだなんて嘘をついたんだ?」

 極楽鳶が近くにあった小石を蹴りながら閻魔鴉に語りかけると、兄である閻魔鴉は弟を励まそうと肩をバシバシと叩く。


 「まあ元気を出すのだ弟よ、俺たちはいつも残り物の厄介なクエストばかり担当しているのだ、セリナさんもきっといつか振り向いてくれるさ!」

 「けどこの前の森林調査のクエストの時、俺たちカフェエリアにいたのに声かけてもらえなかったよ………」

 絶句する閻魔鴉。


 「それはきっと、その〜。 俺たちの影が薄いだけだ! 気にするな!」

 「気にするよそりゃ! 兄! 俺たちあの時カフェにいたのに声かけてもらえなかったんだぞ! ずっとソワソワしながら声かけられるの待ってたのに! 真横素通りされてぺんぺんたちに話が行ったんだぞ! ちっくしょう! あのくそ人形愛好家め! 俺たちももっと目立ちてぇ!」

 地団駄を踏み始める極楽鳶を見て、困った顔をする閻魔鴉。

 するとその地団駄を聞いた地堀虫が二人に接近する。

 極楽鳶の足元まで捲れ上がる地面が迫った瞬間、極楽鳶は右腕に構えた片手剣に青白い炎を宿す。


 「こんの糞イモ虫がぁ! 邪魔すんじゃねぇ!」

 極楽鳶はこめかみに青筋を浮かべ、地面から飛びかかろうとしてきた地堀虫の首を両断する。


 「ニョロニョロが無理とか! んなわけねぇだろぉが! ただセリナさんの気を引きたかっただけなんだよぉ!」

 涙目で急に駆け出す極楽鳶を慌てて追いかける閻魔鴉。


 「お! 落ち着け弟! ニョロニョロ嫌いが嘘だとバレるとセリナさんやレミスにお仕置きされるぞ!」

 あたふたする閻魔鴉に二体目の地堀虫が飛びかかったが、閻魔鴉も反射的に左手に構えていた片手剣に黒い炎を宿して斬り払う。


 「しまった! 俺も反射的にぶったぎっちまった!」

 頭を抱える閻魔鴉、しかしやけくそになっている極楽鳶は捲れ上がっている地面をものすごい速度で追いかけている。


 「セリナさんにお仕置きされるだって? んなもんご褒美なんだよこんちくしょうがぁ!」

 まだ地面に潜っている状態の地堀虫を地面ごと切りつける極楽鳶。

 地面から青い血が滲み始め、怒りで血走った瞳の極楽鳶は残りの二体を見つけようと辺りを駆け回る。


 すると、慌てて追いかけようとした閻魔鴉の足元に一本の矢が飛んでくる。

 飛んできた矢を目を凝らして見てみると、紙が縛られていた。


 駆け回る極楽鳶を無視して閻魔鴉はその紙を恐る恐る解いて中身を見る。

 紙に書いてあった文章を見た閻魔鴉は、頭を抱えてため息をついた。

 その手紙にはものすごくキレイな字でこう書かれていた。

 

 『後二体討伐したら、君たちにお話があります』

 

 

 

 結局スムーズに地堀虫を討伐した双子は逃げるように山間エリアを離れようとしたが、先回りしていたレミスに捕まった。

 ヘッドロックされた状態で冒険者協会に連行された二人は、レミスに押さえつけられながらことの成り行きをバラされる。


 すると営業時間が終わったセリナが笑顔で二人に詰め寄っていき、一瞬で十字固めをキメられていた。

 極楽鳶はやけに嬉しそうだったが、閻魔鴉は既に諦めたような顔で謝り続けていた。


 セリナさんのお仕置きから逃れた双子はしょぼんとしながら冒険者協会のカフェエリアで食事をしている。

 ここは営業時間が終わると冒険者たちのために食堂に変わるのだ。

 そのため冒険者たちはクエスト終わりに、パーティーメンバーで集まって食事をしていく。

 双子も食事をとって帰ろうとしていたところにレミスがふらりと近づいてくる。


 「あんたらさ、子供みたいなことしてないで結果でセリナさんの目をひきなさいよ。」

 レミスはそんなことを言いながらちゃっかり双子と同じ席に座る。

 すると双子はお互いの顔を見合わせて、ニヤリと笑いながら口を開く。


 「お前が言うと」「説得力ないぞ!」

 レミスは二人の言葉の意味がわからなかったのか、不思議そうな顔で首を傾げている。


 「おいおいしらばっくれるな。」「俺たちは知っている。」「以前セリナさんが」「言っていたことを!」

 レミスは二人の言いたいことがわかってしまったのか、ハッとした顔で髪の毛を抑えた。


 「ちょ! それとこれは話が別よ! だっ、第一印象って大事でしょ! 別に私だってただ気分で髪染めただけだし! く、黒髪の方が似合うかもって思って染めただけだし!」

 「何言ってんだよ!」「セリナさんが『黒髪ロングの女の子ってなんであんなに可愛いんだろ〜?』って」「ぼやいてた次の日から」「お前の髪が黒くなった事を………」

 「「俺たちは知っている!」」

 自信満々の顔でビシッと指を刺す双子、レミスは髪を押さえながらちらりと周りを確認した。

 セリナがいないことを確認した瞬間、恥ずかしそうに頬を真っ赤にしたレミスも立ち上がって反論する。


 「それを言うならあんただってそうじゃない! セリナさんが『男の子ってなんで白髪ってだけであんなカッコ良くなるんだろ?』ってぼやいてた日のしばらく後から、あんた髪染め始めたわよねぇ? 『見分けがつくように』とかごもっともな理由並べてるみたいだけど〜! あっれ〜?おっかし〜な〜極楽鳶さ〜ん! あなた自信満々に私のこと馬鹿にしてるけど〜! 人のこと言えるのかな〜? した〜、証拠品は上がっている! ………くぅ〜」

 余計顔を赤くしてしまうレミス。


 「つまんね〜んだよヘタクソ!」「そんなんだからセリナさんに軽くあしらわれんだ!」

 その後、双子とレミスの口論は営業時間が終わるまで続いていた。

 

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