第11話 誰が中学生だ!

 あれからしばらく時間が経った。


「お姉ちゃんのその右目ってもしかして、能力の?」

「ま、そんな感じ。でも具体的なことは秘密ね! 最高機密トップシークレットってやつ!」

「何それ~変なの!」


 いつもの常套句をレンは言う。


「それで……その今回の報酬ってのはどんな感じですか? 忘れてた! テキトーってもしかしてとんでもない大金だったりして……」


 すいせいはおそるおそる気になっていたことを聞く。


「あ~依頼の報酬ね。大丈夫! 安心して、お金じゃないよ。報酬は2つかな~。まず、今日だけじゃない任務になりそうだから、それに君は絶対付き合うこと! それと、死なないこと! また明日ね、


 レンはそう言って部屋を出た。


 そう、明るく締めたつもりだったレンだが、すいせいから発せられた「死にたい」の四文字が頭から離れず、帰りの道中ずっと心配だったが、とりあえず明日からの能力コントロールの方法を考えることにした。


「――待てよ」


 1つの疑問点が浮かび上がった。すいせいの壮絶であろう過去を想像していてレンは今の今まで全く気付かなかった。

 レボトキシンの効果が発現するのは2種類。先天的な場合と服用して奇跡に近い確率を乗り越えた場合だ。

 多くのエフェクターが集まるDI7にいたレンだったが、自分の能力がコントロールできない者は見たことが無かった。すいせいは何故コントロール出来ない能力を持っているのか……。

 あの『電気』の力はコントロールできたなら強力すぎる能力だった。肉体と能力がちぐはぐで……まるでコップから水が溢れているような感じ。100%の確率でこのようなデメリット付きだが、レボトキシン以外に後天的にエフェクターにできる『ナニカ』が存在するのかもしれないとレンは考える。

 


 

◇◇◇




 レンは解決しない疑問を抱えたまま、平野家に帰宅した。

 既に日付が変わっていた。


「おかえり、レン。遅かったな」

「ただいま。まだ起きてたのかい? 学生のうちから夜更かししてたら将来体が壊れちゃうよ?」

「レンもな」

「ボクは中学生じゃない!!」

「は? 俺そんなこと言ってないぞ?」

「とりあえずシャワー浴びてくる! いつもの最上級の美味しいアイスクリームを用意しといて! 浴びた後食べるから!」

「こんな深夜に食べたら毒だぞ?」

「うるさい!」


 重い話が続いた後、まともな思考ができなくなるという傾向がレンには存在する。探偵としてはとても致命的な性質であるが、人間として当たり前のことではある。

 探偵という職業がAIに奪われなかった最大の理由はこのような人間らしさが時には大事だからとなったのかもしれない。


「………………。………………。………………。」


 いつもレンの高らかな鼻歌が聞こえてくるはずのお風呂場からは水の落ちる音だけが聞こえてきた。

 

「今日の依頼、やっぱり重かったのか?」

 

 紫水がお風呂場から背を向けて話しかけた。


「まあね~……。いろいろとうんざりするよ」

「子どもですらストレスを抱える社会で、」

「子ども……」

「小さい悩みが大きな事件を生むことだってあるしな」

「小さい……」


 紫水の言葉の一部を切り抜いてボソッと口にするレン。


「純粋に成長しなかった悪い大人たちが本当に多いし、、」


「成長しなかった!? 誰の体が中学生だ!!」


「バカ! 扉閉じろ! それとさっきから変な勘違いするな! シャワーの温度下げて頭冷やせ!」


 紫水はそう言って、シャワー中のレンを見ないように目を閉じて扉を勢い良く閉めてから1人リビングに戻った。

 

「――――はぁ」


 長いため息が出た。


 しばらくして、レンがシャワーを浴び終わり、リビングに髪が濡れた状態でやってきた。


「髪の毛乾かすのは忘れて、包帯は忘れずに右目に付けるってどういう神経してんだよ……」

「いいからア・イ・ス!」

「へいへい」


 毎日毎日平野家の食費でその350円ほどする高級アイスカップを買うのは止めていただきたいと紫水は思う。

 レンは紫水の冷たい視線など気にせずにバクバクと食べ始め、あっという間になくなってしまった。


「誰が中g」

「はいはい! お前は絶対中学生じゃないから!」

「冗談だよ~~だ!」

「今日はもう休め……」

「私……苦手なんだよね。『前向きに生きろ』とか『強くなれ』とか言うの。なんか自分がもしそう言われた、この理不尽テキトー野郎! って思っちゃうから……」

「俺もそうだな。他人事だろって思うよ。実際そう思ったこともあるしな……」

「ま、頑張ってみるよ」

「頑張れ、名探偵ー」


 さらっと紫水は言った。


 そのままリビングの電気を消して、2人はそれぞれの寝室に入って眠りについた。

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