第12話 修行開始
次の日の朝。
レンはすいせいを近くの国立公園に呼び出し、早速能力のコントロール訓練を開始した。
「その電流? 静電気? それは基本髪の毛から出る感じ?」
「分かんない……でもびっくりした時とかだいたい髪の毛から」
「なるほど。じゃあ、ボクが昨夜のように手で髪の毛を触るから、電流を流さないように堪えてみて」
DI7にはレボトキシン研究所なるものが存在し、能力についての研究がされていたり、探偵学校では能力を鍛える訓練があったりするが、レンにはそれらの知識は存在しない。
ほぼ勘と思いつきでレンはコントロール訓練を行使した。
「イタッ」
「ごめんなさい……」
「大丈夫。電流を計るテスターってやつ持って来たんだけど、数値は5mA。ギリ死なない値だね。流れる皮膚が濡れてたりするとヤバいかもだけどね」
「でも、このやり方じゃ……難しいかも」
レンはそう言われて作戦を変えることにした。
「いいか、すいせい。電気には流れやすい物質と流れにくい物質ってのがあってね。具体的に、金属は流れやすい。ゴムやガラスとかは流れにくいんだ」
「う、うん」
「要は、ボクが開発したこのゴムヘルメットを着用すれば! 電気を封じることができるんだ」
自転車用ヘルメットに台所用品のゴム手袋を分解して、全体に貼り付けたものをレンは自慢げに取り出して、早速すいせいの頭に被せた。
見た目は異様だったが、しばらくしてヘルメットを取ると、乱雑に弾けていた髪の毛が綺麗なストレートになっていたことから効果は確かなものだということがわかった。
「ほら! これならまさに能力シャットアウトだ!」
「お姉ちゃん……コレ、24時間着けろってこと? 授業中とか恥ずかしいよ」
「……ですよね~」
解決しないまま午後を迎えてしまった。
「最後の電気を放出作戦は良い線言ってたんだけどな……」
「そうだね……」
「ボクじゃ無理そうだね」
「へ?」
「あ~諦めたわけじゃないよ! 気分転換にDI7に行ってみようよ」
「え? いいの?」
「勿論! 多分……!」
「その言葉たちって同時に使っていいの?」
「勿論!! 多分!!」
すいせいの手を引っ張り、レンは近場のDI7支部に向かった。
◇◇◇
探偵戦闘訓練施設、クロスヤード。ここは、探偵の卵たちがペアで組み、肉体や技を鍛える施設――。
レンたちは正門の外から庭で組手を取り合っていた訓練生たちを眺めていた。
「エフェクターではない探偵志望がエフェクターの犯罪者と渡り合えるように日々鍛えている施設。ここの長官のおじいちゃんと知り合いでね、ボクはDI7辞めちゃったけどまあ入れてくれるでしょ」
そう言って柵に手を触れた瞬間、レンは何者かに腕を斜め後方に釣られ、動きを完璧に封殺されてしまった。
「片目でここに踏み入れるな。ここを辞めて、勘まで鈍ったか? レン」
数え切れないほど受けてきたこの逮捕術に、一度聞いたら忘れないこの渋声。何者の正体は、噂をしていた長官、レンの師匠に当たる人物・
レンの腕を縛っていた手を解くと、彼はすいせいの顔元まで腰を下ろし、声色を優しく変えて「こんにちは」とあいさつをした。
「いきなり卑怯だぞ、じいちゃん!」
「バカモン! 逮捕術に卑怯もくそもあるか! それとじいちゃん言うな!」
「まだ長官やってんだろ? ちょっと入れてくれよ」
「辞めた者が入れるわけなかろうがい……。それとこの子、エフェクターか?」
「ああ。力がコントロールができなくて、ここにどーすればいいのか探しに来たんだ」
「バカモンが!!」
硬い拳を頭めがけて思いっきり振られ、レンは間一髪で背を反って避けた。いつ受けても鋭い正拳突きだなとレンは身をもって思った。
「探偵で最も大切なことを忘れたのか? 帰りなさい、レン……」
「待っ!」
晴元は柵を軽く乗り越え、こちらを振り向かずにその言葉を言い残して立ち去ってしまった。
「ごめんな、すいせい。多分の方だったかも」
「多分じゃなくて無理だったね」
「今日は一度出直すことにするよ。すっかり夕方だしね」
すいせいはこくんと頷き、もと来た道を2人で歩いて帰った。
「くしゅんっ……」
すいせいは昨日のよれよれの薄着を今日も来ていたため寒くなってくしゃみをしていた。
レンの足だけが立ち止まった。
「どうしたの? お姉ちゃん」
思い出した。
晴元からかつて教えてもらった探偵で最も大切なこと。
何で今の今まで気づいてあげれなかったんだろうとレンは下唇を嚙んだ。
「ちょっと寄り道してかない?」
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