第5話 推理とは調査の積み重ねである
紫水はいつものようにレンとは別の部屋で夜を明かした。レンには隣りの妹の部屋を貸している。
「その
「変・え・て・る・の! 君……もしかして人付き合い終わってる? プライバシーとか女子に対するマナーとか学校で習ってこなかったの?」
「レンにだけは言われたくない」
「何でだよ?!」
「いびきうるさいし、寝ぼけて冷蔵庫のプリン全部食べちゃうし、冗談がシンプルにウザイ」
「―――――ッ!!?」
「何で驚いてんだよ……」
勘弁してほしい。本当に。今までキラキラした目でDI7を応援していた自分に謝ってほしいと紫水は思った。
「……他の奴らもそんな感じなのか?」
「他の奴らって?」
「DI7のトップ7人だよ! メディアによく出てくる大野悟くらいしか俺は知らないんだ。憐と大野を除いてあと5人いるんだろ?」
「それはマジの
レンはカッコつけた顔で言い放った。
「2つ目のトップシークレットなのだが……」
「じゃあセカンドシークレット!」
「シークレットの価値が下がるな」
「正直なところ、よく知らないんだよね……。んじゃ、出掛けるよ」
「はいよ」
昨夜にレンは病院に行くと言っていた。目的は過去のデータの収集だという。
歩きながら紫水たちは町で起きた事件事故を調べていた。
「自殺に、レボトキシン売買、殺人未遂、殺人、強盗って、毎日犯罪が絶えない世の中だな、名探偵」
「
「そうじゃないけど。で、この中から同じような事件を探すのか?」
「そうだと楽なんだけどね。ある? 爆弾で死んだ~とか、密室で溺死した~とか」
「ないな……」
「なら
「だから病院ってことか」
「
「威厳も何もないな……!」
◇◇◇
手っ取り早く調べるため、市で一番大きな病院を選んだ。
受付にてレンは勲章をビラビラと見せびらかして奥の個室に案内してもらった。紫水も「助手です」ととっさに噓をついて同行できた。
こっそり聞いた話だと、第一級探偵勲章は探偵における最高権力を示すものだけではなく、半強制的な情報開示を求める力も持っているらしい。
「それが過去3ヶ月以内に当医院でお亡くなりになった患者さんのデータです」
「生きてる患者のデータも頼む。あと、お茶もう一杯。注いだら出てっていいよ」
「はい」
レンは出されたお茶をすすりながら図々しく看護師さんに命令していた。個室に2人きりになった途端にパイプ椅子の上であぐらをかいて、データの入ったUSBメモリを小型パソコンに挿入していた。
「スカートじゃなくて、スーツだからってお前……」
「何? そっちにも半分転送するから。手分けして探すわよ」
「へい……」
やみくもに探しているわけではない。レンは、「連続殺人などの事件には必ず法則がある」と言っていた。何か、ぱっと見では分からない法則を探している。
「目立つ事故死じゃない。捕まるわけないと思ってるからこそヤツは余裕なんだ。これが怪しいな……助手くん、これと同じ症状の患者を全部割り出せ」
指を指していたのは、『身体麻痺』『心臓停止』『失神・昏睡』『全身痙攣』だった。
紫水は全部で4つの死をノートに記録した。
・沢村ニコ18歳、3/5死亡確認、『身体麻痺・痙攣』『心臓停止』
・三村かな17歳、3/11死亡確認、『心臓停止』
・川中四葉16歳、3/18死亡確認、『全身痙攣』『心臓停止』
・五條久美16歳。3/25死亡確認、『身体麻痺』『心臓停止』
「一週間ごとに同じような症状で亡くなっている……」
「それが今回の事件の法則だ。そしてさらなる法則は女子と高校生の2つ? かな」
「ミユはまだ高校生じゃないぞ?」
「いや待って! プロフィールを見て見なよ」
「陸上部、陸上部、陸上部、陸上部……! 全員女子陸上部だ!」
「家の玄関に君のサイズよりも小さいランニングシューズがあったのだけれど……」
「ああ、ミユは陸上部だ……。あいつ、ターゲットに選んだのはたまたまだとか言っておきながら!」
「なるほどね……」
レンは陸上と4つの症状から死の原因を思い出していた。
これは酸欠だ。正式名称は酸素欠乏症。
酸素の濃度18%未満の環境に置かれた場合に生じ得る症状であるが、4人の症状からするに6%以下の濃度ということになる。
「彼女たちは学校も地域もバラバラだ。だとすると、犯人は陸上競技そのものに対して深い復讐の念を持っているに違いない」
「挫折……致命的な怪我か」
「おそらくね。あの廃校舎にしばらくいて感じた違和感がある。もしかしたら助手くんも感じてたかもだけどね」
「臭いだろ? 俺が教室のカーテンをロープにして窓から下の階に脱出しようとしてたときだ。玉ねぎが腐ったようなキツイ臭いだった」
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