第4話 捜査開始!

 レンは再生ボタンを押した。


【……この家を選んだのは偶然だよ。既に平野紫水、平野ミユの調べはついている。目的はこの町を拠点にしていると噂の大物探偵を私の手を下さずに殺すこと。明日、君たち兄妹のどちらかを連れ去る。どちらかというのが大切だ~。よく耳に入れろ。残された方とは『取引』だ。明日から一週間後、最寄駅から北西に10km地点にある半導体製造装置部品工場で探偵の死体を持って来い。下手なことをすれば、そいつも殺すことになる。ちなみに取引当日、人質は工場には連れてこない。この町のどこかに隠すことにするよ。取引さえ守ってくれれば『平和』なんだ……】


 随分と余裕がある声だった。


「なるほどね」

「?」

犯人相手さんは随分と余裕だね。まるで自分の勝ち筋が見えているみたいに」

「だから、そいつはレボトキシン薬で覚醒したエフェクターなんだろ?」

能力段階エフェクトスケールが問題だね。Cとかだと楽なんだけど、この余裕さはA……もしくはSまであるかも」

「Sって……。完全犯罪レベルじゃねーかよ」

「そだね」


 レボトキシンで運良く効果を授かった者の中にも4段階のレベルが存在する。地震でいうマグニチュードのようなもので、上から、S、A、B、Cとある。

 周囲に及ぼす危険度を表し、Sに近づくにつれて完全犯罪の可能性が高まる。


「いいか助手くん。とはだ。勝利は決して油断からは生まれない。この音声データからもそうだ。油断だらけの音声に活路が見えたよ」

「何だよ?」

「『下手なことをすれば』の後をもう一度よく聞いてくれ。『そいつ』と犯人は言ってる。つまり、過去にこのような事件がこの町で起きている可能性があるということだ。犯人が余裕なのは、その過去の事件を全て成功させているからだろう」

「なるほど!」

「当日まで全部ボクに任せてほしい。それまでに必ず妹ちゃんの捕らわれている場所を特定してみせる。助手くんはアイマスクを……!」

「そんなマジ顔で言うなよ……。どうせ俺は取引日が来たらやみくもに乗り込んでいくつもりだった。憐に任せる。名探偵要素が2割だと思ってたけど、やっぱり4割くらいあるなと今のやりとりで分かったしな」

「じゃ、幸運を祈るよ……死なないでね……!」

「俺はアイマスクを片目用に切断するだけだよ……」


 その日から一時、別行動が始まった。

 会うのは朝と夜のひと時くらい。レンは町をかけながら情報収集なり、可能性の限定作業を、そして、紫水はひたすらにアイマスクを切断していた。




◇◇◇




 捜査3日目。取引日まで残り4日といったところ。

 レンは工場を円の中心とした半径10km圏を主に捜査した。捜査内容は人を隠せそうな、すなわち監禁できそうな場所だ。


「情報をもう一度整理しないとな……。取引日、犯人は半導体製造装置部品工場に必ず来るが、妹ちゃんは別の場所。それも取引失敗の場合は離れていても犯人は妹ちゃんを殺せてしまう何かを持っているということ……」


 レンは町で一番高い鉄塔に登って、風を感じるように両手を広げて目をつむる。これが最も自分の思考を高められる方法だといつの日か気づいて、それ以来ずっと煮詰まったらこうする癖がついてしまった。

 上空150m。

 声に出して、状況を整理しても誰にも聞かれない。


「可能性1、犯人は遠距離でも人を殺せる能力を持っている。これは有り得ないな。それなら最初から探偵ボクを殺しているはずだ。可能性2、スイッチ操作によるものでターゲットを殺す。スイッチを押すと爆弾が作動してドカンと。それか密室のなかに水が入って来てドボン。……。ま、可能性2かな。次は方法と場所だ」

 



◇◇◇




 平野家。深夜。


「毎日飛び回っててさ、なんかその……いにしえの探偵みたいだな。憐も超一流探偵プリメーラならエフェクターなんだろ? レボトキシンの能力でちゃちゃっと解決できないのか?」


 紫水は、帰ってシャワーを浴びていたレンに話しかけた。もちろんドア越しにだ。


「名探偵でもエフェクターでも捜査はいつだって地味なものだよ。『捜査は足から!』って言葉は縄文時代からあるからね」

「そっか。それで? 送られてきたこの地図にプロットされた赤丸がずっと言ってる『可能性』ってやつか?」

「ああ、妹ちゃんが捕らわれている場所の可能性は現時点では絞り切れない……ざっと30箇所だ」

「これを当日までに1箇所にしないといけないんだぞ」

「明日は助手くんにも来てもらう。まずは病院だ」

「何かアテがあるのか」

「この町を全裸にしなきゃ、今回の事件は底まで見えないっぽいからね。あといつまでアイマスクを切ってるんだ? 君、もしかして暇なの~~?」

「っ…………………………」

「ハハ、本気にしちゃった? もちろん冗談d」


 紫水は静かにお風呂場の電気を消した。


「――キャッ! ちょっと何するんだ! 私はただでさえ片目で不自由なんだぞ!」


 反撃の言葉など意味はない。ここ数日で彼女の扱い方を会得した紫水は雑なおしおきが一番効果的なのだと気づいた。

 

「最近ツッコミがテキトーなんだよ紫水!! 異性が優雅にシャワーを浴びてるのにこの仕打ちはないだろ! もっと……その、ドキドキとかしろよ! それとそれと! ここ数日同居……もしてるのに……!」

「ただの美少女だったら、な」


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