第一話 ここは一体…?
俺は死んだ。正体不明の女に理不尽に殺され、疑念と後悔に包まれながら意識を失った。
あれほどの傷だ。例えすぐに病院に運ばれていたとしてもう間に合うはずがない。
…そのはずなのに。
何故か俺は目が覚めた。しかも、意識を失う直前まで味わっていた痛みもなく。
(こっここは?)
ここは天国かはたまた地獄か。目が覚めた時、俺はその二択しか頭には無かった。
けど、自分の現状から察するにまず、天国の線は切っていいだろう。
何故なら俺は両腕を紐で縛られており、その上、口も布で覆いかぶされており、きつく結ばれていた。
こんなこと天国に行く人にやるわけがない。あるとすればもう地獄だけだ。
だから声も出すことが出来ず、自分が今一番使えるのは目。
俺はその目で周囲を見渡して状況を確認する。
すると周囲には俺と同じように紐や布できつく結ばれている人達が10人ほど存在した。
更に俺が今いる空間は小窓さえない暗く、木材で作られている空間。
存在する光は木材の隙間から射しこむ僅かな光だけでその光はどうやら人工的な光ではなく太陽によるものだった。
そしてこんな椅子も何もない空間に俺と他の人達は床に座らされていた。
なんだここ?一体ここは何処なんだよ。
(痛!)
自分が今、どういう境遇にいるのか分からずにいると突然に空間が大きく揺れ、俺はその衝撃で後ろの壁に頭を打ってしまう。
何だこの空間?なんで今大きく揺れた?
そんな俺の疑問は外に耳をすますとすぐに答えが出た。
この馬の足音と砂と何かが擦られているような音。
これは多分、馬車の音だ。俺は今、馬車の中にいるのか?
つまり俺は何処かに運ばれているということになる。
一体どこに運ばれているんだ?まあこんな状態だ。良いところへ連れていかれないのは概ね予想はつくけど。
それよりもなぜ俺は拘束されてるんだ?ていうかそも、なんで生きてるんだ?
もう疑問が多すぎて頭がパンクしてきた。
まあ考えても無駄か。取り敢えず、何か起きるまで待つしかない。
今、俺がいる世界は現実か地獄か。はたまた…
”ヒーン!”
頭がパンクし過ぎて、逆に妙な落ち着いていたら、馬車の揺れと音が止まり、馬のような動物の大きな声が響いてきた。
どうやら目的地に到着したみたいだ。
うっ!眩しい!
すると馬車の扉が開き、強い日差しが俺の目を襲う。
「~~~~~~~~~!」
まだ目をまともに開けられず、扉の先に誰が居るのかは分からないが扉のほうから男の大声が聞こえてきた。
しかも、男が喋った言葉は全く俺の知らない言語だった。
なっなんだこの言語?絶対日本語ではないし、英語でもなさそうだ。
俺がまともに知っている言語はその二つくらいだし、後は『ニーハオ』とか『シャンハイ』とかくらいだ。
取り敢えず、挨拶をされていないことだけは分かる。
だが、どうやら言語を理解していないのは俺だけみたいで他の人達は男の声が聞こえると立ち上がり、扉の外へと向かっていく。
ようやく少し視界が良くなり、俺は扉の外を見ると外には剣を携え、十分すぎるほどの装備をまとった大男が勇ましく佇んでいた。
「~~~~~!!!」
その大男は俺のほうに向けて何かを叫び、その声に怒気と威圧が孕んでいるのは本能的に理解した。
言語は理解できないけど他の人達はもう既に立ち上がり、外へと出て行ったので恐らく俺も早く外に出ろと言っているのだろう。
というか恐いなおい!今までは中学の時の体育教師がこの世で一番恐いと思ってたけど一瞬で一位が入れ替わったわ!
大男の迫力にたじろぎながらも俺は震える足で体を立ち上がらせて、外へと出る。
外に出て、俺は周囲の景色を確認するとその目に映った情景に驚愕してしまう。
人間が登るにはあまりにも無謀すぎるほどの石で作られた高い壁。
目算では一体どれだけの高額なお金がつぎ込まれているのか分からないほどの大きな城。
更にその高い壁には鉄の格子で作られた扉。
うわあ…ここ絶対に刑務所じゃん…
やっぱり俺、今から収監されるのか?
「~~~~~~~~!!」
ぼーっと景色を眺めながら落胆していると大男がまたも大きな声をあげる。
何を話しているのか分からないために俺はどうしたらいいか分からず、周りをキョロキョロと見渡す。
すると俺と同じく捕まっていた人達が大男と似た装備をまとっている人に引率されて城の中へと入っていくのが見えた。
そして大男はそちらの方向に指を差して、俺を怒鳴っている。
どうやら俺もそこへ向かえと言っているみたいだ。
俺は急いで捕まっていた人たちの最後尾へと並び、その人達についていく。
全くどうなってるんだ?理不尽に殺された挙句、理不尽に捕まるとかどんだけ俺は理不尽を重ねれば気が済むのか。
「~~~~~~~~!!」
「~~~~~!!」
完全に気持ちが後ろ向きになっており、強く落ち込んでいると前のほうで男たちの大きな声が聞こえてきた。
俯いていた頭を上げて、前のほうに目を遣ると俺と同じく両手と口が縛れている男が必死の形相でこちらへと走ってきて、やがて俺を追い越して、石の壁のほうへと走り出して行く。
「~~~~~~!!」
するとそいつを重装備を身にまとった男たちが追いかけていく。
驚きはしたが状況は理解できた。
恐らく縛れていた奴は収監されたくないために逃亡し、それをこの城の刑務所の役人が捕らえるために追いかけているのだろう。
でも逃亡した奴の気持ちは分かる。こんな気持ち一生分かりたくなんてなかったけど。
俺だって逃げ出したい。でも一体どこへ?
あの高い壁を上ることなんて不可能だし、抜け道も見当たらない。
逃げても刑罰が重くなるだけだ。
案の定、その男はすぐに捕まって、それでも必死にもがく。
そんな必死にもがく逃亡者に大男が近付いていく。
そして俺は次の瞬間、自分のそんな考えが実に甘かったことに気が付くことになる。
大男は携えていた剣を抜き、逃亡者の方へと向ける。
えっ?まさか?噓だよな?
「~~~~!!!」
「~~~!!」
大男は逃亡者の心臓を強く切り裂き、逃亡者は口から血反吐をする。
マジ…かよ…
逃げただけで殺しやがった。あの大男正気か?
絶句していると逃亡者は動けなくなり、そのうち意識を失った。
死体となった逃亡者を他の役人たちが何処へと運び出す。
その光景を目にした俺は体が小刻みに震えてきて、何故か汗をかいているのに体が寒かった。
「~~~~!」
体が固まって、動けずにいると役人が俺に向けて大声をあげる。
恐らく早く進めと言ってるのだろう。
それにしても、なんでほかの奴はこんな平然としているんだ?
役人も捕まっていた奴らも特にリアクションもせず城の中へと入っていく。
それはまるで驚いている俺がおかしいかのようで一気に孤独感が俺を包んだ。
「~~~~!!」
等々しびれを切らしたのか役人は俺の背中を蹴り、怒鳴り声をあげる。
まずい。進まないと今度は俺が殺される。
一度殺されたからといって殺されるのに慣れるわけがない。
まだまだ死ぬのは怖い。死んで間もないのだから余計だ。
だから俺は小走りで捕らえられていた者達の最後尾へと並びなおす。
本当に俺は…どうなってしまうんだろうか…
時間が経てば経つほど俺の中に宿る不安と恐怖心は強くなり、今にも泣きそうなほど怯えている俺は捕らえられていた者たちと一緒に城の中へと入る。
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