第3話
──会議後。
シエルは軍本部の廊下を同僚であり仕事上のパートナーである金髪の美丈夫──フィルスと歩いていた。
フィルスはラティアラ公爵家の子息である。しかし、ラティアラ公爵家当主と愛人の子であるため後継ぎにはなれず、家での扱いも酷いものだ。そんなフィルスは自分の居場所を求めて軍人となった。
そんなフィルスとシエルは軍学校で出会い、友人となり公私共に長い付き合いだ。
今はとりあえず中庭のベンチで話し合おう、とフィルスをシエルから誘い、二人で向かっている最中だ。
「フィルス、さっきのお話ですけど……」
「ああ、お前へのダンスなどの手ほどきの話か。それがどうした?」
「……フィルスはいいんですか? 私に教えるなんて、その……大変でしょう? 淑女教育なんて何も受けていないので……」
シエルはちらりとフィルスの様子を伺うように見る。相変わらずフィルスの表情は変わる事なく、何も読み取る事は出来なかった。
「そんな事苦でもなんでもない。お前は俺のパートナーだろう? こういう時こそ助け合うべきだ」
「フィルス……」
「──お前は心配するな、俺が完璧にしてやるから」
そう言ってフィルスは自分の背丈よりも低いシエルの頭に手をのせて、その頭を優しく撫でた。フィルスとシエルは軍学校時代からの付き合いだが、その頃からフィルスはよくシエルの頭を撫でていた。
「フィルス、もう、あなたまたそうやって撫でる……」
「癖みたいなものだ。気にするな」
「撫でられてる本人だから気になるんですけど……」
「それよりも」
前を歩いていたフィルスが振り返りシエルを見る。そのフィルスの目は険しくて、シエルはどうしたのだろうか、と思案する。
「舞踏会当日。お前と俺の配置は王太子殿下の身辺警護だ。……大丈夫なのか?」
ああ、そういえばそうだった、とシエルは先ほどの作戦会議を思い出す。自分がドレスを着なければいけない状況になり、そちらにばかり思考が行っていたためフィルスに言われて思い出したのだ。
「……大丈夫ですよ、それくらいならば。それに王太子殿下の身辺警護と言っても間近にいるわけではないですし、視界に入る事もないでしょう。お兄様もですけど、フィルスも心配性ですね」
私の周りには心配性が多いな、と考えて呆れたようにため息とつくシエルに、フィルスは難しい顔をする。
「お前の事情を知る者ならば皆心配する。だが、お前が大丈夫だと言うなら何も言わないでおこう」
「ありがとうございます、フィルス。心配してくれて」
「それこそ俺たちはパートナーなのだから当たり前だ。……中庭はもうすぐだ。今後のことを話し合おう」
シエル、ドレスは持っているのか? と聞いてきたフィルスに、そうだった買わなきゃいけないんだった、とシエルは自分がドレスを一着も持っていない事に今更ながら頭を悩ませた。
軍靴のサンドリヨン 紫苑 @shion_01
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