第2話
次の日、軍本部に赴いたシエルに王家の護衛任務の話が来た。シエルはその任務を拝命し、王家の護衛任務当日──王族が舞踏会に参加するその日の作戦会議へと参加した。
シエルは自身が所属する第一師団の師団長──オルクスの作戦内容を聞き、頭に叩き込んでいく。
「ああ、シエル」
その中でいきなり自分の名を呼ばれたシエルは、少しだけ驚いて「なんでしょうか?」と聞き返した。
「警備面で舞踏会の参加者のふりをした者を何名か入れたいと思っている。シエル、お前も入れ」
「……はい?」
「シエル、お前も──」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
思わず師団長の声を遮ったシエル。シエルは右手を横に振りながら口を開いた。
「無理ですよ、私、女ですけどドレスを着た事もなければ踊った事もないんですよ?」
「一応公爵家の令嬢だろう、お前」
何を言っているんだ、と言いたげなオルクスだったが、シエルの方こそ何を言っているんだ、という気持ちでいっぱいだった。
「そうですけど……! 私は幼い頃より軍人になりたくて、そればかりで社交界デビューもしていません、男物の服ばかり着てきましたし、いきなり踊れるはずもありません!」
シエルは軍人を多く輩出してきたヴァルティエラ公爵家で育った。シエルは女だ。そのため軍人になる必要もなかったが、シエル本人が軍人へ強い憧れを持っており本人の希望もあって軍人となった。
軍人としての教育は受けたが淑女教育は受けていない。貴族としての最低限のマナーは身についているが、優雅に踊れるはずがないのだ。
「まあ、それは練習しろ」
「師団長適当すぎませんか……?」
あっけらかんとそう言ったオルクス。シエルはだんだんとこれは無駄な抵抗だと思い始めたが、自分より適任がいるだろう、と意を唱える事をやめない。
「仕方ないだろう、第一師団には女はお前しかいないのだから。かと言って男ばかり客に混じって警備をやらせても、難しい事がある。女のお前にしか出来ない事も出てくるだろう。だからお前には参加してもらう」
自分より適任がいると思っていたシエルの考えが翻った。確かに第一師団には女性はシエルしかいない。今回の警備は第一師団が主となるため、他の師団の女性はあてにならない。
「……ああ、もう。分かりました。私とて軍人です。仕事はこなしましょう。ですがダンスが覚束なくてもヒールの高い靴で立っていられなくても、笑わないでくださいよ」
シエルは自棄になってオルクスに対してそう言った。
淑女教育を受けていない自分ではボロしか出るはずがない、醜態を晒して第一師団が笑われ者になっても知らないぞ、という思いを込めて。
しかしオルクスは何も気にしていないようで、こともなげに言う。
「ああ、そこは心配ない。舞踏会に参加するにあたってのお前の淑女としての教育はフフィルスに任せてある」
「……え?」
「だから安心しろ。フィルスならお前に完璧に教えるだろう」
「いや、あの」
「フィルス、この前話した通りだ。会議が終わったらシエルと話し合ってくれ」
オルクスが目線を向けて話している先へとシエルも目を向ける。
「はい」
目線の先にいる金髪の美丈夫は、いつも通りの愛想がない表情で返事をした。
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