塵箱

思いがけず

　ふしぎと

　大切にされたいと思ったことがない

　それはきっと人に頼まなくとも

　自分ひとりで完成してしまうから

　好きな本を読むこと　ひとりで

　旅行に行くこと　美味しいものを

　食べること　温泉に入ること

　好きな歌をうたうこと

　愛されたいと思うこともない

　あったらあったで嬉しいけど

　なければそれで構わない

　けれど　思いがけない

　優しさの気遣いを受けることがある

　大切にされることがある

　たった数回言葉を

　交わしただけの人などに

　温かい風呂に入らなければ

　体が冷えていたことに気づかない

　一口食べてみないと

　空腹だったことにも気づかない

　人は自らのことに関してだけは

　恐ろしく愚鈍な生き物だ

　誰かに優しくされなければ

　自分がなにかを

　求めていたことにさえ気が付かない