違える 僕のスープとたんぽぽ


 スープの味が決まらない

 いつもと同じ手順、分量

 具材でさえ同じ物なのに

 何が足りぬ

 ああそうだ

 命が足りぬ

 キッチンに置かれた調味料では

 魅力がないと

 僕はほんの少し命を入れた すると

 なんとまあ美味しくできたことだろう


 やがて夜

 霧雨のなか君がやってきて

 僕は君を迎え入れた

 葡萄ジュースで乾杯して

 ローストビーフを食べて

 楽しいひと時だったのに

 君はスープに口をつけると

 とたんに顔を顰めてしまった


 まずいまずいと喚き立て

 慌ててレモン水を飲んだあとも

 味が舌に残っていると主張する

 君は怒って帰ってしまった


 僕ははたりと理解した ああ成程

 僕たちの運命はすれ違うこと

 ただこの一点のみに尽きるのだ


 僕の命は

 スープの中のアスパラみたいな緑色で

 君の命は

 ピアスの柘榴石みたいな赤色だった

 決して綺麗には混じり合わぬ


 さて僕は、どんな未来を夢みてる


 新緑のような黄緑色の未来

 僕は相変わらずスープを作って

 タンポポのような君を待つ

 あるいは君を迎えにいこう

 何度も落ちぶれたその先で


 雨が深まり 夜も深まる

 片付けしよう

 朝がきてもいいように


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