挿話 お絵描き騒動


「わ…わたくし…ミモたんとライ様の御尊顔が描けないんですの…!」


いつになく思い悩んでいるようなローザリーン様に聞くとそんな答えが返ってきた。


聞けば、私とライザのことが好きすぎる?故にその一挙手一投足を目に焼き付け絵にしたいのだとか。

そしてそれを実行しているがどうにもうまく描くことができず泣き崩れていたらしい。


(…よかった。会った途端泣き出すから何事かと思ったけど深刻な悩みじゃなさそうで。)


「ミモザ、顔に出てるぞ。」


ライザも呆れつつではあるが真剣な顔で話を聞いているふりをしているらしい。


「その、俺はよくわかんないけどそんなに大事なことなのか?普段から俺たちのこと飽きるほど見てるだろ。」


「わかっていませんね!?オタクにとってスクショは生き甲斐なんですよ!?ただでさえそれができないから写真さえあればと思うのに未だ開発の目途さえ立っていないし、思い出や記録を形で残したいんですの!そしてあわよくばそれを自らの手で生み出したいんですの!…なのに描けないんです!これがどれだけつらいことかわかりますか!?前世は私が描けなくても神絵師がたくさんいたからいいものを、今はそういうわけにもいきませんし、これなら前世からもっと美術を磨いておけばよかったですわ!!」


「…よくわかんないけど、真剣なんだな。悪い。」


あきらかに引いてるし、多分聞いたことを後悔してそう。


「話は聞かせてもらいましたよ?ローザリーン。」


「な、トニー!?いつからそこに!?」


「最初からここに。二人は気が付いていたようですよ。」


確かに最初から気が付いていた。

でももうこれもお決まりというか、慣れてしまった。

一市民が王族と会話をするどころか一緒に食事をとることになれているなんておかしいけど。

こうも何回も現れてはもう驚きもしなくなってくる。


「それでね、ローザリーン。君の悩みを解決する方法を僕は知っているよ?君は僕の婚約者でありいずれは王妃になるであろう存在だ。そして現王妃はとても絵画に精通しているからお抱えの絵師がいるよね?君の願いを叶えてくれるようなものを紹介してもらえばいいんじゃないかな?」


「…はっ!職権乱用な気もしますが、その手がありましたわ!ごめんあそばせ!王妃様へ取り急ぎの用事ができました!失礼いたしますわ!」


変装をしているとはいえ、ワンピースを着ているのに物凄いスピードで帰っていった。


「じゃあ僕もお暇するよ。君たちの邪魔をするわけにはいかないからね。それに母上に事前に話をしておかないと。じゃあ、またね。」


相変わらずローザリーン様は落ち着きがないし、王子殿下もローザリーン様中心だ。


「相変わらず嵐みたいな人だな。…そんなに俺たちの姿絵が大事かね。」


「まぁ、こればかりはよくわからないわ。私たちには馴染みのない文化だもの。」


そしてこの後、事あるごとに私たちの絵を描かせた絵師がこれまでにない写実的ではない抽象的な似顔絵に定評をよび、国内初の平民の王家専属絵師になるのは又別のお話。


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