第12話 町娘と第一王子


新たな友人に浮かれてしまっていた私は忘れていた。

あの友人にはとても高貴な婚約者がいることを。


「君がミモザ嬢だよね?ローザリーンから話は聞いているよ。一体どうやって下町の娘が貴族令嬢に取り入ったんだい?…あぁ、ローメル商会のライザ君からかな?」


ライザとデートの待ち合わせでカフェにいたところ、急に煌びやかな男性から声を掛けられた。一瞬誰だか分らなかったが、以前学園祭でライザからあの方が第一王子殿下だと聞いていた。

そして今、目の前の席に座りニヒルな笑みを浮かべるこのお方は紛れもなく第一王子殿下、その人だ。


「いやぁ、すまない。そんな顔をしないでくれるかい?君がローザリーンに追い回されて迷惑を被っているのはわかっているからね。ちょっとしたいじわるだよ。」


とてもきれいな笑みを浮かべてはいるが目は笑っていない。

とても怖い。


「…迷惑だなんて。ローザリーン様はお友達です。先日からとても親しくさせていただいております。」


「そうだったね。ローザリーンがとても嬉しそうに僕に報告をしてきたよ。なんでも君から友人になってほしいと言ったんだってね?」


なんだろう、言葉は柔らかいがとても責められている気持ちになる。


「あぁ、すまないね。そんなに怯えないでくれますか?いつものローザリーンに対する癖が抜けていなくて。純粋な興味なんだよ。ローザリーンは僕の婚約者であるはずなのに、話題はいつも君たち二人のことばかりでね。どうして僕にもっと興味を持ってもらえないのだろうと思って。」


少し寂し気な顔をする王子殿下。


「なんだか、ローザリーン様にきいていた感じと違いますね。」


思わず口から出てしまった。


「あぁ、初対面でローザリーンにはひどい態度をとってしまってね。今更王子然とした態度をとってもいやそうな顔をされるんだよ。本心を言っていないだろうって。…まぁ、悪いように言っても彼女はいやそうな顔をするにはするけどね。」


「…苦労されてるんですね。」


「まぁね。君たちも知っての通り、彼女…変わっているだろう?普通の令嬢の様に一筋縄でいかないからね。」


間違いなくローザリーン様にはどんな相手でも一筋縄ではいかないだろうなと思う。


「すまない。そろそろライザ君が来るようだ。お邪魔したね。また話を聞かせてくれたまえ。」


そういうとあっさりといなくなってしまった。


「悪い!ミモザ!遅れた!…誰かいたのか?」


「王子殿下が…。」


「は…?」


また私たちは高貴な知人を増やしてしまったようだ。

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